残骸と考察とガレオスさん
誤字報告本当にありがとうございます。
最新話だけなく、他の話までも、本当にありがとうございます。
レビューも感謝ですっ
嬉しさのあまりスターライトしましたっ。
「う~ん、こいつぁ……あれが原因ですかねえ……」
「え? ガレオスさんはこれの原因が分かったんですか?」
俺は、倒したダイサンショウが残したモノ、半分以上消化された竜の死骸を見ながらそう尋ねた。
「ダンナ。ダンナに訊かれてオレが答えたボスの話を覚えていやすか?」
「へ? あ、はい。どの種類かってヤツですよね? 群を引っ張っていくリーダーか、一番強いヤツかって感じの」
「たぶん、それでさぁ。コイツはあの黒いドラゴンが居たから、今までいなかったんですよ――」
俺たちは足有りに続き、足無しの方のダイサンショウも倒した。
足有りの方は割と楽だったのだが、足無しの方は思いの外苦戦した。
その苦戦した理由は、相手に足がなかったこと。
足有りの方は、足を使い移動していた。
だが足無しの方は、ヘビのように腹ばいになって移動していた。
要は、小山の【重縛】だけでは押さえ切れなかったのだ。
元から足を使わずに移動していたのだ、増加させられた体重によって腹が地についたとしても、元から腹ばいだったので関係なかったのだ。
ただ、押さえ切れなかったといっても、動き回ることは封じた。
ヤツをその場に留めさせ、”イートゥ・スラッグ”で狙うことはできたのだ。
だがヤツは、身体を捻るなどして暴れ回った。
そしてその結果、橘が放った”イートゥ・スラッグ”は外れてしまった。
早乙女の方だけでは足りず、倒し切るのに少々手間取った。
結果的には、ラティ、テイシ、伊吹による”重ね”で倒せたが、暴れ回るダイサンショウを再度押さえるために小山が無茶をした。
小山は盾だけではなく右腕まで使ってヤツを押さえ込み、右肩までドロドロに溶かされたのだ。
ダイサンショウを倒した直後、小山は本気でヤバかった。
葉月の回復魔法がなければ、いまもヤツは瀕死状態だったかもしれない。
彼女の回復魔法には本当に頭が下がる思いだった。
その後俺たちは、周囲を警戒しつつ状況の検証をしていた。
「――たぶんですが、ダイサンショウは黒いドラゴンによって倒されていたんでしょうね。……そしてそれをオレ達が倒しちまったから、ダイサンショウを倒せるヤツが居なくなっちまったんじゃねえかと……」
「あ、あ~~、えっ?」
――おいっ、それってヤバいじゃんっ、
あれだろ? 環境破壊的なことをしちゃったって感じか? いや食物連鎖か?
ん? ってことは……まさか……
「ガレオスさん、例えばだけど……ひょっとして……」
「ええ、また同じようなことが起きる可能性が高いですね。ただ、取り込む餌ってか、ドラゴンの数が減ったでしょうから、今回みたいにデカく成長するかどうかは不明でさぁ」
「でも、魔物は取り込めると……」
「ええ、その辺りあるから一概にはなんとも言えやせんねえ」
非常に面倒なことが発覚した。
もしあの魔物が今後も湧くのだとしたら、定期的に討伐する必要があるかもしれないのだ。
倒した後、小さい魔石に混じって巨大な魔石が一個あったことから、ダイサンショウは魔石魔物なのだろうと推察できる。
だから他の魔物みたいに簡単には湧いたりしないだろうが、何かの切っ掛けで湧く危険性がある。
「……ガレオスさん。もしですが、もしあのまま大きくなり続けたらどうなると思います?」
「そりゃあ、とても面倒なことになりやすでしょうねえ……」
「っがあああああ! マジかっ、あの黒い巨竜は必要なヤツだったのかっ!」
元の世界でも似たようなことを聞いたことがある。
天敵がいなくなったため、それに捕食されていた生物が大量発生したなど、何かのテレビ番組で見たことがある。
「…………まあ、ゼピュロスに任せるか」
「へい、それがいいかと」
俺の言葉に黒い笑みで肯定するガレオスさん。
これは仕方なかったことであり、所謂『俺は悪くねぇ』案件なのだ。
ゼピュロスへの報告は橘か小山に任せれば良いだろう。俺たちがする必要はない。責任とか全力で嫌だ。
「さてと、そろそろ行きやすか? まだ使える天幕が残っているかもしれないですし、それの回収もしないとでさぁ」
ガレオスさんはそう言って辺りを見回した。
回復魔法による怪我の治療や、落ちている魔石の回収などは終わった様子。
ここにこれ以上居ても仕方ないので、俺たちは出発することにしようとしたが――
「――もう帰ろう、由香」
「ん? 橘?」
少し離れた場所から、切羽詰まった橘の声が聞こえてきた。
その聞こえてきた内容は、俺たちとは真逆なモノ。
「風夏ちゃん、もう帰ろうって言ったって、まだ目的の最奥に辿り着いてないよ? 特別な魔石から力も回収していないし」
