主人公顔は遅れてやってくる
誤字報告本当にありがとうございます(_ _)
「……さすがに大所帯になってきたな」
「あの……確かにそうですねぇ」
俺のつぶやきに、隣に座っているラティが相槌を打つ。
宿屋の一階の食堂は、俺たちのアライアンスでパンパンの満席だった。
何人かは座ることができず、立って食事をとっている者がいた。
「……宿を二つに分けるか」
俺たちの地下迷宮攻略組は、ハーティ率いる三雲組と合流してなかなかの大所帯となっていた。
いままでの宿泊先は、公爵家やその離れだったりしていたので、このぐらいの大所帯でも狭く感じることはなかった。
だがここはルリガミンの町。
50名を超える団体がゆったりとできる規模の建物はなかった。
勇者たちを護衛するために、何人かは床で雑魚寝をしていた。
「はっ、なんか部活の合宿を思い出すな」
向かい側に座っていた上杉が、ぐるっと見回しながらそんなことを口にした。
「ああ、野球部の合宿か? へえ、こんな感じなんだ……。あ、そうだ。上杉、お前にちょっと訊きたいことがあったんだ。なあ、あの何とか流ってなんだ? あれって初めて聞いたんだけど」
「おう、オレの葬烈剛斧流のことか? あれはオレが創った流派だ。 どうだ、かっけえだろ? もう弟子入りしてきたヤツもいるんだぜ」
「はあ!? 弟子入りってアレにか? 誰だよお前のアレに入る馬鹿って」
「ん? お前のところの猫人のヤツだよ。ほら、異様にごっつい鈍器みたいな斧を持っているヤツ」
「ぶはっ、うちのテイシかよ! 何でそんな血迷った真似を……」
「いや、結構いるみたいだよ陣内君」
「へ? ハーティさん」
俺たちの会話にさらりとハーティが入ってきた。
そしてそのまま話の続きを始める。
「勇者さまの創った流派に憧れて、それで弟子入りするって冒険者ってのは結構いるんだよ。昔はアルベン流剣術とか、地天御剣流ってのが流行ったみたいだね。まあ、WSがあるから、すぐに廃れたみたいだけど……」
転生者であるハーティは、その流派の元ネタを知っているのだろう。
クスクスと笑いながら言ってきた。だがすぐに表情を引き締めて本題を切り出してくる。
「陣内君、地下迷宮に潜るのは明日でいいんだよね?」
「はい、今日の午後にはサポーター組が来るんで、そんで編成を組んで、そんで~って感じですかね? そんで細かいことも決めないとって感じです」
サポーター組の予定は、中央に居るオラトリオから連絡がきていた。
攻略に必要な物資も同時に到着するので、到着次第仕分けをして勇者たちの【宝箱】に収納する予定だ。
予定外の上杉も居るので、より多く詰め込むことができるだろう。
「そうか、じゃあ取り敢えずこのまま待機の方がいいかな? 【宝箱】に入れる物とかちゃんと決めたいだろうし」
「ですね、その方が助かります――ん? ……また来たのかアイツら」
ハーティと話をしていると、急に外が騒がしくなってきた。
その騒ぎには心当たりがある、またアイツらが来たのかとうんざりする。
「……ごめんね、陽一君」
「いや、葉月が悪いって訳じゃねえ。強いて言うなら……勇者ってのが悪い。ったく、面倒なヤツらだ……。ちと行ってくる」
「うん、任せちゃってごめんね。私が行くと……」
俺は葉月の言葉に、『気にすんな』と、手のひらをヒラヒラと振って入り口に向かった。
そして宿の入り口を潜ると、あの駄目冒険者の連中が集まってきた。
「頼むっ、オレ達も役に立ちたいんだ。だからオレ達も地下迷宮攻略ってヤツに連れて行ってくれ。頼むっ、オレを男にしてくれっ!」
「オレは聖女様の盾になりたいんだ。身体を張って聖女様を守る盾に」
「おれだってそうさっ、おれも聖女様のためだったら命だって惜しくねえ。聖女様に救ってもらった命だ。だったら聖女様にこの命を使いてぇ」
オレもオレもと懇願してくる駄目冒険者たち。
駄目冒険者の連中は、ハリゼオイによって負わされた怪我を葉月に治してもらい、その癒やしからか葉月の信者となっていた。ヤツらは昨日に続き今日も来たようだ。
確かに怪我を治してもらったのだから、それに対して感謝の気持ちを抱くのは普通のことだろう。
だがその感謝の思いが暴走していた。少なくとも俺からはそう見えた。
――ったく、何だよこりゃあ……
ひょっとしてアレか? もしかしてアレか?
葉月の回復魔法には、男を魅了する効果でも付加されてんのか?
