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プールのお約束

番外編なのでちょっとアレです。

その辺りはご容赦頂けましたら幸いです。


あと、記憶喪失プレイの経緯が間違っているとのご指摘あり、一部修正しました。

これは本編には影響しませんので、スルーでも平気です(アレが本編に影響したら驚くわ

 ときどき思う、この異世界(イセカイ)の連中はちょっとおかしいだろうと。


 野郎の水着は適当な作りなのに対し、女性陣の水着は本当に力が入っていた。

 正直言って元の世界と遜色のないレベルに見える。ここは異世界だというのに……


「ひゃっほーーいです!」


 雄叫びを上げて勢いよくプールへと飛び込むサリオ。

 『タッパーン』と大きな水飛沫を上げた。


「ぎゃぼーーー! 流されるですよですー! このプール、深ぃぃぃいいです」

「あはははは……は? おいっ、焔斧がガチで流されてんぞ! 誰か助けに行け」

「おーーい、そっちのヤツ。流されてるサリオさんを止めてやってくれー」

「おい、浮いてこねえぞ! どこ行った!?」


「がぼぼぼぼぼぼぼっ」


 わっちゃわっちゃやっているプールの風景。

 ここだけ切り取って見れば、元の世界とあまり変わらない。

 揺れている尻尾と獣耳だけが、ここは異世界だと感じさせていた。

 

「……そういや、あのスク水って尻尾を通す穴があるんだな」

「尻尾がどうしたの陣内君」


「伊吹。いや、ラティの尻尾を通す穴があるんだなって思っただけだ」

「あ~~アレってね――」


 俺は伊吹からあの水着の秘密を教えてもらった。

 なんとあのスク水には、お腹の辺りに水を逃がすがための切れ目のような穴があるそうだ。

 

 そしてラティがいま着ているスク水には、それと同じものが後ろにもあるそうで、そこから尻尾を通して出しているらしい。

 

「なるほどねぇ~。ある意味、異世界仕様ってヤツか……。ホント歴代どもはよく考えるよ」


 誰かに訊いて確かめた訳ではないが、この水着類は絶対に歴代ども(馬鹿共)の影響だと確信した。

 女性の水着はしっかりとした作りなのに、男性陣の方は適当なのがいかにも歴代どもらしいと思えた。


 本当に努力のベクトルが歪んでいる。

 だが仕事はしっかりしているとも言えた。これだけの物を作っているのだから。


 チラリと横のマウンテンと水着に目を向ける。

 ぱっと見でもよく出来た水着だと分かる逸品。


 ( ホントに歴代どもは……ん? )


 何故か伊吹が俺の方を見ていた。

 マウンテンをちょっとだけガン見していたのがバレたのかと焦ったが、伊吹は俺の首の辺りをじっと見つめていた。


「ん、なんかあったのか?」

「ねえ、陣内君。首に何か噛みついたみたいな歯形が付いているけど……」


「――っ!!!!!!!!!、いあ、いや、これは……ちょっと魔物に噛まれた痕だっ」

「ほえ? 魔物?」


「あ、ああ、そうだ。アレだ、竜の巣(ネスト)のときにやられたんだ。ちょっとした程度の怪我だったから魔法で治すのもアレだし、まあそんな感じだ」

「そうなんだぁ、でも……人の歯みたいな痕だね」


「……人型タイプだった」


 俺はそういって遠くを見た。

 そしてすぐに己の失態に気が付く。


 竜の巣(ネスト)には人型の魔物はいない。

 真っ当な生物としての形をしているヤツはほとんどいないのだ。

 それに気付かれたときの返しを必死に考える。


「イブキ様ーー! こちらで一緒に泳ぎませんかー!」

「あ、オッケー行くよ~~! じゃあ陣内君、ちょっと行って来るね」

「あ、ああ………………助かった」


 呼ばれた伊吹は、長い黒髪とか色々揺らしながら駆けて行った。

 そして伊吹組の連中とプールに入っていく。

 その伊吹に小山が近寄ろうとするが、伊吹組の連中がそれを阻止していた。 


「危なかった……」


 俺は危機を脱して安堵の息をついた。が――

 

「陽一君、泳がないの?」

「お、おう……ちょっと疲れていてな……」


 いつの間に葉月がやってきていた。

 彼女はビーチチェアに座っている俺を見下ろしている状態。

 俺は首をさり気なく(すく)めるようにして噛み痕を隠した。


――やばいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 葉月だと見られたら絶対に気が付かれる。絶対にバレるっ!

