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ヤツの声は……

誤字脱字のご指摘、本当にありがとうございます。

それと、感想コメント8000件超えましたー!!


これは8000超えのファンアートが来る流れ……(自分からっ

 俺は、迎えにきた馬車に乗ってノトス公爵家へと戻ることにした。

 いかにも怪しい雰囲気を漂わせる迎えにきた男だが、ラティ判定は『白』だった。


 特に害意はなく、本当に俺たちを呼びに来ただけのようだった。

 歩いて帰れない距離ではないが、現在俺は大絶賛取り囲まれ包囲でヤクイ中。

 どっかの蛇じゃねえんだから、この包囲網を突破することはできない。

 これは仕方ないと、俺は馬車に乗ることを選択した。


 嫉妬組の連中が『ちぃっ』のハンドサインを仲間たちに送る中、それを横目に馬車へと乗り込んだ。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「――と言う訳じゃ」

「この人が案内役ってか、ギームルの代わりってことか?」


「そうじゃ。中央ではこの者、オラトリオを頼れ」

「はい、お任せください、ギームル様」 


 とても綺麗な一礼を見せるオラトリオと言う名の男。

 一部の隙も感じさせない所作は、無骨者の俺でも洗練されていると判った。

 

 細く切れ長の瞳にスッと通った鼻筋。

 銀とグレイの間ぐらいの色をした髪を後ろへと撫でつけ、首のうしろで一本に纏めて清潔感があり、人に不快感を与える要素のない青年だった。


 こうやってギームルが紹介するぐらいなのだから、とても優秀な人物なのだろう。

 実際に、ギームルに変わって中央を取り仕切っているのが彼らしい。

 現宰相はもう完全にお飾りで、ギームルと、このオラトリオが裏から指示しているのだとかどうだとか。

 

 だがしかし――


――な~んか胡散臭いんだよな、

 なんて言うかすげぇ裏切りそうっていうか、何ていうか、

 声は気品があって子安○人っぽいし……やっぱ……



 俺はギームルから紹介されたオラトリオに不信感を抱いていた。

 その理由は勘。あまりにもお粗末で乱暴な根拠だが、信用してはならない、そんな気がしてならなかったのだ。


 しかしだからと言ってできることは少ない。

 俺にできることは、ラティ判定に掛けることぐらいだ。

 ラティにはオラトリオをマークするように言うことにした。


 その後は明日からの予定を聞かされ、二日後には出立することになった。

 どうやら明日からバタバタとするので、その前に顔合わせをするのが目的でオラトリオを迎えに出したようだ。


 そして話を終えると、オラトリオはすぐに準備へと向かった。

 俺も準備をしなくてはならないので、アムさんとギームルに言って部屋を出た。


 


     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

「おっ! いたいた。じんないさん探しておったんよ。ちょいと許可ってか、もうやっちゃった後なんやけどのう。まあ許可を取りに来たんよ」

「ららんさん、それは事後承諾では……。で、何の許可です?」


 さらりとそんなことを言ってくるららんさん。

 ららんさんは時々こんな風に事後報告をしてくるときがある。

 そしてこういったときの大半は……


「うん、ちょっとサリオちゃんのローブに例の魔石の残りを使わせてもらったって言おうと思っての」

「例の魔石って……この前渡したヤツの? あれって強化には向かないって言ってた気がしたけど」


「いあ、そっちやなくて、その前に受け取った方のヤツや。じんないさんの胴着に使った魔石やの」

「あっ、ズーロさんの方の魔石か」


「そそ、それの余ったヤツを使わせてもらったんや。もちろん、その分のお金は払うで。で、それを伝えに来たんよ」


 ららんさんはサリオのローブをこっそりと強化していた。

 どれぐらいの強化かと訊ねると、単純に出力が上がったと教えてくれた。

 結界の強度が増し、そして結界のサイズも二倍以上になったのだとか。


 いままでの結界は屈まないと入れない大きさだったが、長身でなければ屈まずとも入れるサイズになったらしい。

 女性だけなら同時に3人は入れるだろうとのことだ。 


 これは嬉しい強化だった。

 中央の地下迷宮ダンジョン攻略前に、こういった強化があるのは助かる。

 そして――


「ほい、金貨三百枚。これがその分や」

「……思ったよりだいぶ多いな。本当にららんさんは……っ」


 ららんさんの目がぎゅわりと嗤った。

 俺はそれを見て続きの言葉を紡ぐのを止めた。


 ( 本当にららんさんは……昔っから…… )


