巨人の魔物
防衛戦三日めー
強い魔物が着てますよ
防衛戦三日目。
前の二日とは規模が違った。魔物の数やレベル、しかもハーティもやっかいと言っていたアルマジロモドキの魔石魔物の姿も数は少ないが確認出来た。
俺は【鑑定】を持っていないので、正確なレベルは判断出来ないが、かなりの高レベルの魔物も混ざっているかも知れなかった。
大雑把に言うと『大変だ』だった
「弓WSもっとガンガンいけよー!」
「おいおい、魔石魔物が結構下に落ちてんぞ!?」
「魔法もっと削れよ!!」
「おーーい!ハリゼオイでたぞー、荒木様を呼んでくれー!」
「SP切れた、支援魔法で回復頼むー」
「アタッカー!サボるな、前の穴に魔物多すぎだろ」
俺のいる場所から、左に約20㍍程の位置からは修羅場になっていた。
逆に中央から外れている右端の場所は、不謹慎な言い方をすれば平和の一言だった。
サボっているつもりは無いが、魔物が来る数が少ないのだ。
そして俺は後ろにいる奴に声を掛ける。
「なぁ早乙女。お前は中央に行って参加しなくていいのか?」
「いいのよ、あたしはイレギュラーで右端に来るかも知れない、魔石魔物殲滅担当なんだから」
「そうなんだ、で、後ろの人等は、」
「我が隊は勇者早乙女様の護衛である」
「でも、中央結構大変そうなのに、」
今までよりも今回の戦闘は、結構大変そうに見えたのだ。
10人近くここで、無駄に待機しているなら、手伝いに行けばと声を掛けたが、やはり護衛の為に離れる訳にいかないようだった。
――う~ん、ハーティはあまり良くない噂があると。近寄らない方がいいと言う奴等だとか言ってたけど、見た目と違って案外真面目でしっかりしてるのかな?
俺は見た目とかで損をしているタイプの人達かと思っていたが。
「大体よぉ、経験値も獲れないような魔物を相手にするなんて、阿呆な奴のすることだろう。あの偉そうな女、アゼルに呼び出されたから来ただけなのに」
「・・・・こいつ等、」
「勇者様から護衛を頼まれたから、ここに来ているだけだしよ」
――訂正。やっぱ見た目通りのクズ系だった、、
( これは警告の通りに注意が必要か 、)
戦闘開始から2時間近く経過した頃、変化が訪れた。
それまでの間、俺は横に来る魔物を4匹倒す程度の働き。
早乙女は、弓による攻撃なので、届く範囲までWSで攻撃をしていた。
そんな暇気味の右端とは違って、左端側から中央付近に人型の、それも黒い巨大な魔物が、複数出現してきたのだ。
そこまで強そうには見えないのだが、何故か冒険者達は、その魔物を優先で攻撃し始めたのだ。弓や魔法以外のアタッカー達は、巨大な堀に落ちた魔物担当の筈なのに。
威力がまるで足りないWSで、巨大な黒い人型の魔物を攻撃し始めたのだ。
「何やってんだ?効果薄そうなWSで、無理矢理遠くまで攻撃してるけど」
効率の悪そうな攻撃を繰り返す光景に、俺は思わずつぶやいていた。
それの答えを、横に来ている早乙女が、少し太めの眉を顰めながら教えてくれた。
「アレはね、あの魔物は経験値がいいのよ、」
「へ?」
「だから!経験値がいいの!レベル80でも結構な経験値を獲られる魔物なのよ。だから他の魔物をほっといても、先にあの魔物を攻撃したいんでしょうね」
「だから他の魔物を攻撃しているウチに、誰かに倒されてしまうかも知れないから、我先にって競って攻撃してるのか!?」
「そうなのよ、パーティ組んでるメンツが倒せば経験値入るけど、パーティの誰も倒してないと経験値が入らないからね、」
身勝手な状況だった。確かに魔石魔物狩りでは75が限界である、それ以上の経験値を獲るのは強い魔物を探して倒す必要があった。
――だがこれは、
砂糖に群がる蟻のようだ。皆好き勝手に動き出して、とても統制の取れた動きじゃない!こんな状態じゃマズイんじゃ、
巨大な堀があるお陰で、魔物が雪崩れ込む事態にはならなったが、陣形が左端に寄り、SP枯渇と堀の中に魔物が溢れ返る状況になっていた。
特に右端は酷く、俺と早乙女以外誰もいない状況になっていた。
護衛をしていると言い放っていた黒獣隊は、巨大な人型が現れたら、真っ先に中央に向かって走っていった。
人がいない分の負担は、すべて早乙女に降りかかる事になり、彼女のSPも枯渇気味になっていた。
「早乙女。その平気か?」
「ふん、陣内アンタに心配される程、やわじゃないわよ!」
そんな状況化に追い討ちにように。
全長30㍍は超える、黒霧を纏った人型の魔物が出現したのだった。他の人型は精々6~7㍍、圧倒的な存在感を放っていた。
それにより、余計に中央と左側に冒険者達が集まることになった。だが
「あれって、どうやって倒すんだ、」
「それなら問題無いわよ」
早乙女はリラックスした姿勢で、気軽に答えてきた。
中央付近に設置されている櫓上から、澄んだ声で魔法の詠唱が聞こえてきた。
「聖系魔法”奇跡だけの完全結晶”!」
遠すぎて聞こえる筈の無い声が聞こえ。巨人の足元から腰の高さまで、光輝く花が生えて咲き誇ったのだった。
「すげぇ、完全にあの巨人の動きを止めた!」
「あれは柊雪子の魔法よ」
「凄いなあれ、」
「うん、あとあの魔法ってMP消費も凄いみたいで、だから今まで彼女は魔法を温存してたのよ。あの巨人みたいな真の強敵用にね」
そして再び、澄んだ聞き心地の良い声が響く。
「氷系魔法”純白な記念帳”!」
黒い霧を纏った巨人に、白い霧が降り懸かる。
「うっお!なんか寒!」
「あの魔法って強すぎるのよね、ちょっと迷惑だわ」
俺達の位置から200㍍近く離れているのに、その魔法の余波は、急激に冬がきたかのように周辺の温度を下げていた。
白く固まり始めた巨人だが。突然足を切断され、体勢を崩し前のめりに倒れてきたのだった。
「荒木!なんで十分倒せる相手なのに、追加で攻撃なんて!」
早乙女は、ここにいない荒木を責めるように声を張り上げた。
荒木はWS世界樹断ちを放っていたのだ。
遠くで、ちょっとしたビルが倒れるように、白く固まっていた巨人が倒れてきたのだった。当然その衝撃と振動は激しく。
「きゃあぁ!?」
「―ッあ!!」
巨人が倒れた振動で、巨大な堀の前に出てきていた早乙女が踏み外し、下に落ちてしまった。
目の前堀は、傾斜になっているので滑るように降りた為、特に怪我をした様子は無かった。しかし、巨大な堀の右端の為に、袋路になっており。
――マズイ!早乙女の逃げ場が無い!!
これであの数の魔物が殺到したら、いくら勇者でも助からないぞ!
俺の頭の中には、初日に下に降りた冒険者の最後の姿が浮んでいた。
周りは冒険者すべて中央の方に行ってしまい、落ちた早乙女に気が付いているのは俺だけの状況。取り敢えず助けを呼ぼうとしたが。
「いやぁ――――!!」
下に落ちた早乙女はパニックになり、まだ彼女に気が付いていない魔物達に向かって、弓で攻撃を始めてしまう。
「――ッ馬鹿!!」
SPが枯渇気味の彼女は、通常の弓矢での攻撃を行い、ほとんど敵を引き付けるだけの、最悪の効果にしかならなかった。
弓矢の攻撃に気が付いた魔物達が、傾斜を登るのを止め、早乙女に向かって殺到したのだった。それはまるで黒い津波のように。
「ファランクス!!」
一瞬も悩む必要も無く、俺は下に駆け降り、結界の小手を発動させた。
「――キィィィィイイ!!――」
響く音をさせ、魔法陣の壁を展開し、魔物の群れを辛うじてせき止めた。
堀の幅は2㍍、右端側だった為に中央付近よりも幅は狭く、小手の結界で魔物をギリギリ防ぎ切ることが出来たが。
「早乙女!この壁は持っても後5秒も無い、だから壁が消えると同時に、WSで吹き飛ばせ!あとは、なんとかしろ!」
「は、はい」
「カウントいくぞ、イチ、ゼロ!」
「え?ええ!はやい、WS”ピアシグ”!」
「――ッ馬鹿それって?!っぐっが!!」
早乙女は。魔物を大量に倒せるように考えたのか、針をショットガンのように放つWSを選択したのだった。
だが、放つ位置と角度が悪く、俺の肩と脇腹にそのWSが突き刺さったのだった。
「ああ、あう、ゴメン陣内……」
WSのお陰で、目の前の魔物が十数匹黒い霧となって霧散する。その隙に俺は怒鳴るつもりで背後の早乙女を首だけ振り向いたが。
「ごめ、あ、あたし回復魔法使えなくて、陣内ゴメンごめんなさい」
其処には完全にパニック状態になり、シドロモドロに俺に謝ってくる彼女がいた。
しかも、弓を足元に落とし、両手は胸の前あたりで、指を震えさせていた。完全に彼女は使い物にならない状態になっていた。
――これ完全に詰んだな、
ららんさんから買った回復の指輪が熱く感じる。
――傷の回復中か、全く追い付いてないな、
黒い魔物達がこちらを振り向きか近寄ってくる。
――数が確認出来ないレベルでいやがる、、無理だろ、、
背後からは嗚咽交じりの泣き声が聞こえてくる。
――出来れば俺も泣き出したい、、
後ろからは諦めの気配を感じれる、、
――俺は微塵にも諦めるつもりは、、ない!
「かかって来いやーー!」
俺は雄叫びをあげ、此方から魔物の群れに突っ込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
あたしの名前は早乙女京子
背の高さに少しコンプレックスがある。
理由は単純に、女なのに背がデカイと馬鹿にされたことがあるからだ。
男子生徒に、『お前って巨大な日本人形みたいだ』と言われたことあった。
気にする事じゃないけど、とても傷ついた。
もちろん悔しいので、顔には出さずに『あっそう』と、冷めた目をしながら言い返したつもりだった。だけど、それを横で見ていたアイツは。
『綺麗な背の高さじゃん、姿勢とかも綺麗だし』
――アンタみたいな死んだ目のした奴に褒められてもねぇ、、全く、、
無言でソイツを睨んでいると。
『俺は高さとか別に気にしないし』
――ハイハイ、なんなのコイツは、あたしに惚れてんのかっての、、
ただ、心地よかった、、
でもあたしはチョロくないので、何となく感謝の手紙を出した。
普段からメールとか使わないで、手紙をよく使うから、古風で和風とか冷やかされる事が多かった。
手紙には多分、「好き」とかそう言ったのは、書かなかったはずだ。当たり障りの無い感謝だけを書いた筈だ、多分、きっと。
ソイツの机に手紙を入れて、その日は家に帰った。
二日経過したが、ソイツから手紙の返事や反応が全くない。
無視されているのかもしれない。
だったらあたしも無視するだけだ、これからもずっとだ。
それから三日後に異世界に連れてかれた。
異世界では色々あったが、再びソイツと再会することになった。
腹立つことを言ったので、ムカついたから文句言ってやった、もしかしたらちょっと言い過ぎたかも知れない、それに、、
手紙は届いてないのかも知れないと。
反応がおかしいと思い、思い切って聞いてみたら、どうやら知らなそうだった。でも、何かムカつくから、明日から付き纏ってやろう、うん!そう決めた。
それから三日目の防衛戦で、あたしは油断して下に落ちてしまった。
何回も見たことがあるから分かる、下に落ちた者の最後を。
それは轢き殺されるように、無残に喰い散らかされるように、人の形を保つ事が出来ずに死んでいくことを……。
頭が真っ白になって、何かをやってしまった記憶がある。
その証拠に、アイツは背中から血を流している。何とかしたいけど手が動かない、足も動かない、息すらも出来ていないかもしれない。
そんな中、アイツは独り戦い続けている。
陣内君はあたしを助ける為、身の危険を顧みず下に降りて来て、独り魔物と戦っていた。
しばらくすると、堀の中に向かって、巨大な炎の斧が振り下ろされている。
それに合わせて亜麻色の獣が、魔物を首を次々と刎ねていく。
そして目の前の彼は、一歩も退かず、魔物を槍一本で屠っていく。
これは”ズルイ”。
背中から流れる血でその身を染め、雄雄しく戦う姿。
「ずるいよ陣内。それはズルイよ……」
あたしはチョロくないつもりだったのに……
それから数分後、冒険者達が何人も堀の中に降りて、いつの間にか防衛戦は終わっていた。
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