明かした真実
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「なん……だと? じゃあ……あれは……」
「お前はどっかの主人公か。まあいい、これが俺の知っているってか、把握していることの全てだ」
俺は八十神に、初代勇者に聞かされ、そして見せられた過去のことを話した。
判明している魔王化の条件や、過去にあった魔王との戦い。その他にも、勇者の存在によってこの異世界が崩壊するかもしれないということも明かした。
ただ、世界樹の木刀の件だけは伏せた。
この件だけは決して明かすことはできないのだ……。
「くぅ……」
「八十神、理解したな?」
最初八十神は、俺の話を頑なに信じようとしなかった。
何の根拠もない否定を続けていた。それは俺から見ても分かるほど幼い反発。そんな否定をヤツは続けていた。
俺に言われてることが気に食わない、そういう態度がありありと出ていた。
非常に面倒。
わざわざコイツを説得する必要はないが、さすがに勘違いされたままでは困る。この馬鹿がどんな誤情報を拡散させるか分かったものではない。
こんなでも勇者さまだ。情報の拡散力だけは無駄に高い。
だから最低限、”勇者”だから魔王になるという誤った認識を正す必要があった。
正直、八十神を納得させるのは無理かもしれないと思っていた。
コイツは俺のことを嫌っており、頑なに俺のことを否定しようとしていたのだから。
だがここで予想外のことがあった。
それは葉月。なんと彼女は、この話をギームルから聞かされていたのだ。
ギームルには初代勇者と会ったことを話していた。
そして聞いたことをギームルに明かし、アムさんも交えて俺たちは情報のすり合わせを行っていた。
葉月はギームルからこの話を聞かされていたようで、この話を信じないということは、『この話を信じている私のことも信じないってことだよね?』と、そんなことを言って八十神を脅したのだ。
さすがに脅すと言うのは言い過ぎかもしれないが、八十神は葉月の謎の圧に気圧され、俺が明かした話を取り敢えず信用することに……
「八十神君、これは本当のことらしいの。だからお願いね」
最後の一押しを忘れない葉月。
これには八十神も観念したようで……
「……そうか。僕はまた騙されたのか……」
「ちげぇよ馬鹿! お前が勝手に勘違いして早合点しただけだろうが!」
――くそっ、
やっぱコイツ分かってねえな?
ホントにコイツは……ったく、
「いいか、八十神。お前は少ねえ情報量で全部決めつけようとすっからそうなんだよ。その点、秋音はしっかりしてたぞ。アイツは出来る限り情報を集めて、そんでそれを精査してたぞ。今もどっかで情報収集してんだろうし」
( あと、暗殺も……な )
「え? あの秋音……さんが?」
「ああ、アイツは独りで探してんだよ。元の世界に戻る方法ってのを――って、話がまた逸れた。いいか、だから馬鹿な真似はすんなよ。南にある街に勇者たちを集めるのも、魔王が湧いたときすぐに動けるようにするためだ」
「……む、うむ、分かった」
「まあ確かに勇者を逃がさないようにしているのも事実だが、それは成り行きだ。もしかしたらユグトレントみたいに、どっかの何かが魔王になるかもしんねえし、そんときに全員ですぐに動ける方がいいだろ?」
「えっとね、八十神君が言ったことを全部否定している訳じゃないの。ただ、悪く取り過ぎないで欲しいの」
「………………ああ、理解した。葉月さんがそう言うのであれば……」
不承不承、止むをえず、仕方ない、渋々、それら全てを混ぜたような態度で八十神は頷いた。
ヤツがこうして折れたのは葉月がいるからだ。
コイツは間違いなく葉月に惚れている。
ここにやって来た動機や、先程のヤツの態度を見れば俺でも判るレベル。
( まあこの際何だっていい。コイツが理解してくれれば…… )
「いいな、八十神。さっきの話はバラ蒔くんじゃねえぞ。ハッキリ言って余計な混乱を招くだけだ。下手したら魔王討伐どころじゃなくなるぞ」
悔しそうな顔をする八十神。
何か反論したげな顔を見せるが、開き掛けた口を一文字に結ぶ。
きっと葉月にこれ以上言われたくないのだろう。
