勇者がわいわい
令和、初投稿ですっ(フライング令和
「みんな、これは話し合いというより、現状の再確認だと思って欲しい。そして、今日は集まってくれてありがとう」
全員の視線を集め、勇者八十神が開幕の宣言のようなことを言った。
よくある定番の流れだとここで、パチパチと拍手でもするところなのかもしれない。だがこれから始まる内容の重さに、そういった空気にはならなかった。
「それと今回は不参加だけど、次回は牢屋に捕まっている荒木、加藤さん、綾杉さんにも参加してもらう予定だ。できれば秋音さんにも参加して欲しかったけど、彼女は協調性がないみたいで……。取り敢えず今日は、いま居るみんなでやろうと思う」
皆が無言で続きを促す。取り敢えず様子見といった感じだ。
「もうある程度のことは把握していると思う。僕たちのうち誰かが魔王になるだろう……」
何人かが息を呑む。
すでに知っているとしても、改めて告げられるとくるモノがあるのだろう。
そして意外な人物も息を呑んでいた。
「……なあ、八十神。ちょい確認なんだが、それって絶対なのか?」
訊いてきたのは上杉だった。
いつもは陽気な顔をしている上杉だが、いまはとても深刻な顔をしていた。
コイツは魔王化を軽く考えている方だと思っていたのだが、どうやら勇者の魔王化を重く受け止めている様子。先程も苦しそうな顔をして息を呑んでいた。
「……オレはよう、絶対に魔王なんてのにはなりたくねえ。あの馬鹿デカい木みたいな化け物になって、そんで怪獣みたいに暴れんだろ? そしてもしかしたらセーラとか生まれたばかりの娘を……」
( ああ、そっか…… )
上杉が何を恐れているのかを把握した。
俺はコイツのことを軽く考えていたことを心の中で反省する。
上杉には子供が居るのだ。
勇者の中では唯一の子持ちだ。
「絶対ではないみたいだけど。高い確率で……そうなるだろう。僕が調べてみた結果だが、もっと昔は物だったり他のモノが魔王になったことがあるみたいだけど、ここ最近は勇者ばかりが魔王になっている……」
「くそっ、何だよそれ……。何かねえのかよ、魔王になる原因とか目印とかよう」
上杉が吐き出すように言った。
ふと視界の隅に、俺の方を窺う視線を感じた。
( 言葉……ああ、そっか )
言葉が、『どうしますか?』と言った視線を飛ばしていた。
俺はそれを見て小さく首を振る。
言葉が目で伝えてきたのは、魔王に選ばれる基準のこと。
シャーウッドさんからその話を聞いたとき、彼女もその場に居た。
だから言葉は、価値が高ければ高いほど魔王化する可能性が高いことを知っているのだ。
しかしそれを明かすのはまだ早い。
話がまだ本題に入っていないのだ。話の腰を折らないために、『待ってくれ』と目で伝えると、言葉はコクンと頷いた。
「八十神、まずは話を続けよう」
「あ、ああ、陣内。……みんな、改めて聞いて欲しい。誰かが魔王になる可能性が高い。そして、そしてその魔王となった者を僕たちは倒さなくてはならない」
少々自分に酔った雰囲気を醸し出す八十神。
無駄にいったん溜めて、全員を見回してから続きを紡いだ。
「だから僕たちは覚悟を持たないといけない。そう、覚悟を持つ必要があるんだ。その覚悟を持つために、僕は今回の勇者会議を提案したんだ」
( やっと言ったか )
俺は八十神から今回の提案を事前に受けていた。
戦う覚悟を持つために、みんなで話し合いをしたいと提案されたのだ。
正直、そんな提案を八十神からしてくるのは予想外だった。
誰も犠牲にしたくないと、そんなことを言い出すヤツだと思っていた。
そしてその提案を受けた俺は、それに乗ることにした。
そもそもこの『覚悟』に関する話は元からするつもりだった。
歴代の勇者たちは、貴族に騙される形で例の町の中に待機して、魔王の発生を待った。
そして魔王と化した仲間と戦わされる。
この方法なら勇者たちが逃げ出したり、自棄になって暴走することはほぼないだろう。
もう戦うしかない。そういった状況に有無も言わさず追い込むのだ。
しかしこの方法には一つ欠点があった。
それは動揺して勇者たちが動けなくなる場合があること。
断片的に見せられた映像や、聞いた話から推測するに、9代目のときはそれで失敗している。
もしかするとだが、勇者が勇者を裏切り魔王を庇った可能性だってある。
むしろその可能性が高い。
しかしそれでは魔王を野放しにすることになる。
それは絶対に駄目だ。それでは世界を救うことができない。
だから俺は、八十神の提案に乗り、勇者たちに声をかけて今回の勇者会議を実現させた。
俺が勇者を集める。そしてその会議の司会進行は八十神に任せる。
ヤツはどこかで察していたのかもしれない。自分ではみんなを集めることができないかもしれないと。だから俺に集めて欲しいと頼ったのかもしれない。
――まあ、丁度良かったな、
司会進行役なんて柄でもないことは御免だし、
ヤツがやるって言うなら助かる、
俺的には非常に楽なポジションだった。
話の流れは八十神に任せ、もし話が脱線しそうだったら俺が止めて戻す。
これがギームルだったら無理だが、相手は八十神だ。普通に余裕で楽に制御することができる。
