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竜の巣へ行きたい

遅れました;

 ポンコツはポンコツだった。

 残念ながら橘の参加が決定してしまい、俺はふて寝した。


「あの」


 正直そこまで期待はしていなかった。

 でも、もしかしたらと言う気持ちはあった。


「……んっ」


 現在勇者たちは、ゼピュロス新公爵が開いた晩餐会に参加していた。

 こうして勇者たちをもてなすことは定番であり、そして己の権力を周囲に見せつける絶好の機会。


 特に公爵を継いだばかりのゼピュロス新公爵にとっては渡りに船。やって来た勇者たちは、半強制的に全員参加させられていた。

 竜の巣(ネスト)攻略のスポンサーでもある公爵からの願いだ。無下にするのは良くないとし、橘の顔を立てる意味も含めて参加したのだ。

 

 因みに冒険者たちの参加はキツく断られた。特に俺が……


「ちょっと美味いもん喰いたかったな……まさかサリオは参加出来るとは」 

「あの、サリオさんは公爵家の――っん……ぅ」


「……まぁ仕方ないか。取り敢えず話を進めよう」

「はい。あの、ですがそろそろ……」


 俺はいつもの日課をこなしていた。

 ラティの耳と尻尾を撫でながら情報共有を行う時間、ナデナデタイム。

 ここ最近は馬車旅だったので邪魔が入り、しっかりとナデナデタイム(日課)をこなせていなかったのだ。

 なので今日は濃密に日課をこなす。邪魔をする者は…………晩餐会中。


 俺は今回のお題、勇者橘のことをラティと話し合っていた。

 アイツの目的、それと俺に殺意のような嫉妬を急に持ったことを尋ねていた。

 橘の中で何があったのかと、俺はラティに尋ねていたのだが、いつの間にかまた尻尾に集中していた。

 わっしゃわっしゃとラティの尻尾を撫でながら耳を食む。


「…………」

「あの、あのっ」


「ふがぁ? あ、すまん、ちょっとベタベタになっちゃった。……なあラティ、橘が何に嫉妬しているのか分からないか? 【心感】で多少は視えるんだろ?」

「…………あの、すいませんご主人様。タチバナ様の嫉妬の色は強すぎて……何に対してなのか読み切れません」


「あ~~~なるほど。確かそんなことがあるって言ってたな。感情の色が極端に強いと、その色が全部を塗り潰して他が見えなくなるだっけか?」

「はい……」


「女の嫉妬は男の千倍って言うもんな。仕方ないか……。そういや早乙女とサリオは大丈夫かな? 何かやらかしていそうな気がする……」


 濡れたラティの耳を拭いながら、俺は思い出したことを口にした。


 葉月は問題ない。伊吹の方も、きっとそつなくこなしていることだろう。

 だがあの二人は不安だった。小山の方はどうでもいい。


「……いや、葉月がいるから何とかフォローしてくれるか」

「あの、ご主人様。そろそろ……」



 それから15分後、『さあ、これからだ』と言う時に、早乙女とサリオが部屋に突入してきた。色々と叫き、晩餐会に何か不満があった様子だ。


 一応話を聞くと、不満は最初からあったそうだ。

 早乙女の方は単純に人嫌い。サリオの方は、料理を取ろうにもテーブルに届かず苦労したらしい。他にも、ノトスに比べると対応が冷たかったそうだ。

 

 だから二人はさっさと退出したかったらしいが、葉月に捕まってなかなか抜け出せなかったらしい。

 だが急に葉月が解放してくれて、いまこの部屋にやって来たと……


「なるほどなるほど。――ちきしょう、このポンコツ共! 二人ともさっさと自分の部屋に帰れっ!」


 妨害に来たとしか思えない二人。俺は二人を何とか部屋から追い出した。

 だが何故か、気が付くとラティも一緒に連れて行かれてしまっていた。

 どうやらサリオがラティに縋って連れて行ってしまったようだ。


 部屋に残された俺は、一人寂しく自分を――


「陽一クンっ! 今から聖地に繰り出そう。そんで例の『記憶喪失プレイ』ってのを――ぶべらっ!?」

「帰れっ小山!! ちくしょう、マジでそのプレイってあんのかよ! マジで馬鹿なの歴代どもは……」


「ダンナぁ~。ちっと相談が……おや? 取り込み中でしたかい?」

「へ? ガレオスさん?」



          閑話休題(聖地か……)




