西にて不穏な気配
どうでも良い設定。
西は匠系が多く、こだわりが細かく、色々とあって……
髪型にこだわる傾向が強いです。要は、ポニーテイルが大好き。
西はポニーテイル好きが多いです。
竜の巣から帰還した俺たちは、まずゼピュロス公爵の屋敷へと向かった。
誰も欠けることなく無事に帰還したという報告と、竜の巣内で起きていることを話す必要があった。
話す内容はダイサンショウの存在。
あれは何かしらの対策が必要だ。放置すると手が付けられなくなる、そういった類いの魔物だ。
俺たちの考察では、伊吹が倒した黒い巨竜がいなくなったため、湧いたダイサンショウを倒すことができる竜がいなくなった。
要は、天敵がいなくなったので大繁殖した害獣のような感じだ。
だから定期的にダイサンショウを狩る必要がある。
それに調査をする必要もあるだろう。あれはただの魔石魔物なのか、それとももっと特殊な条件下で湧く魔物なのかまだ分かっていない。
勇者たちはそれをゼピュロス公爵に報告へと行った。
ただの冒険者である俺は、公爵家の敷地に入ることは許可されたが、ゼピュロス公爵に会うことはできなかった。
当然、橘がラティのことをチクる可能性があるので、その見張り役を小山と伊吹に頼んだ。何かあればフォローしてもらう予定。
もし橘が約束を反故にした場合は、即座にゼピュロスの街を出るつもりだった。
ノトスに戻ってギームルに丸投げすれば良い。葉月を監禁した件を取引材料にすれば十分に勝機がある。
そう考えて待っていると、特に何もなかったとの報告を小山から受けた。
それを聞いて胸を撫で下ろす。
どうやら橘は約束を守るつもりのようだ。自棄にはなっていない様子。
あれから橘は、葉月に無視され続けていたので心配だったのだ。
一応事務的なやり取りはするが、雑談や談笑といったプライベートの会話はしていない。全部葉月が突っぱねていた。
露骨に避けている訳ではないが、普段の葉月からしてみれば完全な塩対応。
話を広げたり続けたりせずに、スッと橘から離れていたのだ。
それを見て落ち込む橘と、何とか慰めようとする伊吹。
伊吹からは咎めるような視線をもらっていたが、最初に罠に嵌めたのは伊吹の方だ。あんな呼び出しをしたのだから、橘のことは伊吹に全部任せた。
ガレオスさんも困り顔だったが、ガレオスさんも同罪とした。
そして――
「小山、もう帰れよ」
「うぇ~~、ちゃんと報告しに来たのに冷たくない?」
「冷たいとかじゃねえ、自分の部屋に戻れよ。お前がいると何か落ち着かなくて寝れねぇんだよ」
何故か小山が俺の部屋に居座っていた。
コイツには早々に去ってもらいたい。ラティが戻って来たらニャンニャンする予定なのだから。
ラティは竜の巣でよく働いていた。
特に橘の手を切り飛ばすといった、とても大事な仕事をこなしてくれた。
これは労らわねばならないことだ。サラリと尻尾を撫でた程度ではラティさんも不満だろう。だから――
「小山、帰れ」
「怖っ! 何か声が怖いっ! なんて言うか、彼女が部屋に来る予定だから、部屋にいる母親を焦って出そうとするヤツみたいに怖い」
全く持って本当に全然見当外れで的外れなことを言い出す小山。
ちょっと何を言っているのか本当に全く全然これっぽちもガチでマジで分からない。当然焦ってもいない。
そもそもコイツがここに居座っていること自体がおかしいのだ。
帰還した勇者たちは、ゼピュロス公爵におもてなしを受けているはずだ。
確か食事会を開くとかどうとか言っていた気がする。
だと言うのにコイツは……
――あっ、ひょっとしてハブられたのか?
