いなくなってしまう……?
ぎゃぼー
目があれだったので誤字が誤字って多く……
え? 普段と変わらない?
「……言葉、何でこんな場所に居るんだよ」
「陽一さん……」
言葉に群がっていた貴族連中は、木刀を肩に背負って近づいたら逃げるように散っていった。
俺の名前は知らないようだが、小さく聞こえた『ギームルの黒い刃だ』と言う言葉から、何故逃げて行ったのか分かる。
俺がそう思っていなくても、他の者からはそう見えるのだろう。
少し思い返してみると、確かにそう見えるかもしれないと妙に納得できた。
だが今は――
「三雲はどうした? 何で一人でこんな場所に居るんだよ。ここは中央だぞ? ちゃんと絶壁……じゃね、えっと壁――じゃねえや、番犬を連れて来ねえと」
「え? 壁? 番犬?」
「いや、それはいい、忘れてくれ。――で、何でこんな場所に一人で?」
みなまで言わなくても十分に通じるはず。
女性勇者がこんな場所を一人で歩いていれば、先程のようになることは十分想像出来たはず。
特に言葉は、勇者の中では一番気が弱い方だ。
ああ言った感じで囲まれたら何もできないだろうし、何度か囲まれた経験だってあるはずだ。
あまりにも迂闊な行動に、俺は少しだけ苛立ち語気を強くしてしまった。
「……ぃなくなっちゃう気がしたから」
「へ?」
「みんなと一緒に居たはずだったのに、陽一さんだけ急に居なくなったから、それで…………急に居なくなっちゃう気がしてっ。それで、それで……」
「で、それで捜しに来たと? 何だよ、俺が居なくなるはずないだろ。さっきのはちょっと用事があったから離れただけで、別に居なくなったりとかしねえよ」
どうやら言葉は、こっそり離れた俺を追って来たようだった。
こっそり離れたのには理由がある。
もし冒険者たちが居る離れに向かうと言えば、他のヤツはともかく早乙女はついて来ると言い出しただろう。
アイツはポンコツだし邪魔だし早乙女だし、そして何より、女性勇者がフラフラと外に出れば、先程のような貴族が群がってくる。
だから気付かれぬように離れたのだが、どうやらそれが裏目に出たようだ。
早乙女ではなく言葉が出て来てしまった。
「……ちょっと離れに用事があっただけなのに」
「でも……でも、何故か陽一さんが居なくなっちゃう気がしたんです。最近、何か思い詰めていることが増えたから……」
『まるで、自分が犠牲になれば……みたいに見えて……』と、言葉が小さくそう呟いた。
俺は無意識に顔を手で覆っていた。
別に図星を突かれた訳ではないが、何故か顔を覆い隠したかった。
突如グルグルと思考が回る。
俺に自己犠牲の精神というモノはない。
自分が犠牲になって大切な人を庇ったとしても、その後、その大切な人を守ることができない。
俺の信念は守り続けるだ。
守るではなく、守り続ける。
魔石に精神を宿した人たちだってそうだった。
精神を宿すことでこの異世界を守り続けていた。
そしてその使命の先を俺は引き受けた。
だから、自己犠牲で守りたいモノを守る気などさらさらもない。
俺は誰かを庇うための自己犠牲を否定する。そんなものは自己満足だ。残された方は堪ったものではない。
困難には全力で足掻くべきだ。
決して諦めず何とかしようとするべきだ。
結果、それが力及ばすとも……
だが、言葉の前だけでは、それは言えない。
あのとき、言葉が身を挺してくれなければ俺は殺されていた。
そして悲劇はもっと大きくなっていた。
――があああああああああああっ!
あーーーークソっ、頭の中がグルグルぐっちゃぐちゃだっ、
っっっったく、あーーーーーーーーーっ、もうっ
「俺は絶対に居なくならねえっ、だから安心しろ。絶っ対に居なくならねえ」
半ば喚くように吼えた。
どうやらは俺は、弱々しく上目遣いをする言葉には弱いらしい。
「……本当にですか?」
「絶対に居なくならねえ」
「本当に……?」
「ああ、本当にだ」
「……約束、してくれますか?」
「~~~~~~~~っ」
言葉はそう言ってちんまりと小指を見せてきた。
お腹よりも下の位置に、本当に申し訳なさそうに小指を差し出してくる。
「~~っ、これでいいんだろっ」
「……はい」
『ありがとうございます』と、嬉しそうに言う言葉。
俺はそっぽを向きながら指切りげんまんをした。
やんわりとした柔らかさが、小指の背を這う感触にドギマギとする。
「じゃあ、俺は行くか…………っ」
「……」
本人はそう訴えているつもりはないのかもしれないが、『行くのですか?』と、そんな縋るような目を言葉はしていた。
もう色々と調子が狂う。
俺はガシガシと頭を掻いた後、大きく息を吐いてから――
「ん、一緒に戻ろう。ってか、送っていく。また変なのに絡まれたらアレだからな」
「はい、ありがとうございます、陽一さん」
俺は勇者用に用意された区画へと戻ることにした。
本当は離れに行くつもりだった。
だが今だけは、どうしてもそれを選択することができなかった。
「………………あ、ついでにこれを握ってくれ」
「え、陽一さんの木刀をですか?」
「ああ、ちょっとついでにな」
「はい」
何のついでなのか自分でもわからないのに、言葉は素直に木刀を握ってくれた。
そして握らせられる理由も訊ねてこない。
あまりの都合の良さに何ともいえない罪悪感に苛まれるが、ある意味これは言葉らしさとも思えた。
俺と言葉は無言で廊下を歩く。
俯き気味の彼女からは、いま何を考えているのか読み取ることができない。
( いや、仮に見えたとしても分からねえか…… )
こうして俺は、今日は離れに向かわず、用意された部屋へと向かったのだった。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字なども……