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ギームルが来た

更新が途絶えており申し訳ないです。

あまりにも更新がなかったため、母が何かあったのではと連絡をしてくる程でした。

「ジンナイ、中央に戻ってもらうぞ」

「……ギームル」


 魔石魔物狩りに向かうため外に出ると、そこにはジジイが居た。




 地下迷宮ダンジョン攻略から約一ヶ月が経過していた。

 各地に散っていた勇者たちもほぼ集結して、いまこのルリガミンの町に居ないのは、中央に幽閉されている3人と、何処にいるのか皆目見当がつかない秋音ハルだけ。


 そして集結した勇者たちは、来たる魔王との決戦に向けてレベル上げに勤しみ、全員がレベル120を超えた。

 これは一番最初に言われていたハードルを超えることを意味する。


 あとはさらなるレベルアップと、対魔王用のWS(ウエポンスキル)の開発。

 

 ユグトレント戦のときに苦戦した、魔王の特性とも言うべき黒い靄。

 あれは範囲内の者の動きを阻害し、WSや魔法の威力を減衰させる効果があった。

 

 だから放出系に頼るのは危険。威力が散ってしまう多段系も駄目。一撃に特化した強力な近接WSを求められた。


 この新しいWSの開発には、伊吹と椎名が成功した。

 ”でぇぇぇい”の派生系とも言える、”とりゃああ”と”やあああ”。

 ”とりゃああ”は上段から振り下ろし、”やあああ”は下段からの振り上げのWS。

 

 要は、横薙ぎの”でぇぇぇい”を縦軸で振るうWSだ。

 一見同じようなWSに見えるのだが、同じであって同じではない。

 基本的にWSは、同じWS(モノ)を連続で放つことは難しいらしい。種類によって多少の差はあるが、リキャストタイムのようなモノが存在するのだとか。


 だがこの”とりゃああ”と”やあああ”は別枠なので、剣の遠心力を上手く利用して、『でぇぇぇい』『とりゃああ』『やあああ』と、強力な一撃必殺系のWSを3連発することができるようになったのだ。


 次に椎名の方は、”グラットンツー”と言う、素グラットンの2倍の威力を持つWSを編み出した。


 さすがは【剣技】持ち勇者というべきか、二人はさらっとWSを編み出した。

 

 しかしこれに焦りを覚えたのが上杉。

 ヤツは新WSを編み出すために何度も無茶をして、何度もヤム○ャをした。

 四つ腕のイワオトコ亜種に正面から挑み、葉月と言葉(ことのは)が居なかったらマジでやばい大怪我をした。


 まあアイツは元から馬鹿なので、それはそれで仕方ないのだが、上杉に触発される形で八十神がおかしくなった。


 しかも八十神の方が深刻だった。上手く行かず苛立つことが増えた。

 片手剣を振り回すが、そう都合良く新WSを編み出すことはできず不貞腐れる。

  

 そして苦手意識の方は、一ヶ月もすれば振り下ろしによるトラウマは無くなるだろうと思っていたのだが、心的外傷はそう簡単に癒えるものではなかったようだ。


 何とか踏ん張って盾役をこなしていたのだが、16本脚蜘蛛との戦闘のときに、振り下ろしを防ぐために盾を掲げて、ガラ空きになった左脇腹を突かれた。


 左脇腹は木刀によって効果が消失している所。

 完全に不意を突かれた八十神は、血反吐を吐いてのたうち回った。

 八十神はチート鎧に頼り切っていたためか、どうやら被弾したときの衝撃の逃がし方を学んでいなかったようだ。


 傷は回復魔法によって癒やされたが、八十神は痛みへのトラウマに再び囚われた。

 

 左脇を庇いながらの盾役。

 その姿はあまり格好の良いものではなく、仕事をきちんとこなせないのであれば盾役を降りろと思っていた。

 だが八十神は盾役に執着し、無様な姿を晒しながらも、諦めるものかと己を奮い立たせていた。


 八十神は何度も挫けそうになっていたが、そのたびに葉月の方を見て歯を食い縛っていた。

 椎名や上杉、小山が盾役を替わると言ったが、ヤツはそれを頑なに拒否。葉月に見せつけるかのように立ち上がっていた。


 もうほとんどのヤツが察していた。

 何があったのか分からないが、葉月と八十神の間に何かあったのだろうということは分かった。


 そして葉月にしては珍しく、八十神を励ますようなことはしなかった。

 少し言い方は悪いが、どこか突き放すような印象すらあった。


 ラティ曰く、八十神は葉月に認めてもらおうとしているのだとか。だから俺に対抗心を持っているのだろうと。

 俺はそれを聞いて、何と言ったら良いのか分からず黙り込んだ。


 そんな微妙な空気を(つつ)くような者はおらず、レベル上げは順調だが、八十神だけが躓いた状態だった。


 しかし俺はさらなるレベルアップ(価値上げ)を求め、下層エリアまで降りて狩りをしようとかと考えていたとき――



「ジンナイ。魔王発生の時期が早まるかもしれん。中央へ召集じゃ」


 ジジイ(ギームル)がルリガミンの町にやって来た。

 しかも割と爆弾発言付き。

 いや、実際には少し聞いていた。魔王発生の時期が早まる予兆があるとの報告は受けていた。

 だから中央へと戻り、今後に向けて体勢を整えて欲しいという話は来ていた。

 

 しかし俺たちはそれを無視していた。 

 厳密に言うと、その報告を全く信用していなかったのだ。


 当然、信用しなかったのには訳がある。

 俺はユズールさんが宿っていた魔石を中央へと届けに行ったとき、早乙女が勝手について来たのだが、久しぶりに訪れた勇者に城の者たちは浮かれ、執拗に泊まっていけと言ってきたのだ。


 丁度訪れていた貴族の連中も同じこと言い、中には自分の別荘に来てはどうかと言ってくる者までもいた。


 その申し出は下心満載。

 俺たちはその申し出を突っぱねてルリガミンの町へと戻った。

 だが貴族連中は諦めなかった。エウロス(東側)の貴族が、ルリガミンの町で二番目に大きい宿屋を買い取った。


 ライト家とハルイシ家が、勇者たちを取り込むために動いたのだ。

 突貫作業で宿を豪奢に改修して、言葉(ことのは)と伊吹に是非泊まって欲しいと言ってきた。


 そのなり振り構わない露骨さには全員がドン引き。

 宿泊費はタダで構わないと言ってきたが、どう考えても『タダより高いモノはない』という案件。


 言葉(ことのは)と伊吹に声を掛けてきたこと、そしてエウロス側の者。

 もうイヤな予感しかしない。当然彼女たちはその申し出を断った。

 

 そしてその後も似たようなことが続いたので、俺たちは中央や貴族からの話に強い不信感を抱いた。


 そんな中、魔王発生の時期が早まったとの連絡が来たのだ。

 俺たちはどうせ勇者たちを呼ぶための方便だろうと決めつけた。


 いまの貴族たちはそれぐらいのことは平気でやる。そう思っていた。

 これも言い訳になるが、そう思ってしまうほど酷かったのだ。

 

 中には何をとち狂ったのか、葉月に求婚し出すヤツまでもいた。

 よく分からんポエムを読み上げ、片膝をついて葉月に右手を差し出していた。

 当然、陣内組と八十神によって排除された。

 

 そのときの葉月の疲れた顔には少し気になるモノがあった。

 全部把握している訳ではないので、もしかすると知らない所でも同じようなことがあったのかもしれない。


 魔王発生の直前、勇者たちが一同に集結している。

 この機会を逃す訳にはいかないと、本当にヤツらは鬱陶しい。


「はあ……。あの話はマジだったのか……」

「全く」


 ギームルが呆れたように言った。

 きっと俺たちと貴族連中、両方に言った言葉だろう。


「良いな、今日中に来るのじゃぞ」

「……分かった。………………なあ、何で俺に言ってきたんだ? 確かに俺はノトス所属だから……だけど。他の勇者たちはどうすんだ? ギームルがこの後言うのか?」


「ふん、何を言っておるか。お前が中央へ来ればハヅキ様、コトノハ様、サオトメ様も動くであろう。そうなれば他の勇者様も動く」

「…………」


 買い被りすぎだろうと思うが、実際にそうかもしれないと思えた。

 

「良いな、時間が押しておる。来るのじゃぞ」

「ああ、わかった……――っ!?」


 ギームルは用件を告げると帰って行った。

 そしてギームルが連れてきた従者らしき者の中には、秋音ハルが交ざっていたのだった。



読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。

あと、誤字脱字なども……

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