「――本当なら、こんな状況に僕たちを追い込んだ貴族や王族に文句でも言うべきなんだろう。何故そんなことができるのかと――」
「八十神っ、それについては事前に無しって決めたよな? 本題に戻れ」
「ああ……分かっている……」
( やっぱ脱線しやがったか。ったく )
「春希、さっき言ってた覚悟のことだけど。あれは……討つ方と、そして討たれる方の覚悟ってことだね?」
「そうだ。討たれる方も覚悟を持って欲しい」
八十神は、椎名の問いに対し強く頷きながら肯定した。
そして自分に酔った空気をまた醸し出しながら、その理由を饒舌に語る。
「これは虫のいい話だとは思っている。でも理解して欲しいんだ皆。魔王になった者を倒さないとこの世界が危ない、だから倒さねばならない。これは誰かに犠牲を強いることになる。――でも、それを覚悟して容認して欲しい」
「ん? それってアレか? 犠牲フライとか送りバントみたいなモンか?」
「司、全くの間違いって訳じゃないけど、ちょっと喩えが遠すぎるかな。取り敢えず野球にはないことだね」
「犠牲……と言ったけど、ちょっと見方を変えて欲しい。これはこの世界、異世界を救うために身を捧げるとも言えるんだ」
( ……うん? )
「だから許して欲しい。討つ人のことを……」
少し違和感を覚えた。
言っていることは決して間違えではない。少々シビアな言い方だが、そういう考え方もあるし、そう考えるヤツもいるだろう。
だがしかし違和感があった。
八十神にしてはおかしい。妙にヤツらしくないと、俺はそう感じた。
つい横へと目を向けてしまう。
隣に座っている早乙女が、『なに?』と言った目を返してくるが、俺が求めていたモノではなかったので無視して前を向く。
これは癖だ。
判断に迷ったとき、いつも隣にいるラティへと目を向けていた。
( そうだった。いまは居ないんだった…… )
横から不機嫌そうな圧が放たれてきたが、いまはそれよりも八十神を注視する。
いまはラティが居ないのだ。自分でヤツを判断するしかない。
「ねえ、八十神君。それってさ、倒されることを事前に受け入れろってことかな? そうすれば倒すときに……」
「うん、伊吹さんの言う通りだよ。仕方のないことだから、どうか討たれることを受け入れて欲しい。決して恨んだりしないと、そう覚悟を決めて欲しいんだ。そうでないと倒すみんなが辛くなる」
少々妙な流れになった。
大まかな流れは想定通りなのだが、どうにも違和感を覚える。
確かに覚悟を持って欲しいと思ってはいたが、さらにその先までもとは思っていなかった。
八十神が言うように、討たれる方もそうだが、討つ方も辛い。
しかしだからと言って、討たれる方にそれを許容しろというのは少し違う気がした。
討つ方も討たれる方も覚悟は必要だ。
しかしそこに、事前に許しを得るという考えを挟むのはズルい気がした。
これではまるで、少しでも楽になりたい、そんな感情が見えた。
これは八十神の真意を測り損ねた俺のミス。
話が脱線した流れではないので、止めて修正することは難しい。
俺は話がこれ以上大きくなる前に、決めていた提案を投下することにした。
「八十神、俺から一つ提案がある。魔王になって倒されたヤツのフォローをしておきたい」
「え? 倒された人のフォローとは……?」
「そうだな……上杉でいいか。例えば上杉が魔王になったとしよう。それで魔王になった上杉を倒したあと、魔王化した上杉の名誉を守ってやりたいんだ。だってなりたくて魔王になった訳じゃないんだろ? だから、魔王化した者が不当な扱いをされないようにしてやりたい」
「えっと、陽一君。それって残された人が差別や迫害をされないようにってことだよね? 奥さんとか子供とか」
「ああ、そうだ。その辺りをしっかりフォローしてやらないと、残された人たちが酷い目に遭うかもしれないからな」
「ああ、そうかっ! そうじゃねえとセーラが……オレの子供だからってアルテシアまで……」
この提案は最初からねじ込むつもりだった。
狼人族は、同族から魔王を生み出したとして迫害されることになった。
決して彼らが悪い訳ではないのに、それを利用されて立場と地位を追いやられた。
しかし勇者たちがしっかりとフォローをすれば、そういった不当な差別はなくなるはず。
「司、オマエが魔王になるって決まった訳じゃないんだから」
「お、おう……」
今にも泣きそうな上杉をやんわりと宥める蒼月。
ただの例え話のつもりだったのだが、いまの上杉にはキツかった様子で、上杉を例えに選んだことを心の中で詫びる。
「ねえ、ワタシはそんな覚悟持てないんだけど。それってさ、もし由香が魔王になったら殺せってことだよね? ワタシは絶対に嫌よ。何が何でも由香を救うんだから」
「風夏ちゃん……」
(やっぱ出たか…… )
この話し合いで、たぶん出るだろうと思っていた反論。
それが橘から放たれたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
すいません、色々と多忙で更新や返信が滞っており……
GW中も少し遅れそうです;
本当に申し訳ないです。