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最後の手段のひとつ前

新章、『ガラスの檻』

 どんな馬鹿でもすぐに気が付く。

 こんな都合の良い話があるわけがないと。


「ギームル……お前、やったな?」

「………………何をじゃ?」


「暗殺だよっ、暗殺! いくら何でも都合が良すぎんだろうがっ」

「ふん、暗殺の有効性は認めよう。だがあんなモノは下策じゃ。暗殺などは最後の手段の一つ前に取るものじゃ」


「有効性は認めるんかいっ」


 暗殺の有効性を認めるギームルに、俺はいかにもこのジジイらしいと思えた。

 しかしそれとは別で、一つ引っ掛かることがあった。

 俺は何となくそれを尋ねてみる。


「なあギームル、暗殺よりも最後の手段って何だよ。暗殺以上ってあるのか?」

「……神頼みじゃ」


「はえ? 神頼み? アンタが神頼み?」

「ああ、そうじゃ神頼みだ。神でも悪魔でも構わない、魂だって売り渡そう。だから救ってくれとな…………ああ、魔神だろうと構わぬな」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、それだけ衝撃的なことだった。

 あのギームルが、最後の手段は神頼みだと抜かしたのだ。

 一瞬、馬鹿にされているのかと思ったのだが、ギームルの言葉には茶化すようなモノは一切感じられなかった。


「マジか」

「…………ふんっ」


「いや、だってよう、アンタが神頼みなんてしたことあんのかよ」


 ギームルは俺を一瞥し、『さあな』と言って話を元に戻した。



      閑話休題(え? マジであるの?)



 その後俺は、ギームルから事の顛末を聞かされた。

 まずゼピュロス公爵のこと。ゼピュロス前公爵は、竜の巣(ネスト)攻略の許可とその支援を、自分の嫡男と家臣に言いつけた後姿をくらましたそうだ。


 そして次の日、公爵家敷地内の池から水死体として発見され、その後、事故死として発表。

 

 これらのやり取りは、長距離でも連絡が取れるシェル()パール()を使ったものであり、間に中央を挟んで話し合っているので、それ以上深くは聞けなかったそうだ。


 だがどう考えてもこれは暗殺だと思う。

 しかし公爵が暗殺されたなどは醜聞であり、犯人を見つけて捕らえるまでは、事故死として押すだろうとギームルは言った。

 そしてもしかすると、犯人を捕らえたとしても公表などはせずに、犯人の裏にいる貴族を脅す材料にする場合もあると付け足した。

 

 思い返してみれば、ボレアスの時も似たような感じだった気がする。

 だがボレアスの時とは決定的に違うことがあった。

 それは、ゼピュロス前公爵が事故死する前に、前公爵本人が竜の巣攻略の許可を出しているという点。


 暗殺後にそういった指示が紙に書いてあったや、その指示を受けた者が居るなどであれば、誰でも偽装工作ができる。


 要は、暗殺だけなら誰でもできるのだ。

 だがしかし、暗殺以外の、ゼピュロス前公爵のフリをするとなると――


「まさかっ、あき――」

「――それ以上言うなっ! 良いか、言うな」


「…………」

「……ジンナイ、ひとつ尋ねるが…………心当たりはあるか?」 

 

 ギームルの言う心当たりとは、暗殺を実行した犯人のことではないだろう。

 そうでなければ声を荒らげて止めたりはしない。


 ギームルには秋音ハルのことは伝えている。

 だから秋音ハルが、姿を偽れる暗殺者ということは知っている。

 俺がそう忠告したのだから。


 ならば問うてきた『心当たり』とは、秋音ハルが暗殺をする理由のこと。


「…………」

「ほう、そうか」


 俺は無言にて肯定とした。

 とても嫌なやり取りだが、この手のことは口にしてはいけない。

 先程はうっかり秋音ハルの名前を出しそうになったが、あれは場合によっては勇者保護法違反になる事があるのかもしれない。


 勇者を無闇に疑い、それを口にするのはきっと拙いことなのだろう。

 だからギームルは止めた。


 それに、秋音ハルが犯人の場合は色々と面倒なことにもなる。

 世界を救う勇者様が暗殺者など、どこの復讐系の小説だ。他の勇者のためにも知られる訳にはいかない。

 確証はないが確信する。だが、それを確定させてはならない。


 俺は、風呂場でのやり取りを思い出した。

 秋音(ヤツ)は言っていた、元の世界に戻るためなら『何でもやる』と。

 

 秋音ハルはエウロスの街に居たはずだ。ならばゼピュロス側が協力的ではないことを知っていてもおかしくはない。

 だから秋音ハルは、ゼピュロス前公爵を魔王討伐の障害と判断して暗殺したのだろう。アイツならば容易にそれを達成できる。


「まあこれで前に進めるか……」

「やり方は問題はあるがな」


 人が1人死んだのだから、少なくとも簡単な問題ではない。

 道徳的に言っても良くないことだ。だが――


――まあ仕方ないか、

 こんなんで止まってたら異世界(イセカイ)でやっていけないし、

 それに道徳とかワリと捨ててるし、俺……



 こうして俺たちは、竜の巣(ネスト)攻略へと向かうことができるようになったのだった。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

    



