斧と剣VS槍と木刀
「ちぃいいっ! カリバー!!」
「司っ! こっち!」
「おわっ!? ぐへっ」
放ったカリバーの範囲外まで退く二人。
上杉は対応できていなかったが、蒼月の方が即座に反応して退いた。
掴まれて強引に引っ張られた上杉がゴホゴホと咳をしている。そしてそれを守るように立つ蒼月。どうやら追撃を許すつもりはないようだ。
「へえ、WS一つでここまで厄介とはね、さすがだよ陽一」
「ぬかせ」
嫌みを少しも感じさせない笑顔でそう言ってくる蒼月。
コイツは昔からそういうヤツだ。俺はそれに絆されぬように引き締める。
「司、そろそろいいか?」
「亮二、もうちっと助け方があっただろ」
「うん、もう平気そうだな」
「無視かよっ、まあいいけどよ」
軽い漫才のようなやり取りをする二人。
俺はそんな二人を静かに見据えながら、ヤツらの評価を修正する。
( くそ……やりづれぇ )
予想外の手強さを見せる二人。
上杉だけならそこまでではないのだが、そこに蒼月が加わると別次元。
魔石魔物亜種狩りのときには発揮されなかった、そんな種類が違う強さを見せてきた。
恐れることなく大斧を振り回してくる上杉。
上杉だけならすぐに倒せるのに、それをフォローするように蒼月が割って入って来る。
多少のフォローなら問題はない。だがあまりにも上手すぎる。まるで上杉の次の行動が分かっているかのように動いてくる。
先程などは、上杉が大きく振りかぶった瞬間、その脇から剣で突いてきた。
カウンターを取ろうとした俺からカウンターを取る形だ。
咄嗟に察知して避けたから良かったが、少々危ないところだった。
これには思わず奥の手を使いそうになったが、そこはなんとか踏み止まり、WSを放って距離を取らせた。
強さの底を見せるのはまだ早い。
少なくとも、アイツが釣れるまでは見せる訳にはいかない。
そして危なかったと思う一方、使えるようになったWSの有効性に感心する。
WSは強力で便利すぎる。
これが最初から使えるのなら、誰もがWSを軸にして戦うようになるだろう。
だが俺は違ったので、WSはどちらかというと補助的な位置だ。
だから――
「う~~ん、もっと隙を突けると思ったんだけどな~」
「……」
蒼月が言っている隙とは、WS後の硬直のことだろう。
まさかとは思うが、蒼月は対人戦の研究をしていたのではと思えてくる。
キャッチャーらしい観察視点とでもいうべきか、油断ならない相手だと、頭の中で警鐘が鳴り響く。
「今度は自分からっ」
「――っ!」
上杉に先行させるのではなく、今度は蒼月が先に切り込んできた。
その予想外の行動に一瞬戸惑うが、俺はすぐにその先を読み切る。
「っらああ!」
「っな!?」
「――っ!?」
蒼月が前に出たのはフェイントで、すぐに後ろへと下がって上杉とスイッチ。
大方ヤツの狙いは、自分に注意を引きつけてから上杉に攻撃をさせ、その崩れた隙を突くつもりだったのだろう。
しかし俺はそれを読み切った。
前へと大きく踏み出して、上杉の大斧を渾身の力を込めた横薙ぎで弾いた。
咄嗟に切り返してフォローへと割って入る蒼月。
俺を止めようと刺突を放ってくる。
「甘ええ!」
蒼月の刺突を、肩の装甲でいなすようにして逸らす。
そしてそのまま上杉の懐へと深く踏み込む。
「司っ、防いで!」
「おうさ!!」
上杉が大斧を手放してガード体勢に入る。
両腕を腹の前でクロスさせ、俺からの攻撃に備える。
「っしぃ!」
「なに!?」
「――自分だと!?」
俺は上杉を攻撃するのではなく、上杉をブラインドにして蒼月に迫った。
先程されたことを逆手に取った攻め。
上杉の横をすり抜けるようにして蒼月へと踏み込み――
「――っ!!!」
警鐘が鳴り響いた。
視界の隅に、魔法を唱えている者の姿が映った。
俺は咄嗟に木刀を振りながら後退する。
「うぉおおおお!!!」
俺がさっきまで居た場所に、氷で出来た棘が生えるように出現した。
地面から伸びてきた氷の棘は、上杉を派手にかすめてヤツを吹き飛ばす。
「痛ってぇ……おいっ、柊! オレが巻き込まれたぞ!」
「……」
ぷいっと横を向く柊。
どうやら今の魔法は、蒼月を助けるために放った魔法のようで、上杉のことは眼中にない様子。
上杉が必死に抗議しているが、どこ吹く風と柊は無視をしたまま。
しかしその一方、蒼月からのアイコンタクトには頷いている。
俺はそんなやり取りを見ながら、心の中で盛大に舌打ちをする。
今のはとても惜しかった。
厄介な蒼月を戦闘不能に追い込むチャンスだった。
同じ手はもう通用しないだろう。
そして、隣にラティがいないことが寂しい。
隙を埋めるようにフォローをしてくれる存在がいないのがとても寂しい。
まさか自分がこんな光景を、そんな気持ちを持つことになるとは思わなかった。
しかし今は、そんなことで落ち込んでいる暇はない。そのラティを守るために戦わねばならない。決して負ける訳にはいかない。
それに、それにヤツがとうとう動いた――
「……下元」
勇者下元が、氷で出来た翼を背負い立っていた。
いま俺へと放たれた魔法は、俺だけでなく同時に下元にも放たれていたのだ。
ほろほろと氷の結晶を撒き散らす氷の翼。
大きさから見て、そこまで大きな充電ではないと判断できる。
だが、攻撃魔法を取り込んだ下元は侮れない。
俺は木刀を腰に張り付け、槍を前へと構えて重心を下ろす。
当たり前のように木刀を腰に張り付けているが、何故そんなことができるのか疑問には思わない。
世界樹の木刀が、ラーシルが俺に協力してくれているのが分かるから。
初代勇者の声もだいぶ小さくなってきた。
最初の方は、木刀の中から『魔王を消滅させろ』と、そんな雑音が聞こえていたが、それもラーシルが抑えてくれているのだろう。
俺はラーシルに感謝しつつ、深く構えをとる、
「陣内さん、僕は……僕は魔王を倒す覚悟を決めました。でもきっと陣内さんはラティさんを諦めない。それが分かります。だから、絶対に手加減はしませんっ。僕は陣内さんを倒します!」
「……」
揺らいでいてくれたら楽だったのに、少なからずそう期待していた。
だが下元は、俺を排除する覚悟を決めたようだ。そしてラティのことも……
キンキンと輝いていた氷の翼が、より一層光を放ち始めた。
「いきます、陣内さんっ!」
この戦いに、覚悟を決めた勇者下元が参戦してきた。
読んで頂きありがとうございます。
本当に熱い感想コメントありがとうございます。(八十神ざまぁが多いですがw
引き続き更新をがんがりますので、ラストまでお付き合い頂けましたら幸いです。