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裏切り者っ

新章?開始です

しばらくグッダグダな回がちょっと続きます(_ _)

 厄介な防衛戦から二日が経過した。


 ゼピュロスの高官は、竜の巣(ネスト)攻略の件については、一度領地に持ち返って精査して検証してからの~前向きに善処と、どこの慣用句だよとツッコミを入れたくなることを宣って帰っていった。


 アイリス王女の方は、意外にもまだ視察を続けるらしく、アムさん、ギームルと共に、ノトスの街を見て回っている。

 

 そして俺たち冒険者は――


「第二十一回、嫉妬組定例会議を開始する」

 

 目出し帽のような、黒い覆面を被った集団が一斉に拍手をする。

 そのパチパチとしたおざなりな拍手が止むと、定例会議開始の宣言を司会進行役が、地を這うような嫉妬声で――

 

「オレは、レプソルをギルティにしようと思う」

「「「「「「「支持っ!」」」」」」」」」

 

 黒覆面の集団が一斉に賛同の声をあげた。

 当然俺も、『支持』と声を強く張り上げた。


 ヤツは、陣内組のリーダーレプソルは、大規模防衛戦が終わった後の馬鹿騒ぎ()の時、何とミミアとイチャついていたのだ。


 詳しい経緯は分からないが、要は、宴用の食事や酒類などの配膳役としてミミアが居た。

 他にも【竜の尻尾亭】の従業員が居たので、もしかすると【竜の尻尾亭】に配膳係(それら)を依頼していたのかもしれない。


 そしてミミアが当然のように、酔っ払った冒険者に絡まれた。

 ミミアは兎人、まるで薄い本から飛び出してきたような肢体の種族だ。

 酔っ払った冒険者に絡まれるなど余裕のお約束(テンプレ)だった。


 そしてそれをレプソルが助けるというテンプレ。その後は言わずもがな。


 我々嫉妬組は当然憤り――


「賛成多数とし、レプソルはギルティ! では諸君、ヤツをどのような刑に処するのか話し合おう」


 嫉妬組から様々な案が上がる。

 きっついモノからかなりキツイモノまで、嫉妬にまみれた処刑方法が数多く上がる。ぬるい処刑方法などは一つも上がらなかった。

 当然俺も、ミミアと仲睦まじく語り合うレプソルには極刑をと、出来るだけ残酷な案を出した。


 そしてその結果、全て採用で落ち着いた。

 争いごとはいけない。何かを選ぶのではなく、みんなが幸せになれる方法を選ぶべきなのだ。


 だから我々は全てを選んだ。


 因みに、一応裁決は取っているが、『支持』以外のモノは受け付けないことになっている。


 その後も様々な罪が暴かれていく。

 ハーティが三雲と良い雰囲気だとか、椎名がロリコンなど、嫉妬組によって様々な罪が白日の下に晒されていく――

 

「オラは、秋人(あきと)を絶対に許さないっ。あんな小さくて可憐な少女を毒牙に掛けようとしていて……オラが助けてやらないとっ」

「お、おう」

「え、ええ……そうですね」


 妙に暑苦しいヤツが吼えていた。

 最近嫉妬組に入った名誉組員が、椎名の罪を熱く語っていた。

 しかしさすがに勇者を裁くのは気が引けるのか、他の組員の反応は悪かった。

 嫉妬組の連中は割と保身に走るのだ。

 

「では次の獲物の話を……。おれが上げるのは、孤高の独り最前線(ボッチ・ライン)のジンナイだ。ヤツは、ヤツは王女様と会話を交わした。これはもう万死に値するっ」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「支持っ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 今日一番の反応を見せる嫉妬組(馬鹿ども)

 本当にコイツらはどうしようもない連中だ。クズだ。

 誰かと話しただけで刑に処するなど、とても人のすることではない。

 どう考えても人格破綻者だ。


「はいっ、ヤツは他にも聖女様ともイチャついていました。しかも防衛戦中に」

「おれも見ましたそれ。どうやらモモちゃんをダシに使ったようです」

「あっ、オレは、瞬迅と暗がりに入って行くジンナイを見ました。尻尾がどうとか言っていたので、きっと『俺の前尻尾を~』とか言っていたに違いありません」


「ほう、これは決を取るまでもないな」

「「「「「「「「「「支持!!」」」」」」」」」」」」


「では、すぐに刑を執行しよう」


 突然そんなことを言い出す進行役。

 黒い目出し帽から、ドロリと嫉妬に歪んだ目で見回し――


「この中にジンナイ(咎人)がいるっ。さあ、嫉妬の鉄槌をヤツに!」

「「「「「「「「「「然り」」」」」」」」」」」」」


――くそっ!

 まさかこのような罠を張るとはっ!

