面倒からのプチ面倒
「誰かに聞いて回るしかないかなあ」
「あんまり騒がない方がいいかもだよぉ? ボクらの仕事は魔力の渦を見ることなんだし……」
「その渦が下りていた人なんだよ? ちょっと興味――じゃなかった、ちゃんと渦を観測し続けるためにも必要なことだよ」
「ミニムってああ言うのが好きだよね。趣味が悪いっていうか、ドロドロとしたモノとか汚い色合とか大好きだよね」
「そうじゃないから!」
何やらわっちゃわっちゃとやっている銀髪の双子。
俺とラティは、ヤツらに気が付かれぬように身を潜め、二人の会話を盗み聞きしていた。
ヤツらは世界樹の木刀の件を知っている。
だがしかし、その情報の価値を正しく理解しているのかどうかはまだ不明。
会話の内容を聞いている限りでは、興味があるから知りたいといった様子だった。
「――だってやっと来たんだよ、前はすぐに居なくなっちゃったし」
「そりゃあ冒険者みたいだし、住所不定者のようなヤツらなんだから、稼げる所があればそっちに行くんでしょ」
「だからよ、だからあの渦の人が居るうちに……」
「ん~~~、でも迂闊なことは控えるべきだよ。魔王の特定なんて案件は簡単に扱っていいもんじゃないし、それに止められていたよね? 下手に不安を煽るような真似はするなって。さっきミニムも言っていたけど、ボクらの仕事は魔力の渦を観測することだからね。あまり余計なことは控えるべきだよ」
「……そうだけどさぁ」
片方が言いすがり、もう片方がそれを窘める。そんな会話が続いていた。
俺は二人の会話を聞いて、これからどうしたら良いのか分かった。
ミニムと呼ばれている方は積極的だが、もう一人の方は消極的。
俺から直接話を聞かない限り、事が大きくなることはなさそうだった。
要は、俺が居なければ良いのだ。
燻ったモノは燻ったままにしておけば良い。燻った薪と同じようなものだ。
引っかき回さなければ火が点くことはない。
理想は口封じだが、さすがにそれをする訳にはいかない。
それはなんぼなんでもやり過ぎだ。
しかしだからといって、口止めをするという方法も無理だろう。
俺が勇者だったら、これは内密になどと釘を刺すことができたかもしれないが、生憎俺はただの雇われ冒険者だ。
当然、葉月たちに頼む訳にもいかない。
だから――
「ラティ、城を出るぞ」
「あの、このお城をですか?」
「そうだ、いっそこの街からも出よう。もうルリガミンの町に行っちまえばいいんだ。そうすりゃアイツらも諦めんだろ」
俺がこの中央に居なければ回避できるのだ。
これは希望的な憶測とも言えるが、ヤツらは他の者に木刀の件を聞いて回ることは無さそうだ。
だから居なければ良いのだ。俺が居なければヤツらが嗅ぎ回ることはないはず。
「よし、陣内組の所に戻るぞ。ラティ、案内を頼む」
「はい、ご主人様」
こうして俺は、この銀髪の双子から逃げることを選択したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
陣内組が泊まっているところに向かった俺は、彼らにルリガミンの町に先乗りすると伝えた。
先に下見しておきたいと、そんな適当な理由を告げて、俺とラティだけでルリガミンの町に向かうことにした。
すると陣内組のメンツが、自分たちもルリガミンの町へ行くと言い出した。
その理由は居心地が悪いから。
陣内組が泊まるために用意された場所は、予備兵力を泊めるための建物だった。
よく考えれば当たり前のこと。30人近い人数の冒険者が押し掛けて来たのだ。貴族が泊まるような客室を用意するはずがないし、勇者たちほど好待遇という訳ではない。
あまり詳しいことは分からないが、取り敢えず居心地が良くないそうだ。
だからもっと気楽な街の宿に泊まろうとか、そんな相談をしていたところに、俺がルリガミンの町に行くと言い出した。だったら自分たちもとなったようだ。
しかし彼らは勇者の護衛でもあるので、半数はそのまま残ることになった。
サポーター組は持って行く物資の都合上、全員残った。
こうして俺とラティ、あと陣内組の半数でルリガミンの町へと向かった。
ガラガラと揺られる馬車。
ルリガミンの町行きの連絡馬車ではなく、自前の馬車で向かう中、ラティが俺に話し掛けてきた。
「あの、ご主人様。ハヅキ様とサオトメ様にお伝えしなくてよかったのですか? ルリガミンの町に先に向かうと……」
「ん? 伝言役にサリオを残したから問題ないだろ?」
「あの、そういうことではなくて……あの」
「…………平気だろ。たぶん」
ラティが何を言いたいのか分かる。
俺が勝手に居なくなったのだ。残された二人はあまり面白くないだろう。
葉月の方は、何かあったのだろうと察してはくれるが、早乙女の方は期待できない。置いて行かれたとキレる可能性もある。
「…………大丈夫だ。そのためのサリオだ」
「あの、サリオさんが生け贄のように聞こえたのですが」
「大丈夫だ、サリオはタフだ。このために普段からアイアンクローで鍛えているんだ。それに結界も強化されたみたいだからな、だから大丈夫だ」
「あの、もの凄く不安になってきたのですが……」
「大丈夫だ」
俺は会話を打ち切るように視線を窓の外へと向けた。
窓の外には、少しずつ近づいてくるルリガミンの町が見えた。
魔王ユグトレントによって半壊したと聞いていたが、思っていたよりも復興は進んでいるようだ。
街の端の方が少し荒れてはいるが、それ以外は普通に見える。
「あの、そろそろ着きますねぇ」
「ああ……」
とても懐かしく感じる光景。
この異世界に来た当初は、ここが俺の拠点になると疑っていなかった。あの事件が無ければあのまま滞在していただろう。
( あ……そうか、約二年ぶりか…… )
「そろそろ着くぜえ。降りる用意を」
思いに耽っていると、御者台から声が聞こえてきた。
あと数分でルリガミンの町に到着する。
「まずは泊まる宿の確保からだな」
「はい、ご主人様。以前泊まっていた宿がまだやっていると良いですねぇ」
「そうだな、そこにするか」
こうして俺たちは、約二年ぶりにルリガミンの町へと入ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジンナイ、頼むよう、俺たちと魔石魔物狩りをしてくれないか? 最近マジでキツくてよう……借金も減らねえし」
「頼むっ、あのときのことは水に流して、おれたちを助けてくれないか?」
「他のは何とかなるんだが、ハリゼオイだけはヤバイんだ。今日も一人やられて……だから頼むっ」
泊まる宿を決めて、もう日が沈む時間だったので、俺たちは宿の一階で食事をとっていた。
明日の予定などを、陣内組のメンツと話し合っていた時、ヤツらがやってきた。
昔、約二年ほど前、俺たちを襲撃してきた冒険者が、魔石魔物狩りができないと雪崩込んできたのだった。
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あと、誤字脱字も……