「オレはハヅキ様のためだったら命を捨てたっていいっ、だからオレを!」
「喧しいっ、この駄目冒険者ども! テメェらに無駄なMPを割く余裕なんてねえんだよ! さっさとどっか行け! 店に迷惑だ」
「お前こそウルセえ! てめえには用は無ぇ! なに代表面してんだよ。オレ達はハヅキ様に会いに来たんだ!」
「そうだそうだ! オレ達は聖女のハヅキ様と話をしたくて来たんだ。ちょっと知り合いだからって調子乗んなよ! ボッチ・ライン」
キレッキレの手のひら返し。
断られた瞬間これだ。コイツらは俺を舐めている。
しかしその一方、実力差は理解しているようで、ヤツらは一歩たりとも前に出てこない。俺が前に出たらその分後ろに下がる。
ヤツらが強気でいられるのは、こうして群れているからだろう。
「…………ちっ、もう全員埋めるか」
「陣内君、待った」
「…………」
ハーティが様子を見かねて飛び出してきた。
俺は無言で続きを促す。
「ここは僕たちに任せてよ。唯ちゃん、ちょっと手伝ってもらえるかな? 勇者さまが隣にいる方が色々と説得力が増すからね」
「う、うん」
突然呼ばれて戸惑いつつも、嬉しそうに頬を僅かに染める三雲。
『うん』と言う素直な返事がとても似合わない。
どうやらハーティは、俺に代わってこの場を収めるつもりのようだ。確かに喧嘩腰の俺よりも適任だろう。
しかし俺としては、まずお前を埋めてやりたい衝動に駆られた。
「あの、ご主人様。ここはお任せしましょう」
「……ああ」
さすがはラティさんと言うべきか、すぐさま俺を引っ込めにきた。
どうやらハーティは命拾いしたようだ。
ラティが居なければ埋まっているところだった。
閑話休題
「あの、何と申しますか。流石ですねぇ」
「ああ……」
俺は完全に引っ込まず、ハーティが見える位置に留まっていた。
話が決裂しようものなら両方とも埋める予定だ。
しかしラティが流石と評すように、ハーティは上手いこと駄目冒険者たちを諭していた。
ただ、理論的に説得しているので、感情的な信者を説き伏せるには一歩足りない様子。だったが――
「三雲様もそうですよね?」
「う、うん――じゃなかった。そう、彼の言う通りよ。地下迷宮攻略は人が多ければ良いってモンじゃないのよ」
ハーティは勇者を上手いこと使い、感情的なヤツらを宥めようと試みていた。
三雲も葉月と同じ勇者だ。
その三雲に諭され、だんだんとヤツらのトーンが下がっていく。が――
( ほう、あの三雲がね~ )
三雲がハーティに惚れていることがありありと見て取れた。
相手はあのハーティだ、一応分からなくもない。
だがしかし――
「やっぱ、埋めるか」
「えっと、陽一さん。埋めるって何のことですか?」
「言葉」
言葉も心配になったのか、俺のすぐ側までやって来ていた。
俺に話し掛けながら、どこか羨ましそうに三雲とハーティを見詰めている。
「なあ、言葉。この町で人を埋めやすい場所って知らないか? できれば野良犬とかよく通りかかる場所が理想なんだけど」
「えっと……埋めやすい場所ですか?」
「あの、ご主人様……」
ラティさんがジト目で注意してくる。
仕方ないので埋めるのはいったん諦める。
「しかし、まあ、回復魔法一発でここまでになるとは……」
『葉月も大変だな』と、そんなことを口にしながら言葉を見ると、彼女は何とも言えない苦笑いを浮かべていた。
俺はそれを見てふと気付く。
「あ~~、ひょっとして……言葉も似たようなことが?」
「……はい。その……何度か……」
「なるほどね」
どうやら言葉もこれと似たようなことがあったようだ。
やはり勇者の回復魔法には、何かしらの成分が含まれているのかもしれない。
そんな考察をしていると。
「あの、ご主人様。少々面倒な方が近づいております……」
ラティが俺だけに聞こえるように言ってきた。
俺は頭の中で該当者をリストアップする。ラティが言う面倒なヤツが誰なのか巡らせる。
――面倒なヤツ……
まさか橘が来たのか?
いや、さすがにそれはないか、アイツはまだ西だし、
そうなると、あとは………………あっ!
「ラティ、まさか八十神が来てるのか?」
「はい、そうです。それもあまりよろしくない、何か憤った感情で向かって来ています。あとは焦りでしょうか……」
「怒りと焦り?」
このやり取りから1分後、俺たちの前に、面倒そうな気配を纏った八十神春希が姿を現したのだった。
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