 二日後、俺たちはノトスの街からゼピュロスの街へと出立した。

 今回参加する勇者は、葉月、早乙女、伊吹、橘、小山の5人。

 冒険者の方は、ガレオスさん率いる伊吹組と、陣内組からサリオと猫人のテイシなど数名。後は小山の愉快な仲間が5人と、総勢35名を超すメンバーでの移動となった。


 全員移動には慣れているので、特に問題なく旅は進んだ。


 因みに言葉(ことのは)を含む三雲組は、ボレアスからの要請によって北へと向かった。


 そして四日後、俺たちはゼピュロスの街へと到着した。

 橘の顔パスにより、正門でのチェックはほぼスルーで街へと入れるかと思ったが、意外にも全員がステータスプレートの提示を求められた。


「久しぶりのゼピュロスの街だけど、やっぱここはすげえな……」


 元の世界の某水の都を彷彿させる風景。

 外観はどの街よりも優れており、しかも街全体に無数に張り巡らされた水路を使った流通のおかげで馬車などが少なく、道も他の街に比べてスッキリしている。


 俺の知っている限りでは、このゼピュロスでは鍛冶関係が盛んだ。

 重い材料を運ぶのに大いに役立っているのだろう。


「あの、ご主人様。そう言えばその黒鱗装束はここで作られた物でしたねぇ」

「あ~~、確かにそうだったな。巨竜の喉の鱗を使って……」


 俺はラティの言葉を聞いて、自身が着ている黒鱗装束改に目を落とす。 

 元はノトスの街で買った紺色の忍胴衣だった。

 それをこの街で黒鱗装束へと改修して今の姿へとなった。


 この黒鱗装束には何度も命を救われている。

 綾杉が操作していた巨大なゴーレムとの戦闘では、この黒鱗装束でなかったら死んでいたかもしれない。

 少なくとも、前の忍胴衣では立ち上がることはできなかった。


 そして今は――


「本当に良い物ですねぇ」

「ああ、また借金生活だけど、仕上げてくれたららんさんには感謝だな」


 いま俺が着ている黒鱗装束()は、以前よりも性能が上がっており、特に魔法防御力が格段に良くなっていた。

 並の魔法では傷どころか焦がすことさえ出来ない。


「……竜の巣(ネスト)では竜を見かけたら狩ろう。あれの素材はそこそこの値段で売れるから……」

「あの、ご主人様……」

 

 新たに出来た借金により、現在俺は、金貨30枚をアムさんから借りている状態だった。 

 ラティも出すと言っているのだが、さすがにそれを受け取る訳にはいかない。

 

「ん? そろそろ着くか? 早乙女、起きろ。ゼピュロス公爵家に着いたぞ」

「ふえ? え? あたし寝てた……?」


 俺は寝ている早乙女を起こし、馬車から降りたのだった。 



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ゼピュロスの屋敷に着いた後は、勇者たちだけが新公爵の元へ呼ばれた。

 勇者以外の者は、割り当てられた部屋へと案内され、そこで新公爵に会いに行った勇者たちを待った。


 出来ればついて行きたかったが、さすがに勇者以外の者では簡単には会えそうになかった。

 そこまで露骨ではないが、明らかに警戒している雰囲気が伝わってきていた。

 きっと前公爵の暗殺の件が尾を引いているのだろう。

 

 ちょっと考えればすぐに分かること。

 元々ゼピュロス側は、今回の竜の巣(ネスト)攻略には否定的だった。

 それが突然、ゼピュロス前公爵によって許可が下りた。

 

 この決定は、現公爵と言えど取り消し難かったのだろうとギームルは言っていた。

 ほとんど遺言のような形となった許可の発言。

 反対したい気持ちがあったとしても、すでに動き出していただろうし、事故死という発表をしたのだから、怪しくても取り消すことはできない。


 だが、その許可をもみ消すことは可能だったと言った。

 そんな許可(発言)は無かったと、ゼピュロス内だけで収めてしまう方法。

 外に知られなければ良いのだ。難しいかもしれないが出来ないことはない。


 だからこうして受け入れはしてくれたが、内心はとても複雑なのだろう。

 ゼピュロス内だけでもみ消さなかったのは、さらなる暗殺を恐れていたから。


「本当に面倒だな……。まあ一番面倒なのはアイツか」

「あの、どうにかなると良いですねぇ」


「あまり期待は出来ないけどな」


 俺にとっていま一番面倒なのは、勇者橘だ。

 あんな爆弾を抱えて竜の巣(ネスト)には潜りたくない。

 だがアイツは着いてくると言っている。


 着いてくる理由は葉月と一緒にいたいからだろう。

 だが葉月を置いて竜の巣(ネスト)に向かうのは危険だ。

 葉月は回復魔法のスペシャリストであり、仮に四肢が欠損したとしても、彼女が居れば冗談抜きに生えるようにして治る。 

 

 残して行くと言う選択肢はない。仲間の生存率が跳ね上がるのだ。


「…………小山と早乙女が上手く言ってくれれば……」

「あの、はい……そうですねぇ」


 そっと目を逸らすラティさん。

 ラティも分かっているのだろう、あの二人では無理だろうと。

 

 俺は小山と早乙女に、ゼピュロス新公爵との面会時に、上手く橘をゼピュロスに残すように進言しろと言ったのだ。

 理由は何でも良かった。竜の巣(ネスト)攻略後、魔物が大量に湧くかもしれないから、戦力を地上に残すためにとでも言えばよいと言ったのだ。

 



 しかし残念ながら、俺たちの予想通り橘の参加は半強制となった。

 こうして橘の参加が決定したのだった。


読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なども……

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