利~害が一~致、ですね?
遅れましたっ
八十神からの申し出には面食らった。
一体に何があったのだと当然俺は訝しむ。
ラティからの報告で、地上へと戻る道中、ヤツが色々とやらかしていたことは聞いていた。
俺はその報告を聞いて、いかにも八十神らしいと思ったし、本当にしょうもないヤツだとも思った。
そんな八十神が俺に頭を下げてきた。
間違いなく何か意図がある。コイツがいきなり心を入れ替える訳がない。
少なくともヤツは、昨日記憶喪失だった俺を蔑むような目で見ていた。
間違いなく見下していた。
マジで何かあったのかと戸惑ってしまう。
ただ、何があったのか分からないが、これは俺に取って都合の良いことだった。
俺は、八十神のレベルを上げたいと考えていた。
八十神は基本的に地上で活動しており、数多くの魔物を倒しているかもしれないが、地上に湧く魔物だけではレベルが頭打ちになる。
上位魔石魔物、もしくは下層に湧く魔物を倒さないと本当の高レベル者にはなれない。
予定では今回の探索でレベルを上げるつもりだった。
俺たちは散々潜っているので簡単には上がらないが、下層まで来たことがない八十神なら簡単に上がるはずだった。
だがしかし、ユズールがやって来たことでそれが無くなってしまった。
最奥まで行く理由がなくなったのだ。
しかし八十神には、魔王になってもらうために価値を上げて欲しい。
高レベルになれば一応価値が上がるはず。
ユズールが宿っていた魔石という新たな避雷針ができたが、避雷針は多いに越したことはないし、できれば高い方がいい。
魔王化という落雷のために、俺は八十神の価値を上げたかった。
だから俺は――
「……ああ、いいぜ」
俺は八十神の申し出を受けることにした。
俺の大事なモノを守るために、ヤツには生け贄になってもらうために……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――で、どうだった? やっぱ何か企んでる感じか?」
「……あの、悪意や害意の類いは見えませんでした」
「へ? どういうことだ? 何か企んで俺を罠に嵌めようとしているとかじゃないのか? 一応頭を下げて殊勝な態度は見せてたけど、ヤツの目は……」
俺はラティに八十神の感情を訊いていた。
あの場ではヤツの提案を受け入れたが、何の用意も無しで行くのはマズい。魔石魔物狩りは午後から開始すると言ってあの場は切り上げた。
そしてついでに理不尽な制裁から逃れることもできた。
その点だけは八十神に感謝する。
もしヤツが来なければ、簀巻きにされた俺は、地面に埋められるか川に流されるかの二択だった。
まさか引き千切ることができないモノを用意してくるとは予想外だった。本当にあの連中は油断ならない。
「……あの、ご主人様。ヤソガミ様は、悪意と言った負の感情ではなく……競う感情と言うべきか、負けたくないといった感情が溢れておりました」
「うん? 負けたくない……」
ラティの話に少々引っ掛かった。
ヤツとは地下迷宮の中で決着をつけた。
上手く言えないが、負けたくないはという感情は違う気がした。
一度しっかりと負けたのだ。
ならば次に思うのは、『負けたくない』ではなく『次は勝つ』だ。
『負けたくない』と『次は勝つ』は似ているようで全然違う。
次は勝つは決意であり、負けたくないは、今も何かと競っているということだ。
( あの目は、そういうことか…… )
ラティの話を聞いて合点がいく。
さっきの八十神の目は、確かに負の感情に囚われた目ではなかった。
何かの想いを滾らせている、そんな感じの瞳だった。
「う~~~~~ん、じゃあどういうことだ? アイツは負けたことに納得していない? ちょっと違うな……」
――ん~~、
八十神が俺と競うこと……?
