表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

466/690

喧しい女

投稿

「サリオ、まだMPに余裕はあるか?」

「ほへ?」


 俺は与えられた用事を済ますため、サリオにMPの残量を尋ねた。

 あと少しすれば日が完全に沈む。何をするにも明かりは必要なのだ。

 

「ギームルからの要請だ。サリオの”アカリ”が欲しいってさ」

「了解してラジャです! ららんさんから貰ったコレのおかげでまだMPは残っているですよです」


 そう言って俺に、ららんさんから貰ったアクセサリーを見せるサリオ。

 『むふぅ~』と聞こえて来そうな程のドヤ顔。

 MPの総量を補助する物なのか、それともMPの消費量を抑える物なのかは分からないが、それなりの逸品だというのが、サリオの態度から感じ取れた。


「あの、お二人とも久しぶりにお会いしたのに、何といいますか……」

「うん? コイツが相手ならこんなもんだろ?」

「ぎゃぼうっ。公爵令嬢のサリオちゃんに失礼ですよです! もっと奉り敬うのですよですっ!」


 ラティの言いたいことは分かる。

 久々に会ったわりにあっさりしていると言いたいのだろう。

 だが考えて欲しい。

 このイカっ腹を相手にそういったモノは必要ない。全く無い。


 そして公爵令嬢だと言うのであれば、地面に寝っ転がっているなだ。

 俺はさっさと用件を済まし、一時も早くモモちゃんを抱っこしたい。

 きっとモモちゃんもそれを望んでいるはずだ。


――ったく、コイツは、

 あっ! そうだった。モモちゃん、モモちゃんの件があったんだった、

 コイツに折檻を――



 俺は、モモちゃんに何を教え込んでいるのだと、再会アイアンクローをお見舞いしようとした。が――


「騒がしいと思ったら。やっぱジンナイか」

「レプさん。それにみんなも」


 俺とサリオがぎゃいぎゃいやっていると、そこに陣内組のメンツがやって来た。


 彼らも防衛戦用の用意をしていたのだろう。

 後方を見ると、とても仰々しい物見台のような物が設置されていた。

 白色の垂れ幕を幾重(いくえ)にも重ねており、一目でアイリス王女のための物見台だと分かる。


 視察という名目なので、一応設置してあるのだろう。


「レプソルさん、あたしにMP回復補助魔法を掛けてくださいです」

「はいよ、サリオ()


 ( ……サリオ、様ねぇ )


 俺が居ない間に色々とあった様子。

 サリオの扱いに変化が見えた。


「ささ、ちゃっちゃと”アカリ”を唱えてくださいサリオ様。そんで拠点に戻って休みましょう。このままじゃMP不足のままで戦うことになりますよ?」

「了解してラジャですっ!」


 前言撤回。

 一応変化はあったが、それは完全に上辺だけだった。 

 様と敬称を付けてはいるが、声音に敬う気持ちはこれっぽっちも籠もっていない。前と同じ軽さを感じる。

 

「……サリオ、お前が良いように使われていて何か安心したよ」

「ほへ? 何か突然褒められたですよです」  




        閑話休題(褒めてねぇよ)




 陣内組(サリオ達)の作った防衛戦用の堀は、北にあった堀よりも浅かった。

 深さは3メートルもなく、魔物の種類によっては駆け登ってくるヤツもいるだろう。

 ただ、横幅はしっかりとあった。

 堀の形は横に一直線ではなく、魔物の群を包むような緩い曲線となっていた。


 レプソルさんが言うには、この形の方が効率よく人員の配置ができて、なおかつ魔物が横に抜け辛いらしい。


 そして堀が浅いのは、視察する側が見やすいようにとの配慮だった。

 深くては近寄らなくては見えない。だからギリギリまで浅くしたそうだ。


 俺はそれを見て思った。

 魔法の力はぱないと。


 重機などを使わずに、この様な堀を短時間で作り上げることに驚いた。

 ダムや平地などの精細さが必要な物は無理だろうが、ただ掘るだけといった大雑把な仕事ならば、元の世界の重機よりも魔法の方が優秀かもしれない。


 俺は素直に感心し、サリオたちを褒めながら拠点へと戻った。

 超巨大なアカリは既に作ってもらっている。

 夕方程度の明るさの中、俺たちが拠点へと辿り着くと、妙に耳に付く声が聞こえて来た。



「……何やってんだ、アイツは」


 喧しい声の元に向かうと、そこには人だかりが出来ていた。

 白い天幕の前で立ち塞がるギームルと、そのギームルに向かって金切り声を上げる勇者橘。

 

「あたしは、こんな場所じゃ心配だって言ってんのよ」

「タチバナ様。先ほど申し上げたように、王女一人だけではないのです。世話役の者だけでも5人以上おるのです。他の者も足した場合では……とても入り切れぬかと」


 そう言ってギームルが目を向けた先には、野営の地には不釣り合いな建物が立っていた。

 豪邸とまでは言わないが、それなりに立派な建物。

 10人ぐらいは優に泊まることができるだろう。

 

――あれって橘が出した家だよな? 

