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今日もふたりで

投稿!

いつも感想や誤字などのご指摘、本当にありがとうございます。

 葉月が目を覚ました後、俺たちは現在の状況をどうすべきか話し合った。

 まず本隊との合流。これが今の俺たちの目的だ。

 

 そして遭難したときにすべきことは、その場でじっと待機すること。

 他には、この場所に居るという目印を付けることだ。


 俺たちは話し合い、この小部屋を拠点にして、少しずつ辺りを探索することにした。


 少しづつ進み、そこに目印を残していく。

 捜索に来た本隊がすぐに気が付くようにすることが目的だ。

 理想は運良く合流することだが、さすがにそうは上手くいかないだろう。


「ここに頼む」

「えいっ、障壁!」


 葉月が指示に従い、通った道に魔法の障壁を設置する。

 こうやって障壁を通った道に張っていけば、背後から奇襲されるリスクが減るし、それに戻るための道しるべにもなった。


「ねえ、陽一君。これって何かあれみたいだね。ほら、パンくずで帰り道の目印を付けるみたいな」

「あ~~、童話でそんな話があったな。確かあれって…………あれ? あれって結局駄目だったよな? 何か魔物に壊されそうなフラグになったぞ」


 一応マッピングやマーカーもしているが、俺たちは保険の意味も込めて障壁を張っていった。


 葉月曰く、張った障壁が破壊されると何となく程度だが分かるそうなので、壊された場合は分かるらしい。

 

「しかしまあ、【索敵】って本当に大事だったんだなぁ……」

「……うん」

 

 【索敵】がない状況なので、今は音が貴重な情報源。

 全く会話をしない訳ではないが、ある程度は会話を控えて探索を進めていた。


「じゃあ、行くぞ」

「了解、静かにするね」


 そろりそろりと慎重に前へと進む。

 見通しの良い場所なら良いが、曲がり角や飛び出た岩肌の陰に魔物が潜んでいないかと注意しながら歩く。


 俺が一人で先行し、葉月が少し後ろからついてくる。

 後ろは障壁で守ってあるのでひとまず安心。魔物と出くわすなら正面から。

 俺が先行することで葉月を守る陣形を取った。


 どうしても時間は掛かるが、今は二人っきりの状態。

 これぐらい慎重でないといけないし、それにもうあり得ないと思うのだが、また崩落が起きる危険性がある。だから二人とも落ちないようにとの対策でもあった。 


「――ぃ糸なら良かったのになぁ~」

「あん? 何か言ったか?」


「ううん、何でもない~。ちゃんとロープが結んであるって確認しただけ~」

「あ~~、了解」


 俺と葉月はロープでお互いを繋いでいた。

 これならどちらかが落ちても片方が引き上げることができる。

 葉月は女の子だが超高レベルの勇者。俺一人だけなら引き上げることができるだろう。


 こうして俺たちは探索を進め、遭難1日目を終えた。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

  



「はい、陽一君」

「ああ、わりいな。いただきます」


 差し出された食事を受け取り、俺はそれをかっ喰らう。


「……何か不思議な感じだね」

「ん? そりゃあ、こんな場所に二人で居りゃあそう感じんだろ? 二人だけだから静かだし」

 

