対決
ちょっと短めです
俺にとって始めて周りと一緒に楽しめている宴だった。
それを楽しんでいたかったが、最後にやらなければいけない事がひとつ
「荒木!お前奴らに頼まれて俺を呼び出したんだってな」
「はぁ~?なんのことですかねえ~サッパリワカリマセン」
俺はアゼルには口止めをされているので、具体的なことは言えなかった。もしかしたら荒木もすでにアゼルからジャアの件は口止めされているかも知れなかったが、いつもの舐めた腹の立つ悪態を付くので、それは判断出来なかった。
だからと言って、このまま済ませるつもりはないので‥‥。
「じゃあ、手紙ってのはなんだよ、早乙女が関係してるのか?」
「――っち、なんのことか知らねぇな~」
「そこまでとぼけるのか、」
「なんのことか知らねぇって言ってんだろ、それとテメーさっきから誰に舐めた口きいてんだ、ガッコーじゃコソコソしてた奴が」
確かに俺は目立つ方ではなかった。
前に出るタイプではないし、大人しくてゲームとかそんな事ばかり考えていた。
だがそれと今は何も関係のないこと。
荒木は、学校では分かり易い不良。
素行が悪くて見た目が悪くて、気に入らない事は暴力で押し通す奴だ。
だけどそれも今は何も関係ない。
「学校のことが今何か関係あるのか荒木?聞いたことを答えろよ」
「テメーなんか調子のってるなぁ……気に喰わねぇ。あ゛あ゛ん、ヤルか?」
荒木は俺の態度に頬をひくつかせ、怒りで声を震わせながら俺に詰め寄ってきた。
「テメーむかつくんだよ、ハズレ野郎の分際で」
「俺もだよ、この貴族の腰巾着が」
俺は、荒木が一番ムカツクであろうと一言を言ってみた。
そして俺の方は、コイツの呼び出しで死ぬところだったで、激しい怒りが噴出していた。コイツはやり方が卑怯すぎるのだ。
「なぁ卑怯者。ちょっと提案があるんだけどな」
「――っ!!なんだハズレ野郎のヘタレで能無し」
( おうおう、なんでもイイからレベルの低そうな罵倒並べやがって、)
「お互いムカツクから、ソレだけを理由でヤラないか」
「っは!いいぜ陣内、スキルなしでやってやるよぉ」
「OK!負けた時の言い訳もすでに用意済みか、いい心がけだ」
「テッメ!」
荒木は、いきなり殴りかかってきた、ただ、怒りに任せた大振りだったので、楽に身を屈めて避ける。そして素早く後ろに距離を取り、ららんさんから買った回復の指輪を外す。
「なら俺も回復の付加魔法品外して戦ってやるよ」
「んなもん、俺だって外すぜ、ザコ相手に装備してたら恥ずかしいからな」
そう言って、荒木は指輪を二つ、首から護符らしい物をひとつ外した。
――3個も装備してやがったのか、
伊達に勇者支援政策を手厚く受けてるだけの事はあるってか、
付加魔法品を近くのテーブルに置き、いつの間にか人垣で出来たリングの中央で、お互い素手で対峙した。
他の場所でも喧嘩が起こっていたが、やはり勇者荒木の知名度か、ほぼ冒険者が集まっていた。
「勇者が喧嘩するみたいだぞ!」
「おおう、相手誰だよ?あ、噂の英雄じゃん」
「おう、偉そうな勇者なんてやっちまえ!」
「そうそう、ぶん殴ってやれあの勇者!」
――やっぱコイツは人気無さそうだな、
まぁ黒獣隊のジャアと頼みごとする程度には、交友関係あったみたいだからな。人として程度が知れるってもんだもんな。
荒木はとばされた野次に向けて睨みを利かせようとするが。
「何処見てんだよ!どっかの隊の腰巾着野郎」
「――てっめぇ、」
俺の煽りによって再び殴りかかってくる荒木、殺されかけた怒りをぶつける為に、俺も殴り返しに向かった。
野次馬が熱狂する中、俺と荒木は殴り合いを始めた。
さすがと言うべきか、荒木は殴り慣れていた。ボクサーのように上手いとかではなく、淀みなく殴ってくるのだ。フェイントなどの駆け引きのない、弱者を上から叩き潰すようなそんな傲慢さを感じさせるこぶしを振り下ろしたのだった。
だが相手は、魔石魔物相手でも肉薄した戦闘を繰り返し行ってきた陣内。威圧に飲まれ動きの鈍くなることなどなく、当然そんなこぶしは当たりもしなければ、カスリもしない。逆にコブシと掌底打ちをしこたま喰らうことになった。
「っがぁ!痛ってぇな!この野郎がぁ」
「おいおい、まさかの一方的かよ、」
「つえーな袋小路の英雄は、殴られてねぇじゃん」
「マジかよ、勇者がハリボテかよ」
「どーすんだこれ、賭けが大穴来るか!熱いんだけど」
「勇者の方は完全に素人だぞコレ」
だが、一方的に殴られていた荒木に変化が現れた。
「あ、勇者がガード多くなってきたぞ」
「なんだ?心が折れて亀になったってか」
「ちげぇ!自己回復待ってやがる!」
「セコー!【鑑定】使ってみたら【回復】持ちだ」
「つか、持ってる【固有能力】が喧嘩に特化し過ぎだろ!」
荒木が自己回復に頼り、ガードを固め一撃で陣内を捕らえるスタイルに切り替えていたのだ。ただそれは露骨に変えたのが判るもので。
