ヤツは提案したっ
ハーティはさらに八十神を追い詰めた。
八十神の主張を論破、反論、否定などして、要はフルボッコにした。
年上の兄さんの貫禄とでもいうべきか、さらりさらりと鎧袖一触。
しかし追い詰められた八十神は諦めが悪く、話の流れが悪くなると別の話を持ち出して逃げ回った。
追い詰められては逃げ、否定されては逃げ、論破されてはまたと……
そんな不毛なやり取りを繰り返していた。
因みに、八十神が俺を貶めるために言った話の中には、葉月を救うために教会に乗り込んだ例の一件があった。
何とあの一件は、俺が教会のやり方に腹を立てて乗り込んだことになっており、葉月が結婚させられそうだったことはあやふやになっていた。
よくあるあれだ。
事の真相を隠蔽したいために話をでっち上げて、それによく調べない八十神が食いついた。
教会がでっち上げた主張は、葉月に教会のトップに立って欲しい。だから神との婚姻は形式だけで、特に束縛するようなものではないと言ったそうだ。
ちょっと調べれば真相に辿り着くはずなのだが、八十神は神に仕える教会が嘘を吐くはずがないと思い込み、話を鵜呑みにしてしまったと言った。
俺の記憶では、八十神と教会の仲はそんなに良くなかったはず。
もしかすると、俺イコール悪という固定概念があるのかもしれない。
当然、その真相を葉月から聞かされ、八十神は教会に強く抗議すると宣言。
返答によってはそれ相応の行動に出ると葉月に誓った(因みに、俺への謝罪はなし。)
少々芝居がかった言い方なのが気になった。
他にも聞きかじった程度のことを叫いていたが、それらは全て否定され、途中からはしょうもない中傷へと移っていた。
誰から聞いたのかは明かさなかったが、俺は生卵代をケチるようなヤツで、卵をほとんど注文させない酷いヤツだと言ってきた(これにはサリオが凄い勢いで目を逸らす。)
この難癖には、この異世界では生食用の卵は高価であり、生卵一個銀貨1枚はするとハーティが説明。
どうやら八十神は、生食用の卵が、元の世界と同じように安く手に入ると思っていたようだ。
そんなことも知らないのとかと周りに呆れられる八十神。
取り敢えず俺はアイアンクロー(ギリギリギリ……)
すると今度は、まだ未成年なのに風俗店に行くふしだらなヤツと言ってきた(これにはほとんどのヤツが目を逸らす。
俺はサリオの顔を握り潰しながら、『確かに店の前まで行ったことはあるが、中に入ったことはない』と説明。
『証拠は?』と問われ、証拠なんてねえよと言おうとしたが、何故かラティ、葉月、言葉が入っていないと証言してくれた。
色々と複雑な思いだが、俺は頷いた。
こうして追い詰められた八十神は苦し紛れにb――
「そうだっ!! 陣内、お前はクラスメートの荒木君に必要以上に暴行を加えていたよな。泣いて謝っていたのに無視して……。あれは明らかにやり過ぎだろう。泣いて許しを請う相手によくそんな非道なことを……」
「あ、馬鹿」
「あぁ? あのクソ野郎はやられて当たり前だろうが、このクソガミっ!」
早乙女は凄まじいガンを飛ばしながら、WSまで飛ばしてきた。
放たれた光の鏃が、八十神の鎧に吸収でもされるかのように消えていく。
「な!? 突然何をするんだ早乙女さんっ!? 僕じゃなかったら大変なことになっていたぞ」
「知るかボケっ! 何も知らねえヤツが勝手なことを言ってんじゃねえ」
再び八十神を射貫く早乙女。
しかも今度は八十神の眉間を射貫いた。
「顔を!? 僕じゃなかったら死んでいたぞ!」
「はあっ? そのつもりで撃ったんだよ。ってか、死んでも問題ないだろ? 根暗ボインが居るんだし。だから死ね――」
ここでさすがに止めに入った。
しかし相手は女性、彼女を押さえられるのは同じ女性勇者陣だった。
葉月、言葉、三雲が早乙女を押さえ、そして――
「あの、失礼します、サオトメ様」
ラティが手をかざして早乙女を眠らせた。
眠らせたラティが早乙女を抱え、衝立が用意されている場所へと彼女を運ぶ。
「びっくりした……。何をあんなに怒っていたんだ? 確かに彼女が監禁されていたのは知っているけど、まさかいきなり殺されそうになるなんて……」
「……八十神」
言いたいことがグルグルと頭の中を駆け巡る。
横を見ると、ハーティは両手を掲げてお手上げのポーズを。
( ですよね…… )
コイツは認めようとしないし理解しようともしない。
認めたり理解するのは自分にとって都合の良いことだけ。
「……なあ、八十神。お前は誰かに殺されそうになったことはあるか? 今みたいに突然狙われたことはあるか?」
「はあ? ある訳ないだろう! 今のだって無茶苦茶だぞ! いきなり殺されそうになるなんて、こんな理不尽なことがそうそうあってたまるか」
「俺は何度もある」
「え……?」
「俺は何度も理不尽に襲われたことがある。教会のときだってそうだ。そういや一番最初の防衛戦のときもそうだったな。アムさんが居なかったらヤバかったぜ。そのあとはルリガミンの町で囲まれたとき、他にはノトスの方の村でも冒険者に囲まれたこともあったな。西だと~、あっ、レフト伯爵に狙われたな」
口に出して確認するとなかなかの数の多さだ。
ひょっとすると、落下した回数と同じぐらい襲われたかもしれない。
「そ、それが何だってんだ」
「いや、特に意味は無ぇ。ただ、襲われたからやり返しただけだ。いいか? 俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。お前がさっき言ってた難癖は大体がそれだ。それに何だよ、ちょっと射貫かれた程度で騒ぎやがって。あんなの避けろよ、どんだけトロいんだか……」
「――こ、このっ!」
「あ~~、もういいや。お前とグチャグチャ話しても無駄だってことがよく分かった。ったく、どんだけ薄っぺらいんだか」
「聞き捨てならないぞ! この僕の言葉が薄っぺらいだと!? 撤回しろ陣内」
「するかボケ。言葉に重みを付けてぇならそれなりのことをしろってんだ。この鎧が本体野郎」
「ふざけるなっ! 葉月さんの前で僕のことを侮辱したな! 絶対に許さん! 僕と勝負しろ、陣内陽一!」
「ああ、いいぜ。さっさと始めようか。お前の大好きな正義でもよく言うもんな。勝った方が正義だって。これなら手っ取り早い」
もうコイツとグダグダ話をしても意味はない。
コイツの目的は透けて見えている。
葉月だ。葉月に良いところを見せたいだけなのだ。
そのための手段として、自身がリーダーになり、そして俺を貶めることで相対的評価を上げようとしているだけだ。
端から話し合いでどうにかなる案件ではなかったのだ。
「また茶化してっ、そんなものは正義じゃない! 馬鹿にするな」
「おら、さっさとやんぞ。力無き正義は何たら~ってヤツだ。負けたら従ってもらうぞ。馬鹿には対話よりも物理だ」
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