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厄介のまとめ方

内容がハイファンじゃねえっ

「陽一君、ごめんね。風夏ちゃんのことを任せちゃって」

「あ、いや。任された覚えはないんだが?」


 天幕の影から姿を現した葉月は、トトトっと俺の前までやって来た。

 そして俺の顔を覗き込み、人懐っこい猫のような顔をして話し掛けてくる。


「うん。でもさぁ、さっき私に気が付いていたよね? それなのに……」

「……まあな」


 そう、俺は葉月がやって来ていたことに気が付いていた。

 だが俺は、出て来るなと目で合図を送り、そのまま橘と話し続けた。

 葉月は好意的にとらえているようだが、俺的には、橘をとことん凹ませたかっただけだ。

 だから、『今は邪魔をするな』と目で合図を送ったのだ。


「あれだ、ただ単に、あの馬鹿に言ってやりたかっただけだ。アイツには散々言われてきたからな。丁度いい機会だから言っただけだ」


 俺は丁度良い機会だと思っていた。

 いくらアイツでも、不用意に放ったWS(ウエポンスキル)のことを完全に悪くないとは思っていないはず。


 ただ、周りからキツく言われているのが気に食わないだけ。そして引っ込みがつかない状態だ。

 だから俺は、負い目を感じている状態の橘を狙った。

 今ならボコボコにし易いと、今後のためにも言ってやっただけだった。 


「そっかぁ、でも、ありがとうね陽一君。風夏ちゃんをちゃんと注意してくれて」

「……葉月、会話が全然噛み合ってねえんだが? あれが注意か?」


「ふふ、そんなことないよ」


 ニッコリと微笑む葉月。

 会話が噛み合っていないと言ったが、葉月が何を言いたいのか分かっていた。

 葉月は仲裁に入った後、ひとまず三雲たちを宥めて橘を追って来たのだろう。

 

 何を言うつもりだったのかは分からないが、先程の言葉から察するに、葉月は誰もいない所で橘を叱るか、もしくは注意するつもりだったのかもしれない。


 そしてその言うつもりだった内容は、先程俺が橘に言ったこと。


 だから葉月は、『任せちゃって』『注意してくれて』と言ったのだ。

 俺が橘を待ち伏せしていなければ、追ってきた葉月が橘に言っていたはず。


 ( まあ、分からんでもないか )


 周りがぎゃいぎゃいと言っている状況では話が進まない。

 実際に三雲と上杉は、ただ謝れと連呼する、冷静さに欠けた状態だった。


 あれでは橘が折れて素直に謝ったりなどは決してしない。

 だから葉月は、あの場をいったん収めて、自分が橘と話して諭すつもりだったのだろう。

 しかしそれを、俺が横からかっさらった形になった……

 

 様々なことに思いを巡らせている俺に、葉月は話を続けてきた。


「今回の件はね、間違いなく風夏ちゃんが悪い。これは私でも分かるの。ちゃんと駄目だって言われていたのに、勝手に動いてみんなを危険に晒しちゃったんだから。うん、だから風夏ちゃんが悪いの。でも…………」

「あ~~まあ、あの状況じゃあ素直に謝ったりはしないだろうな。特に橘は」


「うん、風夏ちゃんって結構気が強いからね。『がぁ~』って言われたら『わぁ~』って言い返しちゃうよね」

「結構じゃねえよ、かなりだよ。で、どうすんだ葉月?」


「えっと正直言って、私が言おうとしていたことは、全部陽一君が言ってくれたかな。あ、あんな風にキツく言うつもりはなかったよ? もうちょっと優しく言うつもりだったよ?」

「いや、俺は別に注意するつもりで言った訳じゃねえよ。あの馬鹿に言いてえことを言っただけだ」


 俺は、あの馬鹿を諭すつもりなど一切無かった。

 だが今日みたいなことをまたされては困る。だから俺は、人の話を聞かない、言ったことを理解しない橘に、ほとんど暴言のようなモノをぶつけて、アイツを言葉で打ちのめすことにした。


 理解も納得もいらない、要は幼子に怒鳴りつけて、嫌だという感情を刻み込むような行為だ。

 あまり良いやり方ではないが、どうせ橘だ、どうでもいい。


 ( ……すでに拗れた性格だしな )


「葉月、この後はどうすんだ? 橘は自分の家に引っ込んだみたいだけど」

「うん、陽一君が色々と言ってくれた後だから、後は私が話してみて、それでみんなに謝ってってお願いしようって思ってる」


「は? お願いして謝ってもらうって……なんか間違ってねえか? 偽善っていうか、善意の押しつけって言うか何ていうか……」

「そうかなぁ? でも、あのままじゃ駄目でしょ? だから私、風夏ちゃんと話してみる。じゃあ、行って来るね陽一君」


「ああ」

「あっ! 何かこれって、親が子供を叱っている時みたいだね。お父さんが叱って、お母さんが慰めるみたいな。育児の基本だっけ?」


「恐ろしいことを言うなっ、俺の子供はモモちゃんだけだ。下らねえこと言ってねえで、さっさと行け」

「うん、行ってくる」


 葉月は駆けて橘の家へと入っていった。

 どうやら扉に鍵は掛かっていなかった様子。案外橘は、葉月がやって来ることを分かっていたのかもしれない。


 もしくは、それを期待していた……


「……まあ、どうでもいいか。――なあ、ラティ」

「はい、ご主人様」


 葉月に続き、ラティもこの場に居た。

 何かあった時のため、ラティは隠れていてくれたのだろう。

 

「あの、ご主人様。実は……」

「ん? どうしたラティ?」


「あの、サリオさんが。『活躍したあたしを褒めろ』と、ご主人様を探しているようで……。そうしないと”アカリ”を消すと……言って……」

「なるほど、確かにサリオは活躍していたな。そんで調子に乗ってそれを褒めろと……。よし分かった。サリオのところに行こう。そんで――」



        ◇   (ご褒美に)   (アイアンクローを)   (くれてやろうっ)   ◇




 次の日、橘は葉月と一緒に謝罪に回った。

 不用意に放出系WSを放ったと、ガレオスさんや椎名たちに謝罪した。



 人は、自分の非を認める謝罪はなかなかできないモノだ。

 だが一方、誰かを庇うための謝罪ならすんなりとできる。


 そう橘は、自分のための謝罪ではなく、庇ってくれた葉月のために謝罪をしていた。


 全員そんなことは察して分かっていたが、謝罪は謝罪、その謝罪に文句を言う者はいなかったのだった。



 因みに、俺の所には来なかった。

 

読んで頂きありがとうございます。

急いだ方が良いと、急ぎました!

宜しければ感想やご指摘、ご質問を頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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