表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

547/690

加速する内紛

加速するっ

「どうして小山が……いや、お前は居て当然か。だけど――」


 キッと見据えた先には、椎名と赤城が居た。

 椎名は爽やかな苦笑いを浮かべ、赤城は全く興味など無いといった顔をしながら鼻の穴を大きくしていた。


「お前まで……」

「いや、ボクは急に呼ばれて来ただけなんだよ。でも小山君が離してくれなくてね。はは……」

「ふっ、僕の方は、勇者同盟レギオンを纏めるにあたって大事なことだから、その……仕方なしの参加さ。一応大事なことだからな」


 理解のある上司を装う赤城。

 『ヤレヤレ、仕方ないな~』と言ったスタンスを取っているようだが、しっかりと興味はあるようで、眼鏡を弄りながら店の名前が書いてある紙に目を向けていた。 


「ジンナイ、シイナ様は、『ふわっと、たわわ』派だぞ」

「そんな情報要らねえよ。ってか、何となくそれ予想つくし」

「ぐっ」


 顔を横に逸らす椎名。

 正直、お前は何やってんだよと問うてやりたい。


「なあ、ジンナイも来たことだし、まず一つ目を決めないか?」

「賛成だ。当然、【ビッグフレンズ】だよな?」

「ほほう、おっきい重視の老舗か。まあ悪くない選択だ」

 

「大賛成デスっ、超大賛成デス!」

「ラムザ……」


 大っきいと聞いてテンションがガチ上がるラムザ。

 鬱陶しい語尾を連発させながら大はしゃぎ。


「もうぺったんは嫌なんだ……絶壁はお腹一杯デス。オレは、オレはおっきいのを、っん? なんデス? 肩を掴んでいるのは誰Death(デース)!?」

「ラムザ~、ちょっとあっちでお話しよう」


 ラムザの肩に手を掛けたのは元村娘のリナ。

 彼女はラムザの肩を握り潰さんと掴んでいた。


「お、おいっ、見張りはどうしたんだよ! なんでリナが居んだよ!?」

「はっ、そんなもん通したに決まってんだろ! この裏切り者が!! 全部知ってんだぞオレはっ くそっ、地獄に落ちろ!」


「――なっ!?」


 テンションが下がりいつもの口調に戻るラムザ。


「ほら、逝こう、ラムザぁ」

「ぎゃぼ~、何か字が違う気がする~。なあ、みんな助けてくれよ。仲間だろ? 絶対にマズいヤツだからこれ」


 ズルズルと引きずられて逝くラムザ。

 誰も助けようとはせず、むしろ、『この裏切り者がっ』といった目で見ている。

 中にはあからさまに悪態をつき、ぺっと唾を吐く者までもいた。


「あばよ、ラムザ」


 当然俺も助けない。ヤツは裏切り者なのだ。 

 我ら嫉妬組に慈悲はない。 

 ヤツと元村娘リナの関係はほぼ全員が知っている。

 裏切り者を地獄に落とすことはあっても助けることはないのだ。


「よし、裏切り者は去った。まず一つ目の店だが……おれはここを推す」

「ほう、【月姫っ子】か。確かに悪くない選択だ。あの兎人を多く抱える店だな。しかしゼピュロスからこの店が来るとは……本気だな」

「むう、しかしその店は少数精鋭と聞いているぞ。階段(ステップ)レディーの数が足りないんじゃ?」

「確かにそれは問題だな。数は大事だってアニキも言っていたし。しかし兎人だぞ? 聖地に行ったってそうはお目にかかれない相手だぞ? この機会を逃す手はないと思うが」


 むむむっと全員が考え込む。

 メリットやリスク、他にも様々な要因を考慮し、どうすべきかと考えていた。

 さすがは歴戦の冒険者たち、欲に釣られて安易な判断を下すことはないようだ。


 そして皆が悩んでいる中、粛々とレプソルさんの制裁が始まっていた。

 レプソルさんは何か必死に叫んでいるようだが、嫉妬に駆られた嫉妬組が止まることはない。

 連魔のレプソルさんと言えど、この数の冒険者に取り囲まれてはどうしようもない。彼は速やかに簀巻きにされた。


 そもそも、『兎人』と言うワードが出た時点で逃げるべきだったのだ。

 兎人→ミミア→レプソルを殺るは当然の流れ。

 猫が鳴いたら『ニャー』というぐらい当たり前のことだった。


 嫉妬組の埋葬隊が、簀巻きソルさんを花壇に植えて戻ってくる。


「よし、月姫っ子はいったん保留としよう。さあ、次の議題に入るぞ」



         閑話休題(それからそれから)




 出張階段の選定は混迷を極めた。

 欲と性癖(フェチ)がぶつかり合い、ときには争い、またときには互いの理解を深め、そんでもって軽い殴り合いもあった。


 しかし一つも決まらず、俺たちは3枠を争う階段三國志となっていた。


「はぁ? 【ふわとろバナージ】だ? 何でその店なんだよ。アホかよ」

「んだあ、てめえの言った【転生少女】の方がおかしいだろっ、どんだけマニアックなんだよ」

「なあ、やっぱ【月姫っ子】にしようぜ。兎人だぞ?」

「おれはぁ【朝焼けニャンニャン】かなぁ……」


 議論は白熱し続ける。

 ふわっと派、ぼん派、たわわ派の三つに分かれ、そこから尻尾派、獣耳派とさらに分かれたりなどした。


 俺はそれを眺めながら、何故今回の選定を冒険者側に任されたのか、その理由をガレオスさんから聞かされていた。

 

