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馬っ車ーー!! で移動

ちょっと短いですー

「なあ、葉月。ちょっと俺の世界樹の木刀を握ってもらえるか?」

「うん? またこれを?」


 不思議そうに首を傾げる葉月。

 中央へと向かう馬車の中、俺は丁度良いと木刀を葉月に握らせる。

 魔王発生の時期が近づいているのだ、少しでも危険性を下げるために世界樹の木刀を触れさせる必要があった。


「う~ん、やっぱ何も感じないかなぁ」

「……そうか」


 木刀を握らせる名目は、世界樹の木刀からの鼓動を感じることができるかという曖昧なもの。

 何となく脈打つ感じがするので、他の人ならどうだ? と言った感じだ。

 かなり苦しい言い訳だが、木刀を握らせる本当の目的を話す訳にはいかない。


「陽一、なんかやらしい。俺の木刀を握れって……。おっさんかよ」

「――おいっ、ふざけんな早乙女! 木刀を隠語っぽく言うんじゃねえ! 俺の世界樹の木刀だっ、俺の木刀じゃねえよ! とんでもねえことになったらどーすんだ」


「ふん、あんまり変わらないじゃないのよ」


 フンスと顔を横に向ける早乙女と、あははと苦笑いの葉月。

 この馬車にはポンコツの勇者早乙女も乗り込んでいた。

 横ではラティが、『眠らせますか?』と目で問うてくる。

 

 一瞬悩むが、葉月の次は早乙女の予定。

 同席しているのがラティだけならともかく、この馬車には葉月も乗っている。

 眠らせてから木刀を握らせるというのは、あまり良い絵柄ではない。間違いなく誤解されるし、絶対に誤解される。

 眠らせてから木刀を握らせるなどは、字面的にも非常によろしくない。


 俺は静かに首を横に振った。


 

        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「ん~~~? やっぱなんも感じないんだけど」

「……そうか」


 そう言って木刀を探るように触れる早乙女。

 俺は早乙女にも予定通り木刀を握らせていた。


「ふふ~ん」

「何で楽しそうなんだよ」


「ふん、別に楽しくなんてない」

「……さいですか」


 さっきはとんでもないことを言っていたのに、いざ自分に木刀が差し出されると嬉しそうにしていた。

 生粋な構ってちゃん系というべきか、コイツは本当に色々とポンコツだ。


「やっぱ、ただの木だよな? 陽一、これが本当に生きてんのか?」

「一応、世界樹だからな。凄い木だぞ? ただの木じゃねえからな」


「ふ~ん。でも、木だよね?」


 材質を確かめるように触れ続ける早乙女。

 その手つきは少々あれで、色々とアレだ。できれば止めて頂きたいところ。

 端的に言えばエロい。


 だが本人は全く無自覚なのか、むむむっと言った顔で木刀を見ている。

 葉月はまた苦笑いを浮かべ、ラティは少し俯いてしまった。


「陽一、ちょっと持ち難いから渡してよ。ちゃんと持ってみたい」

「……あのな、持てないだろ。俺以外が持つとすげえ重くなんだぞ」


 世界樹の木刀は、俺以外完全に持てなくなっていた。

 前は凄く重い程度だったが、それでも2人がかりなら何とか持ち上がった。

 だが今は、本当に俺以外誰も持てなくなっていた。


 俺の木刀に興味を持った上杉が、ちょっと貸してくれと言ってきた。

 当然、貸すつもりはなかった。世界樹の木刀は俺を魔王化から守ってくれる物であり、この異世界に来てからずっと一緒にいる存在だ。


 簡単に貸せる訳がない。

 

 しかしヤツは、食事中に立てかけてあった木刀に手を伸ばした。

 そして手のひらを複雑骨折した。


 重い物を持ったコントのように手を落とし、そのまま木刀に手を押し潰されたのだ。世界樹の木刀は、骨を押し砕くほどの重さになっていた。

 

 そしてその事件以降、世界樹の木刀に手を伸ばす者はいなくなった。

 

 実は上杉の動きに気が付いていた。

 俺はヤツが木刀に触れるのを止めることができたのだ。

 だが敢えて見逃した。


 八十神が世界樹の木刀に興味を持ち始めており、何か仕出かす前に牽制した形だ。この木刀は俺以外には扱えないと…… 


 これでヤツがこの木刀に触れようとはしないはず。

 八十神は魔王候補だ。世界樹の木刀には一瞬も触れて欲しくなかった。


「――ほら、そろそろもういいだろ」

「触ってみてくれって言ったのはそっちだろ陽一。なんだよ、頼んできてその態度は。泊りに来いって偉そうに言うウザったい貴族みてえだな」


「……あんな連中と一緒にすんな」


 俺たちが中央へ戻ると知った貴族たちは酷かった。

 さすがに口に出して恨み節を言うヤツはいなかったが、『せっかく用意したのに帰るのかよ』という態度がありありと出ていた。


 俺としては、お前らが勝手にやったんだろうがと言いたいところ。だが言っても仕方がないことなので控えた。もうウザったいので……


「あ~~ウザったいって言えば、あのクソガミ。アンタ、アイツと何かあったの? アンタら何か変だよね?」

「――ッ!」

「早乙女……」


 突然矛先を向けられた葉月。

 彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻した。

 

「……何でそんなことを聞くのかなぁ?」


 誰もが察して訊ねなかった案件だ。

 だからコイツも察して聞かなかったのだろうと思っていたが、どうやら違ったようだ。よく考えたらコイツは、サリオ並の空気の読めなさだった。


 葉月はとても良い笑顔だが、何ともいえない凄みを纏わせる。

 その謎のプレッシャーに俺だけでなくラティも顎を引いて構える中、さすがはポンコツ様というべきか、全く気にせず追撃をかましてきた。


「ん~~、何となく気になったんだよね。ほら、橘だっけ? アイツも何か変だったし、ひょっとしてアンタ、クソガミに告白でもされた?」

「うん、されたよ」


 早乙女のからかいとも言える言葉に、葉月が即座に答えた。

 その切り返しには、俺やラティだけでなく、それを問うた早乙女までも固まってしまう。

 

「へ、へえ~、そうなんだ。…………で、どうなったの?」

「うん、もちろん断ったよ」


 簡潔に淡々と答える葉月。

 微塵も言葉を濁すことはなく、本当にさらりと言ってのけた。

 絶対に勘違いや誤解をされないようにと、そんな意思も感じる。


「うっ、そ、そうなんだ…………何で断ったの?」

「……」

 

 気圧されつつも、負けじと踏み込んでいく早乙女。

 確かにその辺りは少し気になるが、さすがに無神経過ぎるだろうと思う。

 今度は少しだけ逡巡する葉月。だが――


「ねえ、京子ちゃん。その理由を聞きたい? 本当にその理由を聞きたい? 私が八十神君の告白を断った理由を」


 残酷な最後通知を突きつけるような、そんな空気を醸し出しながら葉月が早乙女に迫った。


 何となく、非常に何となく、こちらに飛び火して来そうな気配。

 もう凄い来そうな気配がビンビン。できることなら馬車から飛び降りたい。

 俺の勘が、今すぐ逃げ出すべきだと警鐘をガンガン鳴らしてくる。


「……あの、そろそろ中央に着くようですよ」

「……」

「……」

「……そう、じゃあ、降りる準備をするか」


  

 どうやら俺は時間に救われた。

 城下町への正門が近づき、取り敢えずこの話はお開きとなった。



読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なども……

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