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葬烈剛斧流

 首以外のモノが飛び散っていた。

 そう表現するしかない、そんな光景が目の前に広がった。


「うわあああああ!!」

「来るなっ」

「ひいっ、助け――ぎゃあああああああっ!!」

「だから止めようって言ったんだよ! 何個も魔石を置くのはっ!」

「うるせえ! 今はそれどころじゃ――うわああ!! っがあ、俺の腕がぁあ」


 魔石より湧いた二体のハリゼオイが、不意を突かれて固まっていた冒険者たちを薙ぎ払っていく。

 咄嗟に身を庇った冒険者の腕が、また一本悲鳴とともに宙を舞う。


「おい、壁になれ」

「ああ、そっちもっと詰めろ」


 そんな悲鳴が上がる中、勇者(葉月)たちの壁になっていた陣内組のメンツは、その凄惨な光景が彼女たちの視界に入らぬように動いていた。

 葉月がすぐに駆け出そうとした様子だが、それをテイシが止めていた。


 葉月もそれなりの修羅場をくぐり抜けている。

 仲間に危険だと止められたのであれば、前衛より前に出るような無謀な真似はしないようだ。


 そして俺は、こんな状況であっても、この駄目冒険者たちを助けるつもりはなかった。

 

 ヤツらはヘマをやらかしたのだ。

 魔石魔物狩りにおいて大事なこと、湧いた直後の初動をしくじったのだ。

 これは単純にヤツらの責任。妬みの感情から気を取られて注意を怠った。


 だからこれは当然の結果。

 仮に全滅したとしても、それはヤツらが迂闊で甘かっただけ。

 地下迷宮ダンジョンではよくあることだ。


 だから俺は、ヤツらを助けるつもりなどさらさらない。

 そもそもヤツらは、俺からラティを奪おうとしたことがある連中だ。

 死んでも一向に構わない。俺は本気でそう思っているが――


「――だあああっ! ちくしょうっ! とっとと下がれ!」


 【加速】を使って駆け出し、命を刈り取りにきた鋭爪を弾き逸らした。

 狩りを邪魔されたハリゼオイが、ゆらりと俺の方に顔を向ける。


「こちらはわたしが引きつけますっ!」

「他の落ちている魔石を回収しろ! こういったときは釣られて次が湧くぞ!」

「そっちはどうだ!? こっちは無しだ」

「ジンナイっ、そのままそこで押さえてろ! 魔法いけるか?」

「んだばぁ」


 俺以外にも弾けるように飛び出した。

 これ以上負傷者を出さないようにと駆け回っている。


「負傷者を退かせろ! 馬鹿野郎っ、腕の回収なんて後だ!」

「こっち、手を貸してくれ。アホか、その手じゃねえ」

「そこっ、道を空けろ。うげ、何か踏んだ!?」



 こんな修羅場(光景)は俺たちにとっては当たり前、覚悟の出来ている光景だ。

 だが――


「野郎ども、気張れっ、勇者さまにこんな汚えモンこれ以上見せんなよ」

「おうさ、こんなお目汚しはさっさと終わらせるぞ」

「そこの倒れているヤツを引っ張れ。邪魔だ」

「おいっ、テメエらも手伝えっ。野良の集まりだとしても仲間(パーティ)だろうが!」

「回復が使えるヤツはどいつだ! さっさとコイツの血を止めてやれ」


 俺たちは、葉月と早乙女のために動いた。

 こんな連中はどうなっても構わないが、彼女たちの目の前で死なれるのは迷惑だ。俺たちはともかく、葉月と早乙女には影響があるだろう。

 

 いくら彼女たちが多少は慣れてきたとしても、必要のないものを見せる必要はない。


 ( 速攻で終わらすっ! )

 

 ハリゼオイの爪を槍で横へといなし、その僅かに出来た隙へと踏み込む。

 ヤツの足には、土で出来た蔓が巻き付いている。

 距離が取れず苦し紛れに振るってきた爪は、身を低くしてそれを掻い潜った。

 額の面当てに爪が掠めたが、俺は怯むことなくハリゼオイの懐に飛び込み――


()ったぁああ! ファランクス!」


 俺の咆吼に応じ、小手から見慣れた幾何学模様の魔法陣が展開する。

 身体の内から爆ぜたハリゼオイは、そのまま黒い霧へと姿を変えた。


「あ、が……? マジか? 単独であいつを? しかもあっさりと……」

「は? いまのWS(ウエポンスキル)じゃねえよな? 結界で吹き飛ばした? まさかあの与太話はマジだってのかよ。これがあの必殺(フェイタル)……」

必殺(フェイタル)。そうだったな……」


 ハリゼオイを倒した俺を見て、逃げ惑っていた駄目冒険者たちが驚愕に声を漏らしていた。

 俺はそんな声は無視して、もう一体のハリゼオイへと目を向けた。


「ふう、あっちも終わるな」


 もう一体のハリゼオイは、丁度テイシによって黒い霧へと変えられるところだった。

 二体のハリゼオイを倒し、少しだけ弛緩した空気が漂い始める。


「――まだですっ!」


 緩みを吹き飛ばす、そんな凜としたラティの声が響いた。

 

