ダンス ウィズ 厄介
ったああああ!
投稿!!
昔、誰かが言っていた。
馬鹿に時間を与えてはいけない、と――
その理由が分かった。
防衛戦の三日目は、魔物の移動が予測よりも遅かったためか、三日目は戦闘がなかった。魔物がやって来なかったのだ。
魔物の群、第三波の到達時刻は、四日目の早朝とのことだった。
なので三日目は、丸一日待機となった。
そう、予定にはなかった時間が出来たのだ。
そしてその結果……
「くそっ、マジで碌なことを考えねえなアイツらは」
「ジンナイさん、コレはあたしが一晩で作ったのですよです!」
「喧しいわっ!」
サリオは一晩掛けて、横幅4~5メートル程の堀を作っていた。
そしてその丁字路となった堀に、俺一人だけ下に降りて戦えと言うのだ。
ある村を一人で守った孤高の独り最前線。
”谷底の弓乙女”の再現をしたのならば、そのボッチ・ラインも見てみたいとゼピュロスの高官が言い出したのだ。
アホかと思う。
ゼピュロス側の真の目的は、それを断らせる事だ。
一人で魔物大移動と戦うことなど不可能なのだ。無理難題をふっかけて、こちらが折れることで主導権を取るつもりだったらしい。
ヤツらは早乙女が落ちた件を問題視したが、『あれは演出だ』とギームルに返されたのが余程悔しかったようだ。
だから今回のボッチ・ラインはその意趣返しなのだろう。
だがしかし相手はギームルだ。
ギームルはその提案を受け入れた。
相手からしてみれば、何を血迷ったのかと思っただろう。常識的に考えてあり得ない。
しかしギームルは受け入れた。
ギームル曰く、ハッタリや無理難題などの要求は、相手が断ることを前提にしたものなので、その大半が詰めが甘いそうだ。
ゼピュロス側からの要求は、孤高の独り最前線が見たい。
だからギームルは、その無理難題の要求を茶番にしたのだ。
「――デカいのは間引いて、倒しやすい雑魚だけを通すか」
「そうじゃ、流れてくる数も調整する」
「ほへ? それって、倒しやすい魔物だけをジンナイさんに倒させて、おっきいのはあたし達が倒すことってことですかです?」
「そうじゃ」
そう、ギームルは相手の要求を逆手に取ったのだ。
魔物の群を相手に堀の下で一人で戦うが、その魔物の数や種類は絞るというのだ。
ゼピュロス側の要求は、魔物の群と戦う孤高の独り最前線を見たい。だからそれを演出する。
一人で魔物の群、全部と戦えとは言っていないのだ。
魔物の数と種類が絞られるのであれば、いまの俺ならば十分にやれる。
上からは支援も掛けてもらえるのだ。むしろ余裕。
「しゃあねえ、いっちょやるか」
十分に勝算はある。
今までの修羅場に比べれば屁みたいなモノ。
即死級の攻撃力を持つ魔物は通さない。硬い魔物も通さない。
見せつけるようで少々照れるが、俺は気合いを入れて下へと降りる。
これはただの茶番。
いつも通り戦えば全く問題ないのだ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
と、思っていた時期が俺にもありました。
「っらああああああ!! くそっ、数が多すぎんぞ!」
「おい、どんどん流せ。まだ余裕そうだぞ。あっ、それは倒すなよ。そのまま通せ」
「おい、ふざけんなっ、聞こえてんぞ!」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「ボッチ、ボッチ、ボッチ、ボッチ♪」
「イジメかっ!」
讃えるようなボッチコールをかます冒険者たち。
俺は全力で吼えた。
コイツら”ボッチ”の正しい意味を知っているんじゃないかと疑う。
――くそくそくそっ、
何でこんなことになってんだよ!
バフがなかったら絶っっっ対にヤバかったぞ――っ!?
「あぶねっ! いきなり下から来んなっ!」
地面から霊体タイプが襲ってきが、俺は腰をクイッと捻り、腰に差してある木刀でその襲ってきた霊体タイプを倒した。
俺はマジで追い詰められていた。
かつてない程の修羅場。
まさに息をつく暇もない、ぎっこんばったん状態だ。
「マジで多すぎるって、もっと数を減らせよ!」
「ボ~~~ボボボボオ~~ッチ♪ ボ~~~ボボボボオ~~ッチ♪ ボボッボボッチ、ボボッチ、ボボボ、ボボボ♪」
「上杉てめえ、歌ってんじゃねえよ! 後で覚えておけよ! 」
「おう、頑張れよボッチ。お? ほら次が来るぞ」
昔、誰かが言っていた。
最大の敵は味方である、と――
流石のギームルもこれは読めなかったのだろう。
まさか味方であるはずの陣内組や伊吹組、あと三雲組までもが、ここまでの馬鹿だとは思わなかっただろう。
当然、俺も予測できなかった。
まさかここまでの悪ノリをするとは。しかも――
「ああ、WSはずしちゃったー」
「てめえっ、ポンコツ! 今の絶対にわざと外しただろっ!」
WSとは、狙った通りの所に飛んで行く。
放ったWSを避けられることはあるが、避けられなければまず当たる。
余程慌てて撃たない限り、的を外すことはないのだ。
だと言うのに……
「ごめん陽一、またWSはずしちゃったー」
「棒読みじゃねえかよっ!」
「危なくなったらアタシが助けてあげるからね」
「今だっつうのっ」
ポンコツ二号は、この状況の何が楽しいのか、他の連中と一緒になって悪ノリしていた。
真面目に戦っているのは半数程度。
ラティも必死に放出系WSを放っているが、如何せん威力が足りない。
両手武器と違って片手武器には、強力な放出系WSがないのだ。
なので雑魚はともかく、硬いヤツや重量級の魔物は仕留め切れない。
「おい、ざっけんなっ、何で普通にイワオトコまで通してんだよ! コイツはマジで間引けよ! ガチで死ぬっての」
視界に先に、一体のイワオトコが映る。
そのサイズはどう見ても魔石魔物級。
――おいおいおいおいおい、
冗談じゃねえぞ!? 何であのレベルを通してんだよ!
マジで何を――っん??
身体が淡い光に包まれた。
春先の日の光のような優しい温かさが、疲労した身体に染み込んでゆく。
「陽一さん、頑張ってください」
「言葉……」
俺を包んだ淡い光の正体は、言葉が唱えた支援魔法だった。
確か疲労を軽減する魔法だったと記憶している。
「私が、私が頑張って魔法を掛けますから……あの、頑張ってください」
「ああ、なるほど……」
言葉は後方に居るので顔を向けることはできないが、俺にこうやって魔法を掛け続けてくれていたのだろう。
「なるほど……だからか……」
前を向いている視界の隅に、嫉妬に狂った連中がハンドサインを送り続けていた。
どうやら嫉妬組は、マジでルサンチマンは、この状況下でも通常営業だった。
俺の視線に気付いたヤツなどは、『夜、王女様、ナニを、やった、吐け』とハンドサインを送ってきた。
ヤツらの判定では、アイリス王女と話しただけでアウト。
きっと昨日の件も尾を引いているのだろう。
俺は無視を決め込むが――
「なっ!? もう一体だと!?」
魔石魔物級のイワオトコがもう一体追加された。
二体の魔石魔物級がゆっくりとこちらに進んでくる。
手前にいる雑魚だけでも面倒だと言うのに、大物が二体も追加。
これは蘇生のお世話になるかもしれない。
そう覚悟したその時――
「ぱぱあああああっ!」
「へ?」
「あぷぅぱぁああ、ぱああああ! う~~、あぷぁああ!」
「……モモちゃん」
後ろを振り向いて確認する余裕はないが、この声は絶対に間違えない。
モモちゃんが俺のことを応援している。
モモちゃんが、俺に頑張れと言ってくれている。
モモちゃんが、『大好きな俺頑張れ』と叫んでいる。
「っしゃああああああああああああああああ!!」
――そうだっ
後ろにはモモちゃんが居んだ、
モモちゃんを1ミリたりとも不安にさせたら駄目だ! 絶対にっ!
「しぃっ!」
刹那の三連撃。
雑魚の魔物どもを一気に屠り、俺は二体のイワオトコへと駆け出した。
怯んだ姿など欠片も見せてはならない。
俺がいま見せて良いのは、絶対的な強さと安心感。
不安など一切入り込ませない。
「っがああああ!」
右のイワオトコの右側に踏み込み、腕を振り下ろされる前に槍で弾く。
左のイワオトコは、前に居るイワオトコが邪魔で俺に攻撃ができない。
「だああああ!」
全力の突きを放つ。
無骨な槍が、イワオトコの硬い表面を砕き深々と突き刺さる。
黒い霧となって爆ぜて霧散する右のイワオトコ。
俺はその黒い霧の中に飛び込み、一気に左のイワオトコへと肉薄する。
黒い霧がブラインドとなり、俺の接近に反応が遅れた左のイワオトコは、両手を振り下ろして潰しにきた。
「――遅えええ! ファランクス!」
腕を掻い潜り、俺はイワオトコの懐へと踏み込んで十八番を放った。
小手の結界が内から爆ぜ、破裂でもしたかのように左のイワオトコも黒い霧へと姿を変えた。
「おっしゃあああ! 次、来いやああああ!」
俺は、モモちゃんの不安を取り除くために咆吼をあげた。
もう、あの時のような事は絶対にないと――
「全部、全部持って来いっ」
読んで頂きありがとうございます
すいません、全部に感想を返せず、ただ、感想にお答え出来る回かと思っております。
そして宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと誤字脱字も……