いやいやいや、こんなでも一応勇者だよな? だからって……
あっ、そっか。そうか……
俺は気が付いてしまった。
いまゼピュロスの街には葉月、早乙女、伊吹、橘、そして小山が居る。
女性の勇者が多く、そして知名度の高いのが揃っているとも言える。
きっと食事会とは、その女性陣の方を目的としたモノなのかもしれない。
さすがに強引な真似はしないだろうが、多少なりと言い寄るヤツはいるだろう。
そしてそういった時に男性の勇者がいるとやり難い。
だからコイツはここに居られるのかもしれない。要は邪魔でハブられたのだ。
異世界でもハブられる小山。
少しホロリと来たが、俺もコイツは邪魔なので再度部屋から出ろと言う。
「いいから帰れ」
「ん~~?」
椅子にだらしなく座ったまま動かない小山。
出ろと言われたことを気にした素振りを見せず、ヤツは俺に話を振ってきた。
「あ、そうそう陽一クン。例のサービスがバージョンアップされたみたいだよ。ほら、前に話した記憶喪失プレイってヤツ」
「………………へ?」
小山がまた訳分からんことを言ってきた。
俺は一瞬呆けてしまったが、嫌な予感がしたので続きを促す。
「おい、ちょっと詳しく話せ」
「おっ!? やっぱ興味あった? ちょっとイイよね記憶喪失プレイって」
「いいから話せっ――」
小山は俺が話に食い付いたと思い、記憶喪失プレイの内容を饒舌に語った。
記憶喪失プレイとは、客を記憶喪失というシチュエーションで女の子がもてなすプレイのようだ。前にアムさんも言っていたが、本当に酷い内容だ。
そして最近ふらりとやってきた冒険者が、あるシチュエーションを要求して、それが一気にブレイクしたのだとか。
元から何種類かのバリエーションがあったそうだが、その冒険者の要求は人の心を鷲掴みにしたらしい。
白い法衣に身を包んだ、まるで聖女のような女の子が優しく癒やしてくれるシチュエーションと、少し控えめな印象だが、装備しているモノが素晴らしい女神のような子が包み込んでくれるサービスが大ヒット中だとか。
小山は瞳をきらっきらとさせて熱く語ってきた。
「どう? どうどう? ちょっと興味出てきたでしょ!」
「いや、何て言うか……ホントに節操ねえな……ってか、何であのことが広まってんだよ! それって俺のあれだよな! あのときの俺だよな? やってきた冒険者って伊吹組のヤツだろ! くそ、誰だよ……ガレオスさんか? それともサイファか?」
「いいよね~、ちょっと女神さま系でお願いしようかなって思っているんだ。陽一クンはやっぱ尻尾系プレイ?」
「小山、お前、行くのかよって――はい? 尻尾プレイ!?」
「うん、その記憶喪失プレイに、尻尾でモフモフさせるってのがあるらしいよ。記憶喪失役の客を、尻尾の枕で癒やしてくれるんだって」
「……おい、それって……」
「何かね、その尻尾プレイの場合は無表情な子なんだって。でも無表情で素っ気ないのにちょっと照れている感じで、そのギャップが堪らないだとか」
「……小山、その店に連れて行け。アレだ、行政指導的なヤツをする。どんなプレイ内容なのか調べる。場合によっては止めさせる」
「お? 興味出た?」
「興味じゃねえ。ただ、ちょっとほって置けないだけだ。ああ、色々とほって置けないし、それを流行らせたヤツも特定しないとだ。……取り敢えず殺す」
「じゃあ、いまから逝こっか?」
――くそっ! 誰だよ、そんなアホなことを要求した馬鹿は!
大体、何だよ記憶喪失プレイって、いくら何でもアホ過ぎるだろ!
だがこれはキッチリと調査する必要があるな、どんな内容なのか、
場合によっては自ら体験する必要もあるか?
それに聞き取り調査も必要だな………………ん? あれ?