 く、迂闊だった……



 俺は窮地に追い込まれていた。

 部屋の中にいるヤツらは全て敵で、味方は誰もいない状況。

 武器の持ち込みは禁止だったので丸腰。黒鱗装束はららんさんに預けているので、まさに万事休す。


「…………」

「………………」

「……なあ、どいつがジンナイだ?」


 全員が黒い目出し帽のような覆面を被っているので、誰が誰だか分からない状態。顔を隠すことで、忌憚のない意見を求めるという方針が裏目に出たのだ。

 

 これは俺にとってチャンス。


「慌てるなっ! みんな一斉に覆面を取るんだ! そうすればヤツが判る」

「それだっ! みんな一斉に覆面を取るんだ!」

「おおっ」

「分かった」


 一斉に覆面を取る嫉妬組。

 俺はこのチャンスを逃すことなく、【加速】を使って扉へと駆け出した。


「あばよ、とっつぁん」

「くそっ!」

「何があった!?」

「ぐあっ!」


 先程、覆面を一斉に取れと言ったのは俺。

 一斉に覆面を取らせることにより、一瞬だけだが全員の視界が遮られたのだ。

 俺にとっては、その一瞬があれば十分。


 俺はまんまと部屋を脱出することに成功した。


 外へと逃げ出した俺は、そのまま【加速】を維持して駆け抜ける。

 部屋の中からは、”ハウンド”との指示が聞こえてきた。


 ハウンドとは、獲物を追い続けて見失うなとの指示。

 俺を追い立て、その位置を嫉妬組本隊に教えるつもりなのだろう。

 

 三人のヤツらが、【加速】などを使って追ってくる。

 さすがに追い付かれることはないが、完全に振り切ることはできない。

 町中ではどうしても速度を上げられない。俺は通行人を避けながら走り続けた。

 

「くそっ、厄介なヤツらだ……」


 追手のハウンドは基本的に襲ってこない。ただ追ってくるだけ。

 しかし襲い掛かって来ないということは、倒して排除することが難しいことを意味していた。


 一定の距離を保つハウンド。

 仮にハウンドを倒すべく向かったとしても、そのハウンドによって嫉妬組本隊の所に誘導されてしまう。そしてそうなっては詰み。


 だから俺の取れる手は一つだけだった。

 ハウンドを連れたまま、セーフティーゾーンに駆け込むこと。

 嫉妬組(ヤツら)とは言え、さすがにノトス公爵家の中では暴れない。

 ヤツらは保身に走るから。


 俺はノトス公爵家(セーフティーゾーン)まで走る。が――

 

「く、コスい邪魔をしやがって」 


 ハウンドは、俺を追うだけではなく、行く手を遮る搦め手を使ってきた。

 それは魔法だったり、物理的な邪魔であったりなど、俺の手が届かない位置から妨害策を仕掛けてきた。


 そのお陰で少々遠回りを強いられる。


「あとは、この直線を行ければ……ちぃっ、やっぱ先回りされたか」


 俺の行く手に、大盾を持った男が立っていた。

 逆立てた髪がとても似合わない男、鉄壁の勇者小山が立ち塞がっていた。


「面倒なのが……」


 戦闘能力はそこまで高くない小山。だが、盾役や押さえ役となると話は別だ。

 一度掴まれたら最後、【捕縛】と【重縛】のコンボによって押さえつけられてしまう。


 とは言え、横に避けるのもなかなか難しい。

 そこまで簡単ではないし、仮に横を抜けられたとしても、俺の後ろを小山が追う形となる。


 魔法か何かで足止めされたら最後、後ろから小山に捕まってしまうだろう。


「ここは――」

「はっ! オラを相手に正面からか? 陽一クン!」


 俺は真っ直ぐ駆け出した。イメージは秋音ハルの動き。

 彼女の――


「鉄山靠!!」

「――ごはっ!?」


 正面から来た俺を、小山は手を伸ばして掴んできた。

 そして小山に掴まれた瞬間、凄まじい重さが身体全体を捉えた。

 分厚い鉛を身体に巻き付けられたような、そんな重さが全身に広がったのだが、俺はその重さを利用して背中を小山にぶち当てた。


 ただのタックルではビクともしなかったかもしれない。

 だがこの鉄山靠は、【重縛】の重さを利用した一撃。


 小山は、ひっくり返ったカエルのように地面に転がった。

 

