初代勇者の仲間でした
ちょっと忙しくて遅れました
一つ目は最奥にて俺たちを待っていた。
二つ目は傷つき魔石魔物化してダンジョン内を徘徊していた。
三つ目は半身になろうとも耐え忍び俺たちを待っていた。
そして四つめは、自らやってきた。
「えっと……土系の魔法を使って飛んで来たと?」
『そうだよ、土魔法で『ぴょ~ん』ってね』
ラティの手にあった精神の宿った魔石は地面に置かれ、そこから浮かび上がっているシャーウッドさんと話をしていた。魔石をみんなで囲むようにして話に耳を傾ける。
正直言って疑問に思った。一体どうやってここまで来たのかと。
それを尋ねてみればシンプルと言うべきか、それとも魔法によるゴリ押しだと言うべきなのか、土魔法で地面を勢いよく突起させて、それで跳ね飛ばされて来るという方法だった。
ピンボールの玉のように弾かれて、着地の際には風魔法でブレーキをかけ、それを繰り返して最奥からやってきたらしい。俺たちに用事があって……
「それで、その用事ってのは何ですか? こっちとしては最奥に向かう手間が省けて助かりましたが」
『うん、用事は二つあったんだよね。まず一つ目は、君たちが倒したダイサンショウのことさ――』
俺たちはそのままシャーウッドさんの話を聞いた。
どうやらシャーウッドさんは、【千眼】によってダイサンショウのことを知り、ヤツの危険性には注視していたそうだ。
そしてそんなときに俺たちがやって来た。
だからシャーウッドさんは、ヤツのヤバさを伝えるために自らやって来たそうだ。
小山が押さえていたから使われなかったようだが、ダイサンショウには必殺技的な攻撃方法があったのだという。
命名したのはシャーウッドさんだが、【デッドリーダッドリーダイブ】と言う、床をコロコロしてゴミを取るアレのように身体を横に転がし、それで周囲の者を取り込む攻撃方法があったそうだ。
竜の巣に居た竜たちは、そのデッドリーダッドリーダイブによってやられたらしい。
それを見たシャーウッドさんは、さすがにこれはマズイと思い、もう一つの用事のついでに来たと語った。
「ふ、オラはそれを封じていたのか。さすがオラっ! まさにさすオラ!」
「話の腰を折んな小山。で、もう一つの用事って何ですか? 何かそっちの方がメインなんですよね?」
俺は小山を押し退けて、もう一つの用事のことを尋ねた。
因みに小山の横では、そいつをやっつけたのはあたしと、ポンコツ1号2号がアピールしようとしていたが、俺はそれを手で制した。
あまり話を脱線させたくなかった。
シャーウッドさんは俺たちに、危険を知らせるために駆け付けた的なことを言ってはいるが、もしそうだったら、黒い巨竜のことを勇者たちに知らせていたはずだ。
あんな物騒なヤツがいることを知らせずに傍観していたのだ。
何とか倒せたから良かったものの、普通に全滅しかかったのだ。しかもシャーウッドさんは、歴代の勇者が何人かやられたとも言っていた。
だとしたらダイサンショウのことは本当についでであり、もう一つの用事のためにやって来たのだと察した。
「一体何があったんですか? シャーウッドさんがわざわざやって来るぐらいですから、魔王発生とか余程のことがあったんですよね?」
真っ先に浮かんだのは魔王のことだった。
むしろそれ以外はないと考え、俺は続きを急かすように促した。
無いとは思うが、俺たちがこの竜の巣にいるうちに新たな魔王でも発生したのかもしれない。
『あ~~、うん。魔王の……件とも言えるかな? でもちょっと違うかな?』
「……魔王の件じゃないとしたら、何です?」
『その木刀、世界樹の木刀に力を集めているよね? 他の三ヵ所から気配が消えたのは把握している。そしてその中から感じるんだ、彼らを……』
「…………はい、初代勇者の仲間の精神が宿った魔石から力を回収しています」
『やっぱりか。それで…………竜の巣に来たのも?』
「はい、シャーウッドさん、貴方の力を回収をしに来ました」
他の二人は会話ができる状態ではなかったが、一番最初のライエルさんとは会話をすることができた。
ただ会話といっても、長々と話した訳ではない。精神が宿っていた魔石を託され、この異世界を託すと言われただけ。
とても潔く、俺たちに影を落とさぬような配慮すら感じた。
だが、いま目の前にいる精神体は――
『……やっぱりそうか』
「はい、そうです」
そこまで馬鹿ではない。それなりの修羅場をくぐり抜けてきたと自負しているし、むしろ察しが良い方だと思う。
ただ、何かを察したからといって、それを率先して解決するほどの甲斐性はない。が、これは見逃せなかった。俺はシャーウッドさんに違和感を覚えた。
「シャーウッドさん、申し訳ないですが……いいですか?」
『…………一つ、お願いを聞いてくれないかな? 千二百年の間異世界を見守ってきた者の、願いを、さ……』
「内容によります……ね」
『それは良かった、もの凄く簡単なことだよ。僕のことは回収しないでくれないかな? ほら、もうちょっとだけこのイセカイを観たいんだよね』
「それはちょっと困ります。全部集めないといけないみたいだし、力が残っていると最後の〆も上手くいかないらしいので」
俺はそう言って腰の木刀に手を添えた。
出来ればやりたくないが、場合によっては強引に事を進める必要がある。
初代勇者は、5人の仲間から力を集めろと言った。それに、この精神の宿った魔石には魔王を発生させる役目があるとも言っていた。
残していてはどんな不具合が発生するか分かったものではない。
『そっか。じゃあ交渉決裂ってヤツかな? あ~~困ったなぁ』
「土魔法を使って飛んで逃げますか? 当然追っかけますよ……うちのラティが」
空気が変わったのを察し、全員が身構えたのが気配から分かった。
それを確認したシャーウッドさんは、少しおどけた感じで話してきた。
『うん、逃げ切るのは流石に無理かもね。だからさ、例えば、地面を崩壊させて下に逃げるってのはどうかな? きっとこの魔石も埋まってしまって、見つけるのは困難だと思うんだよね。それにさ、こうやって筋を通しにきた僕に敬意を払って見逃してくれないかな? 僕はもうちょっとだけこのイセカイを眺めていたいんだ』
この不穏な流れに、魔石を囲んでいたメンツはすぐに距離を取り始めた。
シャーウッドさんは足下を崩壊させると言ったのだ。伊吹組は一度経験したことがあるはず、足場が突如崩壊して下の層に落とされることを。
いつ崩壊しても良いようにジリジリと距離を取る伊吹組のメンバー。
魔石を強引にでも確保すれば良いなどの、そう言った短絡的な思考の持ち主はいないようだ。あの小山でさえ下がっている。
離れていく冒険者たちを見て、シャーウッドさんが満足げな笑みを見せた。
「……」
そんな中俺は、シャーウッドさんに気付かれないようにハンドサインを出していた。
気配から、ラティが後ろへと下がったのが分かる。
俺のサインをちゃんと受け取ったのだろう。
「シャーウッドさん」
『うん? 何かな?』
シャーウッドさんが上にやってきた真の目的は、筋を通しに来ただけではなく、足下を崩壊させて逃げるために上の層に来たのだろう。
最下層では下に逃げられない。
交渉が決裂したときのことを想定して上に来たのだろう。
シャーウッドさんが言うように、崩落して埋まってしまっては探すのが困難だ。
しかしだからと言って退くわけにはいかない。
「どうか考え直してくれませんか? お願いします」
『一応言っておくね。地面を崩壊させると言っても、この層だけじゃないよ? ここから一番下まで崩壊させるつもりさ。巻き込まれたら絶対に助からないからね』