葉月の件か? いや、それだとおかしいな、
もし葉月が原因なら、葉月のところに行くはずだし……
「はい、何でしょうねぇ。昨日とは全く別人のようで……」
「だよな」
不思議そうに首を傾げるラティ。
【心感】は感情の色が見えるが、どんなことを考えているかまでは分からない。なまじ感情が見える分、余計に戸惑っているようだ。
「まあ、考えてもアレだな。取り敢えずは警戒しつつ……やるしかないか」
「はい、ご主人様。もし宜しくない予兆が見えましたらすぐにご報告します」
「ああ、頼む」
ラティと話し合った後、俺たちは魔石魔物狩りへとむかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「解せぬ……」
俺は現在正座をさせられていた。
魔石魔物狩りを行う例の大部屋で、俺一人だけ大絶賛正座中。
正座の理由は簡単、葉月と言葉に怒られているからだ。
どうやら裏切り者が居たらしく、俺が『パンツを~』と言った件を彼女たちに密告されたようだ。
咄嗟のことで取ってしまった手段だったが、彼女たちにしてみればとても面白くないことらしく、反省してくださいと正座をさせられたのだ。
これにはハーティや三雲も同意、俺には味方がいない状態。
裏切り者たちがニヤニヤと俺を眺めている。
特にサリオなどは、これでもかと笑顔を炸裂させている。
俺は心の中で、サリオの顔面を炸裂させることを誓いつつ、この状況の打開を試みる。
「あ、あの、魔石魔物が湧くとヤクイから、そろそろ……」
言葉は困った顔を浮かべ、葉月はとても良い笑顔で何も言わない。要は、まだ駄目ということだろう。
「……はい、正座します」
俺は仕方なしと反省する。
いま俺にできることは、僅かな反省と、魔石魔物が早く湧くことを祈ることだけ……
――しかし、まあ、
まさかマジで八十神が真面目にやるとは……
いや、ヤツの真面目さは元からか?
八十神は本当に魔石魔物狩りに参加していた。
皆に挨拶して狩りに参加してくる八十神。
前はもう少しギラついた雰囲気があったのが、まるで憑き物が落ちたかのように落ち着いていた。
しかしラティからの合図は、対抗心のような感情は消えていない。今も競う感情は継続中とのことだった。
「……マジで何があったんだ?」
「うん? 何かあったの陽一君」
俺のつぶやきに葉月が反応して声を掛けて来た。
丁度良いので、俺は葉月に八十神のことを尋ねてみることにする。
「なあ、葉月。何か八十神が変じゃねえ? 何ていうか……おかしいだろ?」
「う~ん、そうかなぁ? 私はどっちかって言うと、元に戻ったって感じかな? 学校のときはあんな感じじゃなかったかなぁ。ねえ?」
「あっ……」
確かにそうかもしれないと思った。
八十神はこの異世界に来てはっちゃけた感じではあるが、元の世界ではそこまで酷くはなかった。どちらかと言うと良いヤツの部類だ。
だから葉月の言った、元に戻ったという言葉がしっくりときた。
だが――
「わからん。何で急に……」
無駄に突っ掛かって来ることはないが、急に変わったことに違和感を覚える。
何か明確な理由があれば納得できるのだが、それが分からないので妙に落ち着かない。
間違いなく何かを企んでいると思うのだが、それが全く見えて来ない。
だがしかし一方、この状況はとても利用できる。
八十神が率先してレベル上げをしているのだ、これを上手く利用できれば、これからやって来る勇者たちも巻き込むことができる。
橘もレベル上げに参加させて、ヤツも120を超える高レベル者にすることができるだろう。
偶然発見することができた【大地の欠片】を使った魔石魔物湧かし。
本来高レベルの魔石魔物を湧かすのなら、ズッと下の層まで行かないといけない。だが【大地の欠片】を使った方法なら、上層でもそれを湧かすことができる。
十八本脚蜘蛛は強敵だが、あれは複数で囲めば簡単に倒すことができるタイプの魔物。
俺は見ていないが、報告に上がったハリゼオイの亜種も、八十神を盾にすれば安全に倒すことができるだろう。
「おっ、そろそろ湧くぞー」
こうしてしばらくの間、俺たちは魔石魔物狩りをすることなったのだった。
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申し訳ないです。
あと、誤字脱字も……