あ、面倒なヤツや……
誤字報告、本当にありがとうございます。
中央に着くと俺たちは案内のもと城へと通された。
無用な混乱は避けるために、勇者たちは馬車から顔を出さぬように言われ、俺たちは真っ直ぐ城へと向かった。
住民の何人かは、馬車の長い隊列を見て察し、何とか勇者を一目見ようとしていたが、迎えの兵士たちに遮られていた。
こうして俺たちは無事中央の城へと到着した。
だがいつも通りのお約束というべきか、城でも勇者に顔を覚えてもらおうと思う連中が殺到してきた。
何処かの貴族なのか、それとも要職に就く者なのか、それはもう見事な笑顔を張り付けて。
俺はまた面倒なヤツらがと、そう思ったが――
『申し訳ありません。すぐにお連れしろとのことですので』
ギームルの代役オラトリオが、そう言って寄ってきた連中を退かせた。
中にはオラトリオのことを若造と侮る者もいたが、そういった者は少々手荒に排除されていた。
ギームルが言っていたことは真実だった。
中央はギームルとオラトリオによって掌握されているようだった。少なくとも俺にはそう見えた。
陣内組とサポーター組は泊まる場所へと案内され、俺とラティ、そして勇者の葉月と早乙女はさらに先へと案内された。
その案内された先は王の間、アイリス王女がいる場所まで案内された。
仰々しい扉の前で、案内を務めていたオラトリオが振り向く。
「こちらです。勇者ハヅキ様と勇者サオトメ様は中へどうぞ。ジンナイ様はこちらに……」
「ん?」
「え? 陽一君も一緒じゃないの?」
「おい、なんで陽一だけ?」
「はい、ジンナイ様だけはこちらにどうぞ」
オラトリオは、俺だけ他に案内すると言ってきた。
俺は即座にラティへとアイコンタクト。
( ……無しか )
ラティからのサインは、悪意や害意は無しとの合図だった。
何かを企んでいるようだが、それは罠などといった類いのものではなく、純粋に何か用事があって俺だけを呼んだ様子。
しかしだからといって、迂闊について行くほどヌルくはない。
まず出方を窺う。
「……すいません、勇者じゃなくて俺だけ用があるってことですか?」
「はい、その通りです。あるお方からの希望を伺っておりまして……」
そう言って視線を下へと落とすオラトリオ。
その仕草は、何か気まずいことがあって視線を下に落としたのではなく、察しろという意思が込められていた。
俺はその意図を汲み、下を示す意味を考える――
――あっ、地下の牢獄かっ
確かエウレカとかって言う所だっけかな?
と、いうことは……
「あるお方から?」
俺はカツカツと床を鳴らしながら訊ねた。
「はい、そこにいる方がお話をしたいと……」
「――っ」
俺は即座に思考を巡らす。そしてすぐに答えに行き着いた。
オラトリオは、幽閉されている勇者のうちの誰かが俺に会いたいと言っているのだ。
そんなことを言いそうなのは一人だけ。
「分かりました、話は別の場所でお願いします。そこで話を聞きます。ラティ、一緒に来てくれ。葉月、早乙女、ちょっと行ってくる」
俺は彼女たちにそう言った後、廊下を歩いてその場から離れた。
オラトリオに案内させるのではなく、勝手に人気の無さそうな場所へと向かった。
見通しが良く、何が起きてもすぐに動けて囲まれ難い場所。
俺は中庭に面した場所を選び、そこで足を止めた。
そしてオラトリオと向かい合い、ヤツの後ろにラティを配置した。
オラトリオからラティの顔は見えないが、俺からは彼女の顔が見える位置取り。
何か嘘を吐いた場合は、すぐにラティから合図をもらえる。
「すいません、部屋だとあれなんで。ここで聞かせてもらっていいですか?」
「…………本当に用心深いんですね。聞いていた通りだ」
「ええ、それなりの目に遭っていますからね。で、荒木が何か言っているんですか?」
「これはこれは、話が早くて助かります。はい、勇者アラキ様がジンナイ様を呼べと叫んでおりまして。そこそこ大変なことに……」
「あ~~~、なるほど。ずっと喚き散らしている感じか」
「はい、その通りです。それをお伝えしたくて」
状況はとても想像しやすかった。
あの荒木が大人しく牢屋に繋がれたままのはずがない。
もし脱走ができるなら間違いなく脱走しているだろう。
そして不満があれば喚き散らして大暴れしているはずだ。
「なるほど。それで俺に会わせれば少しは大人しくなるかもと?」
「はい、正直なところそれを期待しております。どうでしょうか? アラキ様にお会い頂けますでしょうか?」
「あ~~、なら条件がある。あれだ、会ってもイイけどまた半殺しにしてもいいか? アイツと会ってそのままで居られる自信がねえ。行けば絶対に何か言ってくるだろ? そんで言われたらまた叩きたくなるだろ? この木刀で」
ヤツは絶対に訳のわからんことを言って突っ掛かって来るはず。
牢屋から出せや、早乙女のことなど、そんなことをヤツは言ってくるだろう。
どう考えても我慢できる自信がない。
そもそもそんなもんに付き合う必要はないし、俺がヤツに求めているのは魔王化だけだ。早い話が避雷針だ。
できることなら断りたい。
下手に殴ると勇者保護法違反になる危険性がある。
ならば先に許可か確認を取っておく必要あるが、やはり気が進まない。
この要求には本音も交ざっているが、どちらかと言うと引いて欲しい。
「で、それでいいのか?」
「本当に、本当に貴方は聞いていた通りの方なのですね。ギームル様がおっしゃっていた通りです」
「………………ちっ」
何となく面白くなかった。
ジジイには俺の返答が解っていたようだ。
「で、どうなんだ? 場合によっちゃ叩き殺すかもだけど」
「さすがにそれは困りますね。ではこれは無かったということで」
「分かった。…………ちょっと確認なんだが、荒木は喚いているんだな?」
「はい、牢番の者がだいぶ参っておりますよ。壁は叩くわ大声は出すわで……」
「そうか、ならよかった。じゃあ俺たちは戻ります。ラティ行くぞ」
「はい、ご主人様」
オラトリオに再度確認してみたが、どうやら嘘は吐いていないようだった。
ラティからの合図はなく、言ったことは全て真実のようだ。
俺は荒木がきっちりと捕まっているなら問題なしとして、その場を後にすることにした。
そもそもよく考えてみれば、ヤツを木刀で殴る訳にはいかなかった。
そんなことをしてヤツを魔王候補から遠ざける必要はないのだ。
俺とラティは来た道を戻る。
アイリス王女に会いたくなくもないが、扉の前にいる兵士たちの視線がきつめだった。
相手は王族、『やぁ』といった感じに会える相手ではない。
俺が長い廊下を歩いていると――
「あの、ご主人様。少々こちらに……」
「ん? どうしたラティ――あっ!」
「む~~~、ドコに行ったんだよう、あの黒い渦の人は」
「中央に来ているんだよね? 勇者様と一緒に……」
「ホントにぃ~~、いっそ渦が降りてくればすぐに見付かるのに」
「それはそれでマズイけどね」
俺は物陰に隠れながら、二人の会話を聞いていた。
中性的な顔立ちなので、正直なところ性別の判断がつかない銀髪オッドアイの双子。確か右とか左とかそんな名前だった気がするヤツら。
「あの、ご主人様。あの方たちは確か……」
「ああ、俺が魔王候補かもって言ってたヤツらだよな」
「あ~~~、もうっ。あの黒い渦の人に訊きたいのに。木刀のこととか黒い渦のこととか~~」
こんな所に、俺が秘密にしていることを知っているヤツらがいたのだった。
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あと、誤字脱字も……