「小山、何かおかしくなかったか? 何か漢字が違うというか……」
「うん? 何のこと? 取り敢えず早く逝こうよ。急がないと満員になっちゃうよ陽一クン」
「あ、ああ……」
俺は己の迂闊さを呪った。
ついこの間もそれで面倒な目に遭ったというのに、俺は迂闊にもまたついて行ってしまった。小山の違和感に気が付くべきだった。
ただ、全く油断していた訳ではない。
キッチリと黒鱗装束改を着ていった。さすがに槍は街中では抜けないので木刀を持った。
そう、油断など微塵もなかった。
想定できる障害は嫉妬組。ヤツらが例の件で俺を狙っていることは把握していた。だから部屋に引きこもっていたのだ。
しかし、いかに嫉妬組と言えど、いま居るのは伊吹組のメンツだけ。
本隊ともいえる陣内組が欠けている状態だ。いつもの物量作戦は取れない。
もし不覚を取るとしたら魔法による束縛系だけ。しかしそれも、黒鱗装束改となって魔防が大幅に上がった今ならなんら問題はない。
シャーウッドさんとの戦いでも試したが、この黒鱗装束改は本当に凄い。
サリオの放つ炎の斧はさすがに無理だが、他のヤツの炎の斧なら耐え切れる。むしろ押し退けるようにして引き裂くことができるかもしれない。
故に死角はない。本当にそう思っていたのだが……
「ねえ、陽一君。何であんなお店に行こうとしたのかなぁ?」
「えっと……あれ? 葉月たちって確か……ゼピュロス公爵の……」
「うん、晩餐会を開くって言われたけど、私は辞退したの。風夏ちゃんは出るだろうから、私は避けたの」
「あ、はい。そうなんだ……。じゃあ、そっちは?」
「ん? あたしは元からそんな面倒なもん出るつもりなんてないよ」
俺は、葉月と早乙女に正座をさせられていた。
正座をさせられている罪状は、未成年なのに未成年が行ってはならないお店に行こうとしたから。それを彼女たちに咎められていた。
「まったくぅ、伊吹組の人たちが教えてくれたから良かったけど、そうじゃなかったら今頃……ねえ」
「アイツらかっ!」
――くそおおおおおおおおおおお!
ヤツらか! ヤツら嫉妬組が俺を嵌めたのか! 小山もグルかっ!
まさかこんな搦め手を使ってくるとは……くそがっ!
葉月たちにチクるとか、勇者召喚は禁じ手だろ!
「む~、なんか反省の色がない気がするう。陽一君はちゃんと反省しているのかなぁ? それに前も同じことを言ったよね?」
「はあ? コイツ、前にも行こうとしたの? あんなやらしそうな場所に」
葉月の発言が早乙女を誘爆させる。早乙女は眦をつり上げて睨みつけてきた。
元から目力がある早乙女だ。目から放たれるプレッシャーが半端ない。
「ま、待て。アレは違うんだ。アレは……その……あの……えっと……」
――うぉおおおおおお!
言える訳がねええええええええええ!
貴女たちが副食物のお店があったので、ちょっと調べになんて言えねえ!
何の罰ゲームだよ! アホか!
くそ、嫉妬組はこれも見越していやがったのか……
凄まじい窮地に追いやられていたことに気が付く。
俺には正当な言い訳がある。決して疚しい思いがあって行った訳ではないのだ。しかしそれを口にするのは憚られる。
とてもではないが、彼女たちにそれを明かすことはできない。
この案件は、誰にも知られずにそっと闇に屠るべき案件なのだ。
所謂、ソっ闇だ。
俺は思考をフル稼働させる。
どうすれば良いのかと、今までくぐり抜けてきた修羅場を思い起こす。
そう、窮地に陥ったときは――
「ここは一時撤た――ぃ……」
「あの、ご主人様。まだお話がお済みではないようですが?」
背後に立っていたラティさんが、俺にそう言って首筋に指を添えた。
そう、俺を咎めていたのは二人だけでない。ラティさんも居たのだ。
彼女は逃げだそうとした俺を事前に察し、指だけでそれを阻止してきた。
下手に動けば狩られる。
そういった気配がひしひしと伝わってくる。
( 詰んだ…… )
俺は諦めに天を仰いだ。
だが、まだ諦める訳にはいかない。彼女たちのためにもここで挫ける訳にはいかない。
副食物にされているなど、絶対に悟られてはならない。
「ふうぅ、――弁護士を呼んでくれ。ガレオスさんを呼んでくれ」
この後俺は、弁護士ガレオスさんの到着を待った。
ガレオスさんならきっと上手く収めてくれる。俺はそう信じている。
伊達に百戦とは呼ばれていないはず。そう思い、俺はガレオスさんを待ったのだが、橘を押しつけたことが原因か、ガレオスさんは俺の元に来ることはなかった。
その結果、俺は3時間に及ぶ黙秘を続けた。
ヤツらに復讐してやると誓いながら……
読んで頂きありがとうございます。
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