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安心

投稿が遅れて申し訳ないですー

「いくね、陽一君。聖系魔法”マディルラ”」


 淡い光によって身体中から痛みが引いていく。

 子供の頃、母に撫でてもらって痛みが引いていくような、柔らかく温かい不思議な感覚。


 そんな優しさを感じさせる淡い光が傷を癒やしていった。


「どう、陽一君?」

「ああ、完全に痛みは引いた。さすがは聖女様の回復魔法だな」


「もう、陽一君までそんなことを言わないでよ」


 プンプンと拗ねてみせる葉月。

 その仕草はとても愛らしく、大抵のヤツはコロッと逝くだろう。

 そんな表情を見せていた葉月だが、次の瞬間、真剣な顔で言ってくる。 


「ありがとうね、陽一君。私のことを庇ってくれて。陽一君が庇ってくれなかったら絶対に駄目だったと思うの……」


 そう言って落ちてきた方を見上げる葉月。

 確かに葉月が言うように危なかったかもしれない。

 ああ言った崩落に巻き込まれたときは、どちらが上か下か分からなくなって藻掻いてしまうものだ。

 そしてその結果、弱点である頭部を打ち付けて死んでしまうことがある。

 

 しかし俺は慣れていた。

 そして身に纏っている装備品も優れていた。

 衝撃には滅法強く、頭を強く打ち付けなければ死ぬことはない。


 俺は葉月を庇いなら、打ち付ける衝撃を逃すように転がり落ちた。

 何と言えば良いのか、これも経験が活きたと言うべきか、重傷は負わず何とか軽症程度で済んだのだった。


「本当にありがとうね、陽一君」

「あ、いや、こっちこそ悪かったな。咄嗟だったから抱き抱えちまって。お前だったら魔法の障壁で足場とか作れたかもしんないのに……」


「ううん。流石にあれは無理かな~。離れて見ている状態ならできるかもだけど、自分の身にって場合だとちょっと厳しいかも。ただ障壁を張ればいいって訳じゃないし」

「そっか……。しかしまあ、初手落下とか、さすがにこれは無ぇだろ……」


 見上げてみるとそこには真っ暗な空間が広がっていた。

 それなりの高さから落ちたためか、葉月が作り出した”アカリ”では照らし切れていなかった。もしかするとここは下層辺りかもしれない。


「……ラティたちは」

「みんな、大丈夫だよね? みんな生きているよね?」


「ああ、それは大丈夫だと思う。失われた感覚がない。俺とラティは奴隷の契約で繋がっているから、もしラティに何かあったのなら絶対に分かるはずだ。だけど他のヤツはもしかすると……」


 あの崩壊に巻き込まれたのは俺たちだけではない。

 通路全体が崩壊するのが一瞬だけ見えた。

 全員とは言わないが、少なくとも何人かは巻き込まれて落ちたはずだ。


「ちっ、何でパーティが解散させられてんだよ。何か不思議な力でも働いたのか?」

「パーティさえ組んだままだったらお互いの位置が分かるのにね……」


 何故か俺たちはパーティから外されていた。

 パーティを組んだままならお互いの位置が分かるはずなのに、俺と葉月はパーティから外されていた。

 なので今は二人だけでパーティを組むことにする。


名前 陣内 陽一

【職業】 ゆうしゃ 


【力のつよさ】117

【すばやさ】121       

【身の固さ】 115

【EX】『魔法防御(絶大)』

【固有能力】【加速】

【パーティ】葉月由香120

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


ステータス


名前 葉月 由香

【職業】勇者

【レベル】120

【SP】428/428

【MP】832/897+50

【STR】321 

【DEX】395

【VIT】346+5

【AGI】359+10

【INT】518+10

【MND】698+5 

【CHR】555

【固有能力】【鑑定】【宝箱】【聖女】【範囲】【魔力】【黄金】【結界】【幸運】

【魔法】雷系 風系 火系 水系 土系 氷系 聖系

【EX】見えそうで見えない(強)魔力回復(大)