「荒木。それは格上相手の戦法だぜ?」
すかさず下がって距離を取って荒木に話しかけた。
「ざけんな!誰か格上だって、ちょっと避けれるからって調子乗りやがって」
一度は落ち着いた荒木だったが、再び怒りに身を任せてこぶしを振り上げてきた。しかし今度は、光るエフェクトを纏い、強大な力を放ちながら振り下ろされた。
「 ――ッボッゴォ!!―― 」
荒木の拳から黄色く光る力の塊が避けた陣内が立っていた場所を軽く抉った。深さ10㌢にもならないが、当たれば骨の一本は間違いなく持っていかれる一撃だった。
それを見ていた野次馬の冒険者達が一斉に非難の声を上げる。
「おい!今の打撃WSの”バーンナック”じゃねえか!」
「なんだよこれって素手勝負じゃねぇのかよ?」
「喧嘩にWSってもう決闘だろそれ」
「勇者~!素手で勝負しろよー卑怯だぞー!」
野次馬の雑音など聞こえないとばかりに、荒木はWSで猛攻を仕掛けてくるが、そんな攻撃は魔物相手ならともかく、WS特有の決まった動きの制限があるので。
「ちくしょう、何で当たらねぇんだよ!この!」
――WSは撃つ前に必ず光ってる、攻撃の範囲は広いが十分に対処出来る!ただ、範囲が広すぎでこっちから打って出れないな‥‥
お互いに、有効打が打てない状況が長引いていると、野次馬で出来ていたリングの一角が割れ、モーセの十戒のようになった人垣を、二人の人物が歩いてきた。
「騒ぎすぎだ馬鹿者!一体いつまでやっているんだ貴方達は」
その割れた人垣から姿を現したのは、先程、他のテーブルに挨拶巡りにいったユナイトの団長アゼルだった。そしてその隣には勇者早乙女も一緒に来ていた。
荒木はアゼルの姿を見ると、きまりが悪そうにそっぽを向いた、その瞬間に重い一撃でも入れてやろうかと考えがかすめたが、俺に駆け寄ってくる人の気配がしたので其方に注意を向けることにした。
その駆け寄って来たのは、視界には入っていたが、まさか此方に来るのは予想外な人物、勇者早乙女だった。
――なんで早乙女が俺に駆け寄って来るんだ??
もし来るにしても、仲間の荒木の方に行くんじゃ?なんで俺に、、?
「陣内!なんで喧嘩なんてしてるのよ!アンタ今日あたしの弓で背中にあんな怪我負ったのに、喧嘩なんて危ないことして、」
「へ?、えっと、、」
早乙女の行動に俺が動揺し戸惑っていると、俺よりも戸惑い、そして怒りを再燃させている人物がいた。
「ご主人様危ない!」
ラティの警告に即座に反応して前方へ警戒を向けると、そこには、今まで以上に力を右のこぶしに込めた荒木が迫っていた。
「死ねぇーー陣内!」
直撃すれば命を落としかねない一撃を放って来たのだ。
さっきまでなら問題なく避けれる攻撃だが、今は隣に早乙女がいる状況、このままでは彼女まで巻き込んでしまう形に。
「あぶねぇ早乙女!」
「っきゃ」
咄嗟に早乙女を横に突き飛ばし、WSの範囲外に避難させる。そして俺は、完全には避けきれないWSに対し、体を捻るようにしてダメージを最小限に抑えようと試みる。
「もらったぁぁあ!」
「――っがぁあ!」
体を左に捻ったが、右肩が逃げ遅れる形になりWSの余波に巻き込まれる。荒木のこぶしから放たれた黄色い力の奔流が、俺の肩とその後ろにいる冒険者を巻き込んだ。
俺は痛みに耐えながら、左に捻った体を、そのままもう一度回転させ、その回転の力を乗せたまま左肘を、荒木の右腋下に叩き込む。
「ッシュ!」
「ぐああああ」
人体の急所のひとつの腋への攻撃に、荒木が完全に崩れ落ちる。激痛の為か、息が出来ず声も録に上げられず蹲る。
「回復役早く来い!」
それを見ていたアゼルが素早く回復の指示を出した、解毒のためにいた多数の回復術師が荒木に急いで回復魔法を掛けていった。
そして俺は、元から血を流してばかりの今日に、追加の乱闘と最後の一撃に、疲労からか後ろに倒れそうになった。ただ、このまま後ろに倒れこんでも、きっと平気という確信をもって後ろに倒れこんだ。
そしてその確信通りに、後ろから優しく支え抱きとめてもらえた。
「ラティありがとう、助かったよ」
「あの、ご主人様 いまホントは倒れるのを耐えれるのに、倒れましたよね?」
「いや、ホントに倒れたんだよ、なぁサリオ?」
「ぎゃぼう、こちらにふらないでくださいです」
ラティだけではなく、サリオも俺を支えるために、小さい体で必死に俺の腰辺りを支えていた。
俺はラティとサリオに支えられながら考える。
――ふう……
取り敢えず荒木をぶん殴れたからコレでよしとするか、
でもこれ以上北にいると面倒が増えそうだから明日には即帰るか、
気が付くと横には言葉が駆け付けていた。
そして本日何回目かになる回復魔法を掛けてくれてた。
( ああ、土下座しながらお礼を言う内容が増えた…… )
そんなことを考えながら、初の宴は終わりを告げた。
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