 十分にデカい家だけど……前の豪邸に比べるとちょっと小さいな、

 やっぱ前みたいなデカい豪邸はそう簡単には手に入らないか、


 不釣り合いな建物の正体は、橘が【宝箱】から出した家だろう。

 前の豪邸は、竜の巣(ネスト)に棲息していた巨竜との戦いで半壊した。

 だから新しい家を用意したのだろうと分かる。


「陽一君、ごめんね。何か風夏ちゃんが迷惑を掛けちゃって……」

「葉月。……なあ葉月、何があったんだアレは?」

「うん、実はね――」


 俺は、隣にやって来た葉月に騒動の理由を訊いた。

 どうやらこの騒動の理由は、アイリス王女が何処に泊まるかというモノだった。


 目の前の白い天幕は、アイリス王女のために設置された天幕であり、中には食事をする所や、湯浴みが出来る設備などが整っているそうだ。

 当然他の天幕の中にはそのようなモノはない。


 この白い天幕は、王女のためだけに特別(・・)に設置された天幕。

 しかし橘は、この天幕ではセキュリティーが甘い。

 だから自分の建物に泊まるべきだと主張しているそうだ。


 しかし、中に入れる人数には限りがあり、王女の世話をする者を全員入れることは厳しい。

 しかも話を聞くに、女勇者たちも泊めると言っているので、中に入れる世話役(侍女)はもっと少なくなる。


 だからギームルは無理だと説明しているのだが、橘はそんなに世話役などは要らないと言って話が拗れたらしい。


「――それにね、これだとギームルさんたちの顔を潰しちゃう事になっちゃうと思うの……」

「ああ~、なるほど。確かにそうか」


「うん、アイリス様のために用意した物を、全部否定しちゃうことになるからね。もう、どうしよっかな~」


 状況は理解できた。

 橘は善意で言っているのかもしれないが、単純にそういう問題ではないのだ。

 ギームルからすれば大きなお世話だ。

 橘の提案を飲めば、王女のために用意した物が否定されたことになってしまう。


 これは簡単に(うなず)く訳にはいかない。

 それに、泊まる場所の広さがしっかりと確保されていないのだ。

 完全に不備が無いのであれば違ったのかもしれないが、今回はそうではないのだ。


 ここで折れることは出来ないだろう。

 折れてしまっては非を認めることに繋がる。

 だが橘、その辺りの機微が分かっていない様子。


「まったく、何で分からないのよ……この石頭」

「タチバナ様……」


 本当に分かっていない様子。

 ギームルの方も、それを口にすることは流石にできない。


「ねえ陽一君。これを収めたら偉いかな~?」

「ん? 何を言って……」


「あとね、たぶんだけどギームルさんは、王女様とお話したいんじゃないかな? でも風夏ちゃんって男の人は家に入れないから……。よしっ、じゃあ、ちょっと行ってくるね」  

「おい、ちょっと――」


 葉月は、俺が何かを言う前に行ってしまった。

 そしてギームルと橘の間に入り、呆気ない程簡単に話を収めてしまった。


 アイリス王女が寝る場所は橘の家だが、それは女子会という名目で泊まるのであって、何か不備があって泊まる訳ではないとなった。

 あと橘の家は、寝る(・・)場所だけということで、食事や他のことは全て白い天幕となる。

 これによって、ギームルは王女と面会する時間ができた。


 お互いの顔を潰さぬように、本当に上手い事この騒動を収めたのだった。



 そして、この騒動から数時間後。

 ノトスでの大規模防衛戦が開始されたのだった。


読んで頂きありがとうございます。

よろしければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] ひぃっ!リーフムーン様! 今からポイントを稼ぎますからねという、予告ホームランみたいな行動をするからリーフムーン様はこう……うん。 [気になる点] ~ 俺はサリオたちを素直に感心し、彼らを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