明かされた知っている真実
誤字脱字報告、本当にありがとうございます。
きょろきょろと辺りを見回していた八十神は、俺たちを見つけると鼻息を荒くして大股でやってきた。
「うへぇ……やっぱこっち来たよ」
ヤツの纏うオーラで分かる。これは絶対に面倒なヤツだ。
【心感】のない俺でも感情の色が見えるようだ。
――はぁ、何か残念なヤツになったなぁ……
学校のときは明るくてもっと余裕さがあったヤツだったのに、
いまじゃ上杉以下だな。何でこんな風に……ったく、
「おい、八十神」
「悪いな、陣内。お前には用はない」
「へ? お、おい」
やってきた八十神は、俺を無視する形で横を通り過ぎて、後ろにいる――
「葉月さん、大変なことが分かったんだ。僕と一緒に行こう」
「え? えっと八十神君、一緒に行こうってどこに、かな? 私たちは明日から地下迷宮に入る予定なんだけど」
「駄目だ、葉月さんっ。そんな悠長なことは言っていられないんだ。いいかい? 勇者が魔王になるかもしれないんだ。僕たち勇者が……。そしてレベルが高い者ほど魔王になり易いのかもしれないんだ」
「え? え? それって……」
「八十神っ、何でお前がそれを知ってんだ!?」
「ん? ああ、フユイシの街とか回って調べてきたんだ。どうやら貴族たちの目的は、魔王を倒すために勇者を召喚するけど、その勇者のうち一人を魔王にして、残りの勇者たちで魔王を倒すことが目的だったんだ。そんな非道なことをヤツらはやろうとしているんだ」
「勇者が魔王に……?」
「そうなんだよ。だから大勢の勇者を召喚したんだ。このままじゃ僕らは殺し合いをさせられるんだ。だから葉月さん、こんな場所に居ないで、どこか誰も居ない場所に身を隠そう」
そう言って葉月に手を差し伸べる八十神。
ヤツはキリッと決めたつもりのようだが、周囲は完全に静まり返っていた。
葉月はどうしたら良いのか困惑している。
「あ~~、すまんテイシ。みんなに人払いを頼めるか? 八十神、少しだけ待て。このままじゃ混乱する」
「……ああ。分かった」
俺は陣内組のメンツに人払いを頼み、これ以上この話を聞かれないように手配した。
速やかに人を遠ざけ、この場に残っているのは俺と勇者、冒険者からはラティとハーティだけになった。
そして誰も聞き耳を立てていないことを確認した後、俺は八十神に訊ねる。
「なあ、八十神。一つ聞いていいか?」
「なんだ陣内。これは僕が自分で調べたことだよ? 何かケチでもつけるつもりかい?」
「いや、そんなんじゃねえ。ただ一つだけ知りたいんだ。お前は貴族の所を回って調べたって言ったよな? じゃあ行進のことは知ってるか?」
「行進? なんだいそれは? 何かカマかけでもしようとしているのかい? 残念ながらその手には引っ掛からないよ」
( ……ラティ判定は白か )
「いや、知らないのならいいや」
――ギームルが言っていたことはこれか、
くそっ、面倒なヤツに知られたな。まさかコイツが貴族巡りをするとは……
俺は心の中で舌打ちをする。
この件は時期を見て混乱が起きないように明かすつもりだった。
だが八十神は、貴族が治める街を回ってヤツなりに調べ上げたようだ。
情報源のフユイシの街は、ボレアス奪還のときに降伏勧告で向かったことがあるはず。だからそのときに繋がりができたのだろう。
そして死の行進のことは知らないようなので、老エルフなどとの接触はなさそうだった。その件には胸をなで下ろす。
「さあ、葉月さん。僕と一緒に行こう。このままじゃ貴族たちに利用されるだけだ。君を危険に晒したくないんだ」
「えっと……」
葉月が助けを求めるような視線を向けてきた。
よく見れば、言葉も俺の方を見詰めている。
俺はその視線に応じ、ヤツの前に一歩出る。
「なあ八十神。お前はちゃんと考えてそれ言ってんのか? 周りへの影響とかそう言うの全部含めて」
