ふぃんがあああああっ
め、目が~
ちょっと良くなりました。
ただ、連休を完全に寝て過ごしました……
寝過ぎで腰が痛い。
オラトリオからの説明を聞いたあと、勇者たちはいくつか質問をした。
まず、これから行く町にどれくらいの設備が整っているか。
お風呂だったりトイレだったりと、水回りに関する質問が女性陣から上がった。
【宝箱】持ちの勇者といえど、それらを収納して持ち込むのは困難なのだ。
橘なら余裕で持ち込めるが、ヤツは現在同性から距離を取られている状態。
どうやら例の一件が知れ渡ったようだ。
少々下衆な勘ぐりだが、もしかすると今まで何かあったのかもしれない。
そしてオラトリオからの返答は、勇者用の建物を二棟建てただった。
しかも一流の宿屋に負けない作りだとか。
さらに話を聞くと、予定されている人員の半数以上は非戦闘員。
勇者や戦闘要員の世話役などが半数以上で、向こうに行っても生活に困ることはないそうだ。
そして言葉を色々と選んで言っていたが、どうやら出張”階段”なるモノもあるそうだ。
最長で一ヶ月の間留まり続けるのだから、働く女性の安全確保のためにもどうしても必要なのだとか。
下手をすると、女性陣の勇者にまで被害が出てしまう危険性もある。
女性陣は苦笑いや眉を顰めたが、小山は大きく頷き、オラトリオの話に大同意した。
その後も質問は続いた。
上杉からは、町に入った後ノトスに戻れるかと訊ねた。
どうやら生まれた娘に会いたいようだ。
しかしオラトリオからの返答は、気晴らしで外へと出る程度なら良いが、町から大きく離れるのは控えて欲しいとのことだった。
しかも、町の外に出るのもできるなら控えて欲しいと。
本人はやんわりと言っているつもりなのかもしれないが、『控えて欲しい』という言葉には、絶対に駄目と言う意思が込められていた。
文字に起こしたらきっとルビが振ってあったであろう。
『絶対に駄目』と……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間にして約2時間の説明が終わった。
後半の方に説明された出陣式のときには、また八十神が暴発しそうになっていた。
あのパレードは裏で”死の行進”と呼ばれている。
絶対とは言わないが、勇者の中から誰かが魔王になる。
そして魔王となった者は討伐される。
だから”死の行進”だと、千歳を超える老エルフがそう言っていた。
そして貴族たちはそのことを隠している。
もしそれをエルフから聞いていると明かせば、いま生きているエルフたちがどうなるか分かったものではない。
少なくとも百歳を超えるエルフたちは、無用な語り手として排除されるだろう。
俺は八十神に黙っていろと再度釘を刺した。
エルフたちの命が掛かっているのだ。仮に暴発しても良いように、ヤツの横に行って木刀に手を掛けた。
何かあればはっ倒すつもりだった。
俺の脅しが効いたのか、八十神が暴発することはなかった。
そして説明が終わった後、用意された部屋に戻るようにと促される。
勇者に群がろうとする者たちは沢山いる。
何か仕出かすとは思わないが、良くないことを企む者がいるかもしれない。
だから貴族たちが立ち入れない区画を用意したので、そこに戻ってゆっくりして欲しいと言われた。
要は面倒だから出てくるなということだ。
勇者たちが次に公の場に出るのは出陣式のとき。
それまで大人しくしておけと言うことだろう。
第一印象は裏切りそうな感じのオラトリオだが、淡々と仕事をこなす姿は、さすがはギームルに後を任された男だった。
オラトリオは勇者が相手だろうと怖じ気づくことはなかった。
俺と勇者たちは特別な区画へと向かう。
昔とは違い、俺も勇者と同じ待遇で迎えられた。
案内役に導かれながら、ゾロゾロと城内の廊下を歩く――が、俺はスッと横道に逸れた。
勇者たちと同じ扱いなのは光栄なことだが、俺が戻るべき所は別の場所。
ラティが居る、冒険者たちにあてがわれた離れへと向かう。
「ん?」
少し進むと、ちょいちょいと手招きする白い手が視界の隅に映った。
俺がそれに気が付くと、その手招きは速度を増す。
「……あれって」
手招きしていたのは銀髪オッドアイ双子の片割れ。
その片割れは、早う来いと口パクをして俺を急かし始めた。
あれはたぶん双子の喧しい方だろう。どうやら俺に用があり、こっちに来いと言っているようだ。
その喧しい方の後ろでは、大人しめの方が心配そうな顔をしていた。
ふむりと双子を見る。
この異世界の常識では、呼び出しイコール罠だ。
細腕の双子に何かできるとは思えないが、道具や付加魔法品を使って何かできるかもしれない。
見え見えの罠に踏み込むほど馬鹿ではないし増長もしていない。
そして何より、ラティが側に居ないというのについて行くほど愚かではない。
俺は何も見なかったことにして踵を返した。
「なんでっ! なんで気が付いたのに無視するのよ! ちょっとそこの黒い人! 貴方よ、貴方! また逃げないでよ」
何か喚いているが無視だ。止まる理由などはない。
俺は止まることなく無視して歩き続ける。
「そこの魔王候補――っ!?」
「喋るな」
【加速】を使って一気に距離を詰め、それ以上喋らせぬように顔を鷲掴みした。
普段からサリオの丸顔を鷲掴みしているのだ。サリオよりも小さく細い小顔など造作も無い。俺はガッチリと掴み捕獲する。
「――っ!!!!!???」
「わっ!? ミニムを離――ッ!!!!!」
手は二本あるのだ。
もう片方の手を使って残った片割れを鷲掴む。
ついでに軽く持ち上げて双子をつま先立ちにさせる。
「――――っ!!!!!
