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植木は見た

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……どうか、どうか……

 朝、俺はノックの音で起こされ、明日の予定について説明があるので集まって欲しいと告げられた。


 勇者全員が集められ、そこで明日の詳しい予定を聞かされる。

 明日の昼に中央の大通りを通って、そのまま予定の町へと向かうと告げられた。例の行進(パレード)だ。


 なので今日が最後の滞在。

 明日出立したら戻ることはできないので、もし予定や用事があるのならば、今日中にお済ませ下さいと言われた。


 ただ、『お済ませ下さい』と言ってはいたが、城からは出ないようにと釘を刺された。要は『逃がさない』と言うことだろう。


 それを淡々とした口調で言うオラトリオに不信感を抱く。

 敢えて気が付いていない振りをしているが、俺たちは貴族の思惑を把握している。


 勇者たちを生け贄にして、生け贄を免れた勇者たちに魔王(生け贄)を討たせる。


 本当に反吐が出るようなシステムだ。

 多少の例外はあるかもしれないが、この異世界(イセカイ)は一部の生贄によって成り立っている。

 最初は勇者召喚の生贄となる王族、次は魔王化する勇者たち。そしてそれの繰り返し。


 もうそれが当たり前になっていて、貴族たちは何も疑問に思わないのだろう。

 

 しかしだからと言って、全てをぶち壊すような暴走をしても意味はない。

 そんなことをしても何も解決しないし、誰も救えない。


 俺はそれを断ち切ってやると心の中で誓う。

 魔王をただ倒すのではなく完全に消滅させてやる。

 そうすれば勇者召喚の必要はなくなり、誰かが犠牲になることはもうない。


 生贄によって成り立つという、そんな負の連鎖を断ち切ることができる。

 オラトリオの話を聞きながら、俺は『頼むぞ』と木刀を強く握った。





        ◇   ◇   ◇   ◇   (はぃ)






 オラトリオからの説明を聞いた後、俺は花壇に埋められていた。

 少し暇ができたのでラティに会いに来たのだが、約50名ほどの冒険者たちに囲まれて埋められた。


「おいっ、俺が何をしたってんだよ!」

「ほう、貴様は自分が犯した罪の重さを理解していないようだな」

 

 黒い覆面を被った男が、ぞっとするほど冷たい声音で言ってきた。

 ヤツらの正体は分かっている。ヤツらは嫉妬組だ。


 だがこれはおかしい。

 ヤツらは嫉妬心にまみれて愚かな行動を起こすが、そうでない場合はまだ普通だ。決して理不尽な制裁は行ったりはしない。

 制裁を下した後はノーサイド。それが嫉妬組のはずだ。


「どういうことだ? 制裁なら昨日受けただろ? なんでまた……」

「しらを切るつもりか裏切り者っ! 貴様には反省というモノがないようだな」

「この裏切り者がっ! 素直に罪を認めれば楽にさせてやったものを」

「嫉妬リーダー。此奴にはもっと重いギルティを。もう顔まで埋めましょう」


「しらを切るも何も、全く心当たりがないんだが……」

「……」

「……」

「……」


 俺は全力でしらを切った。

 本当は心当たりがモロにある。


 昨日の夜、俺はラティの部屋に忍び込んだ。

 あれは立派な制裁対象行為だ。もしバレたのであれば埋められるだろう。


 しかしあれはバレていないはず。

 もし見つかっていたのならば、その場で拘束されていたはずだ。

 そして何より、俺は慎重に潜入した。

 人が居そうな場所には細心の注意を払い、決して見つからぬように動いた。


 だから断言できる。俺は見つかっていないと。

 

「……へえ、陣内君。全く心当たりがないんだぁ」

「ジンナイ、オマエって意外と往生際が悪いんだな。もっと潔いかと思っていたぞ」

 

