余計なことは余計なヤツがする
ちょっと短いですー
「くそがっ」
俺は苛立ちを吐き出し、力を込めて地面を強く蹴った。
足下にビシリと亀裂が走る。
その亀裂を見て、まるで今の俺たちの状態のようだと感じる。
「なんだよ、広域殲滅魔法を禁止って……」
予定が大幅に狂った。
俺たちの作戦の肝となる広域殲滅魔法の使用が禁止となった。
禁止になった理由は、広域殲滅魔法を唱えることができる者はごく一部の者だけ。だから広域殲滅魔法が無い場合はやはり危険だと指摘されたのだ。
今回の防衛戦の目的は、魔物大移動など恐るるに足らずと知らしめること。
勇者と冒険者たちが居れば、しっかりと戦力が揃っていれば、犠牲者など誰一人出さずに魔物を退けることができると、そう示すのが目的だった。
そのために俺たちは、魔物の群に圧勝する必要があった。
だから鉄板とも言える手堅い作戦を立てた。
広域殲滅魔法で一気に削り、魔法を避けた魔物を三雲と早乙女が叩く。
その後は、散り散りになってやって来る魔物を放出系WSで屠る。
さすがに広域殲滅魔法は連発できないので、ある程度はタイミングや狙いを絞る必要があった。
柊の自己申告によると、広域殲滅魔法は4発が限界だとか。
レプソルさんのようにマテリアルコンバートが使える訳ではないので、どうしてもMPが枯渇してしまうらしい。
だから俺たちは、柊には魔法を放った後はすぐに休んでもらい、少しでもMPの回復に努めてもらった。
昨日の防衛戦では、休みながら6発の広域殲滅魔法を放ってもらい、俺たちはほぼ無傷で魔物の群を殲滅することができた。
しかし二日目、特に三日目になると、足の遅い魔石魔物級が増えてくる。
初日はともかく、三日目は広域殲滅魔法が決め手となる。
足の遅い魔石魔物級をまとめて倒すつもりだった。と言うのに――
「何が、『一人だけに頼る戦いでは……』だよっ!」
ゼピュロス側の言い分は、一応分かる。
広域殲滅魔法が無ければ確かに厳しい。広域殲滅魔法あるなしで戦い方がガラっと変わる。
だからゼピュロスの言い分には筋が通っている。だがしかし――
「くそっ! 白々しい……」
足下の亀裂がどんどん広がっていく。
「ジンナイ、落ち着け。後ろを見ろ、モモが怯えんぞ」
「――ッ!?」
今の時刻は16時、防衛戦二日目。
防衛戦が終わる頃には日が沈んでいるだろうが、今はまだ大地を照らしている。
そんな時間なのでモモちゃんは元気に起きていた。
昨日は深夜だったためモモちゃんはおねむさんだったが、今はアイリス王女の胸の中ではしゃいでいる。
隣では乳母のナタリアさんがオロオロと。
本来ならば自分が抱っこしないといけないのに、その役目を王女様がやっているので困り切っているのだろう。
きっとモモちゃんが要求したのだろう。
まったく困った天使ちゃんだ。
「…………ふぅ」
モモちゃんを眺めていると、荒んでいた心が自然と凪いでゆく。
もしかするとモモちゃんには、【凪心】とか、人の心を穏やかにする【固有能力】があるのかもしれない。
「ジンナイさん」
「ん? なんだサリオ」
「何かアホなことを考えてないですかです?」
「…………崇高なことだ」
閑話休題
一応は落ち着いたが、少し離れた場所に就いている橘が目に入るとまた苛立ちが湧き上がってきた。
そもそもの原因は、ギームルに突っ掛かってきた橘が引き金だった。
ギームルはしっかりと事前に準備していた。
王女専用の白い天幕も、事前に連絡をして設置した物だった。
だがしかし、橘はその白い天幕に難癖をつけてきた。
何か不備があった訳でもないのに、まるでこちらに落ち度があるかのようにまくし立てきた。
葉月が間に入ってくれてその場は何とかなったが、その後は違った。
小娘に良いように言い放たれるギームルの姿は、相手に付け入る隙を与えてしまったのだ。
もしかすると、”勇者の楔”が強く影響したのかもしれないが、早い話が相手に舐められるようになった。
防衛戦の行方を見に来ただけの高官が、その戦い方に口出ししてくるようになったのだ。
そしてそれが、広域殲滅魔法の禁止へと繋がった。
あの馬鹿さえ居なければ、視察に随行してきただけの高官が口出しすることはなかった。あの馬鹿が突破口を開いたのだ。
ゼピュロスの狙いは、魔物大移動はやはり危険だと認識させること。
そうすれば、自領の竜の巣の探索を断れる。
逆に、俺たちが魔物大移動を完全に押さえれば、ダンジョンの探索を断る理由が無くなる。
魔王を消滅させるために必要なことだというのに、ゼピュロス側は自領の益を最優先させている。
平和になるだけでは足りない。自領の繁栄まで貪欲に欲している。
「ふぅう……モモちゃんは素晴らしい。たぶんモモちゃんの半分は癒やしで出来ているな」
再びモモちゃんを眺めて心を穏やかにする。荒んだ心が再び凪いでゆく。
ラティの尻尾を一緒に撫でられれば完璧なのだが、彼女はいつの間にか離れていた。
心なしか尻尾を隠されているような気もする。
寂しいことに、目線も逸らされている。
「……ジンナイさん。またしょうもない事を考えていないかですよです」
「うるせ、そろそろ来んぞ」
俺は思考を切り替えて前を向く。
尻尾はこれが終わってから撫でればいい。
「まだ考えているよです……」
「…………」
「サリオ様、アカリ用のMPは残しておいてくださいよ。もしかすると長引く場合もありますので」
「了解してラジャです」
「勇者さまー、そろそろ準備よろしくお願いします」
レプソルさんが弓持ちの勇者たちに声を掛ける。
三雲と早乙女、そして勇者橘。
橘は、今日は護衛ではなく戦闘に参加していた。
広域殲滅魔法がないから、自分が手伝ってやると名乗りあげたのだ。
お前が原因で使えなくなったんだボケと言いたい。
「あの、ご主人様。そろそろ来ます」
「了解。……はあ、やるか」
こうして、不安を抱きながらの防衛戦二日目が開始されたのだった。
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あと、誤字脱字のご指摘も……