私の欲しい「大切」
ちょっと勢いで書きたかったので、感想が遅れております。
本当にごめんなさいです。
あと、お気づきとは思いますが、
『勇ハモ』はハイファンのカテゴリーです。
ファイファンではありませんっ!
きっとこれは誤解されてしまうシチュエーション。
でも、この状況でないと駄目。
そうでないと相手に恥をかかせてしまうことになる。
だから――
「それで私にお話って何かなぁ? 八十神君」
「ああ、君に聞いて欲しいんだ……………………僕の想いを」
「……うん」
この空気は何度も経験がある。
たぶん女の子なら大体の子が一度くらいは経験したことがあると思う。
それが告白までに辿り着かなかったとしても、これに近い空気に触れたことがあるはずだ。
「ハッキリと言う。僕は葉月さんのことが好きだ。いや、大好きだ。だから僕と、僕と……」
「うん、ありがとうね、八十神君」
「――え、それじゃ」
「でも、ごめんなさい。その想いに応えることはできません」
曖昧なことは言わず、しっかりと拒否の気持ちを声音に乗せて断った。
少しの可能性も感じさせないように、きっちりと頭も下げる。
「ぅく…………アイツ、陣内のことが………………………………好きなのか」
「うん」
問いたくない、そんな絞り出したような問いに対し、私は即答で切り返す。
聞かれることは予想していた。だから私は迷うことなく返答した。
きっと今の私は、とても真剣な笑みを見せていることだろう。
「な、んでアイツなんだ? 確かに最近は凄いかもしれない。だけど今日のアイツを見ただろう? 元はあんなヤツなんだぞ、学校のときからそうだ、この異世界でもWSや魔法が使えない、そんなヤツなんだぞ?」
「ねえ、八十神君。それがそんなに必要なこと?」
「え? だって、僕たちは魔王と戦わないといけないんだよ。それなのにWSが撃てないなんて……。言い方は悪いけど、アイツは欠陥品のようなモノだろう?」
「だから陽一君は駄目だと?」
「僕はそう思っている。それに葉月さんとは釣り合わないよ」
「釣り合わない……か。うん、確かにそういうのはあると思うよ。例えば、歳が離れ過ぎだったり、もの凄く努力をしている人と、全く努力をしていない人とかだったら、言い方は悪いけど釣り合わないことがあると思う」
「そうだろ! だから僕は――」
「でも、それが何? そもそも私と陽一君は釣り合いが取れていないの?」
「だってそうだろう。さっきも言ったけど、陣内はWSを一つも放つことができないんだよ。今日だってそれを全員にからかわれていただろう」
「うん、陽一君って皆に好かれているよね」
「え? 好かれて……いる? え?」
「みんなアレコレ陽一君を構ってさ、みんなで楽しそうにしていたよね。陽一君は本当に凄いよね、私たちみたいに勇者っていう特権? みたいなモノがないのに、陽一君の周りには人が集まって、あんな楽しそうにしているんだもん。あ、でも、ちょっといじり過ぎかもね」
「……そうとも取れるけど。アイツは……僕が言いたいことは……」
「それにさ、みんな陽一君の記憶が戻ることを疑っていなかったのも面白いよね。何て言うんだろ? 不思議な信頼感あるっていうのかなぁ? 陽一君ってさ、きっと何でも大丈夫だって思わせるんだよね」
釣り合いというのであれば、私よりも陽一君の方が凄い。
私には勇者という肩書きがあるから周りに人がいるだけ。
シキさんは慕ってくれて居るけど、あれは私を神に見立てて信仰しているだけだと思う。たぶん他の人もそう。陽一君とは違う。
でも、これを八十神君に言っても分かってくれないだろう。
きっと彼は否定する。彼は――
( あ…… )
「ねえ、八十神君。前にラティちゃんが八十神君のことを、『本当に何も見えていない人』って言っていたよね。あれってちょっと違ったのかもね」
「あの奴隷の子……」
「八十神君は、陽一君のことを見ないようにしている人なんだよね」
「――なっ!?」
何を見ないようにしているのか言う必要はなかった。
彼の表情が、彼の動揺がそれを示している。
本当は気が付いているはずだ。だけどそれを認めようとしていないことがありありとわかる。
「ぐっ……葉月さんは、何であんな奴のことが好きなんだ。だってアイツには、さっき言った奴隷の子がいるんだろ?」
「うん、居るね。――でも、私の想いには関係ないかなぁ」
「は? え? え? 何で……?」
「うん。たぶん、八十神君には理解できないかもね」
「――ッ! じゃ、じゃあっ、アイツのどこが良いっていうんだい? 学校じゃあ、いつも暗そうにしているし、何か取り柄があるわけでも……」
「う~ん、好きなところかぁ~。うん、確かにそんな多くはないけど、一つだけ凄い好きなところがあるんだ。陽一君はね、すっごく大切にしてくれると思うの。ううん、凄く大切にしている……」
「――はっ? そんなことなら僕だって葉月さんを大切にできるよ」
「大切に?」
私の言葉に光を見出すかのように食い付いてくる八十神君。
だけど彼は勘違いをしている。
「ねえ、何で大切にしてくれるの?」
「え? それは……えっと……」