「そんなの関係ないよっ、いまみたいな魔物がまた出てくるかもしれないのよ。そんなの危ないよ、もしかしたらもっと危険なのがいるかもしれないんだから」
葉月の言葉を関係ないと斬り捨てる橘。
コイツは本当に何でついて来たのかと、そんな気持ちで一杯になる。
「ねえ、風夏ちゃん。帰るって言ったってみんなが居るんだよ? みんなに――」
「――他の連中なんてどうだっていいわよっ。ワタシが誘った5人がいるから、そいつらと一緒に帰ろう」
「えっ? 風夏ちゃん……?」
「早く帰ろう、由香。戻るだけなら7人でも大丈夫だから。だから一緒に――」
橘はとんでもないことを言い出した。
なんとヤツは、俺たちに許可を取らずに帰ろうと言い出したのだ。
しかもヤツの言葉を聞く限り、全員で帰還するのではなく、自分たちだけで戻ろうというのだ。
もう自分勝手とかそういうレベルではない。
この探索アライアンスを崩壊させるのが目的なのではと、そう勘ぐるレベルの言葉。俺とガレオスさんはじっとそれを見続けた。
「……風夏ちゃん、そんな勝手なことはできないよ。みんなに迷惑をかけることになるんだし、それに、もしここで風夏ちゃんがいなくなったら、食べ物とかそういうので困っちゃうよ? 陽一君たちだって――」
「――そんなのどうでもいいわよ!」
――いやいや、全然よくねえよ!
なんだコイツは? 何処まで自分勝手なんだよ……
「……由香。アイツのことがそんなに大事なの? ねえ、そんなに……」
話がよく分からん流れになってきていた。
まるで自分を一番大事にして欲しいと、そんな子供のような駄々をこねているように見えた。
「ねえ、由香。アタシよりも……………――が大事なの?」
声が小さくなって聞き取れなかったが、橘は何かを天秤に掛けるようなことを言った。
ほぼ全員が息を潜めて、二人のやり取りを見ていた。
あのサリオでさえ黙って二人のことを見つめ続けている。
「………………うん、大事だよ。すっごく大事」
「由香……」
「風夏ちゃんには言ったよね? 私の気持ちを、私の想いを」
「――っ!?」
橘が怯んだ隙に、畳み込むように言葉を発した葉月。
完全に押されたのか、橘は何も言えなくなった――と思ったが。
「ねえ、由香。もう一度訊くね。ワタシとアレ、どっちの方が大切なの? どっちを取るの? ねえ、由香……」
「風夏ちゃん。私にとってどっちも大切だよ? そんなどっちの方が大切だなんて変だよ。私は風夏ちゃんが本当に困っていたら、風夏ちゃんのところにいくよ。だって私の親友だもん」
「あは、あはは。『親友だもん』か。うん、本当に由香らしいね。ねえ由香、ちょっとだけ二人っきりで話せないかな? あまり聴かれたくないでしょ? 部屋を用意するから」
橘はそういって自身の【宝箱】から家を取り出した。
「あれ? このお家って初めて見るかも」
「ええ、大っきい方を出すとちょっと大変だから、小さい方を出したの。だから中でちょっとだけ話さない? 聴かれたくないでしょ?」
橘が出した家は、いつも使っている家ではなく、プレハブ小屋程度の小さい家だった。
二階などはなく、本当にこじんまりとした家。そして何故か窓も見当たらない。
「うん、じゃあ中で話そっか。陽一君、ちょっとだけ時間をちょうだいね」
葉月はそういってお願いをしてきた。
その瞳には、橘を説得してみせると、そんな思惑が感じられた。
俺はそれを見て、分かったと頷く。
「じゃあ、由香。先に入ってもらえる――」
「――駄目ですハヅキ様っ!! 中に入られては駄目です……」
「ラティ?」
「え? ラティちゃん?」
「……何か文句があるの? アンタ」
ラティが突然声を上げて葉月を止めた。
彼女の突然の行動に周囲が驚く中、橘だけは不快感を露わに睨みつけた。
「ハヅキ様、駄目です。上手く言えませんが……罠です」
「罠……?」
「はい、罠です」
不穏なことを言い出したラティ。
誰もが不思議に思う中、俺だけは何か罠があるのだろうと信じた。
「……風夏ちゃん、何かあるの? この家の中に」
「何もないわよ。由香はワタシのことが信用できないの? あんなヤツの犬みたいな子のことを信用するの?」
「…………わかった。風夏ちゃんのことを信用するね。あ、でもラティちゃんのことを信用しないって訳じゃないからね。私は、自分の親友だから風夏ちゃんのことを信じるの」
「由香……ありがとう……」
橘は、信じてくれたことに感謝の言葉を言った。目を逸らしながら……
そして、葉月が小さい家に入るとその家が消えた。
正確には、橘の【宝箱】に収納されたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
感想へと返信が滞り申し訳ないです。
全部読ませて貰っております(_ _)