「――っ!――!!!」
ギブギブと俺の手を叩く双子。
少しだけ力を緩め話せる状態にしてやる。
「おい、俺に何の用だ。返答次第では埋めるぞ」
「待って、ちょっと手を外してよ」
「埋めるって何ですか! えっ? 埋める? ボクたち埋められちゃうの!?」
どうやら俺が望む返答ではなかった。
俺は再び腕に力を込める。
「「――――っ!!!!!!」」
口が塞がれている双子は、ビッタンビッタンと足掻いた。
持ち上げられつま先立ち状態なのでほとんど抵抗できない状態だ。
失神させない絶妙な力加減で絞める。これもサリオを普段から掴んでいるからできる技だ。落ちないギリギリのラインを攻め続けた。
「……いいか? もう一度聞くぞ」
力を緩め再度問う。
「俺に何の用だ」
「もう痛いのは止めてぇ……」
「は、話しますっ、だから待ってくださいっ、力を入れないでっ!」
再び力を込めようとした瞬間、それを察した大人しい方が喋ると懇願してきた。
「……あの、貴方は魔王では――っ! いえ、違うんですっ! 勇者の方が集まったら、空に渦巻いていた魔力が安定したというか、前よりも集中した気がしたので……」
「…………続きを話せ」
俺は、顔を掴んだままで話の続きを訊いた。
どうやら双子が言うには、勇者が中央に集まると魔力の渦が安定したので、魔王候補が来たと思ったそうだ。
そしてその勇者たちの中に俺がいたので、俺が魔王候補だと確信して訊ねに来た。
ただ、こうやってコッソリと来た理由は、オラトリオに釘を刺されていたから。
勝手に勇者たちと接触しないようにと言われていたらしい。
しかし我慢できず、こうしてやってきてしまったそうだ。
「――で、もし俺が魔王候補だったらどうすんだ?」
「え……?」
「だから言ったじゃんミニム。ボクたちにはどうしようもないって……」
「お前、何も考えてなかったのかよ……」
どうやら今回の行動は、片方が衝動的に動いただけのようだ。
目の前に知りたいことがあった、だから行動を起こした、そんなところだろう。
「まあ、いいや。貴重な情報が知れた」
「待ってっ、まだ話は終わってないわよ」
「ミニム、もう訊きたいことないよね? 何を訊きたいって言うんだよ」
「え……それは……」
「だろ? 本人は魔王候補じゃないって否定しているんだし、仮にそうだったとしてもどうしようもないだろ?」
「うぅ……」
「それにもう痛いのは嫌だよ。メキメキなってたからね」
先程のことを思い出したのか、サッと頭を庇う喧しい方。
恨みがましい目で俺を見てくるが、これ以上何かを言ってくる気配はなかった。
俺はそのまま無言で立ち去る。
コイツらは忘れているようだが、あのときは木刀で払ったのだ。
それをうっかり思い出されては都合が悪いので、俺は足早に立ち去った。
「――くそっ。いや、俺が一番の候補なんだから当たり前だ……」
ユズールさんが宿っていた魔石が運び込まれたのは三週間前。
双子の話によると、そのときは魔力の渦に変化はなかったことになる。
しかし俺たちが中央に集まったら渦に変化が起きた。
このことから導き出される答えは……
「ぐっ、俺だっ、俺が居るからそうなったんだ。このまま木刀を持ち続ける限り変わるはずだ……。きっとあの魔石が身代わりに……ん? この声は」
脳裏に過ぎった不安を振り払いながら歩いていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。しかしその声は困っている様子。
「……まさか」
確信的な嫌な予感がしたので、俺はその声がする方へと急いだ。
そしてそこに広がっていた光景は、予想通りの光景だった。
勇者言葉が、複数の貴族らしき男たちに囲まれていたのだった。
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あと、誤字脱字なども教えて頂けましたら幸いです。