ズルりと不穏
「う~~ん、オレ様もそれは聞いたことがねえな」
「自分もだ」
「ああ、俺も聞いたことがないかな。少なくなったとかならあるが、全部居なくなったっていうのは……」
サイファ、グリスボーツ、アファは、やはり聞いたことがないと言った。
「やっぱりそうか……」
現在俺たちは、魔物がいない現象について話し合っていた。
野営の設置を終えたあと、主要メンバーだけで意見を出し合っていた。
因みにその主要メンバーの中には、サリオ、小山、早乙女、
そして葉月と橘も居なかった。
葉月は橘を宥めるために、家に引っ込んでしまった橘を追っかけて家の中に行った。
本当に拒絶しているのであれば、家の扉に鍵を掛けていたはず。
だから中に入れたということは、そういうことなのだろう。
( ったく、かまってちゃんかよ…… )
「――俺は何度もここに来たことがあるが、竜すら姿を見せないってのは、どうにも薄気味が悪いなあ」
「ああ、そっか。アファは西出身だもんな」
どうやら魔物が居ないこの状況は、西側のヤツにとっても初めてのようだ。
きっと何かが起きているのだろう。
「ねえねえ、私たちが倒した黒くておっきい竜が原因だったりするのかな? ほら、生態系を乱したとかそんな感じで」
「もしくはあのドラゴンがボスだったか……?」
伊吹、テイシが思いついたことを口にした。
二人のその発言を聞いて、当たらずとも遠からずだと俺には思えた。
確かにあの巨竜が原因な気がする。
巨竜の素材はかなりの金額で売れた。他の竜よりも遥かに高値だった。
その金額からみても、あの巨竜は希少だったのだろうと予測がつく。
シャーウッドさんからは、歴代勇者をも倒したと聞いた気がする。
そんな竜の巣の主のようなヤツが居なくなったのだ、もしかすると本当にそれが原因なのかもしれない。
「……ガレオスさん。主ってか、ボス的なヤツが居なくなると、どうなると思いますか?」
「へえ、そうですねえ。まず、そのボスの種類によるでしょうねえ」
「ん? 種類?」
「そうでさぁ。単なるリーダー的な存在なのか、それとも一番強いってだけの存在なのか、それによって変わりやす」
「……なら、一番強いだけって場合は?」
「普通なら、次に強いのが群を仕切る。ですがぁ、場合によっては一番強いヤツによって押さえられていたモンが幅を利かせるとかあるかもですねえ」
「……なるほど」
何か見落としてはならない、そんな得体のしれない気がしてきた。
いったん周囲を探るべきかと、俺がそう思考を巡らしたそのとき――
「大変ですっ、勇者コヤマ様たちが、伝統の風呂ノゾキをしようと動きました」
「へ? はい?」
閑話休題
これは俺の失態だった。やはりヤツは埋めておくべきだった。
あの馬鹿は、この異世界で浮かれてそれなりに馬鹿なことをやってきている。
要は、無駄にはっちゃけているのだ。
そして今回は――
「小山、怒らないから素直に姿を現すんだ。今なら許してやるぞ?」
「…………」
「返事は無しか。だが居るのは分かってんだぞ。この髪飾りの付加魔法品は姿隠しに反応するんだ。見えるだろ? この石が赤くなっているってことは、これの範囲内で誰かが姿隠しの魔法を使っているってことだ」
状況はとてもアホらしいことになっていた。
俺は仮設風呂場の前に立ち、小山がこれ以上近寄れないようにしていた。
アイリス王女から貰ったアクセサリーは赤色を示している。
正確な範囲は分からないが、俺を中心にして半径5メートル以内に小山は居る。
ヤツが少しでも動けば察知できる。
足音や足跡など、ヤツの居場所を知ることができる。
「小山、観念しろ。オッドの方もすでに捕らえたぞ」
「…………」
小山組の狼人冒険者オッドは、小山のために陽動として動いていた。
