さあ、帰ろう
すいません、返信が全くできておらず……
年末で忙しく、疲れでぼー~っとしており……
全部読ませてもらっていますっ
シャーウッドさん回収騒動の後、俺たちは速やかに帰還の準備を開始した。
天幕から残骸を回収する者、周囲を見回っていた者、親友に怒っていた者、怒られていた者、そしてそれを仲裁していた者も合流した。
合流して気が付いたのだが、あのときガレオスさん達は居なかったのだ。
葉月とガレオスさんに事の顛末を話し、また落ちたことに対して苦言をもらった。
だが今回は落ちたのではなく、自ら飛び込んだのだ。
だから落ちたのではないと反論してみたところ、葉月から、『もっと自分を大事にして』と言われた。
葉月のその言葉に、橘が顔を歪めて俺を見た。
当然また何か言ってくると、そう思っていたのだが、橘は何も言わず黙っているだけで、その様子から本当にへこまされたようだった。
さすがにずっと続くとは思わないが、少なくとも竜の巣にいる間は、橘に不快な気分にさせられることはなさそうだと思えた。
こうして俺は、橘と一つの決着をつけたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地上を目指す帰路のなか、俺は歩きながら考え事をしていた。
砕けて小さくなった魔石に目を落とし、彼の最後の言葉は何だったのだろうと思いを巡らせる。
シャーウッドさんは、この異世界に留まり続けることを望んだ。
精神体とはいえ、千年を超える時を過ごしていたのだ。
きっと終わりを望んでいるのだろうと思っていたが、シャーウッドさんは違った。【千眼】で外を観ることができるためか、留まることを望んだ。
シャーウッドさんは俺の先を観てみたいと言っていた。
だが、もしかすると別の理由があったのかもしれない。もう確かめるすべはないが……
「イセカイを守る要石になったからって、聖人ってワケじゃないよな……」
ライエルさんが潔かったから勘違いしていた。きっと全員がそうなのだろうと。
ひょっとすると最後の一人も、シャーウッドさんのように抵抗するのかもしれない。
一番最初に出会った初代勇者の仲間。
名前はもう忘れてしまったが、俺とラティを転移魔法で地上に飛ばしたのを覚えている。
一瞬で地上へと飛ばされ、最初は何が起きたのか把握できなかった。
もし交渉が決裂しようものなら、有無も言わさずに吸収する必要がある。
だができることなら、ライエルさんのように同意を得てから吸収したい。
シャーウッドさんのようなことはなく、穏やかな気持ちで終わらせたい。
「……穏やかにか。これは傲慢な考え方かな――あっ、そういや転移魔法って木刀で弾けるのかな……へ!? サリオ?」
前方にいたサリオが突然飛び上がった。
約5メートルほど垂直に飛び上がっており、少なくともサリオが自ら飛び上がれる高さではない。
「何かあったのか?」
俺はサリオが居た場所まで向かう。
飛び上がったサリオは、そのまま自由落下して小山にキャッチされていた。
あのまま下に落ちていたらそれなりの怪我を負った高さ。何があったのかと気になった。
「おい、何かあったのか? 突然サリオが飛び上がっていたけど」
俺はサリオの近くに行ってそう訊いた。
周りの連中はそんなに慌てた様子ではなかったので、何か危険があるといったようではない。
「あ、ジンナイさん。シャーウッドさんの真似をしていたんですよです」
「へ? シャーウッドさんの真似?」
「これですよです」
サリオは周りにそう言ってから――
「土魔法、”テントツ”!」
サリオが高々と飛んで行った。
円柱の土柱に打ち上げられる形で、約5メートルほどの大跳躍をみせた。
「ぎゃっぼおおおおお!」
落下地点へと駆けていく小山。
そしてラグビー選手のようにサリオを抱えるようにキャッチした。
「どうですジンナイ様! これめっちゃ楽しいですよです!」
「…………小山、そいつをそのまま地面にタッチダウンしろ。半分ぐらい埋まるまでやって構わん」
「陽一クン、女の子には優しくしないとだよ」
ドヤ顔で正論を吐きやがる小山。
言っていることは間違っていないのだが、サリオを抱きかかえるその姿に、何となく『お巡りさーん、ここに~』と言いたくなった。
地上までの帰り道、あまりの余裕さにアホらしい遊びが流行った。
サリオを打ち上げてそれをキャッチする謎のゲーム。
本来は円錐の突起を作り出し、それで相手を突いて攻撃する土魔法の”テントツ”を調整し、円錐ではなく円柱に変えて足場にしていた。
ちょっとしたカタパルトと言うことで、土パルトと命名された。使い方によっては、誰でも高く飛び上がることができる。
一度高く打ち上げ過ぎて天井にぶつかりかけたが、サリオはローブの結界を発動させて防ぐなどの一幕もあった。
あまりにも緊張感のない状態だったが、ここは見通しの良いダンジョンであり、強敵の竜もいない。魔物が居たとしても――
「弓系WS”サイスラ”!」
「さすがサオトメさま!」
「さすトメ」
「さすトメ!」
「サストメ!!」
「トメ!」
「トメって、別の意味なってんだろ……」
橘に代わり早乙女がハッスルしていた。
そして謎の讃え方が流行している伊吹組。発生源は小山……。
――あ~~、こうやって負の遺産が出来てきたんだな、
勇者が調子に乗って何かを言って、それがアホに伝染する……と、
マジで勇者って厄介だな……あっちの方も、
負の遺産が出来ていくのをリアルタイムで見る。
そんな風にわっちゃわっちゃと騒ぐ中、橘だけは落ち込んだままだった。
信者のようだった例の5人は、腕を治してくれた葉月の信者となっていた。
橘のことを完全に見限り、あれだけちやほやしていたのが嘘のよう。
シキが飼い主に嫉妬する犬のように牽制をして、その5人を葉月に寄らせないようにしてる。
「何か、行きと帰りじゃ大違いだな」
「あの、そうですねぇ……」
ちらりとラティが見る先には、橘と伊吹が並んで歩いていた。
伊吹が橘に気を遣ってか、身振り手振りを交えて話し掛けている。
それを無言のまま頷いている橘。
あれだけのことをした橘に、伊吹はいつも通りの態度で接している。
葉月とは違った優しさをもった女の子だ。
「……一応は、気になっているってことか」
橘から視線を外し、葉月の方を盗み見するように見れば、彼女は少しだけ伏せるような視線で橘のことを見ていた。
軽蔑するといったような蔑む感じはなく、少し心配するような目。
だが許さないといった風に顔を引き締めて前を向いていた。
「あっちはあっちで色々と複雑ってか……」
激怒したとはいえ、葉月はそれで親友を切るようなヤツではない。
だがここで甘い顔をしては橘のためにならない。
そういった思いがありありと見て取れた。
「あ~~、とっとと帰りてぇ。そんでモモちゃんに癒やされてぇなあ」
俺は心底そう思いながら、ラティの尻尾を周りにバレないようにさらっと撫でたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大半の天幕を失った俺たちは、横になれる程度の所で野営をしていた。
唯一無事だった天幕は女性陣が使っていた。
ただ橘だけは、葉月との気まずさから、小屋の方を出してそちらに入っていた。
大きい家の方は、ラティとの戦闘で半壊して使い物にならなくなっていた。
見張り役を多めに立てて休憩を取る。
例の5人も、葉月のためにと見張り役を買って出ていた。
この辺りも葉月と橘の違いなのだろう。
橘のときは、アイツを讃えるようにすれば良かったのかもしれないが、葉月の場合では全く通用しない。
働かないことに眉でもひそめられたのか、あの5人は率先して仕事をするようになっていた。食事の用意までもサポーター組に交ざって仕事をしていた。
「あれとは別の意味で悪女っぽいな」
「悪女って、誰のことかな?」
「ん?」
横になっていた俺に、伊吹が話し掛けてきた。
俺の独り言が聞こえていたのか、悪女について訊いてくる。
「いや、何でもない。で、何か用事か?」
伊吹は『うん』といい笑顔で肯定し、俺について来て欲しいと言ってきた。
当然断るといった選択肢はない。
俺は身体を起こして伊吹について行き、そして――軽く後悔をした。
キチンと理由を聞くべきだったと……
「陣内君を連れてきたよ。じゃあ、私いくね」
「…………」
「…………」
俺は一人にしないでという目と、騙しやがったなこの野郎といった批難の目で伊吹を見たが、彼女はさっさと去って行った。俺を橘の元に残して。
「……」
「……」
静寂の時間が続く。
遠くの方では、小山がサリオの魔法によって打ち上げられた声が聞こえてくる。そちらに行きたい訳ではないが、いまは非常に行きたくなってくる。
だがここで行っても仕方ない。
この場をセッティングしたのは伊吹だろう。周りには誰もおらず、明らかに人払いされた空気だ。
俺は大きく息を吐いてから話し掛けることにする。
「っはあああ。で、何か用か?」
橘の表情から、俺に何か文句を言うつもりはないと感じ取れた。
例えるならば、先生に促されて謝罪をさせられている小学生のような顔。
しかし相手は橘だ、俺に謝罪など絶対にするはずがない。
「……陣内、アンタに――いや、貴方に謝りたいの」
「へ?」
あの橘が、とんでもないことを言い出した。
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