表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

526/690

へい、毎度お約束を一丁

誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

 次の日、俺たちは地下迷宮ダンジョンへと向かった。

 当初の予定では、俺が2回ほど落ちたことがある崖に向かう予定だった(・・)

 

 あの崖の底には、目的の魔石、ユズールと言う男の精神が宿っている魔石がある。

 できればあの崖を下って行きたいところだったのだが……


「ここが、ハズレルート?」

「おう? 八十神はこっちに来たこと無ぇのかよ?」

「こっちはあまり人気なかったからな……」


 今回俺たちが入る予定のルートは、ほとんど整備が進んでいないハズレルートの方だった。

 いつも潜っていたメインルートは、奥の方へと行く道が崩落で塞がっており、とてもではないが魔石がある崖には行けそうになかった。


 サリオの土魔法を削岩機代わりに使って掘り進む案も出たが、地下迷宮ダンジョンの拡張が進んでいるようなので、あの崖があのまま残っている可能性は薄く、もしかすると死者の迷宮(ミシュロンド)のように深くなっている可能性もあった。


 当初はロープを伝って降りる予定だったが、さすがに高さが1キロメートル以上はあるあの崖を降りるのは危険。しかももっと深くなっている可能性が高い。


 椎名が居れば聖剣の結界でいけるかもしれないが、葉月と言葉(ことのは)が降りるのは正直厳しい。

 最悪降りることになったとしても、降りるのは少数だけにして、彼女たちは上で待機ということになった。



「よ~~し、入る前に最終点検を。それでいいかい?リーダーさん」

「……ハーティさん。絶対に面白がっていますよね?」


「はは、そんなことないよ。ちょっと弄っているだけだから」

「やっぱ面白がってんじゃん……」


 今回の探索アライアンスのリーダーは、ハーティの推薦によって俺となっていた。

 俺としてはハーティがやるものだと思っていたのだが、八十神が駄目冒険者を連れて行くと騒いだときに、『リーダーは陣内だから』『リーダーに従わないと』と、そんなことを言ったのだ。


 最初はヤツらを言いくるめるための方便だと思っていたのだが、俺はそのままリーダーにされた。


 何か仕事が増える訳ではないが、出発や休憩などの号令、そしてそれらの判断を俺が下すことになった。

 

 一応、フォローはすると言ってくれているので、そこまで気負う必要はないのだろう。


「ん? 何か呼ばれてんな。ちょっと行ってくるぜ」

「あ、葉月さん。ちょっと話っていうか、相談があるんだけど」


 二人は用事を見つけたようで、俺から離れていった。

  

「あの、懐かしいですねぇ、ご主人様。確かあの勇者様とはこのルートでお会いした記憶が」

「ん? ああっ、上杉か。そういやそうだったな……。そんなことがあったな」

 

「感慨深いものですねぇ……」

「ああ……そうだな」

 

 当時の俺は、今のような立場になるとは微塵も思っていなかった。

 あの時はラティと二人だけだったのに、今は……


「ホント、こうやって戻ってくるとはな……」


 振り返って後方を見渡すと、40名近い冒険者が地下迷宮に潜る準備をしている。

 まさか自分がこの人数を率いて、この地下迷宮に潜ることになるなど想像だにしていなかった。

 

 本当に感慨深い。


「さてと。ラティ、先頭を頼むな。ここは複雑で分かり難いから」

「はい、ご主人様。お任せください」


「うし。んじゃ、そろそろ行くか……って、何をやってんだアイツは……」


 俺はそろそろ出発の指示を出そう、そう思いサポーター組の方を見ると、そこには面倒なヤツが面倒なことをしようとしていた。


「おい、八十神。お前は何やってんだ? サポーターの邪魔をすんな」

「陣内、邪魔とは何だ。これは純粋に手伝ってあげようと思っているだけだ。だってこんな重い物を女性が背負うなんておかしいだろ?」


「おかしいのはお前だ。ちゃんと説明しただろうが!」


 この馬鹿は、サポーターの女性が背負おうとしていた背嚢を代わりに背負おうとしていたのだ。


 ヤツは元からこういうことをするヤツだ。それは分かっている。

 誰か困っている人が居たら、取り敢えず手を差し伸べる。八十神春希とはそういう男だ。


 誰かのために動くことができる。その行動はある意味美徳と言えるモノ。

 だがしかし――


「いいか、八十神? それはその人の仕事だ。その人の仕事を奪うような真似をすんな。それに、それを背負ったままで戦うつもりかよ」

「うっ、だけど……」


 チラリと横を見る八十神。

 その視線の先には、眉をハの字にした葉月がいた。


――本っ当にこの馬鹿はっ

 まさか葉月にいいところを見せるつもりってか?

