SSSSヤッカイマン
面倒回です……
どうにも腑に落ちなかった。
比較対象はウチのポンコツ2号。
早乙女は長い間監禁されていたので、実戦経験が足りず、戦闘時に足を引っ張ることが多い。他にも迂闊な行動が多く、俺以外のヤツもハラハラとしている。
死者の迷宮ではお荷物状態だった。
そう橘は、その早乙女レベルだった。
足を止めて弓系WSを放つことしかできない、素人に毛が生えた程度の存在。
三雲のような、状況に合わせてWSを選択することや、誰かをフォローするような動きは皆無だった。
強力なWSを放つことはできるが、どの魔物を優先的に倒していくなどの、状況に合わせて動くなどの基本が全くなっていなかった。
要は、多くの魔物を倒せば良いとする、所謂脳筋だ。
勇者としての能力と、貴族から与えられた装備品だけに頼った弓使い。
技術や判断力といった、経験で培っていくものが全く育っていない弓使いだ。
正直言ってこれはおかしい。
大人しい女子である言葉でも、この2年間でしっかりと経験を積み、下手な立ち回りなどはしない。
むしろ後ろからフォロー役に徹している分、状況判断に関しては的確だ。
ハーティやレプソルさん程ではないが、彼女には後ろを任せられる安心感がある。
しかし橘にはそれがない。むしろ後ろから射貫いて来そうな感じだ。
そんな不安材料だと言うのに、ゼピュロス側の対応を見る限り、竜の巣には橘がきっと付いて来るだろう。
前に竜の巣に潜った時は、まだ浅い方の階だったが、今度目指す場所は未知の深層エリアだ。
ハッキリと言って、こんな爆弾を抱えたまま潜りたくない。
今日みたいなことをされては堪ったものではない。だから――
「なあ、マジでお前は何をやってきたんだ? 竜の巣と中央以外のダンジョンって潜ったことあるか? あと、後ろの家とか使わないで、普通の野営とかしたことあるか?」
「はあ? 何でそんなことに答えなきゃならないのよ。いいからそこを退いてよ」
「あれだな、お前って都合が悪いことは答えないタイプだな。まあ、いいや。――橘、お前はデカいのを撃つとか、そう言った大雑把なのは得意みたいだけど、仲間との連携が取れなすぎだろ。魔物が3匹いる所に、10匹ぐらい倒せそうな攻撃はするのに、味方が撃ち漏らしたのとかほとんどスルーしてたよな?」
「はっ、何で人の失敗をわざわざフォローして回らないといけないのよ。そんなことをしているよりも、もっと沢山の魔物を倒した方がいいに決まっているでしょ」
「やっぱマジで解ってねえな。つか、前に居た……何かごっつい鎧を着た偉そうな仲間はどうしたんだよ。アイツらはお前に何も言わなかったのか? 何も教えたりしなかったのかよ」
「――ッ! アイツはもう居ないわよ」
「……」
態度の急変に違和感を覚える。
橘は身体をかき抱くようにして、視線を横へと逸らした。
コイツは誰かと話をしているとき、相手を睨みつけるような感じで話すのだ。
俺は、この橘の態度が妙に引っ掛かった。
本当は、コイツがどんな風にこの異世界で過ごしてきたのか、俺はそれを聞き出すつもりだったのだが、この違和感が少し気になった。
「……居ないってのはどういうことだよ。パーティを解散したとかそういうことか? いや、お前が追い出した?」
俺はカマをかけてみる。
コイツが素直に話すはずがない。だから俺は、カマをかけてコイツの反応を見て、こっちで勝手に判断することにした。
「あの男って確か、貴族側から寄越されたヤツだよな? それを切ったってことか? 後衛のお前にとって、盾になる前衛は必須だろうが。何であんなに慕ってくれてたヤツを――」
「止めてよっ、おぞましい……」
「…………その反応、何かあったな。多分だけど、あの男に強引に言い寄られたとかそんな感じだろ? もしくは……」
「――ッ!?」
目を見開いて俺を見る橘。
ヤツからしてみれば、俺に言い当てられたことが驚きなのかもしれない。
