プランC発動!!
わっちゃ~投稿!
「椎名っ!」
「ああ、いますぐ行く。王女様、失礼します」
「ジンナイっ、頼んだぞ!」
アイリス王女の護衛に就いていた椎名は、物見台から飛び降りて俺たちの元にやってきた。
アムさんが上から俺に声を掛けて来たが、いまは時間が惜しいので、手を上げて応じるだけでその場を後にする。
プランCの発動。
上位魔石魔物の数から言って、どうしても椎名の力が必要だった。
ここで出し惜しみするつもりはない。
「蒼月、柊も」
必要な人員を即座に集結させる。
冒険者の方は、レプソルさんとガレオスさんが仕切っている。
「ラティっ」
「はい、ご主人様」
「ジンナイ、あれがそうだ」
ホークアイが指で示す先には、凄まじい数の狼型が居た。
一塊になってゆっくりとこちらに進んで来ている。
そしてその中央には、報告にあった魔石魔物が4体居た。
最悪の想定の一歩手前。
深層魔石魔物は居なかったが、冒険者殺しのハリゼオイは厄介だった。
ハリゼオイは戦闘力もそうだが、ヤツには魔法や放出系が効かない。
正確には、魔法や放出系WSを切り裂いたり弾いたりするのだ。
二体のハリゼオイを前に配置しているので、間違いなくこちらのWSや魔法を警戒しているのだろう。
あの白いケーキ野郎は決して侮れない。
こちらが想像できることはやってくるタイプだと思う。魔物がそんなことを考えるはずがないと思っていると足をすくわれる。
少なくとも、俺とレプソルさんはそう認識していた。
そしてその白いケーキ野郎が居るときは、近くにいる魔物も規格外だと。
前に、巨大な狼型が黒いブレスを吐いてきたことがある。
あの大量の狼型の魔物も、後ろに控えている狼男型が呼び寄せたヤツだろう。
これも以前に確認していること。
ヤツらと戦うならば総力戦。
だがしかし、実力の低い者では簡単にやられてしまう。
ならば――
「イブキ様とガレオス、サイファは右のハリゼオイを。シイナ様とラティ、テイシは左のハリゼオイ。奥の狼男型は、アオツキ様とスペシオール、アファで当たってくれ。多分だが、前に出れば自身を守るために狼男型を前に出すはずだ」
名前を呼ばれた精鋭アタッカー達は、『了解』と返事をした。
因みに上杉は、迂闊に前に出すと死にそうなのでそのままだ。どう考えてヤバい。
霧島も待機。アイツは放出系が主体なので、ハリゼオイとの相性は最悪だ。
その後もレプソルさんは、事前に決めていた指示を手早く出していた。
弓使いには周りの雑魚の排除を指示。間違ってもハリゼオイを狙わないようにと釘を刺した。
放出系WSにとってハリゼオイは天敵だ。
下手をすれば、弾かれたWSが味方を襲う危険性がある。
当然、攻撃魔法も同じだ。
「ヒイラギ様は狼型の排除をお願いします。サリオさまはその補助を」
「……分かった」
「了解してラジャです!」
「ヒイラギ様、広域殲滅魔法は禁止されていますが、それ以外の魔法は禁止されていません。なので、できるだけ広くいけるヤツをお願いします。あとサリオさまも頼む、ただ、絶対にハリゼオイには当てるなよ。振りじゃねえからな」
「ぎゃぼう! なんかあたしだけ言い方が雑ですよです」
「ちゃんとさまを付けて呼んでんだろ。贅沢言うな」
「あれ? なんかそのさまも、何かおかしくないです?」
「ジンナイ、お前の役目は……分かっているよな?」
「ああ、任せろ。もう疲れも抜けたし、全力で行ける。サリオ、合図を出したら頼むぞ」
「ほへ? は、はいですよです!」
ぎゃぼぎゃぼ騒ぐサリオをスルーして、淡々を指示を飛ばしていくレプソルさん。
サリオが公爵令嬢であろうと扱い方は変わらないようだ。
