排除
陣内が伊吹を破りました。
ですが、破ってはいないのでセーフです。
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
あの男がWSを放つなど……
「あの、陣内が……だと?」
驚愕の出来事に目を見開いていると、横から悲鳴染みた声が聞こえてきた。
「伊吹ちゃん!」
「伊吹さんっ」
「伊吹さんっ!」
( あっ、そうだった )
陣内のWSに気を取られ過ぎていたが、周りの声で伊吹さんが吹き飛ばされていたことを思い出す。
死んだり酷い怪我を負った様子ではないが、気を失うほどの攻撃だ。
女の子にそんなことをした陣内に激しい怒りが湧き上がる。
「陣内ぃぃい」
アイツのことは眼中になかった。
同じクラスに居る普通のヤツ。特に害はなく、話し掛けることもなければ話し掛けられることもない。
まあ困っているようだったら助けてやっても良い。そういう認識だった。
それはこの異世界に来ても同じだと思っていた。
目的があって一緒に行動することはあるかもしれないが、それは相手が頼ってきたとき。そのときは協力してやってもいいと、そう思っていた。
しかしヤツは、あろう事か現地の女の子を襲った。
僕の中で陣内の評価は最低まで落ちた。
頼られたとしても協力などはしない、それどころか視界に入って欲しくない。
捕らえた後のヤツは、本当に見苦しかった。
罪を素直に認めず、愚かでみっともなく最低で下衆でどうしようもないヤツだった。
そう思っていたのに、それらは全て違うと言われた。
――貴方は、本当に何も見えていない人なのですねぇ――
あの子の言葉は本当だった。
見て来たモノ、晒されてきたモノ、歩んできたモノ、全てが違うのだ。
気が付くと、僕が望んでいたことが全て逆になっていた。
アイツの居る場所は僕の場所だったはず。
僕がいるべき場所にアイツが居座っている。
そんな屈辱的な状況の中、陣内が高い確率で魔王になると教えられた。
そしてその戦いに備え、壊れていた鎧を直してくれると言ってくれた。
断る理由などはどこにもない。僕はその提案を受け入れた。
やはり僕が正しかった。
完全な正義とまでは言わないが、僕は正義だった。
ヤツは人殺しだ。
これは決して取り返しのつかないこと。永遠の黒い染みだ。
仮に何万という人を救ったとしても、人を殺したという事実は消えない。帳消しになどにはならない。
人殺しは人殺し、絶対に裁かれる罪だ。
そして裁くモノは、人や法だけとは限らない。
そう、世界が裁く場合だってあるのだ。それは天罰と呼ばれたり、バチが当たったなど様々な呼び名がある。
人殺しの陣内は、この異世界に裁かれたのだ。
だから魔王化という罰が与えられる。自業自得、因果応報、当然の理。
精神が宿っていた魔石の件は申し訳ないと思う。
だがあれは僕が悪い訳ではない。僕は申し出を受けただけ。
そもそも、先にそれを言っておけば良かったのだ。
あんな大事なことを隠していた陣内が悪いのだ。僕の所為じゃない。
だから陣内が悪い。だから魔王化して討伐されるのだと思っていたのだが、少し状況は違ってきた。
しかし、望んでいた形ではないが、大きく反れた訳ではない。
終わり方は同じ状況になる。陣内はあの子の手を取ったのだ。
僕は彼女の手を取って一緒に元の世界へと戻る。
ヤツはその手を取らなかったのだ。
僕はその手を取る。
全ては元通り、僕と葉月さんは元通りの関係に戻り、いつか――
「――さあっ、次はどいつだ!」
陣内が吼えている。
勇者を一人倒したからと言って調子に乗っているようだ。
しかしこちらにはまだ大勢の勇者がいる。
いま倒された伊吹さんだって、回復魔法を掛けてあげればまた戦える。
こちらが負ける要素など何処にもない。
もうさっさと倒して、そして、そして魔王を倒して終わらせてやる。
「陣内、調子に乗るな! お前なんてこの僕が――っがあああああああああおああああああああ!」
( 痛いっ!? なんで痛い!? なんで!? )
左太腿に激痛が走った。貫かれたような激しい痛み。
陣内が木刀を構え、その木刀の刀身が光ったと思ったら激痛が襲ってきた。
あり得ない、そんなことはあり得ない。
ウルドの鎧は直したのだ。攻撃を受けるはずがない。
あの木刀に直接叩かれない限り、僕に攻撃が届くはずがない。
だと言うの――
「何が……一体あっ――っが!? ぐはっ! ごっおおおおお!!」
今度は激痛の箇所が四つに増えた。
四肢の付け根に貫かれたような激痛が走る。
痛みに耐え切れず前へと倒れ込んでしまう。
「――うぐっ」
激痛で腕が上がらず、顔から地面に落ちた。
顎を打ち付けて呻き声が漏れるが、なんとか首を捩って激痛がする場所を見ると、その場所は穿たれていた。鎧にポッカリと黒い穴が空いている。
じんわりと血が流れる熱さを感じる。
( 何が? 何があった? なんでこの鎧を着ているのに……なんで!? )
「くっそおお、何があったああああ!」
――――――――――――――――――――――――
「まあ、そこまで甘くはないか」
俺は、木刀を使ってWSを放った。
放ったWSは、放出系貫き属性のWS”斬鉄穿”。
貫く刃を閃光のように放つWSだ。
これを喰らった八十神が、手を使わない土下座のような姿勢で崩れている。
何か喚いているようだが、取り敢えず戦闘不能の様子。
( これで二人目 )
このWSは、俺がずっとイメージしてきたWSだった。
遠くの敵でも攻撃できる手段が欲しかったのだ。しかもこれは3連射。
三連突きは得意だが、本来同じWSは連射ができない。
しかし伊吹が先ほど見せてくれた。WSは自分の意思でねじ伏せて止めることができるという事を。
それが可能ならば、同じWSの連射も可能なはず。
理をぶち破り、俺はそれを実行した。
「さて、次はどうすっかな」
俺は3人の勇者を同時に狙っていた。
『次はどいつだ!』と、そう言って”待ち”の姿勢を見せてからの奇襲。
椎名と下元には避けられたが、八十神だけは棒立ちでWSを喰らったので、そのまま追撃の3連射をかまして無力化した。
そして【穿破】という【固有能力】があるためか、予想よりも遥かに高い貫通力だった。まさか一発で貫いたのは予想外。
これは撃ち抜く場所に注意が必要だ。
当たり所が悪ければ一発で殺してしまうかもしれない。
俺の目的は勇者を倒すこと。下手に殺しては必要以上の反発や、それによる予想外の反撃を受ける危険性がある。慎重に放つ必要があるだろう。
「今のでやられてくれたら楽だったのにな……」
さすがと言うべきか、それとも読まれていたのか、椎名と下元はしっかりと避けている。
――いや、【固有能力】か?
椎名には先を視る系の【固有能力】があったよな、
もしかすると下元もそれに近いことができるのか?
だとしたら……戦術を変える必要があるな、
この奇襲は彼らには通用しないのだろう。
放出系の弱点は、こういった先読みができる相手には通用しない。
できることなら先に潰しておきたかった二人だが、やはり甘くないようだ。
そしてこのWSで、あることが判明した。
それは世界樹の木刀の効果がWSに乗ること。
八十神が装備しているチート鎧を貫いたのだ。
それは木刀の結界殺しの効果が、放ったWSに乗ったことを意味する。
一応予想はしていたが、このアドバンテージは正直デカい。
これで相手の魔法や結界などを打ち消すことが可能になる。
これを上手く使えば、回復魔法の阻害ができる。
伊吹や八十神に回復魔法を掛けさせずにいける。
そしてもし迂闊に回復魔法を掛けようものなら、そのときは……
――くそっ、やれるのか?
俺はあの二人に……いや、やるしかねえよな、そうしないと、
そうしないとラティを――
「――ちぃっ!!」
葉月と言葉に、『俺はWSを放つことができるのか』と、そう自問していた隙を突かれ、二人の勇者に接近を許してしまった。
俺は椎名と下元に気を取られ過ぎていた。次に来るのはヤツらだと決めつけていた。
左右から攻めるように、勇者上杉が大斧を大きく構え、勇者蒼月が片手剣をなびかせるようにして襲い掛かってきたのだった。
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