だが俺にとっては、『異世界、女勇者あるある』だ。その手の話には何回も遭遇している。いまさら驚くことではない。
少し含みのある言い方をしてみたが、どうやら当たりのようだ。
「あ~~、なるほど。何でお前が連携とか全く出来ないのか分かった。お前、仲間を排除したから、一緒に誰かと戦ったことがほとんどないんだろ?」
橘は仲間との連携を軽視していた。
この前会った、変装メイド勇者秋音ハルのような、ソロに特化した能力ならば問題ないのかもしれないが、橘は弓使いだ。仲間との連携を重視するポジションだ。
元の世界の狙撃手のような、遠くから撃ち抜くことを仕事としている者は違うかもしれないが、ここは異世界、元の世界のように1キロ近く離れた場所から射貫くことなどは出来ない。
そもそも弓なのだからそこまで飛ばない。
ならば、自身を守るために仲間は必須。
先の防衛戦を見るに、動きながら矢を放てる感じではなかった。
安全地帯から放つことしかできないタイプだ。
魔王戦のときもそうだ。あれは連携を組んだと言うよりも、俺たち全員が、”イートゥ・スラッグ”のために動いた形だ。
一応連携と言えなくもないが、どちらかと言えば連携ではない。
もし協力し合った連携だと言うのであれば、俺を巻き込むようなタイミングで”イートゥ・スラッグ”を放ったりはしない。
あの時のことを思い出し、ふつふつ怒りが湧いてくる。
だが今は、まずこの話を優先する。
「それともあれか? お前がワガママすぎて、仲間に愛想を尽かされて――」
「――違うっ! アイツが言い寄って来たのよ! だから外した。……そうしたら家に押し掛けて来たのよ。だから、ゼピュロス公爵に言って、余所に……」
ちょっと揺さぶってみたが、どうやら上手くいったようだ。
ヤツとの間に何があったのか、橘はそれを断片的にだが口にした。
内容は察するに、やはり『異世界、女勇者あるある』のようだ。
――あ~~、やっと納得いった、
コイツは誰かと共闘したことがほとんど無ぇんだな、
葉月たちと組んだことはあるだろうけど、それとはちょっと違うもんな、
ひょっとするとコイツは……
「なあ橘、お前って魔石魔物と戦ったことはあるか? あ、魔石魔物って言っても上位魔石魔物の方な。いや、見たことがあるでもいい。なあ、あるか?」
「…………」
「やっぱりか。お前ってホントに何もしてねぇんだな」
「――はぁ!? ふざけないでよっ、アンタよりもマシよ。あの時の黒い竜のときとか、それに、魔王にトドメを刺したのはワタシでしょうが。アンタなんてその辺をチョロチョロしてただけでしょ」
煽られ、向きになって反論してくる橘。
だがやはり――
「あぁ~~解った。やっぱお前は何も見てねえな。後な、巨竜のときも魔王のときも、お前がやったことは、勇者に備わっている能力のボタンをポチっと押したようなモンだ」
「は? ボタンって、何を言ってんのよ?」
「だってそうだろ? 巨竜のときは俺が囮になって、そんで小山が巨竜の動きを止めてから、合図をもらって豪邸を出しただろ? 魔王のときだってそうだ。全員で魔王の動きを3分間止めて、お前の攻撃が当たるようにしてやったんだぞ? どこにお前の努力があるってんだよ」
「ふん、その力がワタシにあるんだからワタシの力でしょ。それを言ったらみんなだってそうじゃないのよ。みんな勇者としての――」
「――俺は無いぞ。お前の言う、勇者としての力は無いぞ」
「あっ……」
「それでも俺はやってきた。ラティと組んで、仲間との連携の大事さを知った。そんで一人で戦える強さも身につけた。装備品だってそうだ。大体が自分で買い揃えて集めたモンだ。ダンジョンだって全部潜った。なあ、お前はマジで何をやって来たんだ?」
「うるさいうるさいうるさいっ。そんなのアンタがクズだから勇者としての能力を貰えなかっただけでしょっ。何を偉そうなことを言い出して」
喚き散らす勇者橘。
全てを否定するといったような、そんな形相で俺を睨む。
「クズ、か……」
――さて、こっからだ、
手札は吐き出させた……こっからが本題だっ
