よくある「冷たい方程式」
すいません、投稿が滞っておりました……
再開です。
どっかの誰かが言っていた。
探索や航行などで、予定にない同行者が増えると、何か色々あって失敗すると言っていた気がする……
「いやぁ参りやしたねぇ……って、言っても……なあ……」
アゴを指で擦りながら、ガレオスさんが面倒臭そうにつぶやいた。
ぞろぞろとついて来た野次馬のような冒険者たちは、その大半が途中で引き返した。
元から竜の巣に居た冒険者たちも、何組かは勇者に釣られてついて来てはいたが、俺たちが最奥を目指していることを知ると、その全てのパーティが離れた。
興味本位や野次馬根性でついて来るほど馬鹿じゃない。
ダンジョンとはそう言う所であり、冒険者たちはそれを理解し弁えていた。
だがしかし――
「はぁ~~、ダンナすいやせん。この流れは読めませんでした」
「あ~~、いや、うん、無理だろ……」
俺とガレオスさんがうんざりと見る先には、どや顔の勇者橘がいた。
首を少し横に傾け、腰に手を当てて――
「ワタシが同行を許可するわ」
俺たちに何の相談もなく、勝手に同行の許可を下す橘。
その態度は、どこか俺たちに見せつけているようだった。
「ありがとうございます、勇者タチバナ様」
「私めが貴女様の盾となりましょう」
「タチバナ様。深く感謝します」
竜の巣の最奥を目指すと言うのに、怯むことなく同行を申し出てきた5人の冒険者たちは一斉に頭を下げる。
出来れば突っぱねたい案件だ。
元々ゼピュロス側の人間を入れるのを避けたのだ。ただ、サポーターだけは必要なので、最低限の人数だけは入れた。
だが、我が強くなりそうな戦闘要員の補充は避けた。このガレオスさんの提案には俺も賛成した。
それに勇者の下で戦っていない冒険者では、恩恵による影響の差が大きくてどうしても物足りない。
仮に同じレベルであったとしても、ステータスの差は歴然だ。
だからわざわざ足手まとい兼、嫌な予感しかしない地雷要員などは入れたくなかったのだ。
だと言うのに――
「いい? これは決定ね、文句ないわよね?」
「…………」
そう言って俺たちを見下すように見る勇者橘。しっかりと舐め腐ったポーズまで取っている。
古今東西往々にして、『文句ないよね?』と言われた後に文句を言っても、その大半が却下される。それどころか場合によっては悪化することがある。
今回の場合だと、『だったら一度街に戻ってから決め直そう』だ。
絶対にそれだけは避けたい。
今回の探索では、時間が惜しいからとガレオスさんが上手いこと断ったのだ。それなのに戻ってしまっては無駄になる。
もしこれで一度戻ろうものなら、何人連れて来られるか判ったものではない。
箔を付けたい者や、ゼピュロスの息が掛かった者、そして地雷になりそうな者がわんさかやって来る。
一度戻るという手は悪手、これだけは避けたい。
理想としては、一番の橘を置いて行きたいところだ。
地雷なんだから埋めるという手もありかもしれないが……
「はあ、仕方ねえか……」
今回は俺たちが折れる結果となった。
橘の気性を考えるに、ここで突っぱねようモノならどうなるか判ったもんではない。踏み抜いた地雷と同じだ。まず爆発する。
出来れば本気で追い返したいところだが、言った程度で引き下がる橘ではないし、それにアイツは大事な荷物運び役。
今回は仕方ないと諦めて、俺はすぐにラティのもとへと向かった。
この無理矢理ついて来た連中に悪意などはないか、それをラティに判定してもらうことにしたのだ。
「――害意とかは無しと?」
「はい、そういった感情はないようです。ただ…………あまりよろしくない欲のようなモノが視えました」
「ん、それって」
「あの、好きになったなどの感情的な欲情ではなく、物欲の類いと申しますか……地位などを欲する方かと」
「あぁ~、なるほど。そっちの方か……」
何故ヤツらがやって来たのか、俺はそれを察することができた。
同行を申し出てきたヤツらは、きっとゼピュロス側のヤツらなのだろう。
そしてただの冒険者ではない。
――いや、冒険者じゃねえな、
たぶん、ゼピュロスに所属している兵士か騎士ってところか?
それなら……
俺はヤツらの所作を見てそう判断した。
冒険者特有の荒さと言うべきか、そういったモノがヤツらにはなかった。
礼儀正しいとまでは言わないが、何かの規律に従って動いている、そんな印象だった。
「上のヤツに言われてやって来たって訳か、……納得だ」
最奥に向かうと言っているのに引かない連中だ。普通のヤツらではない。
しかも報酬の話をしていないことからも、金で動く冒険者とは違う。
勇者に惹かれてやって来たと考えられなくもないが、さすがに命を落としてもかまわないと言うヤツは稀だ。
もしそんなヤツが居るとすれば、それは勇者と行動を共にしてきたヤツだけだ。後は、葉月に陶酔しているシキのような勇者信者。
「あう、おらぁこっちにおいやられただ……」
「シキ……」
しょぼくれた姿のシキがやってきた。
見た目は高貴系なイケメンだが、喋れば超田舎者丸出し残念系。
そんなシキが泣きそうな顔で話し掛けてきた。
「おいやられただ……」
「うん、まあ予想はしていた」
シキは、葉月の従者のようについていた。
常に葉月の後ろに居て、まるでデカいワンコのようヤツだ。
さすがに何かあってはマズイだろうと思い、一応ラティに視てもらったことがあるが、ラティからは、『欲と言うモノは一切見えません』とのことだった。
元五神樹のシキは、ガチな信者らしい。
要は、葉月のことを本気で神様か何かだと思っているタイプだ。
神に対して敬うことはあっても、何かを欲するようなことはしない。願うとしたら、後ろに居ることを望むだけ。シキとはそういうヤツらしい。
思い返してみれば、教会での婚姻騒動のときもそうだった。
他の五神樹とは違い、シキだけは否定的な態度だった。
だから下手な間違いを起こすことはないだろう。
「たちばな様さぁ、めっさけんろ怖かよね」
「ああ、何言ってんだがよく判らないけど、まあ分かる」
チラリと盗み見るように橘の方を見ると、橘は葉月と腕を組んで歩いていた。
一応微笑ましい風景とも言えるかもしれないが、ここはダンジョンの中だ。さすがに気が抜け過ぎとも言える。
葉月と一緒に居るのに邪魔だからシキは追い出されたのだろう。
どんな脅され方をしたのか不明だが、シキは完全にビビっている。
「ダンナ、アレどうしやす?」
「…………ほっとこう。葉月には悪いが……」
一瞬、葉月と目が合ったが、俺はそっと目を逸らした。
『お前の親友だろ? お前が何とかしろ』というヤツだ。
ハッキリ言って関わり合いたくない。ヤツに何か言ったら最後、また言い争いに発展する。
ダンジョンの中なのだから、無駄ないざこざは避けたい。
そしてその為に5人の参加を容認したのだ。
俺が追加の5人を容認した本当の理由は、橘の面倒を見させるためだ。
伊吹組のメンツは橘を避けていた。
そもそも誰だってそうだ、伊吹と橘では違い過ぎる。
伊吹と行動を共にしている者から見れば、橘はとても嫌なヤツに見えるだろうし、実際に嫌なヤツだ。性格の苛烈さなら勇者一かもしれない。
「……くそ、やっぱ帰りたくなってきたな。地雷を抱えたまま潜りたくねえ」
「ダンナ……」
こうして俺たちは、今までにない不安を抱えたまま最奥を目指すこととなったのだった。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども……