来ちゃった
遅れてすいません~
ちょっと激務+頭痛でしたー
八十神を交えての魔石魔物狩りを始めてから五日が経過した。
特に大きな問題もなく、上杉も狩りに参加して本当に順調にいった。
ハリゼオイの亜種、オーバーエッジだけは危険だが、それ以外は囲んで袋叩きにすれば簡単に倒すことができた。
ただ、簡単に倒せると言っても、それはレベル100越えの冒険者で囲んでいるから。あれが普通の冒険者ならばまず無理だろう。
最弱である芋虫型の魔石魔物でも、亜種となれば十分に手強くなる。
身体の表面に岩のようなモノを纏い、それを弾けさせることで攻撃を防ぎ、ときにはそれを使って反撃までしてきた。
迂闊に近づいた上杉がそれに巻き込まれ、そこそこ大きな怪我をした。
そのときの吹き飛ばされた上杉の姿は、まるで某ヤ○チャのようだった。
放出系は趣味じゃないからと、不用意に近寄ったのが失敗だったようだ。
そんな失敗を踏まえて、芋虫型は貫通力の高いWSで貫くことになった。
芋虫型が相手のときは、三雲と早乙女の出番。
貫通特化のWSサイスラを放ち、装甲を爆ぜさせようが強引に貫いた。
そんな風に、亜種用の対策を作り上げて魔石魔物狩りは進んでいった。
そして――
「そろそろ行くか……」
俺は宿の部屋の中で独りつぶやく。
今日の狩りは終わり、本来なら日課とかモフモフをしたいところだが、ラティさんは葉月たちに連れて行かれドナドナ。
だから今日は、独り寂しく横になっていた。
魔王発生まで三ヶ月を切っている。
他の勇者たちが来る前に世界樹の切株へと向かい、そこで初代勇者とコンタクトを取りたい。初代が言っていた”力”は全て集め終えたのだ。
後は俺の非童貞を変えたときのように、集めた”力”を使ってステータスを書き換える。
八十神の申し出で魔石魔物狩りをしていたが、狩りは問題なく進んでいる。
もう俺がいなくても大丈夫だろう。このままレベル上げを続けて価値を高めてもらいたい。
憑き物が落ちたような勇者八十神。
魔石魔物狩りで音を上げるか、自身の扱いに憤慨すると思っていたのだが、ヤツは真面目に魔石魔物狩りを続けている。
「……克服するつもりなんだろうな」
八十神は率先して盾役を買って出ていた。
振り下ろしに対してまだ動きは固いが、以前よりかはマシになっている。あと一ヶ月もすれば克服できるだろう。
そして率先して盾役を行っているためか、アライアンスの連中からの評価も少しずつだが変わってきている。
少なくとも露骨に嫌な顔をするヤツはいなくなった。
いかにも冒険者らしいと言うべきか、それともさっぱりし過ぎだと言うべきか、冒険者たちは、その者の働き次第ですぐに評価を変える。
思えばラティのときもそうだった。
活躍する彼女に対して冒険者たちは、狼人だからと批難する者は少なかった。
何か仕出かせばすぐに手のひらを返すが、そうでない場合は好意的だ。
取り敢えずは、葉月や言葉にちょっかいを出さなければ大丈夫だろう。
さっぱりとしている連中だが、彼女たちが絡む場合は別だ
異様に心が狭いと言うべきか、それとも嫉妬心が醜いと言うべきか、彼女たちから何かを手渡されただけで制裁対象となる容赦のなさ。
どんだけ心が狭いんだよと思う。
しかも厄介なことに、手渡された物を拒否する行為も制裁対象。
断るなどはとても失礼な行為。勇者様を落ち込ませるなど以ての外だとブチ切れる。
だから毎日誰かしらが制裁されて、そして次の日には制裁した者が制裁されることがある、そんな共食いなスパイラル。
マジでお前らは馬鹿かと問うてやりたい。
だが、そんなノリも嫌いではない。
ちょっと毒されて来ているとは思うが、あれはあれで楽しい。
「……ヤツらが居るから葉月は大丈夫だろうな。三雲も居るし」
八十神が元に戻る危険性はあるが、嫉妬組が居る限り大丈夫だろう。
絶壁な三雲を筆頭に、ヤツらはきっと葉月を守るだろう。
俺は話を切り出すことを決めた。
一度西へと向かい、世界樹の切株がある山のような森に行くと言うことにする。
早乙女辺りがついて来たいと言いそうだが、そこは葉月に任せれば良い。
