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馬車じゃー

 挿絵(By みてみん)


感想コメント8千件記念のファンアートをアファーから頂きましたっ(きりっ

誤字脱字や感想に考察にご質問など、本当にありがとうございます。

 ガラガラゆらゆらゴーゴーと馬車の中、俺は今回の状況を伝えていた。

 

「へえ、じゃあ陽一んとこのヤツらは半分しか来ないんだ? まあ仕方ないか、アンタって人望とか無さそうだもんね。あと愛嬌も」

「おい、ちゃんと話を聞けポンコツ2号。これは戦力を分けた結果だって説明しただろうが。ホントに人の話を聞かねえ野郎だな」

「あ、陽一くん。京子ちゃんは男の子じゃないから野郎じゃないよ? でも、ポンコツってのはちょっと同意かも」


「葉月っ、アンタ喧嘩売ってんの?」

「ううん、売ってないよ。ただ、上手い喩えだなぁ~って思っただけ」


「っこの!!」


 ぎゃいぎゃいとじゃれ合う葉月と早乙女。

 二人は俺と向かい合う位置に並んで座っており、わっちゃわっちゃとしている。

 

 俺は話がまた脱線したと、ため息まじりの息を吐く。

 先程から似たようなやり取りが何度も続いているのだ。


 葉月がさらりと早乙女をからかい、脊髄反射で食って掛かる早乙女。

 これは何となくの予想だが、きっと数日前の仕返しだろう。例の芝居で煽られたお返しだ。

 

「おい、話を続けるぞ」

「は~~い」

「ふんっ」


 何度も話が脱線したが、俺は話を続けた。

 今回の遠征には陣内組から半分ほど、そして募集に応じたサポーター10人が参加していた。


 本来なら陣内組総出でいきたいところだが、現在南ではそこそこの頻度で魔物大移動が観測されていた。

 防衛のためにどうしても戦力を残しておきたく、防衛向きのメンツはノトスに待機となったのだ。


 特に陣内組のリーダーであるレプソルさんは防衛戦向き。

 マテリアルコンバートが使えるのでMP切れがなく、たった一人で50人近い冒険者に支援系の魔法を掛け続けることができる。


 高レベルの後衛職でも、10人に支援し続ければMPがキツくなる。

 それに魔法の連続使用は、術者になかなかの負荷が掛かるモノらしく、無理して連続使用すると、頭が割れるような頭痛がすることがあるのだとか。


 だがレプソルさんは、たった一人でその何倍の人数を支え続けることができた。周りからは、最前線を支える者と呼ばれているのだとか。


 因みに陣内組からは、一人で前線を上手く回すことから、一人(ソロ)上手(プロフェッショナル)と呼ばれている。


 そして一人でやっていけるんだから、さっさとミミアと別れろと……

 

 

 これはあまり関係ないことだが、レプソルさんは街の住人から”埋まる者”と呼ばれて恐れられていた。

 しょっちゅう埋められていることが理由らしい。

 あれを深夜に目撃すると、生首が転がっているように見えるのだとかどうだとか。


 

「――えっと、あとは中央で合流だっけ?」

「ああ、北から三雲組が来てくれるらしい。ボレアスにはストライク・ナブラがいるから、戦力的にはまだ余裕があるみたいだな」

「……」


 少しだけ眉を顰める早乙女。

 彼女にとって元黒獣隊でもあるストライク・ナブラは、あまり好ましい部隊ではないのかもしれない。

 ヤツらが直接何かをした訳ではないが、どうしても荒木(ヤツ)を連想させてしまうのだろう。


――あ、そういや荒木は中央か、

 ちゃんと大人しく捕まってんだろうな?

 まさか逃げ出したりとかしてねえよな……? 一応確認が必要か?

 でも会いたくねえな……



「そっか~、言葉(ことのは)さんたちが来てくれるんだぁ」

「ん? あ、ああ。言葉(ことのは)ってか、三雲組は頼りになるから有り難いな。ハーティさんは地下迷宮ダンジョンに詳しいし」


 俺はハーティのことを思い浮かべてそう口にした。が――


「……ちっ、あの牛チチ女が来んのか。せっかくどっか行ったってのに」

「京子ちゃん……」


 葉月が何ともいえない目で早乙女を見る。

 俺としてはお前も十分にデカい方、どちらか言うと仲間だろうと言いたい。


 ( まあ、言ったら怒られそうだけどな )