サリオが土魔法を駆使して作り上げた仮設風呂場の、後ろ側からヤツは来ていたのだ。
サリオが地面を隆起させて作った土壁を登って覗くことは可能だ。
一応、正攻法とも言えなくはないが、オッドはともかく小山では登れない。
だから俺は、オッドは囮で小山は正面から覗くつもりなのだと踏んだ。
そして俺の予測は当たり、正面から来た小山は俺に阻まれる形で動けなくなっていた。
「小山、素直に出頭するんだ。今ならまだ間に合う」
そう、まだ間に合うのだ。
小山が覗こうとしている相手は早乙女と伊吹だ。
いま風呂には、その二人が入っていると俺は聞いていた。
正直言って俺も覗きたい。だがリスクが高すぎるのだ
取り敢えず早乙女がヤバいのだ。
三雲はまだ理性が働いているためか、お仕置きのWSはぶっ飛ばすような衝撃系だった。
凄まじい衝撃でぶっ飛びはするが、大きな怪我を負うことはなかった。
だが早乙女の場合は違う。
ヤツは絶対に射貫く系のWSを感情のままに放ってくる。
具体的に言うと、右目と左目の間に穴が空く。
ここには言葉がいないのだ。うっかり死なれては流石に困る。
「そろそろ観念しろ。他のヤツもそろそろやってくる。そうなれば詰みだ」
「ねえ陽一クン。本当にオラを許してくれる?」
右前方の方から声だけが聞こえてきた。
俺は即座に何もない空間にタックルをかまし、姿を隠していた小山を押し倒した。
確かな手応え、俺は即座に小山の首を絞めた。
「よし、死ね小山! 誰にも気付かれぬように埋めてやるっ」
「ちょ!? 陽一クン! 言ってること違くない? さっき許すって!? ギブギブっ、本当に首に入って――」
「はははっ、あれは嘘だ。お前にはノトスで埋められた借りがあったからな。ここできっちりと返してもらうぜ」
「待ってっ! 待ってっ! 気付いてよ! 伊吹ちゃんもお風呂に入っているっておかしいでしょ! 一緒にいたんじゃ――ぐふっ」
「あっ、ホントだ……あれ?」
小山に指摘され、俺は確かにおかしいと気が付いた。
伊吹は俺たちと一緒に話し合っていたのだ。
それなのに途中から聞いた報告では、伊吹と早乙女が風呂に入っているというものだった。これは確かにおかしい。
「およ? 何か大変なことになっているですよです」
「サリオ?」
「サリオちゃんからも説明してあげてー! これはお芝居なんだって。陽一クンとかみんなの緊張を解してあげようとしたんだってっ」
「へ……?」
閑話休題
このノゾキ騒動は、橘の件でイライラしていた俺たちを和ませるために仕掛けられたモノだった。
どうやら首謀者は小山とサリオらしく、二人が考えてそれに他の連中が付き合っただけのようだ。
だがしかし当然、こんなことで和んだりはしない。
こんなしょうもないことに労力を使わせるなと、心の底から思う。
だが一方、コイツらなりに気を遣ってくれたのだと思うと、少しは思うところがあった。
「ったく、騙されたぜ。小山の言うように伊吹は俺たちと話していたんだから、普通に考えればおかしいって気付くのに……」
――か~~、どんだけ俺は煮詰まってたんだ?
何で気付かなかったかな~……いや、それに気付けない程だったってことか、
まったく俺は……
「うし、一度さっぱりさせっか。ちょっと先に風呂をもらうわ」
「あいあいです。タオルとか後で持っていくです」
「行ってら、陽一クン………………あれ? 確か今は? あれ?」
その後俺は、早乙女によって右目と左目の間に穴を空けられかけた。
咄嗟に顔を横にズラさなければ本気でヤバかった。
取り敢えず俺は、必死に土下座をすることで事なきを得たのだった。
因みに、後でラティさんにも怒られた。
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