 くそっ、タオルとかねえかな、タオルで隠せれば……



「あ、疲れているんだ。だったら私が疲労回復の魔法を掛けてあげるね」

「――ッ!」


 葉月が屈んで顔を近づけてきた。

 少し強く息を吐けば届きそうな距離、しかも色々と視線があっち行ったり下に行ったりちょっとだけ下に行ったりしそうになる。


「大丈夫だからっ、いや、ホントに平気だからっ」

「うん? 遠慮はいらないよ。そらこっちに――」

「――魔物が出たぞ!!」 


 突如、大声で警告が上がった。

 その切羽詰まった声音から、冗談のたぐいではないことが判る。


「葉月」

「うん、行こう」


 俺と葉月は声がした方へと駆け出した。

 声がした場所は少し離れた位置。そこに辿り着くと、魔物を発見した者がプールの中を指差していた。


「ん? 何か半透明な……スライムか?」

「ああ、そうだ。スライムタイプの魔物だ。あれは伝説の魔物……トラブルスライムだ」


 【鑑定】をして名前を調べたのか、その男はそう告げてきた。

 葉月も【鑑定】を使って調べたのか、『本当だ……』と驚きの声を漏らしている。


「水の中にスライムか、ちょっと攻撃し辛そうだな」

「馬鹿野郎っ! なに悠長なことを言ってんだ。あのトラブルスライムはヤクイんだぞ。あのトラブルスライムはな――」

「ここはオラに任せろ! たかがスライム一匹、オラの盾で押し返してやるっ」


 小山が【宝箱】から盾を出し、プールへと飛び込んだ。

 攻撃し難い水の中から引きずり出し、プールサイドに上げてから攻撃するつもりのようだ。


「このっ、こうやってこっちに――あ、ああああああああ!?」

「コヤマ様がああ!!」

「コヤマさま!!」

「コヤマ様のーー」

「え? え? きゃああああああ」


 なんと小山の海パンが溶けていた。

 海パンが溶けたことに気が付いた小山は、慌ててプールから撤退してきた。

 

「あれがヤツの恐ろしさだ。あのトラブルスライムは、水着を溶かすんだ」

「………………へ? ちょっと待った。もっかい言ってくれ」


「だから、トラブルスライムは水着だけを溶かすんだ。普通の服とかは溶かさないけど、何故か水着だけは溶かすんだ。もちろん人も溶かさないから無害とも言える魔物だ」

「馬っっっ鹿だろ! 何だよそのトラブル的なスライムは! 馬鹿じゃねえの? なにその男の願望を体現したみたいな魔物は! 馬鹿かよ!」


 俺は思わずそう叫んでしまった。

 歴代どもも馬鹿だと思ったが、この異世界(イセカイ)も馬鹿なのかもしれない。

 『なんつう魔物を湧かしているんだ』と、心の中でそうツッコミを入れた。


「陽一クン、あの魔物は強敵だよ。一体どうしたらいいのか判らないよ……」

「いや、俺はお前が判らない」


 小山は盾で自身のパイルバンカーを隠しながらやってきた。

 勇者には【宝箱】があるのだから、何か着る物を出せば良いのに、ヤツは盾イチでこっちにやって来た。


「くう、水の中では手が出せない……あっ、魔法ならいけるんじゃ? 葉月ちゃん、ちょっと行ってきて魔法でバーンってやれないかな? うん、名案だ。ピンチをチャンスにだよ!」