「え? 考える? どこに考える必要があるって言うんだい? 貴族は僕たち勇者のことを利用することしか考えていないんだよ? こんなこと考えるまでもない。陣内はこの事実を知らなかったからそんなことを言えるんだよ」
爽やかな主人公面で『フッ』と笑みを見せる八十神。
だからさぁ、とばかりに、また手を差し伸べようとするが。
「はぁ~~~~~~~~~~。いいか八十神? 多分だけど、赤城はこの事を知っているぞ。だけど無用な混乱を招くから伏せている。きっと時期を見て話すつもりなんだろうなアイツも」
「――なっ!? 知っているのに黙っているってことかい!?」
「あとな、俺もこの件は把握している。俺の場合は、初代勇者の仲間の亡霊みたいなモンから聞いたんだ。そのときは言葉も一緒にいた」
こくりと頷く言葉。
それを見て八十神は大きく目を見開いた。
「それともう一個追加するとな。魔王になるのは勇者じゃなくて、価値ってか貴重なモノが魔王になるんだ。調べたんなら知っているよな? 冒険者だって魔王化したことがあることを。もっと遡ると、でっかい竜核石が魔王化したこともあるぞ」
「そ、それはそうだけど……。でもっ、勇者が魔王になったことがあるのは事実だろ? だったら同じことだ。貴族は僕たちを魔王にするつもりで――」
「――勘違いすんな。いいか? 勇者が魔王になったってのはイレギュラーだ。想定外のことだったんだよ。勇者を喚んで助けてもらうってのは間違ってねえが、魔王となる者を喚ぶってのは誤解だ」
「ぐっ、だけど、結果的には魔王になる危険性はあるんだろ? だったら同じことだ。ヤツらは自分たちのために僕たちを巻き込んだんだ」
「ああ、それは間違ってねえな。この異世界を守るために勇者召喚ってのをやっているな。――だけどよう、お前はそれに同意したよな? 僕がやってやるって感じで。しかも一番最初に」
「あ……」
「それとな、ちょっと話は戻るが。――アホかお前はっ!! さっき言った話は伏せられていたことだろうが! それを考えなしに明かしてんじゃねえよ! この話が広まったらどんな影響が出るか分からねえのかよ!」
「そ、そんなの隠している方が悪いんだ」
「ああっ、確かに悪いな。だが敢えて伏せていたとも言えんだよ! 魔王になるかもしれねぇ連中がいるんだぞ? そんな連中、勇者たちを街のヤツらが素直に受け入れられるか? そういった軋轢を無くすための配慮とも言えんだろうが。少なくとも街中でぶちまけてんじゃねえ! まさか明かすことが正義とか、そんな下らねぇことを考えてんじゃねえだろうな」
俺は一気に捲し立てた。
だが当然、自分の言っていることが全て正しいとは思わない。
八十神が言っていることも間違いではないのだ。
しかし俺は、初代勇者に過去を見せられて全ての経緯を知っている。
だから八十神が言う主張には決して頷けない。
勇者と貴族は持ちつ持たれつだ。
特にコイツは、その貴族から散々援助を受けていたはずだし、多大な配慮もあったはずだ。
それなのにコイツは全部蹴っ飛ばそうとしている。
( あっ、そうか。コイツはこの異世界との繋がりが薄いのか…… )
きっと八十神は上辺だけだったのだろう。
この異世界の誰かと真剣に向き合ったことがない。
真剣に誰かを守ろうと思ったことがないのかもしれない。
八十神が頑張ってきたのは、コイツの中にある正義とやらのためなのかもしれない。
俺にラティやモモちゃんがいるような、そういった繋がりが薄いのだ。
だから八十神は、この異世界を切り捨てる選択とも言えることができるのだ。
全てが嫌だからと、何処か人目につかない場所に引っ込んだって何も解決しないというのに……
「……はあ、仕方ねえ。ちょっと俺の話を聞け。これは初代勇者から聞いた話だ……」
俺は、この状況を少しでも良くするために、初代勇者から聞いた話を全員に聞かせることにしたのだった。
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あと、誤字脱字なども……