護衛隊
ごめんなさい、ちょっと短めです
防衛戦二日目
WSの使えない俺は、唯一まともに仕事が来るかも知れない場所。
巨大な堀の右端に配置されていた。
押し寄せて来る魔物が少ない場所なのに、俺の背後からは強力な火力が。
「弓WS”スターレイン”」
無数の光輝く針が、広範囲に降りそそぐ!
局地的豪雨に見舞われた魔物達は黒い霧になって霧散していく。
それを眺めながら俺は叫ぶ。
「早乙女、お前中央いけよ!ここじゃ魔物の数足りないだろ!」
どう見ても過剰火力だった。左遷された冒険者の居場所に勇者が居ていい筈が無いのだ。しかも万が一にと勇者の護衛として。
「さすが弓の勇者早乙女様!魔物を一度にあんなに屠るなんて」
「いえ、そんなことは、」
勇者の護衛として10人近い兵士達が付いてきたのだ。
しかも全員が同じ格好の装備なので、騎士団的なモノなのかも知れない。
ただ、それにしては見た目が異様だった。
黒い皮鎧をベースに金属板で補強し、これまた黒い毛のファーを首周りにふんだんに使っている。護衛と言うよりは略奪が似合いそうな風貌だった。
その黒い集団の中から、荒木を超える人相の悪い男が一人前に出てきた。
頭には鉢がねを巻いており、その鉢がねの中央の部分には細いアンテナのような角が一本付いていた。
その角付きが早乙女に話掛けてきた。
「勇者早乙女様。貴方は我らが黒獣隊が御守りします」
「はぁ、ありがとうございます」
早乙女が返事をしつつ、角付きの、その角を凝視していると。
「おや、勇者様はご存知ないのですか?リーダーや上官の地位にある者は、角を付けてその立場を周りに示す風習を?」
早乙女は『そうなんですか、』と返事を返し、そのまま魔物の群れに弓WSを放つのを再開していた。
特にやれることが無いので、櫓にも上がらず弓で攻撃している早乙女を見ていると、その彼女に明らかに下卑た視線を向ける男がいる事に気が付いた。
早乙女はその男が後ろに居るので、視界に入らず気付いていないみたいだった。だが何となく気になり、その男を見ていると、他の黒獣隊の者が俺を咎めてきた。
「おい!なんだその目は、隊長のジャア様を睨めつけやがって」
「はい?」
どうやら俺は無意識のウチに、きつい目つきをしていたようだった。ラティの件もあって、こういった下卑た目をする奴を、激しく嫌悪するようなっていたのだ。
とは言え、無用なトラブル回避の為に、誤魔化さないといけない訳で。
「イエイエ、勇者さんの弓の強サとその美しさにミトレテイタダケデス」
( 酷い言い訳だ、死にたくなってきた、)
でも早乙女は、美しい系の女性だよな。意思の強そうな切れ長い目に、腰よりも長い黒髪ロング、白磁のような肌に、背も高く手足も長くて弓を構える姿とか特に似合うし、黒いドレスを着てグランドピアノとか弾くのも凄い似合いそうな和風美人っぽいけど。
そんな下らないことを考えながら、早乙女を見ていると。
「はぁ?陣内。馬鹿じゃないの?」
早乙女に、顔を真っ赤にして怒られた。
――コイツ口が悪いから、やっぱ”和風残念美人”なんだよな、、
そんなやりとりをしつつ、防衛戦二日目は終わりが近づいてきた。
俺は、横に逸れて来た魔物を3匹倒す位の仕事しかしなかったが、護衛に来たと言う黒獣隊は、何もしないで終わっていた。
そのことを早乙女に咎められていたが、『勇者荒木様からのお願いでして』と、どうやら荒木は早乙女の護衛を彼等にお願いしたらしい、荒木本人が中央配置から動けない為に。
( こいつ等に頼む方が危険な気がするのだが、、)
それからすぐに防衛戦は終了した。
斥候からの狼煙のが上がったみたいだった、その合図の狼煙を見てると、横にいつの間にかラティが来ていた。
「ラティ?どうしたんだ、中央の配置だった筈じゃ、」
最近嫌われ気味なので、本当は来てくれて嬉しいが、テレ隠しの意味を込めて無駄なことを聞いてしまう。
「あの、何となくですが危険を感じましたので、」
「危険?魔物はもういないはずじゃ?――って!まさかまだ【索敵】に引っかかる魔物が潜んでるのか?!」
――油断した!と思い、辺りを見回すが。俺の視界には敵と呼べそうなのは、早乙女と黒獣隊だけだった。
( ってコレを敵って認識しちゃまずいかな? )
ただ、黒獣隊の隊長ジャアは、ラティをあの視線で見ていたので、敵として認識はしといた。
「あの、ご主人様 敵の気配ではなくて、ただ危険を感じて来ただけです。でしたが、気のせいみたいですねぇ」
「そうなんだ、ありがとうな」
「――ス、、
「――ッササ!