「何のチャンスだよ」

「えっと……小山君。それはちょっと……」


 小山から視線を背けながら、葉月はそう答えた。

 しかし小山は、頬を赤らめる葉月に言い縋り始める。


「葉月ちゃんじゃないと駄目なんだよ! アイツを倒すために是非プールの中にっ! そんでババーンといっちょ」


 本当に清々しいほど下衆い小山。

 一体何が『いっちょ』なのか、何を考えているかすぐに判る。

 当然俺は止めに入る。


「止めろ小山。魔法だって無理だ、相手は水の中だぞ。いいか、こういうときはパワーだ。水圧に負けないパワァーが大事なんだ」

「えっとぉ……陽一君? 突然何を言っているのかなぁ?」

「ぱわぁ?」


 とても怪訝そうな顔で俺のことを見てくる葉月。

 俺もちょっとおかしいとは思う。だが酷い寝不足のためか、どうにも頭がぼんやりとしている。


「そうだ、ぱぅわぁーだ! パワーと言えば伊吹だ。伊吹、頼む。あの魔物はお前に任せたっ! お前の大剣で叩っ切ってやれ」

「なるほどっ! 確かに一理ある。うん、それしかないね! 伊吹ちゃんお願いしますっ ざっぶーんといっちゃってください」


 俺の提案に小山が激しく同意した。

 やはり俺の判断は間違っていないと確信する。

 眠気は酷いが頭は冴えている。


「陽一君……」

「陣内君……」


 葉月さんがラティばりのジト目を向けてきた。伊吹の方も困り顔。

 ひょっとすると判断を間違えていたのかもしれない。そう思えてくるが、やはり寝不足のためか、どうにも思考がハッキリとしない。


「イブキ様を危険に晒す訳にはいかぬっ、ここは我ら伊吹組が征くぞ」

「「「「「「「おおおおおおっ」」」」」」」」


 そう言って伊吹組が数人飛び込んでいき、そして全裸になって帰ってきた。

 皆パイルバンカーを隠しながらプールから上がって来る。

 この迅速で潔い撤退は、まさに歴戦の冒険者の風格。


「くそ、駄目だ。水の中じゃ動き難いし、そもそも剣が振れない」

「ああ、あと何処を切ったら良いのか判らん。核を潰さないとならないのに……」

「くそ、ヤツが水の中にいなければ……」


 その後も次々と全裸になっていった。

 相手は水の中、しかも流れるプールだ。トラブルスライムは常に流れて移動し続けており、核の位置を見極めるのが困難となっていた。


 しかも水を吸収しているのか、トラブルスライムの体積がどんどん大きくなっていた。

 このままいくとプール全体、下手をすると水路の方まで広がってしまうかもしれない。


「くそうっ、せめて水の中でも剣が振れれば……」


 全裸になった伊吹組のメンツが弱音を吐く。

 もうほとんどのヤツが全裸になっていた。ちゃんと水着を着てるのは女性陣と他の数名程度。

 

 猫人冒険者のテイシは、猫人ゆえか、水の中に入るのを嫌がっていた。

 何でプールに来たのだと言いたくなる。

 

「むう、水が邪魔で剣が振れないな。突くような攻撃ならできるかもしれないが……何か突く方法があれば……」

「だな、レイピアと槍とか、そう言ったのがあれば……」

「槍か~槍使いはうちにはいないな~」

「そうだな、そもそも槍なんて誰も持ってねえよ」

「「「「「「「「槍さえあれば」」」」」」」」


 何故か全員が俺の方を見ながらそう言ってきた。

 全力で気が付かない振りをしていたが、段々と限界になってきた。

 薄々だが気が付いていた。槍が有効だろうと……


「……………………くそ、行くしかねえか」


 俺は葉月に預けていた槍を出してもらい、トラブルスライムの核がありそうな場所へと移動した。


 ヤツの核は半透明だが、他の部分よりも透明度が低い。

 要は、色が濁って濃い場所が核らしい。


 気分は漁師、そんな気持ちでプールへとゆっくり入る。

 魔物を刺激しないように、そっとプールに入ったのだが、ここで俺は致命的なミスを犯してしまった。


 何と俺は、プールに入る前の準備運動を怠っていたのだ。

 そう、”寝不足+準備運動を怠る”。これはもう必然と言っても過言ではなかった。


「ぎゃぼおおお、足つった! がああああっ! しかも両足ぃいいいいい!」 

 