「それって私のことが好きだから大切にしてくるの? 性格とか容姿、人格とかそういうのを全部ひっくるめて好きだから大切にしてくれるの?」
「そ、そうだよ。葉月さんは素敵な子だ。綺麗だし可愛い、誰にでも分け隔てなく優しくて……え、笑顔とかホントに好きで……好きで……いつも葉月さんのことを……」
顔を赤くしながらしどろもどろで話す八十神君。
想いの吐露を、一生懸命に、必死になって伝えようと口を動かしている。
だけどやっぱり彼は分かっていない、思った通り勘違いしている。
「八十神君、私が言った欲しい『大切』ってね、ただ純粋な大切なの。大切の前にね、『なになにだから~大切』じゃイヤなの。ただ大切が欲しいんだ」
そう、これは私がずっと願い欲していたモノ。
可愛いから大切。
綺麗だから大切。
性格が、容姿が、価値が、子供だから、そんな付属品がある大切じゃなくて、本当にただの大切が欲しい。
でもそんな大切はないと思っていた。
絶対にないと思っていた。そんなモノがある訳ないと……
だけど私は見てしまった。彼と彼女を。
陽一君はラティちゃんを本当に大切にしている。
最初は気が付かなかった。
でもいま思うと、あのときに心の何処かでそう感じて惹かれたのかもしれない。
負傷したラティちゃんのために、憎くて仕方がないはずの私を頼り、そしてお礼までも言っていた。
そこには一切の躊躇いがなかった。
彼女のためにできる最善を、ただただ選択していた。
きっとあのときから憧れていたのだろう。
『純粋な大切』というものに。
そしてそれを持っている陽一君に……
だから私は、たとえ届かなくても恋をする。
絶対に諦めない恋をする。
しばらくの間沈黙が続く。
八十神君は、私に言われたことを反芻でもするかのように考えている。
苦しそうに空を見上げたり、諦めないぞとばかり首を振ったりしている。
「…………ぼ、僕だって大切にするっ! 葉月さんに言われたことを一生懸命考えてみたけど……正直わからない。――けど、君を絶対に大切にするっ! 葉月さんが危ないときは絶対に助ける。困っていたら力になる。何があっても絶対に守ってみせる。この命を懸けて、たとえ死んだって構わない。絶対に守る、守ってみせるっ、大切にする。だから――」
「全然駄目だよ、八十神君。それじゃあ全然駄目だよ……」
「え……?」
「陽一君はね、死んでも良いなんて思わないの。守るじゃなくて、守り続けるなの。それにね、自分のために守ってくれて死なれたらイヤだよ。残されるなんてイヤだよ、そんなの大切にするじゃないよ……」
自分は、もの凄い我が儘を言っていると思う。
でも、そう思ってしまう。
十八本脚蜘蛛に追い詰められたとき、私は諦め掛けていた。
一緒に終われるなら良いかもしれないと思ってしまった。
だけど陽一君は全然違った。
あの戦いは命懸けだったが、彼はこれっぽちも死ぬ気はなかった。
本当に強い心と意思。
陽一君はあのとき、絶対に戻ってやるって考えていた。
ラティちゃんの元に。
( 本当に羨ましい…… )
でも羨ましいと同時に、守ってもらったことに酔いしれた。
本当に嬉しかった。嬉しかった。
「それにね、陽一君は”守ってくれる”じゃなくて、守ってくれたの。何度も私を……。言葉じゃ駄目だよ。言葉だけなら誰でもできるから」
「――っ!!!」
「陽一君のことを調べたのなら、知っているはずだよね?」
さっきよりも苦しそうな顔をする八十神君。
私は、いま言ったことが少しでも伝わることだけを願う。
「……めない」
「え?」
「僕は絶対に葉月さんを諦めない。絶対に陣内以上になってやるっ」
「……」
「僕はっ、僕は絶対に葉月さんを諦めないっ! 絶対に……」
真っ直ぐ私を見つめてそう宣言する八十神君。
こういう愚直なまでに真っ直ぐなところは、本当に八十神君らしい。
でも……
「うん、諦めないでいいと思うよ」
「えっ!? それって……」
「だって私も諦めないから、陽一君を。――絶対に諦めない。だからね、絶対に諦めないと決めている私に、八十神君のその気持ちを否定する資格はないの」
「ぐっ、何で……アイツのことをそこまで……くそっ!」
崩れそうになりながら走り去っていく八十神君。
最初は、少しでも良くなって欲しくて断ったつもりだった。
だけどこれは逆効果だったかもしれない。
「あ~あ、失敗したかもなぁ~。……ね、シキさん」
「……ハヅキ様」
彼は離れた場所で私を見守ってくれていた。
だから少し強気でいられたのかもしれない。
「シキさん、お願いした部屋は取れましたか?」
「はぃ、ご要ぼおの部屋はとれやんした」
「ありがとうございます、シキさん」
今日は同じ宿に泊まりたくなかった。
彼と彼女が同じ部屋に泊まっている宿には、今日は泊まりたくなかった。
陽一君はラティちゃんを大切にしている。
例え記憶を失ったとしても、ラティがいればすぐに思い出すはず。
大切のためなら、きっと彼は何でも乗り越える……
「あ~~ぁ、ちょっと辛いなぁ……」
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
誤字脱字も……