 これがららんさん流の護り方なのか、彼はいつもこうやっている。

 最初は職人肌的な感じで、インスピレーションが湧いて作っているのかと思った。

 だがあれは違ったのだろう。

 

 あれは――


「にしし、それじゃあのう。馬車の方を見てって言われているから、そっちに行って来るで」

「あ、はい。お願いします」


 またもさらりと切り上げられてしまった。

 ととっと走り去って行くららんさん。

 俺はそれを見送りながら、本当にららんさんらしいと思うのだった。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 二日後、旅の用意を終えた俺は、隊列を組んだ馬車の下へと向かった。

 元から中央へと向かう用意は事前にしていたので、俺たちの方は特に慌てる事無く準備を終えていた。


 そして勇者たちも出立するので、見送りは公爵家総出となった。

 アムさんやギームルだけでなく、その他の使用人までも勢揃い。ただ一人だけを除いて……


「あの、ご主人様」

「…………………………平気だ」


 俺は現在激しく落ち込んでいた。

 公爵家の使用人たちも見送る中、俺はモモちゃんを探していた。

 一緒に劇を観に行くなどはしたが、結局モモちゃんの機嫌は直らないままだった。


 乳母のナタリアさんからは、子供は2歳近くになるとそういう時期があるものですと慰められた。

 

 だからとはいえ、モモちゃんにイヤイヤされるのはとても辛い。

 そしてそのまま旅立ってしまうことも……


 ( モモちゃん…… )


 今回の旅は長くなる。

 魔王発生の時期まで4ヶ月を切っており、前回みたいに地下迷宮ダンジョンを攻略したからといって戻っては来られない。


 ギームルから聞かされた予定では、中央の地下迷宮ダンジョン攻略後、そのまま中央に留まって勇者を全員集結させる。

 そして例の行進(パレード)を行い、南にある檻のような街に行くのだとか。


 状況によっては戻れないこともないが、それでもやはり数日程度。

 だから旅立つ前にと思っていたのだが……


「ジンナイ。時間だ」

「あ、ああ」


 テイシが出発を促してきた。

 先発の馬車はすでに出発している。俺は項垂れながら。


「…………行くか」



「ぱぱあああああっ」

「モモちゃんっ!」


 弾かれたように顔を上げて前を見ると、見送りの足下を掻い潜るようにしてモモちゃんが駆けてきた。

 膝を使わないトタトタとした歩みで、俺の元へと一生懸命にやってくる。


「いっちゃ、ぃやああああっ!」

「モモちゃん……」


「やああああ、やああああああのぅ」


 グシャグシャな泣き顔でモモちゃんが全力で訴えてきた。

 そして何処にも行かせないとばかりに、俺の脚をがっしりと掴んだ。

 俺は跪いてモモちゃんの頭を優しく撫でてやる。


「モモちゃん。あのね……」

「ぱぱっ、いやっ! いっちゃっやああああ!」


 モモちゃんは分かっているのだろう。

 一台ではなく、大量の馬車がここに並んでいることの意味を。


「うぅ~~」


 しがみついた脚に、愛らしいおでこをグリグリと押し付けてくる。

 それはまるで、行かないでと懇願でもするかのように。

 こんなに泣いているのだ。それを置いて旅立つことなど俺には――


「俺はここに残る……」

「ぱぱあ」

「ご主人様……」

「ジンナイっ」


 モモちゃんがぐしゅぐしゅな目で俺を見つめてくる。

 俺はモモちゃんを悲しませたくない。ラティも大事だが、モモちゃんも大事だ。

 

 そう、だからモモちゃんが平和に暮らせていけるように。


「……訳にはいかない」

「ふぇ?」


「モモちゃん、ごめんな。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。だからごめん、行ってくる。そんで絶対に戻ってくるから。……ラティ、頼む」

「はい、ご主人様」

「ぱぱぁ…………」


 ラティの魔法によってモモちゃんは眠りについた。

 眠ったモモちゃんを抱き上げ、俺は声を張り上げる。


「ロウっ! 居るんだろ」

「ああ、何だよジンナイ」


「モモちゃんを頼む。お前は兄ちゃんだろ、任せても大丈夫だな?」 

「言われなくても分かってらいっ。ジンナイなんか居なくてもオレが居れば十分だ。だから寄越せ」


 俺は抱き抱えていたモモちゃんを、彼女の兄であるロウに渡した。

 しっかりとモモちゃんを受け取るロウ。

 出会ったときは線が細く頼りない身体だったが、今は年相応の体つきになっている。

 そして顔つきの方は、とても11歳とは思えぬほどの精悍さ。


 ( 伊達に一度死んでないか…… )


「俺が居ない間、頼むぞ」

「アホかっ、モモはオレの妹だ。オレが居れば十分だっての。……だから安心して行ってこい。そんで絶対に倒して来いよ。…………あと、絶対に戻って来いよ」

「当たり前だ。よし、俺たちも出発だ」

 

 


       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 



「良かったですねぇ、ご主人様」

「あ、ああ……」


 ゆっくりと進む馬車の中、ラティは、モモちゃんの機嫌が直ったことを言ってくれた。 

 だがこの出立で泣かせてしまった。できればそばに居てやりたかった。

 しかしそれでは魔王発生に間に合わないかもしれない。


「絶対に戻って来てやる……」


 魔王との戦いはきっと命懸けになる。

 どういった形での発生になるのかまだ分からないが、とても厳しくて辛い戦いになる可能性が高い。


 俺は、そのとても厳しくて辛い戦いが現実にならぬように、俺の木刀を眠っている早乙女に握らせていた。


「いや、世界樹の木刀だな」

「あの、ご主人様?」


「いや、何でもない。ラティも触れていてくれ」

「……はい」


 隣に座っているラティが、俺の手を重ねるようにして木刀を握った。


「あの、ご主人様。あの話は皆様にはしないのですねぇ?」

「ん、ああ。まだ話す必要はないと思っている。だからまだ明かさないつもりだ。それに木刀の方は隠し通す」


 ラティの言う『あの話』とは、勇者が魔王化する可能性と、世界樹の木刀がその魔王化の危険性を下げる効果があることだ。


 勇者が魔王化する危険性については、時期を見て話すつもりだ。

 この情報はある程度は流出しているだろうし、この話を初めて聞いたときは言葉(ことのは)も一緒に居た。


 それに、この件は話しておかねば実際にそうなったとき、勇者たちの決断が揺らぐ恐れがある。

 だからまだ明かすつもりはないが、いつかは明かさないとならない話だ。


 そして木刀が魔王化を遠ざける件は、ラティ以外には秘密にするつもり。

 この件だけは明かせない。

 

 この件は、俺が自分のためにだけに利用すると決めたのだ。

 守りたい者だけを守るために、他のヤツらを犠牲にすると――


「ヨーイチ様。わたしは貴方の味方です。異世界(イセカイ)中の人が全員が敵に回ったとしても、わたしは貴方の味方です」

「ラティ……」


 木刀と俺の手を握る手に力がこもった。

 ラティの手がぎゅっと強く包み込んでくる。

 俺の全てを肯定する、そんな想いが伝わってきた。

 

「ああ、俺もラティの味方だ。異世界(イセカイ)中のヤツが敵になったとしても、俺はラティの味方だ」 

「はい、ヨーイチ様」



 俺とラティは、早乙女が目を覚ますまでの間、ずっと手を握り続けていたのだった。

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……何卒

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