 ふくらはぎがパンパンになっているのが判る。

 そしてその()ったふくらはぎに連動でもしたかのように、次は両方の太腿も痙った。


「っがああああああっ! ガチでいてえええ!」


 ふくらはぎとは比較にならない程の激痛が走る。

 足が使えず、立つことができなくなった俺は溺れ始めた。

 槍を手放し、腕だけで浮力を得ようと必死に足掻く。


「陽一君っ!」

「陽一!」


 葉月が叫び、早乙女は俺へ忍び寄ろうする魔物に向かってWSを放つ。

 だが早乙女のWSは核を射貫くことはなく、ただ水柱だけを空しく上げた。


「くそっヤクイ!」


 このままではトラブルスライムの餌食になってしまう。

 これはもうトラブってしまうと、そう思いかけたその時――


「させませんっ」

「ラティっ!」

 

 ラティが水の上を駆けてやってきた。

 【蒼狼】(フェンリル)には【全駆】という【固有能力】が含まれている。

 【全駆】とは全ての物を足場にできる【固有能力】。彼女は水を足場にして駆けてきた。


 そして――


「ここですっ!」


 ラティは手に持った短剣を水面へと突き立てた。

 すると次の瞬間、水面に黒い霧が立ち上り、そして霧散していった。


「あ、そうか。【心感】なら核の位置を特定できたよな……」


 ヤクイ魔物、トラブルスライムはラティによって呆気なく討伐された。

 ラティの活躍によってプールの平和は守られた。しかしここで新たな問題が発生した。それは――


「あの、ご主人様……」


 ラティが心底困った目を俺に向けてくる。

 

「あ、ああ。こっちに寄れ」


 トラブルスライムに突っ込んだのだ。

 当然無傷という訳にはいかず、ラティの水着は溶けかけていた。

 ただ白いネームプレートは水着枠ではないのか、それは溶けずに残っていおり、ツンと上向きの双丘を辛うじて覆っていた。


 それで胸元を隠しながら、ちゃぽちゃぽとラティが寄ってくる。


「ラティ、下の方はどうだ?」

「あ、あの。はい、下の方は何とか平気のようです」


「良かった。なら問題は上だけだな」


 ラティのむき出しの白い肩が目に入る。

 彼女は普段から肌を晒すようなことはしていない。だからからか、肩を見せるのも嫌そうにしている。

 当然俺も他のヤツらには見せたくない。


「葉月、タオルをこっちに投げてくれ」

「うん、これを使って」


「助かる」


 察しの良い葉月は、俺が言う前にタオルをすでに用意していた。

 俺は投げ寄越されたタオルを掴み、それでラティの肩を隠した。


「ラティ、そのまま俺の背中にくっついてこい」

「あの、はい……ありがとうございます」


 ラティは俺の背を使って身体を隠しながらプールを出た。

 そしていつの間にか、痙っていた脚も治まっていた。


「ラティちゃん、これも使って」

「あの、ありがとうございます。ハヅキ様」


 葉月が追加のタオルをラティに掛けてくれた。


「陽一っ」

「ジンナイさん、ラティちゃん」


 早乙女とサリオもやってきて、ラティの身体を隠すのに協力してくれた。

 伊吹は野郎どもを遠ざけてくれている。


「よし、このまま更衣室に行くぞ。しっかりとくっついて来いよ」

「はい、ご主人様」


 ラティがぐっと身体を背中に寄せてきた。

 当然そうなると、とても嬉しい感触が背中に押しつけられ……


「あっ」


 突然、不安感が駆け巡った。

 覆っていたモノが突然消え失せたような、そんな不安感が。  


 パサリと下の方から音が聞こえた。

 とても涼しい風が下を撫でる。


 ラティの水着がこうなのだ。

 だからこれは当然であり、そして必然。そんでもってお約束でもあった。

 

「ぎゃぼおおおおおおおおお! 目の前にっ、目の前にバンカーがあぁです!」

「陽一っ! 変態! この変態! 大変態!! この大大変態! 死ね!」



 こうして異世界(イセカイ)での初プールは、とても忘れたい思い出となったのだった。

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字の方も……

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[良い点] トラブルスライム 盾イチ なんと秀逸なネーミング! いつかパク、引用したいものです!
[良い点] 盾イチとかずるい、こんなん笑うわ。
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