 次の日、俺たちは大勢の者に見送られながら出立することになった。

 ボレアスのときと同じで、派手に着飾った街の権力者らしき者が殺到してくる。


 ちょっとした騒動になりかけたが、伊吹組や他の冒険者たちは慣れたもので、非常に洗練された動きで勇者たちを守った。

 その動きの精度は、戦闘時よりも洗練されていた気がする。


 俺がそんないつも(テンプレな)光景を眺めていると――


「あの、ご主人様」

「ん? ラティ、何かあったのか?」


「あの、タチバナ様が……」


 ラティに言われて橘の方を見てみると、橘が葉月のことを守るように立っていた。


 どこかで見たことがある光景。

 記憶を少し探ってみるとすぐにそれを思い出せた。

 葉月を守る橘の姿は、言葉(ことのは)を守るときの三雲と同じだった。

 絶壁なる三雲のように壁となる橘。


 ( 三雲ほどの壁じゃねえけどな )


「ラティ、あれがどうかしたのか?」

「あの、いえ、少々気になったもので……あの、ご主人様。あのタチバナ様を見てどう思われますか?」


「ん? あれを見て? そうだな、言葉(ことのは)を守ってるときの三雲かな?」


 ラティの意図は解らないが、俺は丁度思っていたことを口にした。

 一応、絶壁の件は控える。

 

「あの、そう見えますよねぇ、守っているように見えますよねぇ……」


 神妙な顔をしてそうつぶやくラティ。

 俺はラティのその表情が妙に気になった。


「ん? 何が――」

「ダンナっ、ちょっと急ぎやしょう。これ以上増えると流石に面倒でさぁ」


「あ、ガレオスさん。了解です。おし出発だ」

「野郎共、道を広げさせろ」



 こうして俺たちは、押し掛けてきた者を押しのける形で出発した。

 葉月や早乙女たちには馬車に乗ってもらい、彼女たちを守るようにして街に道を進む。

 

 当初は水路を行くという案もあったが、水路の方は混雑したときに危険となって取り止めになった。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 

 

 俺たちは竜の巣(ネスト)の入り口である横穴へと入った。

 大勢の冒険者たちが俺たちの後をゾロゾロとついてくる。


「なあ小山。後ろの連中って余所のパーティだよな?」

「うん、そうみたいだね。サポーターの人たちはあっちの人だし、オラ達とは別のパーティだよ」


「だよな……」


 今回の編成はガレオスさんが仕切っており、俺は細かいところまでは把握していなかった。


 ただ、参加するサポーターの人数だけは聞いていたので、明らかにそれを超える人数がついて来ていたので気になったのだ。

 

「ガレオスさん、どうします?」

「ん~~、ほっときやしょう。元々そのためにこうやって急いだんですから」


「そうですね……」


 これは編成を仕切ってくれたガレオスさんからの提案だった。

 ゼピュロス側は、竜の巣(ネスト)攻略の許可を出した後、攻略のための支援を開始していた。

 ダンジョン探索のための物資だったり、それを支援するサポーターの用意。そして勇者と共に戦う者を集めていた。


 物資は有り難い。

 サポーターも優秀ならば有り難い。

 だが、共に戦う者は違った。


 早い話が、箔を付けるために参加を申し出た者たちだったのだ。

 ガレオスさんの見立てでは、邪魔にしかならない連中だったらしい。

 

 ゼピュロス所属の勇者は橘だ。だがその橘は仲間を率いていない。 

 貴族側に所属しているというのに、自分のアライアンスどころかパーティメンバーすらいない状態。


 ゼピュロスとしては、勇者の遠征に自分たちの土地の者がいないというのは避けたかったのだろう。


 急遽人員を集め、それを同行させるつもりだったようだが、俺たちが予想よりも早く到着してしまった。

 そしてすぐに竜の巣(ネスト)へと潜るとなった。


 ガレオスさんは、深淵迷宮(ディープダンジョン)のことがあるので、明らかに不要なメンバーを入れることを嫌い、戦闘要員の追加は無しで行くことを提案。サポーターの方は問題はなかったらしい。


 こうして俺たちは、最低限の用意で向かった。

 【拡張】持ちの橘がいるので、物資の持ち運びは彼女に任せる。


 その事だけは不安だが、葉月が上手く言ってくれるので、何とかなるだろうと思うことにした。


 こうして探索を進めたのだが――


「ダンナ……ちょっと面倒なのが…………何人か帰りやせん」  

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

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