だがそこには蔑みと言った負の感情はなく、サリオもなんだかんだと素直に従った。
こうしてプランCの布陣に就いた俺たちは、迫り来る魔石魔物を待ち構えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゆっくりとやってくる白いケーキ野郎とハリゼオイ達。
あの白いケーキ野郎が居たから、この第三波の到着が遅れたのだろう。
魔物たちを従え、まるで焦らすかのようにやって来る。
魔石魔物以外の魔物たちは、ハーティの指揮の下、精鋭アタッカー以外の冒険者が当たっていた。
冒険者の放つWSで次々と黒い霧へと変わっていく。
「そろそろか……」
白いケーキ野郎との距離は約50メートル。
あと少し近寄れば、攻撃魔法の有効射程範囲内。
有効射程に入れば、柊、サリオたちの攻撃魔法による斉射で、白いケーキ野郎の周りに居る狼型を倒す。
その後は、勇者と精鋭が掘を超えて乗り込む。
可能ならば、一気にハリゼオイ達を倒したいところ。だが、そこまで甘くはないだろう。
あれはただのハリゼオイではない。白いケーキ野郎の支配下にあるハリゼオイなのだ。
黒いブレスのような、どんな隠し球があるか分かったモノではない。
用心をするに越したことはない。
「ラティ、気をつけろよ。ヤバかったら椎名を盾にしていい。俺が許す」
「あ、あの、ご主人様。それは……」
「陣内君。そこは僕の結界を盾にって言って欲しいかな」
「ラティが無事なら何でもいい。あと、死ぬなよお前達」
「――ッ! ……ああ、分かっているよ」
「はい、ご主人様」
「ああ、了解した」
全員がこくりと頷くと、レプソルさんが攻撃開始の合図を送る。
腕をスッと上げ、号令とともに振り下ろした。
「っ放てええええええ!」
範囲攻撃魔法による斉射が開始された。
放たれた魔法は、範囲に特化した火系魔法”火の雨”。
まさに炎のスコールが魔物達に降り注いだ。
この初弾だけはハリゼオイも巻き込むことにした。
ハリゼオイに弾かれたとしても、周りには味方がいないのだから問題はない。
一応、弾き返してくることを想定して、椎名には聖剣の結界を発動してもらっていた。
凄まじい量の炎が降り注ぎ、狼型の魔物が一斉に黒い霧となって立ち昇る。
警戒していた反射による反撃はなかった。
上は赤、下は黒と、なかなかお目にかかれない不思議な光景が広がった。
集中豪雨の時に見られる水の柱のようなモノが、いまは赤い火柱のようになっている。
「さて、アイツらは…………やっぱ、そうだよな」
「うん、針と爪の強化かな? あれは」
白いケーキ野郎を守るように、ハリゼオイが爪と背中の針を巨大化させていた。
長さは倍以上、背中の針などは枝分かれしており、太さが3倍近くまで膨れ上がっている。もう針とは呼べない別のモノになっていた。
分かり易い喩えだと、雄のトナカイの角のようになっている。
「ほへ~~、何かもう全然ハリゼオイさんじゃないですよです」
「だな。トナカイの角ゼオイか」
ハリゼオイと白いケーキ野郎は無傷。
後ろに下がっている狼男型は、例の遠吠えを上げて、失った狼型を湧かそうとしている。
「勇者様、お願いします」
「了解。行くよ皆」
「うん、それじゃあ、おっ先!!」
「突撃っ!」
椎名が聖剣の結界を使い、堀の向こう側までの橋を作った。
レプソルさんの号令によって、精鋭アタッカー組が結界の橋へと駆け出す。
ラティと伊吹だけは、空を駆けて向こう側へと走って行った。
「アタッカー組に雑魚を近寄らせるな! 雑魚は湧き次第魔法で叩け! 弓持ちも頼む」
上位魔石魔物との戦いが開始された。
