一人の願いと、一人の思惑
ちょっと短め~
「くっ、マジで便利だなこの魔法は」
「うう、陽一、何か気持ち悪い……」
顔色を悪くして、よろよろと俺の肩に手を置く早乙女。
そんな早乙女の真っ青な顔を見て、サポーターの二人が宿を取りに走った。
「あと少しの辛抱だから」
「う、吐きそう……」
「ジンナイ、んじゃ~、ちょっくら報告に行ってくるっしょ」
「はい、連絡を頼みます。使いは滞在していると思うんで、オラトリオさんに戻ったことを報せて下さい。……ったく、お前は」
「……吐く」
俺たちは地上へと転移された。
丁度昼時だったようで、太陽の針は真上を指していた。
「さてと……」
地上に戻ったのは俺を含めて5人。
勇者からは早乙女、陣内組からはバルバス、サポーター組からは二人が転移魔法を掛けてもらった。
本当ならラティと一緒に戻りたかったが、ラティは優秀な索敵役。
ダンジョンにおいて索敵役がどれだけ重要なのかは、本隊とはぐれたことで身を持って学んでいた。
俺はリーダーとして、血涙を流しながら残すことを決断。
一方早乙女の方は、【宝箱】持ちという貴重な人員なのだが、それを上回る不安要素を抱えているため、ハーティによって上手いこと押し付けられた。
できれば勘弁して欲しいところだが、『確かに』と思うところがあったので、不承不承だが爆弾を引き取った。
他には、MPが枯渇気味の葉月も返すという案もあったが、彼女の障壁魔法で作る階段があると、崩れた場所の登りが楽になるということで、葉月は残すことになった。
そしてもう戻るだけなので、サポーター組を減らし、伝達係として陣内組からバルバスが選ばれた。
そのバルバスはサポーターと一緒に伝達に向かい、いまここに居るのは……
『じゃあ早いとこ頼むかな』
「……はい」
俺、早乙女(衰弱中)と、ユズールの3人だけだった。
両手を広げて最後を待つユズールは、懐かしそうに辺りを見渡す。
『千年ぶりの外か……。意外と変わっていないんだな』
「え? 一度も出たことがないんです?」
『うん、あんまり外に居るとマズイからね。ほら、ボクが中心でしょ? 下手に外に居たりすると、そこが凹んでダンジョン化する恐れがあるからね』
「あ、ああ……なるほどです」
想像してみるとなかなか迷惑な光景だった。
確かに外に出ようとは思わないだろう。被害が甚大過ぎる。
『それにね、あまり人と会いたくなかったんだよ。……思い出してしまうから』
「…………そうですか」
切なく寂しそうな顔でつぶやくユズール。
俺は鈍感ではない、少し想像して考えればすぐに辿り着くことだ。
精神を魔石に宿したとき、身体の方がどうなったのかはしらないが、誰か、誰か想い人でも残してきたのだろうと察した。
外に出てしまえば人に会う可能性が高い。
そして人に会えば誰かのことを思い出してしまう。
もしかするとあのとき、俺たちをすぐに帰したのもそれが理由だったのかもしれない。
独りで居るために。独りを耐え切るために……
この人はどんな想いで”楔”になったのだろうと考える。
話を聞きたいとは思ってはいた。
だが訊ねる気はなくなっていた。気軽にこちらから訊いて良い話ではないと、そんな気がした。――だけど気が付くと言葉が零れていた。
「ユズールさん、貴方は何のために――あっ、いえ、何でもないです……」
聞いておきたい、そんな想いが溢れて口を開いてしまった。
しかしこれは簡単に訊ねて良いことではないと思い直し、俺は途中で止めた。
が――
「――やっぱり、知っておきたいです」
「はは、ちょっと面白いねキミ。まあ、そんなそんな大した理由じゃないよ。よくあるありきたりな理由さ。ボクはただ世界を守りたかっただけさ」
「世界を?」
「ああ、そうさ。って言っても、この広い世界のことじゃないよ? ボクの言っている世界ってのはね、腕でこうやって抱えられる程度の世界さ。でもね、その抱えられる程度の世界を守るためには、この広い世界も守らなくっちゃならなくてさ……」
「そうでしたか……」
「まぁ、その小さな世界はヒデオーに取られちゃったけどね。だから実はアイツのことは嫌いなんだよ」
――ん? 取られた?
抱えられる程度の……世界を?
え? それってまさか……
「……アリス?」
「――ッ! …………さあ、何のことかな。ほら、早く終わらせておくれ。あまり長い間外に居るとマズイんだから。あ、ボクが消えた後、この魔石は使っても良いからね。その胴着に使ったみたいにさ」
「え? 分かるんですか?」
「うん、何となく程度だけど分かるさ。何か岩みたいな感じだね、ズーロの魔石でも使ったのかな? だからボクのも使って欲しい。特にボクの魔石は他のヤツらよりも大きいからね。”力”の中心をこなした魔石さ、他の魔石よりも格上だし、すっごいのができると思うよ。是非役立てて欲しい」
「――っ! ……そうですか、分かりました。では――」
「うん、あとのことは頼んだよ。あの方が愛したこの世界を守ってくれ。やっと……やっと………………逢えるといいな……」
初代勇者の仲間、ユズールの”力”が木刀へと吸収された。
前よりも重く感じる世界樹の木刀。
一瞬だが、木刀の内から鼓動のようなモノを感じた。
「……終わったの陽一?」
「ああ、終わった。これで全部回収した。静かに見ててくれたんだな」
「ふん、そんなんじゃない。ちょっと吐きそうだっただけだ。――で、それどうすんの? 何かに使うの? 例えばあたしの弓とか……」
「早乙女、これは使わない。これは……中央の城に届ける」
「え?」
首を傾げる早乙女に、初代勇者に見せられた過去のことを話す事にした。
話す内容は、初代勇者の時代に居た王女アリスのこと。
そしてユズールが、その王女アリスのために戦い、最後は精神を魔石に移したのだと……
そんな一途な想いを貫き通したのだ。
だからユズールが宿っていた魔石は使わずに、アリス王女の子孫であるアイリス王女の元に届けてやろうと美談のように話した。
「そっか……。そうだよな、いままで報われてなかったって感じなんだろ? それならあたしは賛成だ。王女さんのところに持って行ってやろう。あれだ、供養ってヤツだ」
「ああ、届けてやろう……ユズールさんを……」
こうしてユズールが宿っていた魔石は、中央の城へと届けることにした。
当然、反対の意見が出るかもしれない。
ユズールは転移魔法の使い手だった。
そんな彼が宿っていた魔石だ。もしかすると転移装置のような付加魔法品を作ることが出来るかもしれない。
それに多分だが、八十神のチート鎧の修復に使うこともできるだろう。
攻撃による衝撃を過去へと飛ばす鎧だ、広い意味で言えば転移とも言える。
しかしこの魔石はとても貴重な魔石。
そう、とても貴重で、とても価値が高い魔石なのだ。
過去に魔王化したことがあるという、大きな竜核石に負けない価値があるだろう。
だからこの魔石は、勇者たちのために、俺たちのために使わせてもらうことにするのだ。
魔王化の避雷針として――
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