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ああ、そっか……

 俺は面倒ごとを回避するために駆けていた。

 勇者たちには貴族が近寄れないように配慮されているが、椎名が言ったように公爵には関係ない。


 この異世界(イセカイ)では王族よりも公爵の方が力は上だ。

 しかも西は公爵家でも上位。だから俺は急いだ。が――


「陣内陽一、その心配はない。私が対処しておいた」

「……秋音ハル」


 メイド姿の秋音ハルが、柱の影から姿を現した。

 そしてどうやら状況までも察している様子。


「なあ、対処ってまさかお前……」

「安心しろ。殺してはいない。ここでやると面倒だからな。ただ釘を刺しただけだ」


「……そうか。釘を刺しておいたか」


 秋音ハルが『釘を刺す』と言うと、比喩的表現の慣用句ではなく、物理的にやっていそうな気がするが、どちらにしろ同じことなので良しとする。


「一応確認なんだが。……その、動こうとしていたのか? ゼピュロス公爵は」

「みたいだな。橘風夏のもとに向かおうとしていた」


「そっか……。助かったよ、ありがとう」


 橘だったら別にいっか――と思ったが、橘に会いに行くということは、女性陣の勇者が居る区画に向かうことを意味する。何か間違いがあっては困る。

 俺は秋音に素直に感謝した。


「礼などいらん、私は自分の目的のために動いただけだ。こんな下らんことで離脱などされては困るからな」

「なるほどね」


 秋音ハルは本当にブレない。

 目的のためには最短を目指し、障害は躊躇なく排除する。

 誰かと協力するとか、人に頼るといった考えは無さそうだが、それが秋音ハルなのだろう。


 ( 人を利用することは多そうだけどな…… )


「あ、そうだった」

「む? 何だ陣内陽一」


「ああ、実は今日の夜な、俺たちがいる方の区画で勇者会議ってのをやる予定なんだ。まあ、集まって話し合うだけなんだけどな」

「ふむ」


「そこで覚悟を決める予定だ。お前は調べ回ったんだから知っているだろ? 勇者が魔王化するってことを」

「なるほど。だから覚悟を決めるか」


「ああ、そうだ。だから――」

「ならば必要ない。やるべきことをやる。それだけだ」


「……」


――なるほどね、覚悟なんて必要ないってことか……

 いや、違うか。そんなモノは既に備わっているって感じかな? 

 まあいいや、



「判った、今回は不参加ってことで。まあ、今回は幽閉されているヤツらも不参加だし、向こうの町に行ったらまた何回かやる予定だから、そんときに気が向いたら来てくれ」

「……覚えておこう。……ああ、それとな陣内陽一。先程見つけたのだが――」




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「くそったれっ!」

  

 キッと周囲を睨みつける。

 この程度で見つけられるとは思わないが、それでも周囲を探ってしまう。


「……本当に居るのか? いや、あの秋音がそんな嘘を吐くとは思えないな」


 秋音ハルから、勇者は影に監視されていると告げられた。

 特殊な付加魔法品アクセサリーを使っているようで、気配や感情などといったモノを覆い隠しているようだ。

 さすがのラティと言えど、アクセサリーで隠れられてしまっては察知できない。


 だがさすがにそこまで万能という訳ではないらしく、じっとしている分には効果を発揮するが、少しでも動くと効果が切れてしまうのだとか。


 だから要所要所にその者たちを配置して、じっと動かずに勇者の動向を探っていると秋音は言った。


 もしこのことを知らなければ、俺たちの話し合いは筒抜けになっていただろう。

 別に何かを企んでいる訳ではないが、老エルフの話がバレるのはマズい。


「……殺ってねえだろうなアイツ」


 秋音ハルは、自分が潜む場所を探していたら、その影を見つけたと言っていた。

 そしてその影を排除したとも……


 影が使っていた付加魔法品アクセサリーや、勇者を見張っていたことを知ったということは、きっとその影から聞き出したのだろう。


 しかし影が素直に喋るとは思えない。


「…………止めよう、考えるのは」


――しかし、誰が見張らせたんだ?

 ギームルか? いや、違うなギームルじゃない……

 だとすると、あとは……



「オラトリオか」

 

 最初は好きになれないヤツという印象だった。

 しかしギームルの後釜であり、そしてそのギームルが紹介した人物だ。

 別に仲良くやるつもりはないが、一応は協力者として見ていた。


 だが今は、ヤツに対して不信感を抱いている。


 敵、とまでは言わないが、カテゴリーでは秋音ハルと同じだ。

 目的は同じだが、何かあれば即ひっくり返る。そんなヤツだ。


 感情で動くのではなく、自分の中にある行動指針だけで動くタイプ。

 仕事はできるのかもしれないが、自身の判断で良しとすれば勝手に行動を起こすようなヤツだ。


 妙に嫌な予感がする。

 何か取り返しのつかないことが起きているのではと……


「取り敢えず、勇者会議をする場所を変更するか」



 結局走り回ることになった。 

 話し合いをする場所の変更を伝えるため、一人一人勇者を回った。

 誰かに伝言を頼む方法もあったが、情報の漏洩を防ぐためにしなかった。


 最終的には会議の場所はバレてしまうだろうが、事前にその場所がバレなければ良い。その場所に入り込まれなければ良いのだ。


 走り回っている途中、アムさんとドライゼンに会った。

 どうやらほとんどの貴族たちが中央に集まっているようで、皆明日の行進(パレード)に備えているらしい。


 そして現在は、そのまましれっと町までついて行くことがないようにと釘を刺されているのだとか。

 要は、どさくさに紛れてついていこうとした者が多数いたらしい。


 しかも何人かの貴族は、自前で出張階段を用意して、例の町に何とか送り込めないかと画策していたらしい。

 賄賂や脅しなどと、裏から手を回してあれこれやっていたようだ。

 

 当然それらは突っぱねられたらしいが、それでもまだ悪足掻きをする者はいるらしく、それの阻止に中央は大忙しだとか。


 俺は丁度良いと思った。

 騒ぐ貴族が多ければ多いほどマークは薄くなるのだから。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「見張り、お願いします。ハーティさん」

「ああ、外にも配置しておいたよ。取り敢えずは平気だと思う」


「すいません。少し部屋をお借りします」


 俺が会議をする場所に選んだのは、冒険者たちが泊まっている離れだった。

 ここなら広い部屋もあるし、冒険者全員で捜索もできた。

 人が潜めそうな場所を徹底的に捜し、花壇も軽く掘り起こしたりもした。


 そして誰もいないことを確認してから集まり、その後は周りを見張ってもらう。


 ハーティには事情を話しておいた。

 そして仕切り役をお願いしたのだが、この問題は君たちだけの方が良いと言われ、現在この部屋に居るのは勇者たちだけ。ラティも居ない。


「じゃあ、始めようかみんな」


 この勇者会議の司会進行役は、この会議(話し合い)をやろうと言った八十神になった。

 俺としては、年上のハーティさんにお願いしたいところだった。

 だが断られたのでは仕方ない。多少の不安はあるが、こうして勇者たちによる初めての話し合いが始まったのだった。 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字もっ

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