割り当てられた魔石魔物へと駆けていく精鋭アタッカー組。
盾役である小山だけは、その戦闘には参加せず、三つに分かれたチームの間に陣取っていた。
いつでもフォローに入れる体勢。
小山には、緊急時のフォロー役を頼んだ。
当然、押し切れる時は、そのままフォローに回っても良いと伝えてある。
ただ、あの白いケーキ野郎が相手だ。一筋縄ではいかないだろう……
「……膠着状態か」
「一応予想はしていたけど、やっぱ粘るな」
この展開は予想はしていた。
勇者とは言え、白いケーキ野郎がいる時の魔石魔物は容易ではない。
数で押すことが出来ればもっと楽なのかもしれないが、その場合は多くの犠牲者が出ることを覚悟しなくてはならない。
しかも相手はあのハリゼオイ。
白いケーキ野郎の支配下にあるハリゼオイは、もしかするとシロゼオイ・ノロイに匹敵するかもしれない。とてもではないが何人死ぬか分かったものではない。
「ぎゃぼっ! 危ないです!」
伊吹がトナカイの角ような針に弾かれた。
咄嗟に大剣で防いだようだが、後ろに大きく退かされた。
伊吹は、大剣の切断力を生かして針を切り飛ばしていた。
どんどん短くなった背中の針。
伊吹は短くなった分、距離を詰めてたのだが、ハリゼオイは針をまた伸ばし、身体をクルっと横に回転させて伊吹を攻撃したのだ。
これにはさすがの伊吹も避け切れなかった。
あと少し間合いを詰めることができれば、必殺の”でぇぇいい”で倒せると踏んでいたのだろう。
だがしかし、それを見越していたかのように、ハリゼオイはそうはさせなかったのだ。
「――サリオ!」
「ハイですっ、”トールハマー”!」
弾き飛ばされた伊吹を背後から襲おうとした狼型は、サリオの唱えた雷系の魔法によって叩き潰された。
「サリオ、どんどんやれ! 伊吹たちの背後を取らせるな」
「了解してラジャ――ほへ?」
「あれは……勇者ヒイラギ様の魔法……?」
氷で出来た5本の剣が空を舞っていた。
5本の剣が回るように舞い、次々と狼型を狩っていく。
「……氷系魔法”念願のアイスブランド”」
「ほへ~、なんかデタラメな魔法ですよです」
「いや、お前もあんま変わらねえと思うが?」
湧いてくる狼型の魔物が、湧いた先から氷の剣に狩られていく。
ちょっとしたモグラ叩き状態。
「おし、これなら大分楽になるぞ。少なくとも伊吹たちが裏を取られることはないな」
状況は少し良くなってきた。
上位の魔石魔物はまだ倒せていないが、それ以外は順調に進んでいた。
三雲、早乙女たち弓使いも、次々と魔物を射貫き、予想よりも魔物の殲滅が進んでいた。
「陽一、本当にあたしは手伝わなくていいのか?」
「話、聞いてただろうが。いいか、絶対に余計なことをすんなよ」
「ふん、分かっているって――陽一、あれ!」
「ん? っな!? 馬鹿っ! 止めろ!」
「ワタシが仕留めてやるよ。弓系WS”フラストショット”!」
何を思ったのか、クソ女橘が、伊吹たちが相手にしているハリゼオイに向けてWSを放った。
音もなく青白い閃光がハリゼオイへと飛んでいく。
「――っ!?」
一瞬、ハリゼオイの口元に、ニヤリと笑みが見えた気がした。
魔物がニヤリと笑うはずがないのに、本当にそんな気がしたのだ。
そしてそれが、気のせいではなかったかのようなことが起きた。
狙われたハリゼオイが、その青白い閃光をぐるっと回って背中の針で弾き返したのだ。
火花のように弾かれた青白い閃光は、細い光の針となって――
「ラティ!!」
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字などもー;