攻撃手段が無い
弓WSをディスってしまった陣内
勇者二人に問い詰められます
俺は困っていた。
「陣内よう!WSで攻撃するんだぜ?」
「陣内、最初にアゼルさんが説明した通り、下に降りるのは駄目だからね」
迫り来る魔物達が、何も考えていない様に巨大な堀に落ちていく。
どの魔物も避けようとか止まるとかもせずに、盲目的に前に進んでくる。
深さ3㍍以上の堀に落ちていった魔物は、そのまま若干の傾斜のある堀を登り、コチラ側に向かおうとしてくる。
俺を挟むように立っている勇者の二人が、俺に命令をしてくる。
「陣内はやく!下にいる雑魚を倒せよぉ」
「陣内、弓より使えるWSを見せなよ」
巨大な堀の下には、落ちた魔物達が我武者羅に傾斜を登ろうとしてくる。それを上に居る冒険者達が、放出系WSで攻撃している。
少しの傾斜になっているのは、真下にWSを放つのが難しい為、角度を70度位の傾斜にしてWSで狙いやすくしているようだ。
因みに落ちると、登って来るのは難しそうな傾斜だ。
( ラティなら【天翔】を使って楽に登りだな )
頭の中で分析をしていると、再び粘っこく纏わり付く声が掛かる。
「じ~ん~な~いよぉ~! 早くWSを使えよぉ~」
「―――ッ荒木!!」
―ッ上から攻撃すればいいんだろ!もう槍をぶん投げてやるよ!
「あ、陣内 槍とか投げないでよ、ちゃんとWSでね」
早乙女に俺がやろうとしたことに釘を刺してくる。
流石に頭にきた!ああ、俺はWSが使えねぇよ、悪いかよ!WSが使えるから偉いってのかよ。って アレ?コイツ等、、
「なんだよ!お前達だって戦ってないじゃないかよ!」
ムキになって言い返してしまったが、その後に後悔をする。
「はぁ?俺は強え魔石魔物待ちだよ」
「あたしも雑魚相手じゃなくて、魔石魔物待ちよ」
その後すぐに巨大な堀の向こう側に、サイズの大きいカゲザルの魔石魔物が見えると、早乙女が弓を構えWSを放った。
「弓系WS”サイスラ”!」
弓から輝く白刃のような光が放たれ、巨大なカゲザルを貫く。
光の刃は、そのままカゲザルの背後にいた魔物も数匹纏めて貫いた。
「これがあたしの仕事なのよ、理解した陣内?」
早乙女は、蔑むような目で俺を見ながら言い放った。
悔しい気持ちはあるが、元はといえば俺に非があるわけで、素直に返答する。
「ああ、解ったよ、」
ちくしょう、悔しいが何も言い返せない、
つか、なんでコイツらワザワザ俺の隣に来てるんだよ、どっか行けよ、
「あ~~陣内、俺も魔石魔物担当だから、一番魔石魔物が来そうなここが俺の配置だからな、だからそんな嬉しそうな顔をしないでくれよなぁ」
「ああ、そうかよ、」
周りの冒険者達は、下にいる魔物にWSを放つ戦いをして中。何もせずに突っ立っている俺と荒木は悪い意味で目立っていた。
今度は其処に、魔法を弾き防御力も高いイワオトコの魔石魔物が迫っていた。
「お!コレは俺の仕事だな、いくぜ!」
荒木は大剣を引き絞るように横に構え、力を溜めるようにしてから。
「大剣WS 世界樹断ち!」
横幅が10m近くある絶大な銀色の斬撃が放たれ、魔石魔物のイワオトコが横に真っ二つに切断され、黒い霧になって霧散した。
他のWSとは比較にならない一撃。あまりの驚きに他の冒険者達と一緒に、荒木の方に視線を引かれてしまうと。
「これがぁ俺の仕事なんだよなぁ。陣内理解したかぁ?」
荒木は周りの冒険者達にも、言い聞かせるように不適な笑みを浮かべて、俺に言い放って来たのだった。
勇者荒木の強さと、荒木の言う仕事に。周りの冒険者達は納得させられたのだった。
そしてその二人の挟まれた俺は。
「さぁ、陣内よぉ~。お仕事しようかぁ~~」
「ねえ陣内早く見せてよ、弓より強いWSをさ」
俺は二人に煽られていた。
『ねぇねぇ、今どんな気持ち~?どんな気持ち~?』と、幻聴が聞こえて来るレベルまで、俺を二人は追い込んできていた。
「よう陣内。今どんな気持ちだよ!」
ちくしょう言ってやがったか!幻聴でもなんでもない。俺を完全におちょくりに来てやがんな、もうWSなんて知らん、下に降りて、、
「おおーーいい!SP切れした奴が、下に降りたぞー!」
「え?」
「はぁ?」
「っえ!?」
戦闘開始から10分も経過していないが。SP切れでWSを撃てなくなった冒険者が、一人で下に降りて魔物を倒しに行ったようだった。
俺の居る場所から30㍍位離れた場所で、魔物に囲まれて食い散らかされている、冒険者が見えた。
助けに行く暇すらない、瞬殺だった。惨たらしいの一言だった。
それを眺めながら、荒木がつぶやく。
「全く馬鹿な奴だ。よう陣内、お前はWS撃てないなら下に逝くか?」
「陣内!下に降りるなんて駄目だからね!」
荒木は先程と変わらず、ニヤついた顔で俺を嗾けて来ていた。一方早乙女は、必死な形相で俺を止めに来ていた。
「ああ、馬鹿じゃないんだから逝かねえよ!」
そう答えると、早乙女は安心した表情を浮かべた。その彼女の顔を見た荒木は、心底つまらなそうな表情をしていた。
俺はWSが撃てないので、仕方なく堀を登って来る魔物を待つことにした。
ただ、登って来る魔物はほとんどいなかったが。
眼前の巨大な堀の向こう側に目をやると、巨大な炎の斧がいまだに猛威を振るっていた。魔石魔物以外の魔物達は、焼け尽され黒い霧となって霧散していった。
サリオの獅子奮迅の働きを見ていると、ウチの瞬迅を思い出し、ラティを探しに辺りを見渡してみると。
ラティは俺から右側50mほど離れた場所で戦っていた。
ラティの左右には、ハーティとその仲間達で挟まれていた。ラティは鋭い斬撃の放出系WSで下の魔物を屠り、ハーティは周りの冒険者達に、何かの強化魔法を唱えてまわっていた。
そのラティとハーティ達の姿を見ながら思ったことは。
ラティ達はフレンドリーにやっているな、そして俺の方は、、
( フレンドリーファイアってか、 )
ちくしょう!この二人どっか行けよ、俺が目立つんだよ!なんで早乙女は櫓の上に戻らないんだよ。荒木はともかく、なんでコイツまで俺に嫌がらせを、、
って、俺が弓WSにケチを付けたからか、
それだけなのに、ここまでやるなんて。どんだけ俺のことが嫌いなんだよ。
そんなどうでも良いことを考えながら、針のむしろの様な防衛戦の一日目が終了したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一日目の防衛戦終了後は、巨大な堀がある場所から一キロ程離れた場所に設置された、今回の防衛戦用の夜営用の天幕に戻った。
斥候とは、昼は煙で夜は光の魔法で連絡を取り合っているらしく、魔物の群れの襲撃に対してある程度余裕を持って休むことが出来た。
月を見ると6時。
冒険者達は各々で集まり夕食を取っている。そして周りからは。
「おう、今日の防衛戦は楽だったな」
「明日からが本番だろうよ、まぁ楽だったのは確かだけどな」
「ああ、サボっている奴がいるくらい楽だったからな」
「いたいた、なんか槍持って突っ立ってた奴だろ」
「あはははは――――」
今日一番の話題の人物になってしまった俺。その隣には今日一番の活躍をしたかも知れない奴が、ドヤ顔をして俺の隣で夕食の焼き鳥串を食べていた。
「サリオ、近いアッチいけ」
「ぎゃぼう!ジンナイ様あたしはここで食べたいのですです」
コイツは、今日一番の活躍した自分と、一番活躍していない俺と並ぶことで、俺を引き立て役にでもするつもりなのか?いや違う!もしかしたら俺を慰めに来たのかも知れない。なんだかんだ言っていい奴だしなサリオは、、
「ジンナイ様!見てくれましたあたしの、”大活躍”を!」
うっぜーー!違った、単に自慢しに来ただけだったー!
ちくしょう周りには敵しかいないぜ、どんだけ厳しいんだこの世界は、、
( ここは俺の心の癒しの為にラティの尻尾か頭を撫でに、、)
勇者言葉の【宝箱】から取り出したテーブルで食事をしているラティを探す。今回の食事も、ハーティの三雲組に誘われて一緒に食事をしていたのだ。
食事をしているラティはすぐに見つかったが、彼女は三雲組と談笑をしていた。
ラティが他の誰かと楽しそうに会話をしているのは、とても貴重なことに思えて。少し寂しい気持ちもあるが、そのまま眺めていることした。
ラティを眺めていると。
誰も座って居なかった、俺の隣にハーティが腰を下ろし話し掛けてきた。
「彼女はホント前よりも柔らかくなったね」
「ハーティさん、何ですか柔らかいってセクハラですか?」
思わずふざけた言い返しをしてしまったが、ハーティが言った『柔らかく』と言う言い回しは、的を射た言い方だと思えた。
そう思いながらラティを眺めていると、背後から不機嫌そうな声を掛けられた。
「陣内!荒木に聞いたんだけど、彼女達二人はアンタの奴隷なんだってね。唯(三雲)からも聞いて確認したけど、高校生が奴隷を持つってどういうことよ」
俺の後ろには、三雲と怒り顔の早乙女の二人が立っていた。
それからは俺の説明では納得しない早乙女だったが、隣に居たハーティのフォローがあり、なんとか不承不承ながら納得して貰えた。
何とか説得して、二人を追い返した後に俺はハーティに勇者の楔の件を話すことにした。理由は彼が転生者だと言うことと、今回お世話になってるので感謝を込めた意味でも、情報を伝えておこうと思ったからだ。
「ハーティさん突然ですが。勇者の楔ってご存知ですか?」
「いえ、知らないですね、何か勇者と関係するモノですか?」
最初は何気無い表情をしていたが、途中から真面目な顔になり、何かを探るような顔つきに変わっていた。
それから俺は、ハーティに崖下で知った勇者の楔のことを彼に話した。それを聞いている彼は、知っている何かと、照らし合わせるような表情をしていた。
そしてすべて伝えた後に、ハーティは俺に確認をしてくる。
「陣内君。君は”ユグドラシルド”ってゲームを知っているかい?」
「ああ!知ってます、確か今年発売のオンラインゲームでしたよね?」
俺はそのゲームの名前を知っていた。まだ発売はされてはいないが、ゲーム雑誌で見た記憶がある程度だが。
( それが? )
「実はね、僕はそのゲームをやったことがあるんだよね、ベータ版だけどね」
「それが?」
ハーティとの会話は『それが?』としか言いようのない話だったが、次の彼の台詞は、予想はしていたけど、驚きの台詞だった。
「そのゲームとさ、この世界がそっくりなんだよね、」
「――ッ!!」
「だから一度、しっかりと確認し合おう陣内君」
こうして俺は、ハーティとの情報交換を始めた。
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