「うっし! ――って!?」


 さすがは嫉妬組というべきか、先回りしていたヤツは小山だけではなかった。

 嫉妬組でも猛者と呼ばれる連中が、何人も俺の前に立ち塞がっていた。


「くそっ、無駄に練度が高ぇ。この嫉妬まみれの連中がっ!」


 俺は毒づく。

 あと少しだったと言うのに、俺は嫉妬組によって包囲されつつあった。

 屋根の上を見れば、すでに【天翔】持ちのヤツらが待機していた。


 屋根の上に逃れるという定番の方法は取れそうにない。

 やはり甘い連中ではないと思っていると――


「ジンナイっ! こっちだ! こっちに来るんだ」

「へ? レプソルさん!」


 横の民家の扉が開いて、その中からレプソルさんが俺を呼んでいた。

 自分も狙われている立場だというのに、俺に救いの手を差し伸べる救世主。


「助かりますっ」

「早くっ」


 俺は迷うことなくその民家に飛び込んだ。

 中に入るとすぐに扉を閉めて鍵を掛けるレプソルさん。

 民家の中にはハーティも居て、魔法で鍵と扉を強化した。


「助かりました。ありがとうございます」

「ふ、気にするなジンナイ」

「そうだよ陣内君」


 仲間とはとても温かいものだ。 

 自分たちの危険を顧みず、彼らは俺に救いの手を差し伸べてくれた。


 俺は思わずハーティさんとレプソルさんの握手を求める。


「本当に助かり――がはっ!?」


 突然身体の自由が効かなくなった。

 まるで麻酔でもされたかのように、指一本動かすことができなくなっていた。


「なっ、なにが……?」


 何とか喉を動かして、俺は疑問を吐き出した。


「ジンナイ、済まない。――おい、約束通りジンナイを捕らえたぞ。これでオレたちは見逃してくれるんだよな?」

「陣内君、僕たちを裏切り者と罵っても構わない。でも、僕も自分が可愛いんだ……許してくれ」


 鍵が解かれ、ゆっくりと開く扉を眺めながら理解した。

 俺は二人に売られたのだ。

 この二人は、自分たちの身の可愛さゆえに、俺を嫉妬組に売ったのだ。  

 

「なあ、これでオレたちは――」

「――ふんっ、貴様らのような裏切り者を見逃すとでも?」

「ふははははっ、お目出度いヤツらだ。――3人纏めて捕らえろ!」


「「貴様らああああああ!」」




       閑話休題(ざまぁっ)




 俺たちは、3人並べられて地面に埋められてた。

 顔だけが地面から出ている状態。弱体魔法をこれでもかと重ね掛けされているので、魔法が解けるまでは、自力で地面から這い出ることは叶わない。


「この嘘つき共が! 出せ、オレを出せ!」

「君たち、僕も制裁に協力するから、ここから出してもらえないだろうか? 頼む、どうか頼むっ」


 裏切り者の二人が命乞いをしている中、俺は冷静に状況を見極めていた。

 身体は弱体魔法によって動かない。

 そして周りは嫉妬組の連中によって囲まれており、単独で逃げ出すことはほぼ不可能。


 この状況から助かるには――


「聞いてくれっ、ハーティと三雲がこの前、物陰に隠れてキスをしていたぞ! レプさんも、ミミアにさわさわしながら膝枕をしてもらっていた。そんなコイツらに比べれば俺の罪などは軽い。だからっ」

「汚いぞ陣内君っ! 僕はキスとかそんなことはしていないよ。そんな捏造とか卑怯だよ」

「ジンナイ、お前ってヤツは……」


 助かるためには何でもやる、それが冒険者というモノだ。

 俺はなんら恥じ入ることはなくヤツらを売ったが――


「何と見苦しいヤツらよ。お前達はここで一晩過ごすが良い。ああ、そう言えば、先程ケルベロスを見たなぁ」

「「「――ッ!?」」」


 ケルベロスとは、ここいら一帯を縄張りとしている野良犬だ。

 そして俺たちが埋められている場所は、そのケルベロスがいつもマーキングをしている場所。しかも大の方もする場所。


「ふ、我らとて鬼ではない。明日の朝には助けに来てやる。じゃあな」

「撤収だっ」

「あ、明日っておれ用事あったな」

「俺もだ」

「「「「「「オレもオレも」」」」」」」


 明日には助けに来ると言っておきながら来そうにない連中。

 このままでは非常にヤクイ。俺は必死に呼び止めた。


「待ってくれっ! 俺のことはいい、コイツらだけはこのまま埋めて、俺を出してくれ。頼む。俺のことはどうなってもいいんだっ! コイツらだけはっ」

「オレはどうなってもいい。だからコイツらはこのまま――って、ジンナイ、オレが言おうとしたこと言うな!」

「君たち、なんて見苦しい……。あ、そうだ、階段とか奢るけどどうかな?」


「では明日」

「俺だけでもー」

「オレだけでもー」

「僕だけでもー」



 その後、俺たちはラティによって救出された。

 ただレプソルさんだけは………………ちょっと臭うこととなった。

読んで頂きありがとうございます。

すいません、ちょっと日常回が続きます……



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[一言] え?【重縛】って実際の重さが変ってるの? てっきりかけられた対象がそう感じるだけかと。
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