 ったく、なんかホント残念なヤツになったな……



「いいか、八十神――」


 その後、この馬鹿を説教した。

 コイツが言わんとしていることは分からんでもないが、ここでは全く必要のないことだ。しかも、そもそもサポーターの女性は困っていない。

 

 むしろ八十神の行動に困惑している。


 しかしこの馬鹿は、いつもの”正義(笑)”な理論を持ち出してきた。

 もう面倒臭いから、『だったらついて来んな』と言うと、馬鹿は呆気なく折れた。


 ヤツは何が何でもついて来る気のようだ。




        閑話休題(面倒っ)




「はぁ~~面倒くさっ。やっぱ置いていきてえな」


 俺はアライアンスを後ろから眺めながら愚痴を吐く。

 ハズレルートは通路が狭いので、長い列となって地下迷宮に入っていた。

 足下が平坦でなく荒れているためか、少々戸惑っているようにも見える。


「あとは……」


 地下迷宮の入り口とは逆側に、駄目冒険者の連中が集まっていた。

 まだ諦め切れないヤツがいるようで、縋るような視線を俺に向けている。

 俺はその視線を無視して、隊列の殿(しんがり)を務めていると。


「なんだか困ったねえ~」

「葉月。お前は中央だろ。何で最後尾に居んだよ」


「えへへ~」


 ぱぁっと笑顔で誤魔化す葉月。

 隊列の先頭は【索敵】持ちのラティ。中央は勇者とサポーターと後衛、そしてその前後を盾持ちが固め、あとは適当に散らばっている編成だった。


 だから葉月がここに居るのはおかしかった。

 だが葉月がこの笑顔で押し通してくるということは、言ったからといって素直に中央には戻らないだろう。


「ったく、ほら、入るぞ。あと、足下に気をつけろよ。ここはかなり荒れているから」

「うん」


「で、何の用だよ。用があって後ろに来たんだろ?」

「ん~~、用って程じゃないけど。何となく……ほら」


 葉月はそう言って前方を目で促した。

 それに従い俺も前を見ると、そこには八十神がいた。

 何となく、何となく何を言いたいのかが解る。


「あ、陽一君。足の留め具が外れ掛かっているよ」

「へ? 外れて? お、おい!?」


 何故か葉月が、俺の腕を引っ張ってしゃがませようとした。

 グイグイと腕を下に引かれ、俺は仕方なしにしゃがんで足の留め具を確認する。

 

「やっぱ外れてねえぞ、葉月――」

「ごめんね、陽一君。私の所為で迷惑かけちゃって」


 葉月が耳元でぽしょりとつぶやいた。

 その声音には何とも言えない甘さがあり、一瞬ドキリとしてしまう。

 彼女は耳元でこれを言うために俺をしゃがませたのだろう。


「ぐっ」


 耳元と首筋が妙にくすぐったい。

 本当に一瞬だけだが、葉月の髪が柔らかく撫でていった。

 俺が童貞だったら間違いなく狼狽えていた。


 だが今は非童貞。

 みっともなく狼狽えることはなく、少し狼狽えた程度の軽症で済んだ。


「ったく。――っな!?」


 立ち上がろうとした瞬間。凄まじい不安と嫌な予感がした。

 まるで足下が崩壊でもするような、そんな嫌な予感が――


「くそ、何だよ! マズいっ!」

「きゃっ! え? 陽一君!?」


 俺は即座に葉月を抱き抱えた。

 俺の足下、腰に佩いている木刀が触れている辺りから崩壊が始まっていた。

 何が起きているのか分からないが、一つだけ分かることがあった。


 それは、俺たちが落ちること。



 俺と葉月は、突如崩壊した足下に呑み込まれていったのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、宜しければ感想コメントなど頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] なにがなんでも落ちる⤵️
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