パッと行ってパッと帰ってくる旅だ。もし早乙女を連れて行こうものなら絶対にトラブルし、もしかするとまたトラブルかもしれない。
それに邪魔が居てはラティと二人っきりになれない。
「う~ん、ついでに中央に寄って魔石を届けるか。あとはこの木刀を切株に――」
「へ!?」
突然世界が切り替わった。
いつの間にか夜空のような例の空間に放り出されていた。
ふわふわと浮いているようで浮いていない不思議な感覚が襲われる。
「……初代勇者か」
冷静に状況を判断する。俺はさっきまで部屋のベッドで横になっていた。
そして横になりながら木刀へと手を伸ばし、それを掴んだ瞬間世界が切り替わっていた。
この夜空のような世界では精神だけなので、伸ばしていた手は見えなくなっている。
『やあ、来ちゃったよ』
「来ちゃったじゃないですよ……」
いつの間にか目の前に初代勇者が居た。
何となくだが何が起きたのかは想像がつく。
木刀を掴んだ瞬間に世界が変わったのだ。きっと初代勇者が木刀を通して俺の精神を引き寄せたのだろう。
『うん、その通りだよ』
「くっ」
この夜空のような世界では、考えていることが筒抜けになる。
と言うよりも、今は話している言葉と思考に区別がないようだ。全てが相手にダダ漏れ状態。ある意味手っ取り早い。
『それでね、ステータスの書き換えというか、正確には改造の件だけど、少し時間が必要だからもう少し待って欲しい』
「……」
考えていたことを読み取り話をしてきた。
『取り込んだ”力”を消化して吸収する時間が必要なんだ。要は食べ物みたいな感じかな? まだ胃袋にあるようなもんなんだ」
「なるほど……」
『魔王発生までには間に合うから、それまではWSをイメージしていて欲しい。魔王を消滅させるWSの――』
初代勇者はそう言って、編み出す必要があるWSの説明を始めた。
求められるWSの性質は消滅。
魔王を倒しても根源となる部分が地中に戻っては意味がない。また復活してしまう。
だから完全にこの異世界から消し去るWSを編み出してくれと言われた。
これは前に聞かされた。
だから俺は、その消滅させるWSのイメージをよくしていた。
ここ最近では、葬乱以外のWSを編み出そうとしている上杉を参考にしていた。
アイツは毎回ワザ名を叫びながら斧を振り回している。
正面突破大爆昇や出諏羅阿照など、そんなワザ名を叫びながら。
だが残念なことに、葬乱以外のWSはまだ編み出されていない。
伊吹は簡単に二つのWSを編み出していたが、やはりセンスや【固有能力】が重要なのかもしれない。
『あぁ~、ちゃんとその辺りは考えているから』
「はい?」
『うん、だからね。すぐに編み出せるように【創剣】とか【剣技】の【固有能力】を書き込むから』
「あ、なるほど。確かにそれなら……」
『あっ、あとね、それ以外の【固有能力】はキミ次第だから』
「へ? 俺、次第?」
『ああ、そうさ。キミがここでやってきたことが血肉となって【固有能力】になるように調整するから』
分かって当たり前のように言ってくる初代勇者。
だが次の瞬間。
『む? 理解していないか。要は………………いや、そのときの楽しみと言うことで。だから安心してレベル上げに励んでくれ』
「メチャクチャ気になりますよっ。全部教えてくださいよ」
『あ、そうそう。一緒にいる狼人の子。彼女はくれぐれも大事にしてやってな』
「え? ラティを…………って、戻った」
瞬きしたら切り替わったかのように、景色が替わっていた。
俺は宿の部屋へと戻ってきていた。
一方的に言われ、こちらが聞き返すまえに返された。
「ん~~~、これは切株の所まで行かなくてもいいってことか……」
こうして俺は、西へと向かう必要がなくなり、これから一ヶ月の間、ルリガミンの町でレベル上げに励むのだった。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など励みを頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども……