表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

473/690

厄介なあすから

わっちゃわっちゃ続きますっ

 あの噂を疑っていた訳ではない。

 そこそこ有名な劇にもなっているし、実際に観に行ったこともある。

 あの二つ名……


「これが孤高の独り最前線(ボッチ・ライン)……」


 いきなり吼えたと思ったら爆ぜた。

 本当に爆ぜたとしか言いようのない、そんなデタラメな凄さだった。


 魔石魔物級のイワオトコが一瞬にして倒された。

 しかも二体も。


「何だよこれ……」


 彼の強さを疑っている訳ではない。

 一昨日も彼は、勇者サオトメ様を助けるために、堀の下へと躊躇う事無く飛び降りて大立ち回りを演じていた。

 そしてただ強いだけではなく、死地へと飛び込める心の強さがあることも判った。一般的には勇気と言う、そう言った強さを備えていると深く感じた。


 だが目の前の光景は、勇気とかそんな格好良いモノは無かった。

 正気ではない。魔石魔物級のイワオトコを相手に、あんなに深く踏み込めるなど絶対に正気ではない。頭の中の何かが切れているとしか思えない。


 『勇気』などと言う言葉では生ぬるい。もっと別な何かだ。

 喩えるならば、どうしようもない絶望を見てきただとか、死んでも捨てる訳にはいかないモノを抱えているなどの、そんな気が触れてしまいそうな必死さ。


 そんな、そんな姿だった。


「おい、ヨーハン。手が止まってんぞ、ちゃんと戦えよ」

「あ、ああ、悪いヴェルヴァトロス。ちょっとよそ見してた」


「ふん。…………まあ分からんでもないか」

「…………ああ」


 ヴェルヴァトロスが何を言いたいのか分かる。

 そう、つい見てしまうのだ。

 いや、魅入ってしまうと言った方が正しいのかもしれない。


「うおっ、すっげぇ」

「ああ」


 注意してきたヴェルヴァトロスも魅入っている。

 本当は、魔物をもっと間引かないといけないのに、何人もの冒険者たちがおれたちと同じように手を止めていた。

 元宰相だったという老人から、もっと減らせとの指示を受けていたが、その半数も倒せていない。


「何でWS(ウエポンスキル)無しであそこまで戦えんだよ」

「ああ……」


 さっきから『ああ』しか言えていない。

 だがそんな言葉しか出てこない。ただただ魅入ってしまう。


 荒々しくも洗練されていると感じる薙ぎ払い。

 その薙ぎ払いから、まるで一連の動作のように繰り出される必殺の突き。

 突きの踏み込みの勢いを殺さずに、そのまま円を描くような体捌き。


 デタラメで勢いだけのような動きなのに、一切無駄のない鋭さを持った、そんな矛盾したような動きだった。

 それはまるで、精密に荒れ狂う暴風。


「あ、ああ……そうか。そうだよな……」


 何であんなに魔物が間引かれないのか、その理由が分かった気がした。

 きっと全員が見たいのだ。

 