「ふ~~。話はこれで終わりだ。ハーティさんたちもお願いします」
「ああ、了解だよ。魔王の条件については言葉ちゃんから聞いていたけど、まさかさらにその先の話があるとは……。それと勇者の恩恵を利用した強化が危険な件も気をつけるよ。要は勇者の仲間をあまり増やし過ぎない方が良いってことだよね?」
「はい、そうです。ただの高レベル冒険者なら問題はないみたいです。勇者の恩恵によって強化された冒険者が増えすぎるとマズイみたいなんで……」
「ふむ。そうなると、赤城君の勇者同盟も該当するんだね?」
「ですね」
「よし、話が終わりなら迎えに行こう。サポーター組はもう着いているんだよね? そろそろ明日の準備を始めないとだし」
これ以上話をグダらせないように切り替えるハーティ。
俺はその流れに乗ることにする。
「あ、そうですね。じゃあ外に――」
「ん~~~ん? 何か静かだと思ったらみんな居ねえんだ。げっ、何でここにクソガミがここに居んだ?」
「……早乙女。そうか、コイツを忘れてた……」
「京子ちゃん……」
3階に泊まっていた早乙女が降りてきた。
どうやら今まで部屋で寝ていたようで、少し眠たそうな目をしている。
「……別にいいか、コイツには話さなくても」
「陽一君……えっとそれは……」
閑話休題
早乙女にはざっくりと話し、取り敢えず程度に納得させた。
「じゃあ人払いは解いて、みんなを中に入れようか。すぐに明日の用意を始めよう」
「はい、ハーティさん。お~い、テイシ。話は終わったから中に――げっ!」
「やっと終わったか。ずっと待っていたぞ」
「ハヅキさまっ、我らの考えは変わりません。どうか、どうか我らも連れて行ってください」
「絶対に役に立ちます。ですから――」
外で待っていたのは陣内組だけではなかった。
とてもしつけえことに、駄目冒険者の連中も俺たちを待っていた。
扉が開くとヤツらはまた殺到してきた。
非常に面倒。そしてすげえ面倒で嫌な予感がひしひしと背中に……
「うん? これはどういうことだい?」
「く、クソガミが……」
こうして、ラウンド2が開始された。
閑話休題
「いいなっ、ちゃんと理解したな? また勝手なことをしようとしたら外すからな! ってか、外してえっ」
「陣内君。一応彼は勇者だし、【宝箱】持ちが増えることは歓迎なんだよ」
「ぐっ、分かった。取り敢えず従おう……葉月さんのために」
この馬鹿は、あの駄目冒険者を連れていくと言い出した。
ヤツらに請われ縋られ頼りにされて、連れて行ってやろうと鼻息を荒くして宣言したのだ。
当然、速攻でフルボッコ。
ヤツらを連れていけない理由をひとつひとつ事細かに説明した。
大人数の方がいいだろ? という八十神に対し、人が多くなれば統率を取るのも大変だし、進行速度や食料なども影響があると言い聞かせ。
戦闘は人数が多い方が有利だろ? という主張には、狭いダンジョンでは数の力を生かせる場面は限られている。そして雑魚を連れていっても足手まといだと説明。
彼らが可哀想だろ? と阿呆なことを言ったので、『ならお前が面倒を見ろ』そして『お前たちだけで勝手に行け』『俺たちのアライアンスにはついてくるなよ』と突き放した。
言われた八十神は、『それでは葉月さんを守れない』と手のひら返し。
葉月を守るのは僕だと、駄目冒険者たちをあっさりと切った。
多分だが、ヤツは途中で気が付いたのだろう。
このついて行きたいと言っている連中の目的が、聖女の勇者葉月だということに。
そして流石は真の勇者さまと云うべきか、八十神がついて来るなと言い続けていると、次第に駄目冒険者たちは諦め始めた。
ヤツは無自覚に使っているようだが、やはり”勇者の楔”は危険だと再認識させられた。
洗脳でもされたかのように、勇者の言葉に従ってしまう異世界の人々。
こうして俺たちは、八十神を新たに加えて地下迷宮に挑むことになった。
本当は八十神も置いて行きたいところだが、コイツを置いて行くと、駄目冒険者と一緒に追って来そうなので妥協したのだった。
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