危険を察知して来てくれたラティに、感謝の気持ちを込めて頭を撫でようとしたが、ラティに避けられてしまった。機嫌はまだ良くないらしかった。
( そう言えば、察知した危険ってなんだったんだろ? )
こうして二日目防衛戦も、俺は役に立たず終わりを告げたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜は昨日と同じように、ハーティ達の三雲組と一緒に夕食を取ることにした。
夕食時、相変わらず勇者三雲は俺に近寄りはしなかった。だが、勇者言葉は俺の隣りの席に腰を下ろして、俺に懸命に話し掛けてくる。
「えっと、陣内君。今日の防衛戦でもサリオさんの魔法凄かったですね」
「ああ、今日も薙ぎ払っていたね」
「ラティさんも近くに居たから見てたけど、彼女のWSも凄かったよ」
「SPも多いから結構連打出来るみたいだね」
「あとは、えっと、えっと、、」
「・・・・」
これはアレですかね、『奴隷は働いてるのに、お前は何してたの?』的な感じで、俺は責められてるのかな?でも言葉はそんなこと言うタイプには見えないし、
相手を探る気持ちで言葉を見ていると。
――あれ?ひょっとして。ただ単に会話を探してるのかな?
何気に言葉には、ラティとサリオがお世話になってるしなぁ、このテーブルも言葉のだし、ここは一つ俺からも話題をふるべきだな、
――って、そんなに話題を振れる程のコミュ力無いよ俺、、どうしたら、
「あ!そう言えば、今日俺の近くに早乙女が来てたよ」
「え?早乙女さん?」
「知ってるかな早乙女って、えっと、、」
「陣内君は早乙女さんと仲良いのですか?」
「いや全然」
「あ、えっと、そうなんですか、良かった」
言葉は最初に落ち込むように眉を下げ、次にはふわっと花が咲くような笑みを浮かべ、最後には何処か申し訳無さそう表情になっていた。
横に座っている言葉が済まなそうに顔を叛けていると、逆の隣側から、俺にハーティが囁く。
「 陣内君、女性との会話で、他の女性を話題に出すのはタブーだよ 」
コミュ力が高そうなハーティからのアドバイスを頂いた。
( 他の話題を探せと言うことかッ、、)
――それなら、
「ああ、そう言えば、黒獣隊とか言う目立つ集団がいたね」
俺は全力で今日あった出来事を思い出して口にした。
( しかし、『そう言えば』からしか、会話が始めれない、、)
自分のボキャブラリーの無さに嘆きつつ話題を振ってみると。
「今日到着されたみたいですね、昨日はいなかったですし」
「へぇ、そうなんだ」
下手くそな会話のキャッチボールをしてしまった。
そんな酷い会話をしている俺に、名投手が援護にきてくれた。
「その黒獣隊なんだけど、あまり良くない噂を聞くね、」
「ハーティさん、それはどんな噂なのでしょうか?」
合わせるように言葉が喰い付いてくる
「ん~~ちょっと女性には言い難いから無しかな」
「あ、察しましたよ」
「あ、これは噂話じゃないけど、今日から酒類が解禁になったのは、その黒獣隊が指揮官のアゼルさんに抗議して、酒類解放にしたらしいね」
気が付かなかったが、この夜営陣でいつの間にか、酒がOKになっていたようだった。
「指揮官に抗議出来るってことは、身分の高い方なのですね?」
「そうらしいね、でもそれがやっかいだとも聞いているね」
俺の会話は全く駄目だったが、ハーティとの会話には自然で話しているなぁ言葉は、まぁ確かに俺の会話じゃ盛り上がらないし、仕方ないし、気にしてないし、、
「だから陣内君。隊長のジャアには気をつけるんだよ」
「へ?」
――しまった、考えに耽っていて聞き逃していた、、
その後、食事を終えた俺は昨日を同じで早めに宿泊用天幕に戻ることにした。
だが、昨日とは違い別の勇者に待ち伏せを喰らうことになった。
「ようぅ陣内。ちょっと聞きたいことがあんだけどよぉ」
「あん?」
待ち伏せをしていた勇者荒木は、酒を飲んでいるのか、フラフラと揺れながら俺に近寄ってきていた。近くに来ると、酒臭い臭いを放っているので、酒を飲んでいるようだった。
そしてろれつがまわっていないにも係わらず話し掛けてきた。
「よぉうぅ、昨日テメーよぉ、早乙女とあに話してたんだぉ」
「はぁ?」
「合ってたんだぉ?」
「じゃなぁ、」
俺は会話にならないと判断したので、その場を走って去ることにした。
荒木は離れて去って行く俺に。
「手紙とかなんか言ってなかったか?」
急に酔いが醒めたように声を正して俺に聞いて来たが。
俺は無視してその場を去ることにした。何故かそのまま、その場に居ると良くない事が起きそうな予感がしたからだ。
不安が残ったので、パーティの位置を示す矢印を確認しつつ、その日は床に入った。
( それにしても最近ラティと会話出来てないな、)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日目の防衛戦が始まった。
斥候からの情報で、これが魔物の群れの最後の波らしいと、冒険者達に伝えられた。
他には、魔石魔物の数も多いと言う情報も追加されていた。
俺は昨日と同じ、右端の配置になった。
何故か早乙女も、俺の後ろに配置されていた。それに合わせ黒獣隊も彼女に付き添う形で、右端の配置と言う、無駄な編成が組まれていた。
そして、巨大の堀の向こう側、数百メートル先に今までよりも、大量の魔物が雄叫び等も上げずに、沈黙のまま迫って来ていた。
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