ちゅう、おう
飛ばしますっ、
すいません、返信が滞り……
「やっと戻って来て頂けましたか」
「…………はい」
睨むほど強い眼光ではないが、呆れ混じりな目を向けてくるオラトリオ。
俺はコイツからの、『戻って来い』という要請を蹴っていたのだから、こういう態度を取られても仕方がないだろう。
「ギームル様にお願いして正解だったようですね」
「……」
どうやらオラトリオは、呼んでも中央に戻ってこない俺たちのために、ノトスに居るギームルを呼んだようだ。
確かにギームルでなければ素直に戻らなかっただろう。
俺は貴族連中を信用していない。もちろん全員がそうとは言わないが、ヤツらは魔王討伐よりも、この状況を利用することしか考えていない。
魔王を倒すことができる存在、勇者をどう利用するしか考えていないのだ。
俺は欲にまみれたそういうヤツらを嫌と言うほど見てきた。
そしてつい最近もそれを見せつけられた。だから――
「貴族が悪い……」
俺がそっぽを向いてそう呟いてしまったのは、仕方がないことだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
城に入ったあと俺たちは、とても広い客室へと案内された。
途中、何人もの貴族らしき連中が、指でもくわえるような視線を飛ばしてきた。だが同行しているのがギームルだったためか、誰一人寄って来なかった。
中央から去ったとはいえ、どうやらギームルの威光はいまだ衰えていないようだ。
「さて、簡潔にご説明します。まずはこの二人をご紹介します。――入れ」
オラトリオはそう言ってから、銀髪オッドアイの双子を紹介した。
紹介された双子は、俺の顔を見て一瞬強張ったが、自分たちの使命や立場を思い出したのか、突っ掛かって来ることなく話を始めた。
「――では、三日後に、あの町に行けと? 北原が居た、あの町に……」
「はい、ヤソガミ様。あの町です。公にはできない廃町のような場所なので、名前は……」
「またあの場所に……」
「ん? みんな知ってんのか? その町を」
「うん……」
あまり良い思い出がないためか、訊ねてきた上杉に、葉月と言葉は眉を顰めながら頷いた。
双子から魔王発生が早まったことの説明を受けたあと、オラトリオからは今後の予定を聞かされた。
まず魔王発生の時期が早まった理由だが。明確には不明らしい。
ただ、早まった原因と思える現象は多々あると。
一つは東の独立した魔力の渦。
精神の宿った魔石を椎名が斬ったことで変調をきたし、東に独立した魔力の渦ができた。そしてその影響からか、神木が魔王化してユグトレントになった。
いままで一度もなかったイレギュラーだ。
きっとあれも魔王発生の時期が早まった要因の一つだろうと言った。
次に精神の宿った魔石の回収。
精神が宿った要石のような魔石は、魔王の発生を安定させるための物だ。
それを俺たちが全て回収した。だから魔王発生に影響をきたしたとしてもおかしくはないだろうとのこと。
もしかするとだが、北原がやらかした勇者召喚も影響しているかもしれない。
天を突くような光の柱が立ち昇ったりと、あれはなかなかの儀式だった。
しかも何回か失敗した様子。何かしらの影響があってもおかしくはない。
そう考えると今代はイレギュラーだらけだ。
魔王発生の時期が早まってもおかしくはないのだろう。
そして俺たちが滞在する予定の町のこと。
あの町には物資が大量に運び込まれており、一ヶ月程度なら千人ぐらいが寝泊りしても大丈夫なようになっているのだとか。
さすがに千人も向かう予定はないが、それでも勇者を含め、五百人近い人が向かう予定。
北原騒動のあと、あの要塞のような町には人や物資を送り、勇者が快適に過ごせるようにした。
煩わしい貴族は来れないので、あの場所で待機、そして魔王が発生したら迅速に動いて欲しいと。
その話を聞いているとき、八十神が苦々しい顔をして俺を見てきた。
非常に何かを言いたげな顔。
俺はそんな八十神に、『黙れ』と目で合図を送った。
八十神や勇者たちには、あの要塞のような町のことは話していた。
勇者たちを一か所に集め、魔王が出現したら迅速に向かえるようにするのは建前で、あの町の真の目的は、魔王化した者を町に閉じ込め逃がさないことだと。
あの町に一度入ったことがあるから分かる。
建物を密集させることで壁を作り、簡単には逃げられないようになっていた。
俺が上手く逃げられたのは、運が良かったことと、俺を逃がしてはならないと指示されていなかったから。
もし適切に人員を配置されていたら逃げ切れなかっただろう。
そして露骨に壁などを作らないのは、中に入った者に不信感を抱かせないためのカモフラージュだろうと睨んでいる。
はっきり言って反吐が出る。
だがムカつくほど合理的であり、そして確実だ。
勇者が各地で散った状態で魔王化されたらたまったものではない。
中央の方が少し開けていたのは、そこで戦うことを想定してのことだろう。
だから俺は、この反吐が出るような案を飲んだ。
しかし一方、八十神は受け入れることはできないだろう。
八十神が何も知らなければ良かったが、ヤツは中途半端に知ってしまった。
貴族を回って情報を掻き集めてしまった。
下手に伏せたままではヤツは間違いなく暴発する。
こういったときに一番厄介なのは、中途半端に情報を得た熱血漢だ。
中途半端な情報で状況を判断し、己が正義に沿って行動を起こす。
行動を起こすこと自体は悪いことではないが、無駄に熱血漢のヤツは大体が碌なことをしない。
何故それをする必要があるのか、何故その手段を選ぶのだとか、そういったことを一切考えず感情のままに動き、そして拗れる。
咄嗟の事態に対して感情的になるのは仕方ない。
感情とはそういうモノであり、普段から訓練でもしていなければ無理だ。
だから俺は、八十神が馬鹿なことをしないように、事前にそれらを明かしほぼ全てを話していた。
感情的になるな、納得しろとは言わないが、理解はしろと釘を刺しておいた。
いくら馬鹿でも、事前に説明しておけば暴発することはないだろう。
もし暴発するようなら、木刀で殴ると重ねて釘を刺しておいた。
こんなところで分断されては堪らない。
そしてできることなら……
ヤツには魔王になってもらいたい。
俺の、俺の大事な人たちを守るために。
ヤツに魔王になってもらいたい。
自分から見ても人でなしの発想だ。
恐ろしいほど身勝手な考えだ。
きっとバチが当たるだろう。酷く後悔するかもしれない。
それだけ酷いことをしようとしているし、それを実行している。
この事は絶対に明かせない。
葉月にも、言葉にも、早乙女にも……
この罪を共有するのはラティだけ。
彼女となら地獄に落ちるのもありかもしれないと思っている。
当然、落とすつもりなどさらさら微塵も全くない。
俺は絶対に守ると決めたのだ。
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あと、誤字脱字なども……