【パーティ】陣内陽一 


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



「取り敢えず、皆と合流することが先決かな」

「だね。ここから上に行ければ――きゃあっ!」


「葉月っ!? 何があった? なっ!? あれはカゲクモか? いや、その亜種か」


 気が付くと壁一面に、蜘蛛型の魔物がびっしりと張り付いていた。

 【鑑定】が無い俺には正確に判断できないが、それでも普通のカゲクモではないことが一目で分かった。なんとヤツらの脚は10本以上あった。


 そんな脚の数が多い巨大な蜘蛛が、俺たちを取り囲もうとしていた。

 黒い色の蜘蛛なので、薄暗い地下では気が付くのに遅れた。


「くそっ、索敵がねえとこうも厄介とは! 葉月、逃げるぞ。ついて来い」

「う、うん。きゃあああ!」


 ぼとりと一匹のカゲクモ亜種が落ちてきた。

 倒すことは可能だが、ここで一体だけ倒しても意味はない。

 足を止めて戦えば間違いなく囲まれる。ヤツらは前後左右だけでなく上からもやってくる。


 囲まれた状態で葉月を庇いながら戦える訳がない。

 索敵もなく、ヤツらのテリトリーともいえる場所で戦うなど馬鹿のすること。

 しかもヤツらは糸を使った束縛攻撃をしてきたことがある。ここは逃げの一手しかない。俺は即座にそう判断した。


「よし、こっちだ葉月! 走りながら結界で壁を作って足止めしてくれ」

「わかった!」


 俺たちは数が薄い方へと駆け出した。

 立ち塞がるカゲクモを切り払い、一気に包囲網を突破する。

 完全に包囲される前であれば、後ろを取られることなく振り切ることができる。


「このままいくぞっ!」

「はいっ」



 それから1時間の間、俺と葉月は地下迷宮ダンジョンを走り続けた。

 地下迷宮の中には安全地帯と呼べる場所はない。だが、比較的安全な場所ならある。

 それは袋小路となっている小部屋のような場所。

 背後を取られる心配はなく、部屋の出入り口となっている場所だけを死守すれば良い。

 魔物は人を発見すると襲っては来るが、人を探してウロウロすることはほぼ無い。

 だから隠れるように留まっていれば良いのだ。



「よし、ここで休んで助けを待とう。闇雲に動き回ったら間違いなく詰む」

「うん。ここで一休みだね」


 俺の提案にニッコリと微笑んで(うなず)く葉月。

 健気に疲れなど見せてはいないが、僅かに呼吸が乱れている。


 ( そりゃそうだよな…… )


 葉月は俺と違って色々なことができた。

 走りながら魔法を唱えて”アカリ”で道を照らし、障壁を作って魔物の足止めなどをしていた。

 ただ戦うことしかできない俺とは違い、本当に様々なことができたのだ。

 

 久々に自分の駄目さ加減に嫌気がさす。

 俺は戦うことはできるが、それ以外のことは本当に何もできない。

 せめて索敵などがあれば、魔物を避けて移動することができるというのに……


「あ、陽一君。のど渇いたでしょ? はいこれ」

「あ、ああ……わりい」


 葉月から水筒を手渡された。

 俺はその水筒から水を飲みながら、さらに落ち込んでしまう。

 

――ぐっはぁ~

 俺ってマジで何もできねえ、

 有名RPG2の脳筋王子かよ…… 



「……ねえ、陽一君」

「んっ? どうした?」


「ちょっと横になってもいいかな? 少しでもMPを回復させておきたいの。たぶんこれから長期戦になると思うし……」

「あ~~、確かにそうだな。動くにしても待つにしてもMPは必要だな。入り口は俺が見張っているから奥で横になって休んでくれ」


「うん、ありがとう。………………じぃ~~~」

「? 何だ? 何かあるのか? ってか、寝顔とか見ないから安心してくれ」


 何かを訴えかけるような眼差しを飛ばしてくる葉月。

 俺はパッと思いついたことを口にしたのだが。


「むぅ~、そうじゃなくてね。ちょっと枕とか欲しいなぁ~って」

「枕って……そんなの【宝箱】に入れて来なかったのか? ってか、横になる用の寝具は持ってきてるんだろ?」


「ううん、その枕じゃなくて。例えば~膝とか、お膝とか、モモとかそんな枕が欲しいな~って。あっ、腕の枕でもいいよ?」

「……アホか。どこの世界に見張りでそんなことをするヤツが居るんだよ。大人しく寝とけ」


「は~~い」


 そう言っていそいそと横になる準備をする葉月。

 体育の時間で使われていたグルグルに巻かれたマットのようなモノを出し、それを地面に敷いて横になる。そして――


「……………………寝ろよ」

「ん~~?」


 少し甘えたような声を鳴らす葉月。

 何故か彼女は、仕切りとなる衝立を出さずに横になっていた。

 そして目を閉じずにこちらの方を見つめている。


――ったく、

 何でそんなに余裕そうなんだよ、

 俺たちはダンジョンで孤立して戻れない状態なんだぞ?

 マジで状況を分かってんのか?



 少しだけ苛立ってしまう。

 現在の状況はとてもよろしくない。

 

 別れてしまった本隊の方も心配だし、こちらはそれ以上にマズい状況。

 唯一の救いがあるとすれば、葉月(勇者)が居るので【宝箱】があること。


 【宝箱】には食料などの物資が詰まっている。

 取り敢えず食料に困るなどの心配はない。だが――


 ( ああああっ、くそっ! 自分が情けね…… ) 


 俺は自分の頼りなさに心底嫌になる。いま苛立っているのは自分にだ。

 先程も改めて自覚して嫌になったが、俺は本当に無力だと痛感させられる。

 これが椎名だったら簡単に地上へと戻れるだろうし、他の勇者なら魔法や【宝箱】を使ってもっと何かができたはずだ。


 せめて索敵だけでもあればもっと余裕を持てたはず。

 だが俺には何もない。何もできない……


「――ねえ、陽一君」

「…………うん? 何だ」


「助けてくれて、本当にありがとうね」

「それはさっきも聞いた。あと別に気にすんな、そんなことは当たり前のことだし。……それよりも悪いな、俺は何もできなくて。アカリを点けるとか荷物とか全部任せちまって……。むしろ不安にさせてっかもだし……」


「ううん、それは絶対にないよ」

「へ?」


「絶対にないよ。もし、もし他の人とだったら……そう思うかもしれないけど。でも、陽一君と一緒だから不安なんて微塵もないよ。むしろ安心感の方があるかなぁ~、絶対に大丈夫だって思えるもん。さっきだってそうだったし」

 

 俺は言葉を返すことができず固まってしまった。

 何を根拠にそんなことを言えるのか分からないが、葉月からは本当にそう思っていることが伝わってきた。


「じゃあ、ちょっと眠るね」

「あ、ああ……」


 葉月はそう言って、無防備な顔で眠りについたのだった。


読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら励みになります(_ _)


あと、誤字脱字なども頂けましたら……

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