 やつれた顔をした二人が、恨めしい目で俺を見下ろしていた。


「……ハーティさんとレプさん。いや、だって本当に心当たりがないんで……」

「そうなんだ。じゃあ昨日の夜、こっそりとこの離れに来ていた理由はなんだい? 誰にも見つからないようにしていたよね?」


「――っ!?」


 俺は思わず目を見開いてしまった。

 反応したら負けなのに、つい反応してしまった。


「ジンナイ、オレ達は見ていたんだよ。オマエがこの離れに侵入するところを。…………ここで」


 そう言って俺の横を指差すレプソルさん。

 だがそこは――


「はっ!? まさかアンタら、あれからずっとここに埋められてたのか!?」

「……」

「……」


 無言でこくりと(うなず)く二人。

 二人のやつれた顔は、昨日からずっとここに埋められていたのが理由だろう。

 もしかすると俺が埋められている穴は、昨日ハーティかレプソルさんが埋められていた穴なのかもしれない。


「陣内君、君は注意深く辺りを探っていたようだけど、さすがにこの花壇までは意識が向かなかったようだね」

「くそっ! 普通気付くかよ! 普通埋まってねえだろ!」

「ふ、埋められている君が言うのかい?」


 これは全く想定していなかった。

 まさに予想外の所に伏兵が潜んでいたのだ。


「レプさん、ハーティさん。嫉妬組に俺を売ったんですね」

「すまないね、そうしないと出してもらえなそうだったから」


 申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるハーティ。

 所謂、司法取引的なヤツなのだろうか、俺は二人に売られたようだ。


「さて、もうしらを切るのは無理なようだな。では大人しく我らの裁きに――ん? あれは?」


 覆面の男が判決を下そうとしたとき、何やら賑やかな声が聞こえてきた。

 首を無理矢理動かして声がする方を見ると、そこには椎名が居た。


「椎名と……ん? あれってどっかで見たような……」


 椎名が一人の少女に追いかけられていた。

 妙に大人びたドレスを纏い、紫紺の髪を揺らしながら駆ける少女。


 椎名だったら余裕で振り切れるはずなのに、相手が諦めるのを待つかのような速度で走っている。


「椎名っ! ちょっと助けてくれ! 俺がやばい」

「なっ!? 貴様、勇者さまに助けを請うとは!」

「この卑怯者め!」

「やはり顔まで埋めるべきだったか」


 利用できるモノは利用すべきと、俺は椎名に助けを求めたのだった。




           閑話休題(勇者は便利) 





「……助かったぜ、椎名」

「いや、別に大したことをした訳じゃないよ。……でも、捕まっちゃったな」

「シイナ様、先のお約束を守って貰いますよ」

「エロスちゃん……はぁはぁ……」


 俺は上手いこと椎名を利用して穴から脱出した。

 さすがは最優の勇者というべきか、椎名は簡単に俺を救ってくれた。

 嫉妬組のヤツらといえど勇者には逆らえない。椎名が出すと言えばそれを拒む者はいなかった。


 しかし一方、俺を助けるために逃げるのを止めた椎名は、追いかけて来た少女に捕まってしまった。

 そして何故か、その少女を追って小山までやってきた。


「……あっ、エウロスの公爵になった子か!」

「うん。どうやら例の区画に入って来ちゃったみたいでね……」


 俺は何となく察した。

 勇者たちに用意された区画は、基本的に貴族たちは入れない。

 だがこの子は公爵だ。だから強引に入って行ったのだろうと推測する。


 しかしだからと言って、その規則を破るのは宜しくない。

 エウロス公爵の名に傷がつく場合があるだろう。


 だから椎名は、自分に会いに来たこの少女をやんわりと遠ざけるために追わせていたのかもしれない。

 下手に振り切って部屋に行かれたら大変マズい。それはもう色々な意味でもマズ。ストーカーでロリ○ンとか駄目な二刀流過ぎる。


 ひょっとすると新しいイキリが誕生するまである。


 そして次にマズいのが小山。

 とても少女を見つめる目ではない。ついでに『はぁはぁ』まで言っている。


「……何か色々と大変そうだな。ただ、その二刀流だけはマズいと思うぞ?」

「陣内君、一体どんな二刀流を想像したんだい?」


 半目で俺を見る椎名。

 コイツは察しが良いヤツなので、俺が何を考えているのか分かったのかもしれない。


「シイナ様っ、お約束です。捕まえたら……(わたくし)の祝福を受けると……」

「うん、分かりましたよ公爵さま」


 そう言って優しく微笑みながら片膝をつく椎名。

 椎名とエロスの顔の高さが同じになった。

 

「では、どうぞ」

「はい……」


 そっと手を伸ばすをエロス。

 椎名の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけていく。


「あ……」


 彼女の言う祝福とは、よくあるほっぺにチュー的なヤツだ。

 決戦へと赴く男に、女性が帰還の願いを込めてと……


 ほぼ全員がガン見していた。

 小山だけは『ぎゃぼー』といった顔で頭を抱えているが、皆が見守る中、ゆっくりと少女の唇が頬に近づき――


「それは駄目だよ」

「――あっ」


 一瞬だった。

 あと少しと言うところで椎名が引いた。

 椎名に逃げられて呆然とするエロス。


「うん、それは駄目だよ」


 優しく諭すように言う椎名。

 椎名が言った『駄目』とは、祝福の口づけを唇にしようとしたこと。

 エロスは頬に口づけを落とす瞬間、椎名の顔をグイッと正面に向けたのだ。


 しかし椎名は、事前にそれが分かっていたかのように引いた。 


 いや、実際に分かっていたのだろう。

 椎名には少し先を視ることができる【固有能力】がある。

 だからエロスの不意打ちを察知して引いたのだろう。


「シイナ様……」


 しゅんとするエロス。

 横では小山がガッツポーズをして、その後ろでは嫉妬組が審議中。

 しかしイケメンを体現しているような椎名は、そんな周囲の反応には気を止めず――


「これで許してね」

「あっ……」


 椎名はエロスの手を取って、手の甲にさらっと唇を落とした。

 一瞬で顔を赤くするエロスと、嫉妬心に顔を赤黒くする小山。


「じゃあ、散歩でもしながら戻りますか」

「……はぃ……」


 呆けたままのエロスの手を取り、椎名は彼女を送りに行った。

 俺たちはそれを呆然と見送る。すると――


「あ、他の公爵も来ているみたいだから。陣内君、彼女たちの元に行ってもらえるかな? 大事になるとは思えないけど……一応ね」


 俺は椎名に言われ、すぐに動いた。

 公爵たちは一番の権力者だ。

 エロスのような少女であっても誰も止めることはできない。

 

 ならば、大人の公爵たちの場合はどうなるか。

 アムさんが馬鹿なことをするとは思えない。ドライゼンもそうだ。


 しかしゼピュロス公爵は判らない。

 先代が暗殺されたので代替わりしている。


 俺は何もないことを願いつつ駆けたのだった。

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