 ガレオスさん曰く、今回の選定は貴族の思惑を遠ざけるモノ。

 もし貴族が選んだ階段であれば、その店に自分の娘や息のかかった者を紛れ込ませる。


 そして勇者だけを客として取り、上手いこと勇者の子供を得る。

 貴族が考えそうなことだ。


 しかしそんなことをされては困る。

 町に随行する女性のための配慮が、貴族の益のために利用されるわけにはいかない。それに男連中だって困る。

 だから冒険者(オレたち)に選定を任せたのだろうと言った。

 

「……でも、ガレオスさん。選定で決まった場所に強引に押し込むことはできるんじゃ?」

「ええ、まあ可能でしょうねえ。ただ、勇者さまだけが入れる店じゃなくなるんで、そこまで酷いことにはならんでしょう」


「なるほど、貴族の息が掛かった店じゃなければいいのか……」

「ええ、そういうことでさぁ。……しかしまぁ、まさかここまで揉めるとは」


 いつのまにか殴り合いが始まっていた。

 各々が推しの店の名前を叫びながら、強打な大乱闘へと発展していた。


 さすがに椎名と赤城は参加していなかったが、小山はそれに参加していた。

 勇者だと言うのに、冒険者と殴り合いを演じていた。

 一応勇者だからか、小山を狙う者は少なかったが、それでも少しはいた。


「……すげぇな、勇者の楔を撥ね返してんぞアイツら」

「ん~、これ決まりやすかねえ。多数決とか通用する雰囲気じゃねえなぁ」

 

 もう酷い有様。熱く語りながら殴り合い、ときには抱き合い、そしてまた物別れを起こして殴り合う。


 こうなっては収拾がつかない。

 誰か仕切る者がいないとどうしようもない、そんな状況と化していた。

 本来ならリーダー格が仕切るべきなのだ。


 しかしレプソルさんは埋められ、ハーティも先程埋められた。

 貧がどうとかと言う話が出たとき、彼は貧に対してフォローを入れたのだ。


 どんな思いでそれを言ったのかは分からない。

 だが速やかに簀巻きにされ、そのままレプソルさんと並ぶことになった。


 本当にどこに導火線があるのか分からない状態。

 唯一残ったリーダー格はガレオスさんだけ。しかしこの状況を楽しんでいる。

 

「ガレオスさん、どうするんです」

「どうしやすかね~」


 ホントは俺もちょっと参加したかった。 

 だが俺は一度も階段に入ったことがなく、どの店が良いかなど分からない。

 だから俺は話し合い(これ)に参加できなかった。

   

「……貴様ら、まだ決まっておらんかったのか」

「へ? ギームル?」


「全く、こんな下らない理由で行進が延期になったら末代までの恥じゃ」



 どうやら時間がかなり経過していたようで、どうなっているのかとギームルがやってきたようだ。


 そしてこの惨状を目の当たりにしたギームルが取り仕切り、出張階段の選定が進んだ。 

 結果――


 【ギルガメッシュの夜】 

 中央に店をかまえる老舗で、容姿を重視した方針の階段。 

 他には特徴として、中で働く女性には目に関連した名前が付けられている。

 ジト目ちゃん、アイちゃん、ヒトミちゃん、ふたえちゃんなど。


 【だっちゅ~のう】

 東にある大きな店。ステップレディーの人数が一番多い店。

 店の特徴は、大きさ重視の『巨』主義。

 1に大きさ、2に大きさ、34も大きさで、5に形といった、そんなスローガンを掲げている店だとか。


 【朝焼けニャンニャン】

 西の聖地にある階段で、働いているステップレディーは全員獣人系。

 猫、犬、狼、牛、兎など種族は多岐にわたり、西では絶大の人気を誇っている階段。

 当然容姿の方も、激戦区である聖地に長年君臨しているだけとあって美姫ばかりだとか。


 こうして三つの階段が決まった。


「全く、手間を掛けさせおって……」

「いや、俺は悪くないよな?」


 何故か俺を睨むギームル。

 しかし選定が遅れたのは俺の所為ではない。

 確かにこういった馬鹿騒ぎに参加できたのは楽しかったが、何故俺が呼ばれた(・・・・)のかは不明だ。


「おう、ジンナイ。貴様にお客様だ」

「ん? 俺に客って――っ!? 何でここにラティと葉月たちがいるっ! 見張りは何やってんだよ! なんのための見張りだよ!」


 俺の前に、ジト目、目が笑ってない笑顔、オドオドした伏せ目、怒りにつり上がった目が居た。


「はっ、そんなもん当然通したに決まってんだろ! この裏切り者がっ!」

「昨日俺たちは見たんだぞ! コトノハ様と一緒に歩いているところを。女神さまと二人っきりで歩くなど万死に値する」

「おうおう、噂によると馬車の中で……なんかあったみてえだな? 一緒の馬車の時点で億死に値すんぞ」

「取り敢えず死んでこい、このクソナイが」

「この、クソッタレ野郎がっ! 裏切り者には死すらヌルい制裁を」


 俺はまた失念していた。

 この異世界(イセカイ)では、呼び出しイコール罠だということを失念していた。


 俺はここに呼ばれたのだ。

 ならば当然罠なのだ。


 ヤツら嫉妬組に慈悲はない。本当に心が狭いヤツらだ。

 ヤツらがラティたちにチクった(リーク)したのだろう。


「あの、ご主人様。少々お話が」

「陽一君、ちょっとあっちに逝こっかぁ」

「陽一さん……」

「陽一、アンタ、分かってんだよね?」



 『死ね、裏切り者が』と、視線どころか罵声までも飛び交う中、俺はズルズルとドナドナされ、その後、彼女たちに超正座させられたのだった。

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字なども……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