俺は、最後に敬意を示すつもりで言った。
相手はこの異世界を見守り続けた存在。人柄は分からないが、少なくとも敬意を払うべき存在だと思えた。
だが返ってきたのは、脅しだった。俺は覚悟を決める。
「シャーウッドさん。ごめんなさいっ」
『やはり駄目か、”炎の竜”!』
シャーウッドさんは魔法を唱え、竜を象った炎を出現させた。
牽制のために放ったのか、炎の竜は俺の前で踊るようにうねるだけだった。
普通ならば前に出られない。
襲ってくる気配はないが、前に出れば焼き尽くすというプレッシャー。
だが――
「っらああ!」
世界樹の木刀を振るい、炎の竜を横へと薙いだ。
散りゆく炎がまだ残ってはいるが、それは黒鱗装束改に任せて前へと踏み出す。
熱波が頬を撫でるが、熱を感じるのは肌を晒している顔だけ。
右手で顔を庇い前に出た。
『デタラメな魔防だねっ! だけどこれには意味がないよ、土魔法”ダイホウデンスイ”!』
突如襲いくる僅かな浮遊感と、重心が行方不明になる言いようのない感覚。
魔石を中心に、足下の地面が崩れるように崩壊した。
『だから言ったのに……』
俺の方を見て、シャーウッドさんがそう哀れんだ。
ラティのような【天翔】持ち以外は、この自由落下に身を強張らせるだろう。
何か縋るモノがないかと、慌てて手をバタつかせるかもしれない。が――
「こちとら慣れてんだよっ! 落ちる程度でビビるほどヌルいことはやってねえ!」
突如足場が無くなることなど日常茶飯事。
むしろ崩れると事前に知っているのだ。いつもに比べれば余裕過ぎた。
俺は一緒に落ちている足場を強引に蹴って、宙を走るようにして前に出た。
『なっ!? いや、そうだったね。初めて会ったときも、君は落ちてきたんだったね……残念だな、君の先を観てみたかったよ』
「……シャーウッドさん、お疲れさまでした。あとは任せてください」
俺はシャーウッドさんに肉薄し、そのまま木刀を突き立てた。
砕け散る魔石。木刀はその魔石から力を吸収する。
『…………――っ』
シャーウッドさんが何かを言おうとしていた。
だが声は聞こえず、透けていくようにしてシャーウッドさんは消えた。
俺は届く範囲の魔石の欠片を掴み、声を張り上げる。
「ラティっ! 頼む」
「はいっ、ご主人様!」
「っぐへ!」
ラティに奥襟を掴まれ、首が圧迫されて一瞬意識が飛びかける。
俺を追いかけて飛び降りたラティは、左手にロープを掴み、右手で俺を助けてくれたのだ。
ラティに掴まれて宙づりになる俺。
「あの、ご主人様、申し訳ありません……」
「い、いや、いい。手を使えない俺が悪いんだしな」
俺の手は木刀と魔石の欠片で塞がっていた。
魔石の欠片が無ければ手を伸ばしていたところだが、貴重なこの魔石を失うのは惜しかったのだ。だからラティの行動に文句をいうつもりは一切ない。
「ありがとうな、ラティ」
「いえ、ご主人様の指示に従ったまでです」
俺のハンドサインを受け取ったラティは、下がって俺用のロープを確保しに行っていた。
落ちるというワードが出た時点で、きっと他のヤツもすぐに察したことだろう。
そして用意されたロープを手に、ラティは落ちていった俺を追いかけてくれた。
本当に頭が下がる思いと同時に、ラティならば間違いなくこなしてくれるという安心感もあった。
だから迷わずに前へと行けた。
「さてと、戻ろうか」
「はい、ご主人様。あの、引き上げて下さい」
「あいよっ」
「オラ野郎ども、いつもの馬鹿を引き上げっぞ」
こうして俺たちは、最奥に向かうことなく目的を達成したのだった。
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