 孤高の独り最前線(ボッチ・ライン)を。


 みんな見たいのだ。彼の荒々しい様を。

 みんな続きをみたいのだ。彼の動きの先を。

 みんな気になって仕方がないのだ。彼の雄々しい様が。

 みんな、みんな期待してしまっているのだ。彼の――


「あぷぅうああああっ、ぷああああああ!!」


 ”乙女達の愛娘”と呼ばれている赤ちゃんがまた声をあげている。

 きっとあの子が一番期待しているのだろう。


 彼に、孤高の独り最前線(ボッチ・ライン)に……



 ――――――――――――――――――――――――



「はあぁ、はあぁ、はあぁ」

「お疲れさま、陽一君」

「うー、あぶぶ。あぷぅあ」


 戦いを終えた俺は、伊吹と交代をして後方に下がってへたり込んでいた。

 腕の一本も動かしたくない状態。

 俺のそんな状態が心配になってやって来たのか、それともモモちゃんが来たいと言ったのか、葉月がモモちゃんを抱っこして俺の元に来ていた。


 位置は少し離れた場所なので、完全に安全とは言えなくとも、それなりに安全な場所。

 すぐ後ろの方には王女様用の物見台があり、そこには椎名と下元が居るので、何かあればアイツらが飛び出してくる。

 特に椎名には、聖剣の結界があるのでかなり頼もしい。


 なので俺は、モモちゃんがここに来ていることを良しとした。


「あ、モモちゃん」

「ぱぅぷあ」

「モモちゃん、いまの俺は汗くちゃいくちゃいだから駄目だよ?」


 モモちゃんは、腕を俺へと伸ばし抱っこを要求していた。

 葉月の腕の中で『あうあう』とお手手を伸ばしている。

 本当は抱っこしてあげたい。だが汗が酷いし、何より腕が上がらない。


「モモちゃん、ちょっと待ってね」

「あう?」

「へ、葉月?」


「ちょっとじっとしててね、陽一君」


 葉月がハンカチを取り出して、俺の顔の汗を拭う。

 ふわりと香るフローラル系の匂いが、鼻の奥をやわやわつつく。


「はい、終わり。モモちゃんどうぞ」

「ぱぁあぱあ」

「おふ、モモちゃん……」


 モモちゃんは、俺のことを(いたわ)るようにペタペタと顔を触れてきた。そして頭もグリグリと押しつけてくる。


「モモちゃん、応援ありがとうね」

「うーあー」


 気が付くといつの間にか、疲れていた腕が楽になっていた。

 どうやら葉月が魔法で疲れを抜いてくれたようだ。

 片腕でモモちゃんを抱っこしたまま、もう片方の腕が俺の右肩にかざされていた。


「すっげえええ!」

「おい、何だよ今のWS」

「あれが竜殺しの勇者様か……」


 突然歓声が上がった。

 声の方に視線を向けると、丁度伊吹が魔物を倒したところだった。

 霧散していく黒い霧の大きさから見て、魔石魔物級の魔物を倒した直後なのだろう。


「伊吹さん、凄いなぁ……」

「ああ」

「うあ?」


 俺とポジションを交代した伊吹が、あの必殺のWSでも放ったのだろう。


 流石に一人で戦い続けることは無理。

 だから俺たちは、単独で戦える者で回すことにしていた。  


 最初は俺で、次は伊吹。その次は上杉となっていた。

 俺の次に降りた伊吹は、真っ赤に映える大剣を振り回し、次々と魔物を切り裂いていく。


「……上手くなってんな。いや、ちょっと違うな……」

「え? 上手く? 違うって?」


「ああ、アレは――」


 伊吹の戦い方が変化していた。

 彼女の戦い方は、飛び込むような近接WSが軸だった。

 勝機を決して逃さず、行ける時は大きく前へと踏み込んでWSを放つのだ。


 だが今の伊吹は少し違っていた。

 大きく踏み込んでWSを放つ点は変わっていないが、WSが必要でない場合は普通に大剣を振っていたのだ。

 そして最大の変化が、大剣を振った直後にWSを発動させて、剣を振った直後の隙を減らしていた。


 俺も似たようなことをしているから分かる。 

 振り下ろした槍を蹴り上げることで、次の動きに繋げることがある。

 伊吹はそれと同じようなことをWSで行っていた。


 どうしても大振りになる大剣を、WS発動時に発生する動作でキャンセル(中止)する。

 それはまるで、格闘ゲームで見られる、必殺技によるキャンセル攻撃のようだった。


 これはとても手強いと、俺はそう感じた。

 そしてこの変化をもたらしたのは、きっとあの赤い大剣、紅葉剣モミジのお陰だろう。


 伊吹は、椎名が持っている名剣と呼ばれる()を持っていなかった。

 ある程度の業物は買えたかもしれないが、それは伊吹に釣り合っていなかった。

 伊吹の力を十全に発揮するには足りなかったのだろう。

 たぶん伊吹は、無意識にそれに気が付いていたはず。WSの力を纏っていない大剣を全力で振れば、伊吹の力に負けて折れてしまうと。だがしかし今は――


「これが伊吹の本当の実力ってヤツか……」

「あぷぁ?」


「うん、そうなんでちゅよ。凄いんでちゅよ~。あの新しい鎧も、前のヤツよりも動き易くなっているんだろうなぁ。うん」

「陽一君、さすがに分からないと思うんだけど……」

「あいっ」


「え? わかるの? モモちゃんがドヤ顔!?」


 モモちゃんと葉月が話をしている中、俺は伊吹の動きを注視していた。

 ないとは思うが、もしかすると、万が一に備えて、俺は伊吹の動きを観察し続けていたのだった。



        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 

「葬乱!」


 上杉のWSによって、狼型の魔物が消し飛ぶように吹き飛んだ。

 

「へいへいっ、次の球を寄越せ」


 また一匹の魔物が上杉へと襲い掛かり、高威力のWSでまた吹き飛ぶ。


「なあ、少な過ぎねえか? 俺の時はもっと5倍ぐらい来てたよな?」

「へえ、そうですかい? オレには同じぐらいに見えるんですけどねえ~。たぶんアレですよダンナ。下に居るのと、上にいるのじゃ違って見えるんですよ」


「ぜってぇ違ぇ! 俺のときは三匹纏めてやって来てたよな? あんな風に一匹ずつとか無かったぞ!」

「アレでさぁ、ええ、気のせいでさぁ、ダンナ」


 そう言って目を逸らすガレオスさん。

 だが目を逸らすということは、そういうことなのだろう。


 伊吹のときもそうだった。

 程良い程度の魔物が流されてきていた。

 俺のときは本気でヤバかったというのに……


「あとでアイツらしばく……」

「ダンナ。まあ許してやってくれでさぁ。アイツらだって悪気があった訳じゃねえんでさ。……ただ」


「? ただ?」

「いや、これは言わぬが花ってヤツかな」


「なんじゃそりゃ」


 何ともはっきりせぬ言いように、俺がさらに問い詰めようとしたその時――


「ヤツが出たっ! パターン白、あとは黄色が2、いや3だ」 

「プランC発動! プランC発動! プランC要員は速攻で配置に就け!」


 監視役のホークアイから報告が響き、それを聞いたレプソルさんがすぐに指示を飛ばした。

 そしてそれを聞いた俺たちも即座に動く。


 この防衛戦で一番警戒していた事。

 それは、白いケーキ野郎と深層魔石魔物の存在。


 魔石魔物級のイワオトコなどが居るのだ。

 最下層の、深層魔石魔物が交ざっていてもおかしくない。

 そしてその中に、あの白いケーキ野郎が居たらもっと大変なことになると想定していたのだ。


 白いケーキ野郎とシロゼオイ・ノロイのコンビなどは最悪だ。

 特にシロゼオイ・ノロイは強敵。あれを死者なしで倒すのは難しい。


 だから俺たちは、事前に対処方法を決めていた。

 それがプランC。

 パターン白は、白いケーキ野郎のこと。

 そしてパターン黄色は、上位魔石魔物のこと。


 魔物の群の中に、白いケーキ野郎が一体。ハリゼオイが2体と巨大な狼男型の魔物一体。計4体の要注意魔石魔物が姿を現したのだった。


読んで頂きありがとうございます

すいません、すいません、返事が書けず……

全部大事に読ませて貰っております。


なので、感想など頂けましたら嬉しですー


あと、誤字脱字も宜しければ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