 ラティの声が示す先を見ると、なんと三体目の魔石魔物が湧こうとしていた。

 回収仕切れなかった魔石から、剣山のような背中と、鋭利な3本の爪を生やしたハリゼオイが――


葬烈剛斧(そうれつごうふ)流奥義! ”葬乱っ”!」


 背中から爆ぜるように叩き斬られ、黒い霧へと姿を変えた。

 なんとあのハリゼオイが、背中への攻撃で倒されたのだった。


「へ? 背中からって。あのハリゼオイの背中からだと!?」

「あの、ご主人様。あの方は……」


 黒い霧が晴れていくと、斧を背負った一人の男が姿を現した。

 剣山のような背中の針を物ともせずに、その針ごと叩き折った男が――


「おう、陣内。久しぶりだな」

「上杉……ってか、すげぇ刺さってんだけど、大丈夫かお前?」

「はっ、こんなのかすり傷だぜ。それと話は聞いたぜ、この地下迷宮ダンジョンを攻略すんだろ? オレ様が手伝ってやるぜ。だから取り敢えず……葉月さん、回復魔法を頼む。顔が超痛え……」


 上杉の顔には、飛び散った背中の針が何本も突き刺さっていた。

 あと数センチ横だったら失明していたかもしれない。そんな場所にも針が刺さっていた。


 やはりハリゼオイの背中には攻撃してはいけない。

 そう再認識できたのだった。




          閑話休題(馬鹿がきた)




「おう、この世界を救うために必要なことなんだよな? その地下迷宮ダンジョン攻略ってのはよう」

「ああ、絶対に必要なことだ」


 地上に戻った俺たちは、合流した上杉とテーブルを囲っていた。

 早乙女は席を外し部屋に戻ったが、ラティと葉月は隣にいる。

 そして上杉は、いつも通りの少し上からな感じで話し掛けてきていた。


「なあ上杉、一つ聞いていいか? お前ってそんなに真面目に戦うヤツだったか? どっちかっていうと駆け付けてくるタイプじゃねえだろ? 呼ばれたりしたら来るかもだけど……」


 俺は何となくだが上杉を疑っていた。

 助けて欲しいと請われたら来るかもしれないが、そうでない場合は来ない。

 

 それにコイツは目立ちたがり屋だ。少なくとも地下迷宮ダンジョン攻略という面倒で地味なことに自分からやってくるタイプではない。

 前よりかは話せるようになったが、上杉の行動には違和感を覚えた。


「陣内、オレはなぁ、マジでこの世界を守りたいんだよ」

「……守りたいねえ。で、それが理由なのか?」


「おうさ、オレはアルテシアのために守りたいんだ。この異世界(イセカイ)を……」

「ん? あるてしあ? あれ? セーラって名前じゃなったか? 彼女ってか、嫁……さんの名前」


 同級生の結婚した相手を呼ぶときに、何と言ったら良いのか一瞬悩んだが、取り敢えず嫁さんと言っておいた。すると――


「うん? あ~~そっか。陣内にはまだ言ってなかったか? うちの子供の名前を。うちの子はアルテシアって名前なんだよ」

「ああっ!」


 上杉の発言には、ラティと葉月も目を丸くして驚いた。

 確かに子供が出来たことは聞いていた。だがその後のことはあまり把握していなかった。


 最初はセーラを人質のようにノトスに滞在させていたが、無用な反発を生むかもしれないとナツイシ家に返していた。


「そりゃそうか、もう産まれているよな……」

「超可愛いぜうちの子は。マジ天使でよう、世界一可愛いんだよ」


 アルテシアという赤子は本当に可愛いのだろう。

 その思いがよく伝わってくるマヌケ面を上杉は晒していた。

 だがしかし――


「なあ上杉。お前は一つ勘違いしてんぞ」

「あん? 何をだよ?」


「いいか、世界で一番可愛いのは、うちのモモちゃんだ」


 俺は上杉の間違いを指摘してやった。

 会ったことはないが、誰がどう考えてもモモちゃんよりも可愛い子はいない。

 これは決して揺るがない事実なのだ。


「……おい、陣内。うちのアルテシアが劣るとでも?」

「お前は見たことがないかもしれないが、うちのモモちゃんのテンチラはすげぇぞ? 可愛い過ぎて膝にくるんだぞ? こんな感じで『チラチラ』ってやってくんだよ」


「うげっ、気持ち悪り。てめえがやんな陣内。まあ、そのテンチラってのは分からんでもない。――だけどなあ、うちのアルテシアには天使のトントン、略して”テントン”ってのがあんだぞ? こうやって地面をトントンってやって膝に乗っけてってやってくんだよ。大体、膝にくるだぁ? そんなもんは当たり前だろうが。速攻で膝をついて乗っけているっての」 


「ああん? 上杉、お前は何言ってんだ? 確かにそれもいいかも知んねえけどよ、それは乗っけたら終わりだろ? テンチラはいくらでも続くんだぞ!」

「アホか、そっからテンキャッキャに繋がるんだよ。あ~~あ、久々にキレたぜ……」


「ああん、裏いくか?」

「ああ、白黒つけてやんよ。陣内」



 この後俺と上杉は、葉月の仲裁によって両成敗となった。

 葉月曰く、誰でも我が子が一番可愛く、そしてそれは何人(なんびと)たりとも否定してはならない。


 要は、相手が自分の子供を一番可愛いと言うのであれば、優劣などつけずに何も言うなということなのだろう。

 

 

 こうして中央地下迷宮ダンジョン攻略チームに、勇者上杉が参加することになった。

 

 そしてそれから三日後、待っていた三雲組が到着したのだった。


読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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