「なあ橘、自分が悪いことをしたのに、それでキレるヤツの方がクズじゃねえか?」
「なっ!? ワタシがクズ?」
「だってそうだろ? あんだけのことをして、そんで周りから咎められて、そんでもって一言も謝らないってのは、なかなかのクズっぷりだよな?」
「――ッ!! なに突然……」
正直言って、謝罪の件はどうでも良くなっていた。
悪いことをしたら謝る。
これは世の中でよく言われることだが、たぶんそれが本当の意味で通用するのは、幼稚園か小学校までだろう。
大体のヤツが、人間関係を円滑にするために謝るのだ。
流石に全部とは言わないが、自分の立場が悪くならないようにするために謝る。純粋に反省して謝るヤツは滅多にいない。強く言われた時ほどその傾向が強くなる。
それに、コイツに謝罪をさせても、何が悪かったのか理解させなくては意味がない。だから謝罪などは要らない。その代わりトコトン凹んでもらう。
二度と馬鹿なことをしないように、コイツにはそういったモノを擦り込む必要があるのだ。誰かが犠牲にならないように……
( それにコイツは謝らないだろうしな…… )
「お前ってさ、謝ったら負けって思うタイプだよな。相手が何とも思ってない、軽い感じのことなら謝れるかもしれないけどよ、相手がガチで怒っている場合は、謝ったらそいつに下ったって感じになるから、絶対に謝らないタイプだよな?」
相手が明らかに目上、先生や偉い立場の大人が相手なら下っても問題はない。だが、同じような立場や知り合いなどの場合は違う。
コイツはきっと、どう思われても構わないと思っている相手には頭を下げないだろう。俺にもそう言う部分があるから何となく分かる。
( だが今は、煽るっ )
「橘、幼稚園とかで習わなかったか? 悪いことをしたら『ごめんなさい』しないといけないって。ああ、そっか。クズだから謝らないか」
「何でアンタなんかにそこまで言われないといけないのよっ。大体、ちょっとミスした程度のことでしょうが」
「アホかっ、あれがミスだと? ミスってのは失敗って意味だ。お前がやったのは明確な命令違反だ。てめえの勝手な判断でやらかしたことがミスなもんか。俺に言わせればただの妨害だ。ミスと妨害は全く別のモノだ」
コイツは本当に解ってない。
作戦などを立てるとき、ある程度の失敗は想定したりする。
だがしかし、味方からの妨害などは想定しない。
妨害をする馬鹿がいるのであれば、事前にそいつを排除する。
本当に、本当にコイツは全く解っていない。
俺は、その後もガンガンに煽った。
コイツは、自分のためには絶対に謝らないだろう。
それに謝れるタイミングを完全に逃した状態だ。
どうせ謝らないのだから、俺は目的を果たすことを優先する。
この馬鹿が、二度と馬鹿な真似をしないように徹底的に叩きのめす。
「ったく、お前は――ん?」
「何よ」
「いや、何でもない。取り敢えず言いたいことは言った。お前はもうちょっとまともになれ、そうじゃねえと邪魔だ」
「邪魔!? このっ、何を偉そうにっ」
「だってよ、大雑把なことしかできない。まともに出来そうな事は、邪魔と【宝箱】を使った荷物運びだけ、そんな感じの存在だろ? なあ、マジでお前はこの2年間何をしてきたんだ。勇者橘さんよお」
「クッ! もう退いてっ」
橘は、俺の横を駆け抜けて行った。
少し経ってから、大きな音を立てて扉が閉まった音がした。
きっと自分の家に駆け込んだのだろう。
扉の閉まったときの大きな音は、橘の苛立ちの大きさ。
俺は橘の不利の状況を利用して、言いたい事を言えたのでちょっとスッキリした。
軽く深呼吸をする。
そして一呼吸置いてから――
「……葉月、見てたんだろ」
「うん、途中からだけど見てた。ごめんね、風夏ちゃんのことを任せちゃって」
橘が居た場所の後ろから、勇者葉月が姿を現したのだった。
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