「そっか~、そうだよね。あっ!」


 現在、拠点の小部屋にて食事中。

 探索中は喋るのを控えていたためか、葉月がテンション高めで話し掛けてきていた。そして何かを思い出したようで――


「ねえ、陽一君。陽一君って確か最初の頃、ラティちゃんと二人だけで地下迷宮に潜っていたんだよね? ほら、一度だけすっごい怪我をして大変だったことがあったじゃん」

「ぐっ、嫌なことを思い出させるなよ……」


 あの頃は本当に酷かった。

 ほとんど全てをラティに任せ、俺はこの地下迷宮に潜っていた。

 地下迷宮を照らす”アカリ”も作れない。獲物である敵を探ることもできない。魔法が使えないので回復魔法による支援もできない。


 唯一できる戦闘だって当時は酷かった。

 ラティが囮となって作ってくれた隙を突くだけの攻撃役アタッカー

 思い返してみると本当に酷い。


「がぁぁぁ~、昔の自分を殴りたい……。マジで何もやってねえ……」

「うん? 突然どうしたの陽一君?」


「いや、何でもねえ。ちょっと過去に戻れたらって思っただけだ。あ~~ちょっとだけ過去に戻れる魔法とかねえかな……」

「それ全然『何でもない』じゃないよね? 凄く渋い苦虫を噛み潰したみたいな顔をしているよ」


「ちょっと昔のことを思い出しただけだ……」

「ふ~~~ん。……そう言えばさ、あのとき初めてラティちゃんとお話したかも」


「え? あのときラティは……」

「うん、だからそのあとね。ラティちゃんを運んでいった後、私もすぐに後を追ったの」


「あ~~そっか……。あのときか……」

「それでね、そのときに本当に思ったの。ラティちゃんは大切にされているな~って」


「……」


 澄んでいて、とても凪いだ目をしてそう(つぶや)く葉月。

 その声音は何故か泣きそうに聞こえた。


「……なあ、お前だってみんなに大切にされてんだろ? 最近だと、ほら、あの信者みたいな連中とか」


 俺は、何となく、何となく何かを誤魔化すように言った。

 すると葉月は。


「む~~~。全っ然わかってないな~、陽一君は」

「いや、そう言われても……」


「いい? 私が言っている”大切”って言うのは………………やっぱ無し。だって自分で言うと何か変だもん」

「『だもん』って、自分で話を振っておきながらそれかよ。まあ、いいや。葉月、ちょっと先に休んでいいか? 少し疲れが出た」


「うん、先に休んで。入り口は結界で塞げば平気だし、何かあればすぐに起こすから」

「すまん。じゃあ先に横になるな」


「はい、陽一君。……………………――――っ」



 葉月が小声で何か言っていたが、俺は身体を休めるために目蓋を閉じたのだった。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 



 遭難してから三日が経過した。

 本隊との合流はまだできず、俺たちは少しづつ探索を続けながら、拠点への道しるべとなる印を付けていった。


 当然、途中で何度も魔物と遭遇した。

 中には魔石魔物もおり、追い込まれる程ではないがそれなりに苦戦させられ、もし複数に囲まれたら危険な状態だった。


 いま戦えるのは俺だけ。

 葉月も戦えない訳ではないが、さすがにこの下層エリアの魔石魔物は厳しい。

 なので、複数に襲われることだけは避ける必要があった。

 

 俺たちは決して油断することなく、障壁を上手く使って探索を進める。


「やっと戻って来られたかな?」

「えっと、ここって最初に落ちた辺りだよね?」


「ああ、ラティたちが捜索に来るなら、たぶんここに来るだろう。だからここに道しるべのマーキングをしておきたかったんだ」

「……あのときの蜘蛛はまだ居るかな?」


「いないと助かるんだがな」


 俺たちは辺りを慎重に探った。

 壁だけでなく天井にも目をこらして、決して囲まれないように注意する。


「ちっ、一体だけ居るな」


 広く開けた通路の先に、黒い色をした巨大な蜘蛛が徘徊していた。

 脚の数は16本。そしてそのサイズから魔石魔物だと予測がつく。


「葉月、【鑑定】を頼めるか?」

「うん。えっと……十六本脚蜘蛛だって。レベルは98みたい」


「見たまんまの名前かよ。まあ、レベル98が一体だけなら何とか……っ」


――おいっ? あの一体だけだと!?

 おかしいだろ? 何で一体だけなんだ?

 すげえ沢山居たよな? なんで他の蜘蛛は……



 目の前の違和感に警鐘が鳴り響いた。

 魔石魔物が湧いていることは想定していた。

 地下迷宮の拡張に伴い、地面の崩落などが増えているようだった。

 

 この地下迷宮ダンジョンは他のダンジョンに比べて道が狭い。

 時折開けた広場のような場所もあるが、基本的に狭い通路が多く、例えるならば蟻の巣穴のようになっている。


 だから崩落などが起きると、その狭さから潰されて生き埋めになる魔物が出て来ることは十分に想像することができた。

 そして潰された魔物が黒い霧へと変わり、魔石だけを残して霧散していく。


 だから魔石魔物が居てもおかしくはない。

 だが、その逆はおかしい。

 魔物の数が減るなど基本的にはない。


 もしあるとすれば、探索組の本隊が来て倒したか、もしくは――


「くそったれ! 葉月、退くぞ」

「え!? うん――きゃああああ!」


 葉月の悲鳴に引かれて後ろを見ると、障壁に遮られる形で巨大な蜘蛛が居た。


「ちっ、後ろに湧いたってのかよ。くそっ」


 俺はあることを瞬時に思い出した。

 この蜘蛛型の魔物は、同族である魔物を狩っていたことがあった。

 そしてそれが大騒ぎとなり、町の冒険者が総出で蜘蛛狩りをしたことがある。


「しくったっ。葉月、地面に落ちている魔石を拾え!」

「え? 魔石? はっ!?」


 俺たちの足下には、無数の魔石が転がっていた。

 上ばかり警戒していたため、地面に落ちている魔石に気が付くのが遅れた。


 そしてそんな俺たちを嘲笑うかのように、地面に落ちている魔石がカタカタと揺れ始めたのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

よろしければー、感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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