伊吹からの~ ら
まさか、サブタイの誤字とは……orz
八十神がどっか行ったため、初の勇者会議はお開きとなった。
赤城からは、『人を集めておいて勝手にいなくなるとは……』と言う言葉が聞こえたが、落し所が見つからない話し合いだったので、ある意味丁度良かったとも思えた。
明日はパレード。そしてその後は、この中央を出立する予定だ。
あまり長引いても困るので、そういう意味でも丁度良かった。
こうして俺たちは、明日に備えて全員が勇者用の区画へと向かうことになった。
ただ俺だけは、『場所を貸してくれた礼を言ってくる』と言って、一人だけこの場に残った。
それに場所を貸してくれた冒険者たちは、影の者が近づかないように警備もしてくれていた。だからその件の礼も言わないといけない。
葉月と言葉は、自分たちもお礼をしたいと言っていたが、勇者がくると俺が軽く扱われるから控えてくれと返した。
だが警備を引き受けてくれたのは三雲組と伊吹組。そして陣内組だ。
勇者が居ようが居なかろうが俺は軽く扱われる。それどころか軽く埋めてくる連中だ。
だから葉月たちが来なくても同じなのだが、俺はある目的のために適当な嘘を吐いて彼女たちには戻ってもらった。
そう、ラティとの日課をこなしたかったのだ。
昨日はバレて埋められたが、今日はしっかりと花壇も警戒する予定。
もう同じ轍は踏まないと意気込み、ラティを探そうすると――
「――っ!? 何か来る!?」
突如鋭い気配を感じた。
敵意といったモノは感じないが、凄みを感じさせる速さがあった。
俺はその謎の気配がする方、上空へと目を向けると、小柄な女性が闇夜に紛れ、長い黒髪をはためかせながら舞い降りてきた。
「へ? 伊吹!?」
「やっ、陣内君。ちょっと陣内君に訊きたいことがあって戻って来ちゃった」
「俺に?」
「うん。ど~しても訊きたいこと……うん、絶対に確認しておきたいことかな? 私的にね……」
どうやら伊吹は、俺に用事があって戻って来たようだ。
空を駆けて来たのは、人に見つからないようにしたためか、もしくは貴族に会わないようにしたのだろう。そうでなければ堂々と下を歩いてくるはず。
もしかしたら普段からこうやって空を駆けるように移動しているのかもしれないが、一応俺は人目のつかない場所へと移動することを提案する。
別に後ろめたい気持ちがある訳ではないが、あまり目立つとマズい。
具体的に言うとまた埋められる。
ヤツらは人を埋めた後、埋めたことを忘れる傾向がある。
うっかり忘れられて、明日の出立に置いて行かれたら堪ったものではない。
俺と伊吹は建物の陰となる場所に移動した。
「――で、訊きたいことってなんだ?」
「うん、まあ、訊きたいと言うより確認かな? ねえ、陣内君が一番の候補っていうのはホント?」
伊吹がいつも通りの顔でそんなことを訊ねてきた。
特に深刻な話ではないようだ。俺は隠すことなくそれに答える。
「ああ、そう言われたな。なんか、渦? みたいなモンが俺の上にあるとかどうとかって、そんなことを銀髪の双子に言われたな」
「そっか~。じゃあ次は、価値の高い人が魔王になるってのも、ホント?」
「それも聞いた話だからな。何か確証があるって訳じゃねえけど、いままでそうだったみたいだから、たぶんそうなんだろうな。一応信頼度の高い情報源から聞いた話だから、たぶん間違ってはいないと思う」
「ふ~ん。――じゃあ最後に、陣内君が言った世界を守るって覚悟。あれって……」
「本気だ。俺は自分の世界を守るために戦う。…………何があってもな」
俺は、自身が感じている嫌な予感を振り払うかのように言った。
絶対にそんなことが起きるはずがないと、そう宣言でもするかのように……
「そっか……。うん、答えてくれてありがとうね、陣内君。じゃあ私は戻るね」
伊吹はそう言って夜空へと駆けていった。
足音は立てず、ただ風を切る音だけを残して。
「……何だったんだ? ――ん、あれ? ららんさん!」
「おや、じんないさん。何でこんな人気のない場所にって、ラティちゃんと?」
「いや、ラティとはこれから。ちょっと何となくここに居ただけですよ」
トコトコとやって来たのはららんさん。
いつもの笑みを浮かべて、楽しそうに俺のことをからかってくる。
「にしし、そういうことにしておこうかのう」
「ホントに何でもないですよ。あれ? ららんさんよくここに入れましたね? ここら辺って簡単に入れましたっけ? あ、アムさんか」
「うん? ここに入れたのは取引をしたからよ。ちょっと依頼を受けて、そんでそのついでに許可をもらったんよ」
「依頼? ああ、アクセサリー関係ですか」
「そそ、そんでちょっとさりおちゃんに会いにいこうと思うての。もしかすると当分会えなくなるかもやしの」
さらりとそんなことを言うららんさん。
だが考えてみればサリオも例の町へと向かう。
一度入ったらなかなか外に出られない場所だ。
そこいらの貴族では入れず、余程強力なコネがないと町には入れないと聞いている。
ひょっとするとだが、ららんさんはその町に、付加魔法品職人として入ろうとしているのかもしれない。
「ららんさん。ららんさんも南にある町に行く予定です?」
「あ~~~、それは連絡待ちかの。アムさんからでも厳しいみたいでの、あとはギームル様頼りやの」
「なるほど」
「さてと、おれも捜しに行くかの」
「はい」
「またのう、じんないさん」
俺はららんさんと別れ、どこかにいるであろうラティを探した。
ラティとはパーティを組んでいるので、どの方角にいるのかは判る。
すぐに彼女と合流し、明日の予定を話ながら、時間が許す限り俺の木刀を彼女に握らせ続けた。
絶対にそんなことがないようにと、俺はラティと一緒に木刀を握り続けたのだった。
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