 俺はバレない程度に、チラリと早乙女の胸元を確認する。

 やはり十分にデカい。

 お前はあまり人のことは言えないだろうと、そんなことを考えていると。


「あの、ご主人様」

「――ッ!? …………何も考えていないですよ。いえ、ごめんなさいです」


 隣に座っているラティさんが、俺の心を読んだのか、刺さるようにふわりと注意してきた。

 最初は誤魔化そうかと思ったが、無駄であると悟り素直に謝った。

 バレないようにこっそりと尻尾を撫でていたのが仇となった形だ。

 並んで座っているとつい手が出てしまう。


「なあ陽一。さっきから気になってんだけどさ。アンタ、何でその子の尻尾を撫でてんの? あと触り方がなんか痴漢みたいなんだけど」

「うん、私も気になってた。撫で方がちょっとアレかなぁ~って」

「…………………………………………………………いや、撫でてない」


 俺は尻尾からそっと手を離した。

 そしてできるだけさり気なく、撫でていた右手で頭の後ろを掻いて誤魔化す。

 当然、視線も窓の外へと。

 

「ふ~ん、そっかぁ。ねえラティちゃん、いま尻尾撫でられていたよね?」

「あの、いえ、撫でられていないです……」


 しれっと嘘を吐いてくれるラティさん。

 さすがはラティさんだ。


「いや、撫でてただろ。 何でこの痴漢野郎を庇うんだよっ。あたしは見てたぞエロ痴漢野郎」

「ぐっ、違う……」

 

 そう言って食い下がってくる早乙女。

 この女は、ラティの真実の証言をまるっと無視してきた。


「へぇ~、あたしは見てたんだけどな~」

「……」


 これは非常によろしくない流れだ。

 このままでは俺が痴漢扱いとなってしまう。これが世に言う冤罪というヤツだろう。びっしゃびしゃな濡れ衣だ。


「へ~、それならちょっとアンタ立ってみて」

「あの、わたしですか?」


 早乙女はラティに立ち上がるように促した。

 ラティは訝しがるが、逆らうことなく立ち上がる。と――


「アンタはこっち座ってね、あたしが痴漢野郎から守ってあげるから」

「あっ」


 早乙女は、ラティと位置を替えるようにくるっと回った。

 そして俺の隣に早乙女。ラティは葉月の横に座らされた。


「ほら、これで安全でしょ。痴漢野郎から隔離してやった」

「……」

「……」

「……」


 早乙女の言葉に無言で応えるラティと葉月。

 俺はどうするべきかと(けん)に入る。相手はポンコツだ、迂闊に動いてはよろしくない。


「もう京子ちゃんは、そんな風にしたらラティちゃんが困るでしょ。陽一君ちょっと立って、ラティちゃんを元の席に戻してあげるから」

「あ、ああ……」


 葉月に促されて俺は、天井を気にしつつ立ち上がる。

 

「はい、ラティちゃん、そっちに座って」

「あの、はい……」


「で、陽一君はこっちね」

「へ? あれ?」


 まるで魔法のようだった。

 気が付くとラティは元の席側のほうに座り、俺が何故か葉月の隣に座らされていた。

 『むふ~』と満足気な顔を見せる葉月。


「よし、これでオッケ~」

「『オッケ~』じゃねえよ! 何でこうなってんだよ! そこをどけ」


「きゃ~~、京子ちゃんがいじめる~」


 またわっちゃわっちゃとじゃれ始める二人。

 最近この二人は、何だか拗れた感じで仲が良い気がする。


――と、言うより、

 早乙女に踏み込めていける葉月がすげぇのか、

 本当に葉月のコミュ力はぱねえな……



『っんん。あ~~~良い天気だな~。こりゃあ良い天気だ~。ああーーーー良い天気だっ!』


 突如御者台の方から、盛大な独り言が聞こえて来た。

 馬車の外だというのに、まるで中(・・・・)に伝えてくるかのような声の大きさだった。


 『おや?』といった顔を葉月と早乙女。

 彼女たちは突然どうしたのだろうと思っているのだろう。

 しかし俺には正確に理解できた。


 これは警告だ。

 馬車の中で葉月たちと仲良くやってんじゃねえ、埋めるぞこの野郎という警告だ。

 今回の馬車の配置は、勇者たちに話しておくことがあるから許可が下りたのだ。

 なので御者は監視役。

 このままでは埋められる可能性が出て来る。

 

「おら、いったん止めろ。席はこのままで良いから話を続けるぞ――」


 俺は強引にその場を仕切り早乙女を黙らせた。


 無用なトラブルは避けたい。

 嫉妬眼鏡を掛けたヤツらには、早乙女との面倒なやり取りすらも制裁対象。

 本当にしょうもないヤツらだった。



 そしてそれから五日後、俺たちは中央のアルトガルに辿り着いたのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……

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