槍使い対鎧使い
ご指摘があり、八十神のセリフが一部変更しました。
物語には影響のない程度です。直ちに影響はありません。
「じゃあ、両方とも用意はいいね?」
「ああ、OKだ」
「こちらも問題ない」
俺と八十神は対峙していた。その距離は約5メートル程。
踏み込めば一気に間合いに入れる距離で向き合っていた。
「さて、一応確認だ。殺すのは無し、勝敗は降参か戦闘不能になったら終了。あと、僕の判断で勝負ありって思ったら止めるからね。ムキになって続けてもあれだから、そのときは潔く判断に従って欲しい」
「ええ、公平なジャッジをお願いします。陣内の肩を持つことがないようにお願いしますよ」
「うん、それは約束しよう。陣内君もいいね?」
「分かった。殺すのは無し、半殺しはありってことだな?」
「………………よし、じゃあそろそろ始めるか。正直言って、ダンジョンの中で決闘とかどうかと思うけどね」
「それは陣内に言ってやってください。力でしか解決できないようなコイツに」
「うぉいっ! お前の提案だろうが八十神。何言ってんだお前は」
「ふん、こうなるように煽って来たのはお前の方だろ。僕はそれに敢えて乗ってやっただけだ。こんな決闘で解決しようなんて……僕の本意ではない」
「コイツ……」
なかなかの煽りっぷりだ。
ヤレヤレと首を振る仕草も本当に腹が立ってくる。
「……でもまあ、一応大事なことだからね。どちらの方が上かハッキリとさせる必要がある。どちらの方が真に頼りになるか、みんなに見せる必要があるからね。特に彼女には――」
「ほら、話はそこまでだ。じゃあ開始するよ」
言葉を遮ってハーティが右手を掲げた。
掲げた手を振り下ろしたら開始の合図。騒がしかった周囲が一斉に静かになる。
俺は重心を下げ、右手には無骨な槍、左手には世界樹の木刀を握り、異形な二刀流の構えを取って八十神を睨めつける。
( ったく、そんなモンに頼りやがって…… )
八十神はこの決闘にあの鎧を着て挑んでいた。
ヤツの纏っているウルドの鎧は、あらゆる攻撃を過去へと飛ばす効果を有したチート鎧だ。
だというのに、それを装備したままということは、間違いなく卑怯者の所業。
装備品に優劣があるのは仕方のないこと。だがしかし、攻撃を一切受け付けない鎧を身に纏って勝負に挑むということは、自軍にゴールが無い状態でサッカーの試合をするようなモノ。
俺たちを取り囲むギャラリーは、ほぼ全員が眉をひそめていた。
中には落胆した様子を見せる者もいる。
「陣内、僕に勝てると思うなよ」
「……」
「この戦いに勝って、僕がお前よりも上だということを証明してみせ――」
「――始め!!」
「っらああああああ!!」
開始の合図と同時に駆け出した。
雄叫びを上げながら槍を大袈裟に振り上げ、そして叩き付けるように振り下ろす。
これは本来の槍の使い方ではない。
だが、八十神が相手の場合には意味があった。
「くうっ」
ヤツは振り下ろされた槍を防ぐために、左手の盾を掲げた。
俺はその瞬間に出来た死角、盾の陰へと槍を手放して踏み込む。
そして木刀を構え――
「死っね!」
ヤツの左脇腹を目がけてフルスイング。
キンっと甲高い不思議な音を立てながら、ウルドの鎧がべっこりと凹んだ。
「――かはっ!? ば、馬鹿な!? ――あがっ!!」
脇腹をやられ、痛みに身を捩ったところに追撃をかます。
木刀の柄で八十神の顔に餅つき。
ヤツはそのまま仰向けに倒れ、剣と盾を手放して鼻を押さえた。
相手は完全に死に体。
俺はトドメを刺すべく木刀を振り下ろす。が――
「おう、陣内。もう勝負ありだ」
「上杉……」
なんと上杉が、金色の斧を使って俺の木刀を止めていた。
「陣内君。勝負ありだよ。木刀を下げてくれ」
「…………ああ、分かっ――た」
コーンと聞き心地の良い音が響く。
「……ジンナイ。絶対にやると、思った」
「テイシ……」
木刀を下げてくれとハーティに言われたから、俺は素直に従って木刀を振り下げたのだが、残念ながら今度はテイシによって防がれた。鈍器のような斧が木刀を遮っていた。
どうやら俺の行動は読まれていたようだ。
「陣内君、そのまま後ろに下がって離れるんだ」
「……ちっ」
仕方がないので、今は素直に下がる。
だが脚が狙える間合いには留まっておく。
「八十神君、君もすぐ起きるんだ。彼は倒れている相手を見ると追撃する癖があるから危険だよ。すぐ脚とか潰しにきて無力化を狙ってくるんだよ」
回復用のMPが無駄と言って手を差し出すハーティ。
さすがに良く分かっている。俺がまだ間合いに留まっていることに気が付いているようだ。
しかし八十神は。
「ぐっ、こんな勝負は無効だ。何で僕の鎧が防げないんだ。こんなのおかしいだろ! きっと何か卑怯なことをしたんだ。そうでなければ僕の鎧が凹んだりする訳がない」
差し出された手を振り払って喚き散らす八十神。
やはりトドメは必要なようだ。
まずは喉を潰してから脚にいくべきか、それとも脚を潰してから喉にいくべきかと逡巡する。
「あ~~、八十神君。今の君じゃ陣内君には勝てないよ。何個か理由はあるけど、単純な強さ以外では理由がまず二つ。一つ目は、君は上からの振り下ろしに対して過剰に怯え過ぎだ。次に二つ目、その鎧ではあの木刀の攻撃は防げない。あの木刀は魔法殺しだよ? 叩かれた場所を見てみるといい」
「え……? な!? 何で!?」
八十神の左脇腹、木刀によって凹まされた場所は黒く変色していた。
白い鎧が焦げ付いたように黒ずんでおり、明らかに何かが起きたことが見て取れた。
「多分だけどね、その部分は前みたいに攻撃を無効化できないかもしれないよ。後でキチンと確認しておいた方がいいかな」
「ぼ、僕の鎧が……僕の……」
――ったく、ネタバラしするなよハーティさん、
わざわざ教えてやる必要はないんだし、そのままで良かったのに……
心の中で愚痴を吐いてしまう。
八十神だけは気が付いていないようだが、ヤツは明らかに上からの振り下ろしに対して怯えていた。
そもそもあんなテレフォン槍だったのだ、普通ならば横に避けるか、電球でもチラして受け流しすればよかった。
何ならアンコンフラッシュでも構わない。
だというのに八十神は、足を完全に止めて受けに回った。
そしてそうなることが分かっていたのならば、盾の死角に潜り込み、後はボディがお留守だぜで終わる。全くもって余裕だ。
そしてどんな攻撃でも防げると高をくくっていたのかもしれないが、この木刀ならば無効化できると確信していた。
ハーティが言うように、この世界樹の木刀は魔法殺しだ。
魔法を編み込むことによって作られたチート鎧だ。この木刀ならば間違いなくそれを破壊できると思っていた。
「は~~。おう、八十神。オマエ、魔王との戦いでビビったままか?」
「何っ!?」
「んん? だから上からの攻撃だよ。ほら、スゲェぶっ叩かれていただろ? あんときから逃げ腰だったよなオマエ」
上杉に指摘されて顔を強張らせる八十神。
己の恥、弱いところを知られたと、そんな顔をしながら葉月の方に目を向けた。
困ったような顔を見せる葉月。
「ぐぅぅぅ、そんなことはないっ! そんな訳ないだろ! この僕が……ただと? もう一度だ! もう一度僕と勝負し――ぼへぁっ!?」
「はい、勝負あり」
俺は木刀でヤツの顔を薙ぎ払った。
真横に吹き飛んでいく八十神。あとはぐうの音も出ないように追撃するだけ。
「陽一君っ」
さっと間に葉月が入っていた。
これ以上追撃をさせないように、身体を張って八十神を庇う。
「八十神君、勝負は付いたんだしもう終わりにしようね。ね、お願い」
「あ、ああ……。葉月さんがそう言うのであれば……」
「良かった」
「すまない葉月さん。できれば治癒の魔法を……」
「うん。――誰か、八十神君に回復魔法を」
「え? え……?」
彼女は回復を掛けることなくその場を離れた。
冒険者の中から後衛役が駆け寄り、八十神の顔に回復を掛けていく。
呆然とした顔でそれを受ける八十神。
「はは、さすがだね彼女は。変に勘違いさせないように引くべきところは心得ているってところかな?」
「ふん」
ハーティがニヤニヤとしながら来た。
庇いはするが必要以上には庇わない。確かにその通りなのだろう。
「さてと、取り敢えず少し休んだから戻ろうか。この下層ではヨウちゃんの力も及ばないだろうし」
言葉の足下でわっふわっふやっている白い毛玉。
確かに白い毛玉といえど、この下層では魔物の湧きを抑えられない。
「そうですね。早いとこ戻りますか」
俺たちは休憩を終えたら上へと戻ることを決めた。
唯一反対していた八十神はボコった。もう誰も下に行こうと言い出す者はいないだろう。
『あ~~、待った。ちょっと待って欲しいかな』
「へ?」
「え?」
『うん、だからちょっと待って欲しいね。だって君たちはボクに会いに来たんだよね?』
俺たちのすぐの横に、軽装の装備を纏った半透明の男が浮いていた。
「あ、アンタは……確か……」
驚きのあまり上手く声が出ない。
ハーティも大きく目を見開き固まっている。
そんな俺たちを楽しそうに見ながら、半透明の男が名乗る。
『ボクに、初代勇者の仲間ユズールに会いに来たんだろ?』
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども……